「――あいつも凄いものを作るな。整備が大変だぞ、このノコギリ」
俺はデバイスルームで一人ごちながら、キーボードを叩く。
アースラ内部でシグナム二尉とモンディアルの三人でローテーションで模擬戦をしていたら、俺の剣鋸が上手く回らなくなったので、整備をする事になった。
が、高町はとても面倒な構造に作ってくれたらしく、整備にかなりの時間がかかってしまった。
「――よし、直った。最終調整終了」
俺は剣鋸を取り出して待機状態に戻す。
その瞬間、もはや馴染みとなった『ALERT』の文字が俺の目の前に出現する。
そのモニターを操作すると、映像が出てくる。
「戦闘機人がアインヘリアルを制圧した、だと? 砲台すら歯が立たないのか」
俺は状況を把握しながらアースラのブリッジへ向かう。
「戦闘機人はそのまま市街地へ向かっているか。面倒な……」
モニターには移動し続ける戦闘機人達が映っていた。
そのすべてに目を走らせたが、ナカジマ陸曹の姿は見えても、高町の姿は見えない。
「やはり、どこか別の場所にいるのか――?」
~~~~~
スカリエッティのアジトが発見された。
戦闘機人は地上本部と廃棄都市区画に迫っている。
そして、同時に巨大な艦がスカリエッティのアジト付近から浮上する。
『聖王のゆりかご』というらしいそれはガジェットを撒き散らしながら浮上を続けている。
ゆりかごが浮上した際、まるで玉座のような場所に拘束されたヴィヴィオが苦しんでいて、その隣に『バリアジャケット姿の高町』が腕を組んで壁に寄り掛かっていた。
まるで、王の隣に付き従う騎士のように。
それを見て、高町一尉が肩を震わせる。
「ヴィヴィオ――一騎、なんで……」
「洗脳か、それとも――」
俺はその先は言わなかった。
洗脳というのは、誰かを操ることだ。魔法であれ、科学であれ、高度なものになれば、どんな人物でも操ることができる。
だが、洗脳された際、それを受けた人物には共通する特徴がある。
それは瞳だ。洗脳されて無表情、などということはなく、様々な表情を浮かべることはできる。だが、どのような表情を浮かべようが、必ず瞳の焦点があっていない。
瞳を見れば、洗脳か否かはわかる。
だが、今の高町は目を閉じて立っているため、それを判断することはできなかった。
~~~~~
こんな散々な展開に、六課は分散してそれぞれの部隊に協力することになるそうだ。
俺は地上本部の防衛ラインを担当することになった。
俺には高度な技術が無く、隊長達に着いていけば足手まといになるし、フォワードとは連携がとれない。
だから、俺は自分でそこを選んだ。
「防衛ラインは必ず守ります。俺のやれることは、これくらいしかありませんから」
もちろん、悔しくない訳じゃない。だが、防衛ラインが重要なのも事実だということを、しっかりと理解しなければならない。
イノセントハートは、ゆりかご担当の高町一尉が持っている。
あの高町がどう出るかは、さっぱりだが。
全員で出撃し、隊長達が空に上がるのを見送ると、俺は陸士部隊が維持している防衛ラインにガジェットⅢ型を両断しながら割り込んでいった。
~~~~~
「大仰だな、この船。スカリエッティの目的は知らないが、こんな派手にやるくらいだし、それほどのものなんだろうな」
「当然でしょ? ま、ドクターの望みは、貴方みたいな中途半端な秀才には理解できないだろうけど」
「そりゃ光栄だ。そんなものが理解できるような天才に、ぼくはなりたくない――おい、クアットロ。これ以上無駄にヴィヴィオに負荷をかけるな」
「これでも十分気を使ってるんだけど」
「思いやりが足りないな」
「そうかしら?」
ぼくの皮肉をさらっと受け流す糞メガネに舌打ちをしながら、ぼくはヴィヴィオの頭に手を乗せる。
ヴィヴィオは泣きながらぼくを見上げるが、ぼくはその視線を合わせない。
助ける、ということを考えなかったわけでは無い。
寧ろ、今すぐにでもこの椅子を斬り裂いてヴィヴィオを救い出したいと考えている。
(だが、それはできない)
ヴィヴィオはこの船の鍵だ。今、この椅子から不用意にヴィヴィオを切り離せば、船は鍵を失い、落下する。
ゆりかごは現在市街地の真上を飛んでいるため、そのど真ん中にこんなデカブツが墜落すれば、どれ程の犠牲者が出るか、壊れた建物の復興にどれ程の時間が掛かるか。それは考えるまでもない。
