魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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38話 StrikerS20

「何年振りかな……」

「?」

「いや、な。もう随分と会ってないから、少し緊張している」

 

 目の前に建っている、少し大きめで、二階建ての一軒家。

 庭にはわりとスペースもあり、昔からよく親父に剣を教えてもらったのを思い出す。

 

「入らないの?」

「ああ、いや、大丈夫だ」

 

 玄関扉の前でしばらく立ち止まっていたので、不思議に思ったらしいレイナが首を傾げた。

 金属錠を持っていた鍵で解除し、扉を開く。

 

「ただいま」

「おじゃまします」

 

 玄関には電気がついていない。

 まだ外は明るいので廊下も歩くには十分な明るさがある。俺は電気は付けずにそのままリビングへ向かい、扉を開く。

 そして、目の前に親父がいた。

 

「おやっ――!?」

「帰ったか」

 

 素っ頓狂な声を出した俺に構わず、親父は時間くらい知らせろと呟き、奥へ入って行く。

 すると、今度はお袋を連れて戻ってくる。

 

「お帰りなさい、ティルク」

「……ああ」

 

 相変わらずの細い身体。まだ秋にもなってないのに、肩には薄手のカーディガンを羽織っている。

 俺の両親は、両極端な人物だった。

 父親は190近い身長で無口な、とても厳つい男。

 母親は、155センチ程の小さい身体で物静かな性格。昔から身体が弱い。

 

「ただいま。二人とも」

 

 共通点は、あまり喋らないことか。

 お袋は顔をレイナに向け、

 

「その子が、あなたの言ってた子?」

「そうだ」

「……レイナ」

「レイナ、ね。いい名前」

 

 親父が俺の方を見る。

 

「仲間が保護した子供だと言ったな」

「ああ。昼にメールした通りだ」

「その仲間は無事か」

「問題ない。今朝手術が終わった」

「なら、いい。今日は家に居られるんだろう」

「ああ。今日はこの家に泊まる。明日からはまた局の仕事に復帰する。だから、その間」

「あの娘を預かれ、と」

「頼む」

「構わん」

 

 親父は表情を変えずに言った。

 

「お前が出てから、(あいつ)が寂しがっていた。少しくらい、訳ないさ」

「助かるよ」

「それじゃ、ご飯の支度をするわね。ティルク、なにか食べたいものある?」

「いや、特には」

「そう。どうしようかしら……」

 

 お袋は悩みながらキッチンに向かった。

 俺は二階にある自分の部屋に向かう。

 レイナも一人では落ち着かないのか、俺についてきた。

 

「……変わらないな」

 

 部屋を開けると、ベッドに、小さな机と椅子と、小さな本棚。

 

「……あんまり無いね」

「そうだな。あまり、何かを買うことも、ねだることもなかったから」

 

 本棚には、俺が好きな作家の長編小説が二冊、短編が一冊入っている。

 制服を脱いでハンガーにかけ、楽な部屋着に着替える。

 

「着替えなくてもいいのか?」

「うん。汚れてないし」

「――立っているのも辛いだろう。ベッドに座っていろ」

 

 俺が指して言うと、レイナは頷いてベッドに腰掛ける。

 俺は自分の机を眺め、少し指で擦ってみる。

 埃は無い。汚れは少しあるが、それは長い間使っていると自然に付くものだ。

 掃除は欠かされていない。

 

「優しそうな人だったね、二人とも」

「そうだな」

 

 俺は椅子に座り、長編小説を手に取る。

 訓練校に入るときは、訓練などで忙しいから読む暇などない、と元局員の親父が言ったので、俺は素直に置いていった。

 内容は大まかに覚えている。だが、改めて読むとやはり懐かしさというか、そんな感情が込み上げてくる。

 俺は本から顔を上げると、レイナは静かに座っている。

 

「退屈か?」

「ううん」

「――そうか」

 

  と、壁に設置されている家内モニターが点滅する。

 親父だ。

 

『暇か?』

「暇じゃない」

 

 モニターを消す。

 親父が暇か、と聞いてくるときは、大抵剣の稽古だ。

 何年経っても、それは変わらないらしい。

 

「まあ、そういうな」

「この一瞬で部屋まで来れるんだな、あんた」

「鈍ってなどいない」

「俺だって精進している」

「なら」

「――わかったよ」

 

 俺は諦めて立ち上がる。

 まあ、数年ぶりの再開だ。親子のスキンシップも悪くないだろう。

 

「レイナ、少し庭に出てくる。部屋は自由に――」

「私も見たい」

 

 その言葉に俺は驚きながらも頷くと、庭へ向かう。

 

