今回、急展開と無理矢理設定があるので笑って流してください。
UA50000突破いたしました。ありがとうございます。
これからも よろしくおねがいします。
「やあ、久しぶりじゃないか」
「……またお前か」
目の前には、ぼくがいた。
さっぱりとした短い髪。少しだけ無邪気さを感じさせる表情。
毎度毎度、悪夢の中でぼくを責め続ける自称『罰』。
「また忘れてたろ。まったく、最近夢も見なくなって。自分の罪だとか納得できてないとか言っておきながら、随分と自分勝手だな」
「黙れ」
ぼくは割り込むように、それだけを言う。
「黙れない。お前はなにもしなかったんだから」
「――また、その話か」
「お前が望んでるんだぞ。心の奥で罰せられたい、ってな。ある意味天性のマゾだな」
「いつまで続ける気だ」
「お前が
「なに――」
「お前が自分の罪を見付けて、悔いるまで。ぼくはお前を責め続けなくちゃならない」
「ぼくの罪だと?」
「やっぱり気付いてないのか。いや――わかってる筈だ。ぼくがわかってるんだからな」
「お前とぼくは違う」
「いいや、同じさ。なんせ、お前はぼくなんだ。ぼくはお前なんだよ」
「くだらん」
ぼくはうんざりして吐き捨てる。
すると、頭の痛みが襲ってくる。
「――ッ!!」
「強情な奴だな。それじゃ
「なん、だと――ふざけてるのか!」
「まさか。自分相手にふざけたってどうにもならないだろ――っと、そろそろ時間だな。またな、『ぼく』」
『ぼく』がそう言った瞬間、ぼくは意識を失った。
~~~~~
夢の中で眠ると夢から覚める。
そんな言葉があるが、どうやら気絶しても同じ効果があるようだ。
そんな事を考えながら、ぼくは目を閉じたまま自分の状態を把握する。
両手に拘束具が嵌められ、天井にぶら下がる形になっているようだ。
ゆっくりと目を開く。
「おや、お目覚めか。気分はどうだい?」
「……朝一番に見るのがお前の顔なんて、不愉快以外のなんでも無いね」
ぼくはそう吐き捨てる。
ジェイル・スカリエッティが、ぼくの目の前でニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「久しぶりの再会だというのに、ずいぶんな言葉じゃないか」
「久しぶり――? ぼくはお前に会ったことなんて無いぞ」
「これでもかい?」
と、スカリエッティは顔を手で覆うと、下ろす。
するとスカリエッティの顔は、イノセントハートを貰ったときの元局員の男の顔に変わっていた。
「お前――!」
「思い出したようだね」
スカリエッティは元の顔に戻る。
「私があげたデバイスは有効に使っているかい?」
「まるであんたが開発したような口振りだな――ああ、とても役に立っているさ。その点は感謝してるよ」
「それはよかった」
「聞きたいことは終わったか? そろそろ帰りたいんだが」
「話はこれからが本番さ」
スカリエッティはモニターを出す。
「君は『エース・オブ・エースの弟』だ」
「――だからどうした」
「君は全てにおいて姉を第一に行動している。シスターコンプレックスと言ってもいいほどのものだ」
「お前には関係ない」
「だが、少し気になったのだよ――きみの行動の不自然さが」
ぼくは目を細める。
「君は姉を一番に考えている筈だ。だが、君は極力姉と共に居ようとしていない」
「――はあ?」
「君はほとんどの時間を同僚と行動を共にし、姉との時間をあまりとっていないように見える。同じ部隊で働いているにも関わらず、だ」
「……姉さんは忙しいからな。邪魔をするわけにはいかない」
「本当にそうかい?」
「――何を聞きたい? 率直に言えよ」
「ならばそうさせてもらおう。きみはどこかで、姉を疎ましく思っていないかい?」
ぼくは頬が引き攣るのを感じた。
「そんなわけないだろう」
「そうかい?」
「……当たり前だ」
「なら何故――」
――きみは今、笑っているんだい?