ゆりかごが飛び立つ前に助け出すと言うことも考えたけれど、敵の本拠地を単独で、しかもヴィヴィオを連れて逃げるというのは現実的ではなかった。
だからぼくは、こうしてチャンスを探ってはいるが、ぼく個人がヴィヴィオを助け出すことは不可能だと考えている。
(ごめんな)
それに、いまここで無闇に行動を起こせば、ぼくの目的は達成できない。
ぼくの目的は姉さんだ。
ぼくは彼女と戦いたい。
この逆恨みの感情をぶつけた際、彼女がどんな表情をするのかを見てみたい。
そして、この八つ当たりの後、『ぼく』にどんな変化がもたらされるかを見てみたい。
ぼくはバリアジャケットのロングコートの、腰部分に追加で巻き付けるようにしたベルトに差している刀に目を移す。
実体剣を実戦で使うのは初めてだ。普段は魔力刃を使っていたからわからなかったが、実体剣は刃の重みがある。
この数時間の素振りでもう慣れたが、本物の刀によるこの重みは、これからぼくが行う罪の重さを体現しているように思えた。
「――まだかな」
「――そんなに楽しみなの?」
キーボードを叩いているディエチがぼくに聞いてくる。
「ああ。この『現状』は気に入らないが、これから起こることはとても楽しみだ。こんな事をしでかしたぼくに対して、姉さんがどう対応するか。それを考えると、な」
「……変わってるね」
「確かに、ちょっと変わったかもね。ぼくはこういう時、少しふざけすぎる嫌いがある」
「意外」
「そうか?」
「うん。もっと冷めた人間だと思ってた」
「少し前までは気取ったりしてたけどね。今はもう吹っ切れてるから、素直に物事を楽しめるんだよ」
「姉弟で戦うのが楽しみなの?」
「
同じ意味じゃん、不満げに呟いたディエチに笑いながら、ぼくは天井を仰ぐ。
(楽しみ――だよ。そう思い込んでるだけかもしれないけど)
~~~~~
突然爆発音が響き、ゆりかごの中が少し揺れる。
「外壁が破られたか。突入班が入ってくるぞ」
「そんなのガジェットだけで十分対処できるわよ」
「まあ、それもそうか。ぼくらの出番はもう少し後、ってことか?」
「そう」
ぼくの言葉に、淡々とディエチが応える。
そちらに視線を移すと、ディエチは泣いているヴィヴィオに視線を向け、少しだけ顔をしかめた。
それを見た瞬間、ぼくは確信した。
ディエチはこの出来事に心を痛めている。
ヴィヴィオのような小さな子供を辛い目に合わせていることに、罪悪感を感じている。
戦闘機人には――少なくともディエチには『良心』があることがわかった。
「――絶対に助けるさ」
ぼくがそう小さく呟くと、ディエチとクアットロが少しだけ眼を動かしてぼくを見た。
それを誤魔化すように、ぼくはモニターを操作する。
「さっきの穴から姉さん達が入ってきてるな。迎撃行こうか、ディエチ」
ディエチはぼくの言葉に頷くと、例の大砲を担いで歩き出す。
ぼくはもう一度だけヴィヴィオの頭を軽く撫でてから、ディエチの後に着いて歩き出す。
「せいぜい頑張ることね」
「お前もな、糞メガネ」
ぼくの言葉に、クアットロは少しだけ頬をひくつかせた。
~~~~~
「脳みそみっけ。近くに凶器を持った女性も確認」
「こんなところに居たのかよ。まったく、手間掛けさせやがって」
「バカ、声を落とせ、気付かれるぞ。二佐達に連絡しろ。全員に座標伝えてここに転送。僕はあの女を抑える!」
「了解。二佐、脳みそ発見だ! ああ、灯台もと暗しだよ。ったく、次元世界飛び回ったのがアホみてぇ」
「さっさと座標伝えろボケナス! こっちは確保したぞ!」
「はやっ! うわぉ、気絶してら――お前、後頭部に杖フルスイングしたろ。非殺傷とか関係無しに危険だからやめとけよ」
「もうお前黙れ通信機よこせ――もしもし二佐? 見付けたよ。パッケージは三つとも無事。メンテの女が戦闘機人の潜入員だったみたい。もうちょっとで壊されるとこだった。座標伝えるから、すぐに来てくれ――わかってる、みんなにも伝えとくよ」
「もう伝えたぞ。すぐに来るってさ」
「最初からやってくれよ」
「にしても、スゴいねぇこの女の人。とりあえずバインド掛けとこう」
「リングバインドにしろ」
「チェーンの方がいいだろ」
「いいや、リングで胸を上下から挟むようにだな」
「だったらチェーンで胸を上から押さえ付けるようにした方がいいだろ」
「「………………あ゛?」」
「よーう、見つけたって? このボタン一つで次元間通信ができるナグリー印の通信機は役に立つようだな」