 

~~~~~

 

 

「いいか、親父。非殺傷だぞ」

「わかっている。まだボケてない」

「あんた、昔はボケてたがな」

 

 嫌な思い出だ。

 視線を動かすと、レイナが庭に繋がるリビングのガラス戸を開けて、そこに腰かけている。

 

「レイナ、三分計ってくれ」

「うん」

 

 レイナがタイマーを三分にセットする。

 

「セットアップ」

 

 俺は騎士甲冑を纏い、カイトシールド形の盾を装備し、鞘から剣鋸を抜く。

 ロングソードとカイトシールドを装備した親父は俺の剣を見て驚いたようだ。

 

「なんだ、そのノコギリ」

「俺の剣だ」

 

 回転し始める鋸を見て、親父は顔をしかめた。

 

「俺が渡した剣は」

「この間、砕かれた」

「そうか。なら、仕方ない」

 

 親父は左手の盾を前に出すように、半身に構える。

 俺もまったく同じ構えを取る。

 

「ほう、隙が無くなっているな」

「だろう」

「始め」

 

 レイナがタイマーのスイッチを押す。

 唐突だったそれに、しかし俺も親父もまったく動じずに、同時に駆け出す。

 極短距離の全力疾走は一瞬で互いの距離を無くし、俺と親父は同時に振りかぶり、斬り付ける。

 

「「はあああああっ!」」

 

 剣がぶつかりあうと、お互いに同じようなフォームでシールドバッシュをする。

 それを戻す勢いで突きを繰り出すと同時に、目の前に迫った親父の突きを首を傾けて避ける。親父も同じようにして、俺の突きを避けていた。

 そこから薙ぎ払いがくるとお互いに感じたのか、同時にバックステップで距離を取る。

 

「「――ッ」」

 

 地を蹴ると同時に、今度は下からの斬り上げ。

 そこから回転して袈裟斬り、刃を返して逆袈裟、斬り下ろしを連続して打ち込む。

 親父はそれをすべて盾で受けきり、反撃に出る。

 来るのは斬り下ろし。それを読んだ俺は、思いきり盾で剣の面を叩いた。

 

「――っ」

「おおおっ!!」

 

 僅かな隙を逃さず、思いきり斬り上げる。

 親父はとっさに盾を出すが、不安定な体勢では俺の攻撃を受け止めきれず、吹き飛ばされる。

 俺は追撃のため、身体をギリギリまで前傾させて突進する。

 親父が体制を立て直し、剣に魔力を纏わせて構える。

 俺は走りを止めず、剣鋸に魔力を流すと、鋸の回転速度が上がる。

 

「「らぁっ!!」」

 

 お互いの剣をぶつけ合い、鍔迫り合いになる。

 

「確かに、精進しているな!」

「親父が鈍ったんだろ!」

 

 そこから無理矢理剣の角度を変え、親父の剣を横から殴り付けるようにして斬り飛ばす。

 親父は剣を弾かれ、盾で防ごうとするが、その時すでに俺は親父の目の前で足を屈め、剣を下段に構えていた。

 

「でりゃあああああっ!!」

 

 全力の飛行魔法で、急上昇しながらの斬り上げ。

 それが親父の身体を斬ると、俺はその勢いのまま宙返りをして地面に着地する。

 

「やめ」

 

 タイマーが鳴った。

 

 

~~~~~

 

 

「中々だった」

「今の部隊には剣の使い手がたくさん居るからな。練習相手には事欠かない」

「ほお、行ってみたいものだ」

「来たらまず拘束されるぞ。あんた、見た目はまんま犯罪者だからな」

「言ってくれる――それにしても、お前のノコギリ、見た目に反して良いものだな」

「俺の仲間が作ってくれた。最初こそ扱いに難しかったが、もう慣れた」

 

 少し見せてくれ、と親父が言ってきたので、俺は剣鋸を渡す。

 代わりなのか、親父はロングソードを渡してくる。

 

「――重いな」

「親父のソードに比べたらな」

 

 渡されたロングソードを軽く振るう。

 かなりの業物だ。一応デバイスらしいが、制作者は誰なんだろうか。

 親父は満足したのか、俺に剣鋸を返してくる。

 俺もロングソードを返そうとすると、止められた。

 

「選別だ。やる」

「いらん」

 

 俺は構わず親父に投げ返す。

 

「つれないな、お前も」

「なにをやりたいのかは知らんが、俺は親父の期待には答えられん」

 

 と、レイナが腰をあげて、こちらに歩いてくる。

 

「なんだ、レイナ」

「どうしたらそんなに強くなれるの」

「強くなる、だと?」

「……技術か、魔法か?」

「両方」

 

 俺と親父は顔を見合わす。

 強くなりたい、と少女は言っていた。

 ならば、そのための方法を聞いてくるというのは、わかりきっていたことだ。

 

「なぜ、強くなりたい?」

 

 事情を知らない親父が問いかける。

 

「大切な人を守れるように。大切な人を助けられるように」

 

 親父は腕を組み、思案するように目を閉じる。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「強さは必要だ。人を守るために」

 

 ゆっくりと話し出す。

 