「な、に――?」
「きみは今、心底嬉しそうに微笑んでいたよ。自分でも気付かないほどの自然なものだったのかな?」
「笑っていた、だと――」
「ああ。まるで、自分の言いたいことを理解してくれた事を喜ぶ学者のように。とても満足そうな笑みだった」
ぼくが、笑っていた。
姉さんを疎ましく思っていると指摘されて。
そんな馬鹿なことがある筈がない。
だって、ぼくは――
「姉さんを――」
「疎んでいる」
「違う……!」
「心のどこかで憎んでいる」
「違う!」
ぼくは身体を乗り出そうとするが、拘束具のせいでただ身じろぎをしただけだった。
その反動で、自分の結った長髪が大きく揺れる。
「ぼくがどう思ってるかなんて、お前がわかる筈がないだろう! お前なんかに――!」
「君が一番わかっている筈だろう」
「――ッ!」
「ゆっくり考えてみるといい。時間はたっぷりとある」
スカリエッティがそう言うと同時に、モニターのボタンに触れる。
その瞬間、ぼくの視界が暗転していく。
~~~~~
「どうだった?」
「――くそったれ」
「そんな悪態をつけるんなら大丈夫だな」
うつ伏せに倒れているぼくの目の前に、『ぼく』は座った。
「だから言っただろ。お前は物分かりが悪いな」
「うるさい!」
怒鳴り、床に拳を叩き付ける。
だが『ぼく』は驚いた様子もなく肩を竦め、
「昔からそうだったろ。『お前は』姉さんに対して、なんとも思ってないんだよ」
「…………」
「
「違う!」
「思い出してみるか?」
「――やめろ」
「ま、好きにするといいさ。
ぼくは意味がわからず、聞き返す。
「お前は、なんなんだ?」
「ぼくはぼく。昔のお前だよ。お前が『ほったらかしにしてる』ぼくだ」
「ぼくが……?」
「まあ、その話はいいさ。
「――ぼくの姉さんが好きだという気持ちは、お前から伝わっているものだということか」
「そう。『ぼくの』姉さんに対する気持ちだ。『お前の』じゃない」
「なら、ぼくは空っぽだと?」
「いいや。お前にもお前の『想い』はある。『疎ましさ』もそうだ」
「疎ましさ――」
「姉さんへの好意はぼくのものだ。お前のじゃない。けど、大丈夫だよ」
『ぼく』はゆっくりとぼくに手を伸ばす。
「ぼくを受け入れろ。そうすれば、ぼくとお前は同じになる。ぼくの想いはお前と同じに。お前は『気付く』前のように、姉さんを好きでいられる。姉さんのことだけを考えていればいいんだ」
ぼくの気持ちはこいつの気持ち。
ならば、ぼく自身の気持ちは。想いは――
「――ああ、そうか。わかったよ」
「ん?」
「悩んでいたことも、考えていたことも。今はもう、どうでもいい。お前の言葉で、少しだけ吹っ切れた――」
ぼくはゆらりと立ち上がり、嗤う。
「――ぼくは姉さんと戦おう」
ぼくの言葉に、『ぼく』は大きく目を見開く。
「何を言って――」
「ぼくは姉さんを疎ましく思ってた。ああ、そうさ。確かにぼくは『弟』だ――だからどうした? 弟ってだけで、ぼくはどれだけの過大評価を受けてきた?」
ぼくは嗤いながら頭を掻き毟る。
「どこへ行っても、なにをしても! 全部、全部『弟』だ! もううんざりなんだよ!」
「お、おい――」
「弟だからなんだっていうんだよ!? いつもそうだ!! ぼくの評価は全部『弟』!!」
唐突に発狂しだしたぼくに、『ぼく』は困惑しているようだ。
「ぼくへの言葉は、全部姉さんへの事だ! 『エース・オブ・エースは弟の教育もしっかりできている』。ふざけるな!!」
ぼくは床を踏みつけた。
「そうさ、ぼくは全然シスコンなんかじゃ無い! 姉さんの事なんて好きじゃない! 全部、言い訳にしてただけだ!」
ぼくはあの
姉さんが好きだと思い込んで。
姉さんが好きだと言い聞かせて。
「だが、もういい。逆恨みだってわかってる。けど、止まれないんだよ……ぼくは姉さんを倒してやる」
ぼくがそう宣言すると同時に、視界が暗くなる。
~~~~~
「どうだった?」
ぼくはゆっくりと目を開ける。
「ほう、いい瞳だ」
「ぼくを、姉さんと戦わせて欲しい」
「ふむ?」
スカリエッティは驚いたようだったが、すぐに笑いながら頷く。
「面白そうだね。いいだろう。だが、もちろん条件がある」
「ああ、わかってるさ。なにをすればいい?」
「私の実験に付き合ってもらう。もちろん、君にも得のあるものだ――ウーノ」
スカリエッティが名前を呼ぶと、女性が入ってきて、ぼくの首筋にペン型注射器を刺し、ボタンを押す。
その痛みに短く声をあげてしまう。
スカリエッティがモニターのスイッチに触れると、ぼくの胸の中心に痛みが走る。
「――ッ!?」
「リンカーコアは器官だ。心臓や腎臓と同じ、ね。だが、リンカーコアの成長力は他の器官とは比べ物にならない速度で成長――進化する。幼い子供の頃に魔力を消費すれば、潜在魔力量が大きく延びるようにね」
