襲撃どうこう以前に数人の逮捕者が出た公開意見陳述会だが、それ以外は騒ぎが起きず――ふざけた人が偵察課以外に居ないから起きる筈もなく――そろそろ終わりを迎えようとしていた。
「報告、行ってくるわね」
「ああ、頼む――ようやく終わりか。さっさと六課に帰りたいもんだ」
「気を抜くなよ。こういうのは、終わる直前の一番油断した時を狙ってくるんだ」
「わかってるよ、分隊長」
「本当にわかって――ッ」
ティルクの表情が変わった。おそらくぼくも同じだろう。
僅かだが、魔力の反応が探知された。
「イノセントハート」
《索敵中》
「急げ。セットアップするぞ」
ぼくはバリアジャケットを展開する。
ティルクは既に騎士甲冑を纏っており、腰の鞘から剣鋸を抜いている。
そして、召喚魔方陣が地上本部を囲むように出現する。
そこから出てくるのは、もはやお馴染みの、見慣れると愛らしささえ感じられるフォルム。
付近の魔導師が逃げ出したのを見て、ぼくは溜め息を吐いた。どれだけ数を揃えようと、地上部隊の魔導師はこの程度か。やはり数ではなく、練度を重視するべきだ。
「ガジェットだぞ。大量の」
「俺がやる」
言うや否やティルクは飛び出し、ガジェットの隙間を縫うよう飛行して次々と剣を振るい、切り裂いていく。
「下がるな! 俺達で抑えるんだ!」
ティルクが声を張り上げたのを聞いてか、または自分が狙われる可能性が減ったからか、魔導師達は少しずつ加勢していく。
だが、AMFに阻まれ、大した打撃にはなっていないようだ。
「さて、と。どうだ、イノセントハート」
《現状把握完了。地上本部の障壁出力低下。内部との通信不能。最悪のパターンですね。どうやらすでに潜入されているようです》
「そうか。でも、姉さん達なら自分でなんとでもできるだろう。そして問題は――」
《砲撃のチャージを確認》
「――これだよ!」
ぼくはイノセントハートをバスターモードに切り替え、砲撃のチャージをする。
砲撃手の座標を見て、地上本部を庇うように滞空し、イノセントハートを構えた。
《来ます》
「ディバインバスター・マルチバースト!」
敵の砲撃を視認した瞬間、ぼくは同じく砲撃を撃つ。ぼくが撃った砲撃は分散し、相手のものと同じ弾道を描くと、それぞれを相殺し、撃ち抜いていく。
《対象との距離は400メートル弱》
「ソニックムーブ!」
ぼくは高速で砲撃手の元へ飛んだ。
全力の高速機動で飛行したおかげで、10秒足らずで砲撃手の姿を視認できる。
やはり、あの大砲を持った女だ。
ぼくは女の真後ろに着地し、イノセントハートを突き付ける。
「威力はまあまあ。精度も割りと良い。だがチャージに時間が掛かるな。だから捕捉されて防がれる」
「……それをわざわざ忠告しに来たの?」
「いいや、お前を拘束しに来たんだよ」
ぼくがそう言った瞬間、女の姿が消えた。
驚きながらも、すぐに幻術パターンを打ち消す視覚情報を右目部分に投影するが、効果は無い。
やはり、戦闘機人は魔法を使わないらしい。対魔法のパターンじゃ、意味が無いようだ。
『エース・オブ・エースの弟、だよね』
どこからともなく、今の女の声が聞こえる。
近くには居るはずだが、どの方向から聞こえてくるか、まったくわからない。頭の中に直接響いてくるような声だ。
「へえ、ぼくも有名になったな。敵さんにも覚えてもらえるなんて」
『ドクターは君にも興味があるようだった。よければ一緒に来て欲しいんだけど』
「興味? あいにく、ぼくはお前等のドクターとやらなんかと面識は無いんだが」
『ある筈だ、って言ってた。彼は忘れているだろうが、って』
「なに――?」
ぼくがスカリエッティと会ったことがある。この女は今そう言った。
ぼくはあんな男に会ったことは無い。断言してもいい。
「人違いじゃないか」
『とりあえず、この状況は私にとってかなりまずいんだけど』
「なんだ、わかってるのか。見くびってたよ」
ぼくは一瞬で自分を囲むようにしてスフィアを展開し、全方位に向かって撃ち出した。
「くっ――!」
「そこか」
イノセントハートをブレードフォームにし、被弾した音が聞こえた場所に向かって斬りかかる。
だが、すぐに姿は消え、また見失ってしまう。
なにかおかしい。姿の消え方が妙だ。タイミングと言うのか、それがずれているような気がする。
数秒考え、ぼくは思い当たる。
「バックアップがいるわけか。お前はただの砲撃手で、姿を消す能力は無い。だったら後ろの仲間と協力すれば時間稼ぎにもなるし、ぼくの焦りを誘うこともできる」
『……すごいね。そこまでわかるんだ』
「鍛えてるからな」
『ドクター達は、君が一番面倒な存在だ、って言ってた。この万能な魔導師がなにをするかわからない、ってね。だから、もし誰かがこの魔導師と交戦したら、できるだけ足止めしておけと言われてるんだ』
