ぼくは杖型ストレージを展開する。
あのクラスメイトを殴り倒した日から数週間が経過し、ぼくは今日も魔法の訓練を行う。
結局、姉さんは詳しい話を聞いてこなかった。といっても、聞きたそうにちらりとこちらを見てきたのだが、ぼくが目を合わさなかったので、諦めたように溜め息をついていた。
ただ一言、『魔法は使ってないよね』とだけ聞いてきたので、ぼくは黙って頷いたのを覚えている。
父さんと母さんには怒られたが。
「アクセルシューター」
深呼吸をし、魔力弾を3つ生成する。
中身の高町家特製スポーツドリンクを飲み干したペットボトルを真上に放り投げ、魔力弾を当てていく。
柔らかいペットボトルは、魔力弾を当てた衝撃を中途半端に吸収しながらへこみ、どこに飛んでいくかわからない。
まっすぐ当てても真横に飛んだりと、忙しく跳ね回るペットボトルに、次々と魔力弾を当てて、空へと跳ね上げる。
そして、視界の隅に映り、ぼくの訓練を見ている姉さんに視線を移す。
「78、79、80、81、82……」
ぼくが跳ね上げるペットボトルを見ながら、数字を数えている。
そこで、ペットボトルが予想していなかった真下に飛んでいき、反応できなかったぼくは地面に落としてしまった。
「85回。まあ、前よりは続くようになったね」
「それでも、弾を3つ使ってこれだからね。姉さんには敵わないよ」
姉さんはたった一つの魔力弾で、ペットボトルよりも小さな缶を使って100まで余裕でいくんだから。本当にすごいと思う。
姉さんは笑い、
「でも、一騎ももう少し続いてもいいと思うんだけど。変なこと、考えてたりしなかった?」
姉さんの方に余所見をしていたのは確かだが、それを言うのは気恥ずかしいので、ぼくは頭を掻いた。
「いや、普通に集中してたけど……というか、ペットボトルってやりにくいんだよ」
「文句を言わないの。じゃあ、次は砲撃をやってみようか」
ぼくは頷き、杖を両手で保持する。
ぼくの前で姉さんがシールドを展開する。
「ディバイン――」
カートリッジのロードはしない。
ぼく自身の魔力を消費させるため、というのももちろんあるが、カートリッジの節約も理由のひとつだ。
「――バスター!」
杖先から砲撃が撃ち出され、姉さんのシールドにぶち当たる。
ぼくは反動に暴れる杖を押さえながら、ぐっと力を籠め、もう一段階砲撃を上乗せする。
それを、姉さんは涼しい顔をしたままシールドで防ぎきった。
「うーん、これも強いけど、まだ足りないかな」
「ハァッ……そう、かな」
ぼくは息を荒げながら、なんとかそれだけ答える。
ぼくの全力を持ってしても、姉さんのシールドにヒビを入れることすらできやしない。
「次は空戦機動だね。私も相手するから、高速戦闘を試してみようか」
「わかった」
「それじゃ……レイジングハート、セットアップ」
姉さんが光に包まれ、バリアジャケットを纏う。
その特徴的な、小学校の制服に似たそれを見ながら、ぼくもバリアジャケットを身に纏う。
ぼくのは――後に知ったことだが――一般局員と同じ、黒めのコートの胸元に、ちょっとした白いプレートが着いているものだ。
「それじゃ、始めようか」
姉さんの足首に魔力で出来た小さな羽が生成される。
ぼくも全身に魔力を纏わせ、少しずつ浮かんでいく。
「じゃあ、私に攻撃を当てられたら合格。それまでは終わらないよ」
「頑張ります」
ぼくは杖を振り、魔力を籠めて構えた。
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終わったのは、それから30分ほどだ。
前は日が暮れても終わらなかったのに比べれば、充分な進歩だろう。
肺が潰れているんじゃないかと思うほど呼吸を荒げているぼくとは対照的に、姉さんは少し疲れが見える程度だった。
「やっぱり、ちょっと動作が大きいかな。一騎は私よりは軽いんだから、もっと速くできるはずだよ」
「今のぼくは、これが限界に近いけど」
「フェイトちゃんにもうちょっと教えてもらった方がいいかもね」
「そうかな。フェイトさんも忙しいだろうし、時間を取らせるのは悪いし」
「大丈夫だよ。私も今度、異世界で捜査任務があるから、その間の練習は頼んであるから」
「あ、そうなんだ。無理はしないでよ」
「大丈夫だよ」
その笑顔を見て、少しばかり、不安が残った。
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それから数ヵ月後、あの事故が起きた。