「優しさも必要だ。人を助けるために」

 

 俺も昔言われた言葉を。

 

「そして、なにより必要なのは 、お前自身の想いだ。 お前が守りたい人。お前が助けたい人。それを判断し、決めるのはお前自身の想いだ」

「…………」

 

 レイナはその意味を理解しようと、言われたことばを反芻するかのように、目を閉じた。

 それに対し、俺は声をかける。

 

「強さというのは、絶対に必要なものだ。力の無い正義がどうのと言う気は無い。俺達は正義に興味は無い。だが、お前が言う大切な人を守ることも、助けることも、無力ではできない」

「うん……」

「だから強さを求める。だが、それに伴う代償を、力の使い方を考えなくてはならない。強さは驕りになる。驕りは傲慢だ。世界中の人を助けたいと思うのは傲慢だし、悪を許さないという『正義』とかいうのも、傲慢なものだ」

 

 客観的に見れば、俺達はなぜ5、6歳の子供にこんな事を語っているのかと馬鹿らしくなってくるが、あいにくこの子供は精神が成熟しすぎている。

 

「必要なのは、強さと優しさだ」

「助けるための強さ。守るための優しさ。だが、強さを驕りに変えてはいけない。優しさを傲慢に変えてはならない」

「それが想いだ」

「その、自分を制する想いが必要なんだ」

「「――それが本当の『強さ』だ」」

 

 俺と親父は声を揃えて言った。

 俺も昔、同じことを言われた。

 お袋が病気で死にかけて、俺は毎日泣いていた。

 それでも剣の稽古を進めてくる親父に当たり散らしたとき、俺は親父にこの言葉を言われたのだ。

 親父はレイナを見て、

 

「確かに、お前には想いが備わっている。力を覚えても問題は無いだろう」

「じゃあ」

「だが、お前はどんな強さを求める? お前の理想とはなんだ?」

「私の、理想――?」

「ああ。お前の目標はなんだ?」

「――おそらく、もう気付いている筈だろう」

 

 俺の言葉に、レイナは頷いた。

 

「だから、俺達から教えられることは無い。お前は、斎藤が起きたら、あいつから教えてもらえ」

「うん――」

 

 ちょうど、お袋が微笑みを浮かべ、家の中から顔を覗かせている。

 

「ご飯、できたわよ」

 

 

~~~~~

 

 

 飯を食べている最中、また通信が入る。

 悪い、と三人に断って席を立ち、廊下に出てモニターを出し、通話ボタンを押す。

 

「こちらアローン空曹長」

『あ、よかった繋がった――夜分に申し訳ありません、ティルクさん……』

「構わないさ。どうした、ランスター」

『……一騎さんのデバイスが見つかりました』

 

 俺は表情を変えず、言葉の意味を考える。

 『デバイスが』見つかった。

 なら、本人はどうした?

 俺は最悪のパターンを想像する。

 今までの任務でも何度かあった。管理外世界で行方不明になった魔導師の捜索。

 その場合、ほとんどは危険生物に襲われて死亡しており、見付かったのは当人が使っていたデバイスのみ(・・・・・・)

 

「――高町本人は?」

『イノセントハートが教えてくれました。一騎さんは戦闘機人に連れ去られています』

 

 だから俺は、その言葉に一瞬安心しかけて、止まった。

 これで、高町一騎空曹は行方不明から敵勢力による拉致、に確定したわけだ。

 

「連中が高町をさらった理由は」

『わかりません。今、イノセントハートの映像データを解析に出しています。詳しい話は明日』

「……この話、高町一尉に?」

『伝えました……さすがに、堪えてるみたいです。フェイトさんが傍についていてくださるみたいですけど――フェイトさんも、かなりショックだったみたいです』

「――了解。なら、俺達がしっかりしなければな。明日は、六課の隊舎へ向かえばいいか?」

『はい、そこで。あ、そうだ――』

 

 そこで少し声のトーンが変わる。

 

『レイナ、どうですか?』

「問題ない。今は俺の家だ。お袋なら子供の扱いには慣れてるだろうし、親父もいるから安全も確保されている。俺は明日から安心して任務に集中できる」

『――ご両親のこと、信頼されてるんですね』

「もちろんだ」

『よかったです。それでは、失礼します』

 

 モニターが閉じられる。

 俺は拳を握り締める。

 高町も斎藤も、ここには居ない。

 なぜかはわからないが、ケレット二佐達には通信が通じない。ディレンド達にも通じない。

 本局には襲撃は無かったと聞いている。だが、この地上本部襲撃の話で混雑しているのかもしれない。

 ともあれ、助けは呼べない。

 ならば、この先は俺だけだ。

 いつものメンバーは居ない。

 

「簡単だ――俺にできること。それをやるだけだ」

 

 俺はゆっくりと、溜め息を吐いた。




もう少しティルク視点が続きます。
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