「過大評価どうも。ぼくとしては、さっさと蹴りをつけたいんだ。他の援護に回らなきゃいけないしな」
『じゃあ、終わらせてあ・げ・る』
そんな、神経を逆撫でするような声が聞こえると同時に、目の前の光景が変わった。
「え――?」
雪景色。
血を流して倒れている少女。
それを見て泣き叫んでいる少女。
「あ――ぁぁあ――」
姉さんが、墜ちた映像。
それがぼくの目の前で再現された。
「――あああぁぁあぁあああぁぁあぁああぁぁああああ!!」
《マスター! 幻術です、落ちついて!》
「ふざ、けんなぁ!! この野郎ぉ!」
《マス――》
~~~~~
「あ~あ、ったく。八神部隊長も中々わからんこと言うよな」
「――お兄ちゃん、怒ってる?」
「いんや、考え事さ。心配せず、ヴィヴィオと遊んでな」
「うん、わかった」
また、レイナはヴィヴィオとの話に戻る。
俺は頭の後ろで手を組んでソファに寝転がり、欠伸をする。
「寛いでいるな」
「そりゃそうでしょう、旦那。警備任務はただでさえ退屈だけど、待機はもっと退屈だ」
声を掛けてきたザフィーラの旦那にそう返す。
「旦那、か。お前もそう呼ぶのだな」
「これがしっくり来ますしね」
最初はかなり驚いたが、今では世間話もできるほど、旦那と交流は深い。数回、人間形態の旦那と手合わせをしたこともある。
「向こうでは主はやて達が任務についている。我々も気を抜けないぞ」
「わーってますよ。けど、もうすぐ向こうも終わるだろうし、こっちはこっちでのんびり――」
そして、目の前に出現する『ALERT』。
それを見ると俺は跳ね起き、ロングアーチに通信する。
「どうした?」
『襲撃です! ガジェット反応多数!』
『未確認の戦闘機人も捕捉!』
『リーコン3、迎撃行けるか!?』
「もちろんだ! レイナ、ヴィヴィオと一緒に寮母さんと避難しろ。旦那、レイナを頼みます!」
旦那は頷くと、背中にレイナを乗せ、しっかりと掴まらせる。
「私もすぐに援護に向かう。少しの間耐えてくれ」
「ええ。旦那こそ、レイナを落とさないでくださいよ」
「これでも、背に人を乗せたことはなんどもある。主はやてにも昔は乗っていただいた」
「そりゃ、頼もしい――ブレイブ、フランメ! セットアップ!」
俺はバリアジャケットを纏い、ヘッドギアと肩まであるガントレットを装備すると、窓から飛び出した。
そして、その光景に愕然とする。
「――ははっ」
乾いた笑いが出てくる。
ガジェットがざっと数えても百機以上。戦闘機人が二人。その全てが、俺に向かって視線を注いでいる。
――上等だ。俺はゆっくりと右手をかざす。
「全部、纏めて相手してやるよ!!」
拳を握り、俺は爆発させるような勢いで全身に炎を纏った。
~~~~~
前線が少し落ち着いた時を見計らい、俺は地下に潜る。
高町が居ないことには気付いていたが、あいつのことだから上手くやっているはずだ。そう信じ、隊長達と合流を果たすため、俺は狭い通路をなんとか飛行し、念話を飛ばす。
「――高町一尉、聞こえますか。テスタロッサ執務官?」
相手方は忙しいのか、それとも妨害か。通信には応じない。
直接会うしかないな、と呟き、スピードを上げた。
数分してホールに着き、フォワードと隊長達が集まっているのが見えて、俺はその近くに滑りながら降り立つ。
「ティルクさん! 無事だったんですね」
「ああ、今のところは。高町一尉、地上はガジェットが多数出現。数は減らして来たので、今は地上の魔導師だけで持ちこたえていますが、時間の問題かと」
「そう……一騎は?」
「え……来ていないのですか?」
俺は驚いて聞き返す。
それにテスタロッサ執務官も驚いたように、
「ティルクと一緒に行動してると思ったんだけど」
「襲撃時から現在まで、あいつとは合流していません」
高町一尉が目を向けると、頷いたランスターが通信を繋ごうと耳元に手を当てた。
「――ダメです、私たちも一騎さんと繋がりません!」
「くそ! 斎藤、聞こえるか!」
俺は応援要請のために斎藤に通信を繋げた。
こちらはすぐに繋がったが、聞こえてきたのは息も絶え絶えな斎藤の呻きだった。
『聞こえてるよ……』
「っ――どうした、お前!?」
『
『来るぞ、凌げ!』
『了解だ、旦那!』
その声と同時に、斎藤とザフィーラの雄叫びが聞こえる。
「六課にも襲撃が!?」
「一騎は不明、潤は六課で交戦中、か」
「ギンガとも通信が繋がらない」
「分散しよう! スターズはギンガの安否確認と襲撃戦力の排除」
「ライトニングは六課に戻る。リーコンは――」
「俺は地上の援護に戻ります。高町の捜索も合わせて」
「お願い――」
そういう高町一尉に頷き、俺は来た道を戻る。
「次々と後手に回っているな――急がなければ」