完全にティルクが主人公なこの頃です。
確かに潤も含めて3人が主人公ですが、一応メインは一騎です。
翌朝、俺は朝食を済ませ、身だしなみを整えると、制服に着替えて玄関に向かう。
「気を付けてな」
「無理しないでね。昨日までは入院してたのに」
「昨日一日、十分に休ませてもらった。体調は万全だ」
「……いってらっしゃい」
「ああ。レイナ、俺の部屋を好きに使っていいからな。親父達も、レイナを頼む」
「任せろ」
「ええ、わかってるわ」
お袋がレイナを抱えるようにして頭を撫でる。
照れ臭そうな顔をしているレイナに笑いながら、俺は靴を履き終え、玄関扉を開ける。
「ハンカチ持ったか」
「ああ」
「チリカミは」
「いらん」
「デバイスは忘れてないだろうな」
「忘れるわけ無いだろう」
「あと――」
「じゃあ、行ってくる」
~~~~~
親父は俺をなんだと思ってるんだろうか、とジープを運転しながら溜め息を吐く。無愛想なくせに過保護とは、俺が言うのもなんだが不器用な親父だ。
目的地は六課跡。完全に崩れてしまった建物を六課隊舎、と呼ぶのは、気分があまりよくない。
「さて、と」
ジープを邪魔にならない場所に停め、キーを抜いてポケットにしまう。
そして、六課の隊舎を見て顔をしかめる。
確かに、全壊している。あの、少し古かったがスペースは十分にあり、心地よい空間だった場所は、もう面影もなかった。
「ティルクさん」
「ん……ランスター。来ていたのか」
「はい。まだ終わってない場所も多いですし。あまり時間を掛けていられません」
「こういう捜査はあまり得意じゃないが、文句も言ってられないな」
「『強行偵察課』って、現場検証とかされないんですか?」
「違法研究施設を『強行偵察』するのが主だからな」
俺達が歩いていくと、ちょうど建物の前、いくつもの爆発跡が残っている海沿いの通路に目が留まる。
ここは確か、斎藤達が戦っていた場所だ。
斎藤とザフィーラ、シャマル医務官がここで必死に防衛していたそうだ。
だが敵わず、こんな有り様になってしまった。
俺はその爆発跡の傍に膝を着き、瓦礫を手で弄ぶ。
「斎藤達は、ずっとここを守っていたんだな」
「……はい」
「俺があの騎士に一方的に殴られていた時も、か」
瓦礫を握りしめると、少しヒビが入る。
「高町のことも忘れ、斎藤の助けにもなれず。俺は、なにもできなかったんだな」
「そんなこと――」
「ガジェットを減らしただけだ。分不相応とは言わないが、やはり俺の実力など知れたものだな」
俺は立ち上がると、時間を取らせてしまったことを謝る。
「すまないな。それで、どこを調べるんだったか」
「あ、はい。まずは――」
~~~~~
教えられた場所を手分けして見て回るが、たいしたものは無いように思える。
俺の見落としがあるのかもしれないが、他にも局員はたくさん居るので問題は無いだろう。
そして、通信音が鳴っているのに気付き、モニターを出して通話ボタンをタップする。
『ティルク、少し来られる?』
「アテンザ技官。どうされました」
『イノセントハートの解析が終わったの』
「了解。すぐに向かいます」
伝えられた座標は、六課の隊舎跡だった。
疑問に思っていると、空に上がってこい、とのことらしいので、飛行許可を申請して飛ぶ。
そして、次元航行艦が目の前に出現した。
スクィードよりは大きい。L級かそこらはあるな、と考えていると、この船はアースラだ、と思い出す。
高町一尉達が昔世話になったと聞いている。
乗船するように言われたので、開いたハッチに飛行して入っていく。
~~~~~
途中で転送されてきたランスターと合流しながらデバイスルームに向かう。
「それで、イノセントハートは?」
「この中。調べてみたけど、デバイス自体に異常は無いみたい。映像データは今解析が終わったの」
モニターに映るのは、砲撃型の女に杖を突きつけている高町の姿。
「やはり、戦闘機人の確保に向かっていたのか――だが、拉致されたとはわからないのでは?」
「それはもうしばらく後。飛ばすね」
早送り。その中でも、高町がどんな状況だったのかはわかった。
そして高町が意識を失って倒れると、戦闘機人の女が出てきて、高町を担いでいく。