「オレと
「うわ、暗っ――ぎゃああぁああぁあああ!!」
「ライアァァァァァ! ライアが落ちた! 飛べ、ライア! お前空戦魔導師だろ! 飛行魔法を使えええええええぇえぇえ!!」
「クォーツ……なにやってんの、きみら。こんなところで緊縛プレイ?」
「おや、ウィルス。ヴィンズは?」
「すぐ来る。きみらこそ、二佐達は?」
「ここだ」
「あ、アンソニー先輩!」
「俺も居るぜ――わお、幻想的な場所だな」
「あの脳が最高評議会なのか、二佐?」
「みたいだな――やれやれ、苦労掛けたな、お前ら」
「いえいえ、僕ら二佐にはたくさんお世話になりましたし」
「それに、『強行偵察課』解体前の最後の大仕事です」
「みんな喜んでやってますよ」
「そうか――それにしても、壮大だな、この部屋は」
「ここって底無しかな」
「ライアああぁああぁあああ!!」
「声も良く響く。こりゃ無理かね」
「さてと。さっそくこのお姉さんをうひょひょ」
「まずはお前から逮捕するか」
「離せヴィンズ! このおいしい展開の邪魔すんのか!」
「犯罪だぞ」
「捕まるのが怖くてセクハラができるか!!」
「何言ってんだこいつ」
「このロマンはお前みたいなホモにはわかんねぇんだよ!」
「ああ!? ホモじゃねぇよ! 姉御は――」
「うるせぇ喋んな!」
「魔力光と同じく、頭の中もまっピンクなんだろう!?」
「――お前ら、全員殺してやる」
「お前にできるのか? んん?」
「お前ら喧嘩なら外でやれ」
「ライア……オレを置いて逝っちまうなんて――」
「さて、阿呆共はほっといて、だ。脳みそさん。色々と話を聞かせて貰いに来たんだ。答えてもらえるか?」
『貴様、フォレスタか!』
「あんたは2? 3? 普段は名前も顔も隠してるし、声もおかしいから、どうも見た目じゃ判断がつかなくてね」
『公開意見陳述会の事は聞いたぞ。なんてことをしたんだ、お前は!』
『強行偵察課は管理局になくてはならない部隊なのだぞ』
『手段を選ばずに任務を遂行する偵察課の存在は、次元世界の違法研究に対する抑止力になっている』
「にしても、脳みそなのに喋れるんだな。脳機能は生きてるから、思考――念話の要領でスピーカーに繋いでんのか」
『聞いているのか貴様!』
「年寄りの話なんか聞くだけ無駄。で、話終わった?」
『貴様――無断でこの場に踏み入ったあげく、我らを侮辱するとは!』
「怒るなよじいさん。俺はあんたらを
『なんだと?』
「長い間疲れたよな? 俺らを見守ってくれて疲れたよな? ボケ始めてる位だし、よっぽど大変だったんだろ?」
『――貴様、労るか侮辱するかどちらかにしろ』
「
「ちなみに、この『老害』の使い方は間違ってるんだぜ」
「いいから黙ってなさい頭残念な子」
「ひでぇ」
「というわけで、あんたらに永久の安らぎと、俺らに真の解放をもたらしに来た、ってわけさ」
『な、に……?』
「おっぱいやわらけぇ!」
「吹っ飛べ」
「レイド吹っ飛んでったー!?」
「アレクセイ先輩の強烈なパイルバンカーをもろに食らったぞ!」
「相棒の後を追ったか……」
「まあ、やすらぎっつっても手段は違うがな。結果はそこでセクハラされてた女と変わらん――アンソニー、ハーヴェイ、アレクセイ。もうできるな」
「はい。脳への酸素供給装置を止められます」
「結構パスワードキツかったぜ」
「だが、『強行偵察課』の俺達にはなんの問題も無い」
「俺は立派な部下を持ったもんだな――さ、やれ」
「「「了解」」」
『なんだと!?』
『馬鹿はやめろ!』
『こんなことは許されんぞ、二佐ぁ!』
「赦されないことなんて、今までに何度もやってるさ。今さら誰かに赦してもらえるとも思ってない」
『今すぐ装置を再起動させろ!』
「お断りだ。言ったろ。あんたらには永久の安らぎを、ってな」
『まだだ! まだ次元世界は不安定なのだ!』
『我らが導かねば――!』
『我らが正さねば――!』
「それは俺たち管理局の
『我らが居なければ、人はまた道を違えてしまう!』
「安心しろ。俺達がゆっくりと正していくさ」
『お前らもやがて私欲に駆られ、横暴を働くのだぞ!』
「あんたらみたいに、な」
『ふざ――け――ぐっ!?』
「そろそろ酸素が行き渡らなくなってきたな」
『まだだ――こんな、のは――認め――んぞ!』
「あんた達の役目はおしまいだ」
『フォレスタァァァァァ!!』
「お疲れさん。ゆっくり休め」