「……それとこれと、どんな関係がある?」
「リンカーコアのその柔軟性を利用するんだよ。君の身体に注入したのは電流を流す小型デバイスだ。ナノマシンのようなものと思っていい」
「よくそんなもの作れたな」
「電流を一定時間リンカーコアに浴びせ、同じ時間コアを休ませて回復を促す。それを繰り返し続ければ、リンカーコアはその柔軟性と成長力によって進化し、『電気』の変換資質を後天的に修得できるのだよ」
「なんだと――!?」
そんなことができるなんて、知らなかった。人体実験の現場は数多く見てきたが、身体を弄ることはあっても、リンカーコアを弄っていることはほとんどなかった。
「だが、普通に電流を流せば、心臓にまで電流が達し、活動が止まってしまう。だから、小型デバイスに指向性を持たせ、リンカーコアのみに電流を流す事に成功した。後は実証だけさ。さあ、少しの間、耐えてくれたまえよ」
その瞬間、また胸の中心に激痛が走り、ぼくはひたすら声にならない叫びをあげた。
~~~~~
「成功だ!」
「……失敗したらお前を殺してやるつもりだった」
「さっそくなにか魔法を使ってみてくれ」
スカリエッティはぼくの言葉が聞こえていない様子でぼくに言う。
溜め息を吐きながら、ぼくはアクセルシューターをひとつ出す。
普段通りにやったその魔力弾には、電流が流れていて、スパークの音を立てていた。
「……半信半疑だったが、すごいな。あんた、本当に天才なんだな」
「次だ。君にレリックを埋め込んでみる。人造魔導師ではない君に、だ」
「やっぱあんた、ぼくを殺す気だろ!」
「とんでもない。しっかりと調整はするさ。今の実験で、君のリンカーコアは一般的な魔導師と比べて頑丈になってきている。ならば、出力調整をしたレリックなら確実に受け入れることができる筈だ」
「本当か?」
「データが正しければね」
~~~~~
「………………」
「なにか反応を返してくれないか?」
「……やはりお前は殺した方がいい」
「意識も安定している。リンカーコアの波長も問題ない。なにより、潜在魔力量が大きく増えている。高エネルギー結晶体をリンカーコアに埋め込んだんだから、当然と言えば当然だが。気分はどうだい?」
「最高」
ぼくは苛立ち紛れにスカリエッティへ魔力弾をぶつけようとし――色が変わっていることに気付いた。
ぼくの魔力光は、水色だった筈だ。
だが今出したこの電気を纏った魔力弾は、緋色に近い赤色に変わっていた。
「ほう、興味深い。魔力の色まで変わるとは……これは『受け入れられる』ようにした人造魔導師では見られなかった現象だ。『受け入れ難かった』生身の人間のリンカーコアが適応した結果か――」
ぶつくさ言い始めたスカリエッティにうんざりして、ぼくは溜め息を吐いた。
~~~~~
「そういえば君はデバイスを持っていなかったな」
「あんたの所の娘さんにエスコートの仕方を教えてやれ。ここに連れてこられるときに落としたんだ」
「それは失礼。まあ、好都合と言ってはなんだが、これはお詫びだ」
ぼくの前で床が開き、何かが出てくる。凝った演出だな、とぼくは感心した。
そして、それを見て驚いた。
「刀?」
二股に分かれた台座に乗せられている、黒い鞘と柄巻の日本刀。
「プレゼントだよ。きっと君に協力してもらえると考えて、以前から製作していたんだ」
ぼくは左手で鞘を持ち、右手に柄を持ってゆっくりと引き抜く。
まず目についたのは、黒。
普通なら鋼色をしている刀身は、黒色に鈍く光っていた。
「色は個人的な趣味だ」
「ああそうかい」
ゆっくりと振りかぶり、上段から片手で振り降ろす。
非常に手に馴染むものだった。
「気に入った」
「それはよかった」
ぼくは刀を鞘に納める。
「きっと君の姉はヴィヴィオを取り戻しに来る筈だ。だから君はゆりかごで――」
「――今なんて言った」
「君の姉はヴィヴィオを――」
「ヴィヴィオをさらったのかっ!」
スカリエッティに詰め寄り、刀の柄頭を突きつける。
「そもそも、私の本当の目的はヴィヴィオだった。あの少女が居なければ、私の夢は成し得ない」
「ヴィヴィオに危害を加えていないだろうな」
「君が目覚める前にレリックを埋め込んだ」
ぼくが刀を抜こうとすると、赤い糸がぼくの肢体を絡めとる。
「落ち着きたまえ。もう彼女は大丈夫だよ」
「信用できるか」
「私の実験に協力してくれた時のように、信用してくれるとありがたいね」
「――まあいい。どうせここで暴れたってどうにもならん」
ぼくが構えを解くと、糸が消えた。
「作戦が始まれば、君はゆりかごでディエチと待機していればいい。彼女にもここの迎撃を頼んでいる」
「ディエチ?」
「君が剣を突き付けた娘だよ」
「ああ、あの砲撃型か」
「話して親交を深めるのも良いだろう」
「――機会があればな」