イノセントハートは高町が意識を失った際に手から離れ、そのまま置いていかれた。
「案外あっさり捕まるものだな」
「ティルクさん……」
俺が漏らした感想にランスターが頭を抱えた。
「で、こいつらはなぜ高町を?」
「『ドクターと顔見知り』らしいね。ティルク、心当たりは?」
「あいつが無いのに、俺があるわけありません」
「だよね……」
《俺には心当たりがあります》
イノセントハートが話し出す。
《俺がマスターに渡された際に居た、あの元局員のデバイスマイスター。あの男の雰囲気は、どこかジェイル・スカリエッティに似ていたように思えます》
「男……? 高町達から聞いたが、ただの男だったと聞いたぞ」
《確かに、そうでした。ですが、こんな科学技術が発達した世界です。姿を変えることなんていくらでもできます》
「だが、理由がない。スカリエッティが高町にデバイスを渡したとして、奴になんの得がある?」
《――よくも悪くも、ジェイル・スカリエッティは科学者として純粋です。彼にも、科学者としての性があったのではないかと》
「損得では無いということか」
《俺に興味があったようですし。今までどうやっても開かなかった箱が、目の前の人間の助けで開く、となれば、一芝居打って開かせることも考えるでしょう》
「なるほどな。スカリエッティの行動は、どこか安定していない。自分のやりたいことをやる、といった雰囲気があったな――一番面倒な手合いだ」
「経験があるんですか?」
「何度も、な」
俺がうんざりして溜め息を吐くと、ランスターは複雑そうな顔をした。
~~~~~
地上に戻り、歩きながらランスターと話す。
「ともかく、高町は連中に持っていかれた。なら、こちらとしても対応を考えなくてはならないな」
「対応、ですか」
「ああ。さらわれて何も無し、というのはありえない。まあ、ありがちなのは尋問か人体実験か。バラバラにされてなければいいがな」
「……なのはさんには聞かせられないです」
「俺だってあの人の前で言う気は無いが、最悪のパターンも考えておかなくては――っと、そういえば高町一尉は?」
「今日は休まれてます。フェイト隊長が進言して、休ませたようです」
「
さて、と俺は一呼吸置き、
「話を戻そう。それで、対応だが」
「理想的なのは、無傷で救助できることですね」
「スカリエッティの隠れ場所がわかれば、俺の得意な『強行偵察』ができるんだがな」
「それは――現在も捜索中だそうです」
「ままならないものだな」
俺は溜め息を吐く。
「それで、先程言っていた最悪のパターンって……」
「考えられるのは、死体になってることか。見つけたら死んでいた、なんて、考えたくもないが」
「…………」
「あとは、やはり洗脳だな。高町はあれで中々一般の魔導師よりはよっぽど強い。そんなのが敵に回ると考えてみろ。ただでさえ戦闘機人とガジェットで手一杯なんだ。面倒事を増やしたくはない」
「……ティルクさんって、一騎さんのこと嫌いなんですか? なんだか言い回しが――」
「もとからこんなものだ――といっても、俺はあいつなら死なんと思っている。尋問されようが、人体実験されようが、な」
俺は呆けているランスターに笑い掛け、
「あいつだってわかっている筈だ。自分の力量をな。自信過剰な所はあるが、引き際をわきまえているし、生き残る
だが。
「あいつなら絶対に戻ってくる。自他共に認めるシスコンで、高町一尉の為ならなんでもするあいつだ。例え死んだって、高町一尉が泣いたら生き返るんじゃないか」
「――一騎さんが聞いたら、なんて言うでしょうか」
「『別にいいだろ』辺りだな。シスコンと言われることを否定しない、いや、寧ろ望んでいるように思えるしな」
そう、あいつはシスコンという言葉にとても敏感だ。
それを言われると一瞬
「高町一尉が生きている限りあいつも生きている。高町一尉が笑っている限りあいつも笑っている。そんなやつなんだ」
なぜ俺はこんなにも、あいつのことを語っているんだろうか。
少しだけ疑問に思ったが、すぐにわかった。
――俺も、不安なんだ。
自分でも、あいつのことが心配なんだ。だから、まるで自分に言い聞かせるように、大丈夫だ、と言っている。
「高町なら……大丈夫だ」
そう、俺は頑なに信じていた。