魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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43話 StrikerS25

「一騎、これ」

 

 姉さんが差し出した手には、イノセントハートが乗っていた。

 

「持ってきてくれたんだ」

 

 イノセントハートを手に取ると、待ちかねたといわんばかりに杖の形をとった。

 

《お久し振りです、マスター》

「ああ、元気そうだな」

《貴方には負けますよ。いきなり姉弟喧嘩なんておおはしゃぎして》

「ま、ぼくも色々思うところがあったんだよ」

《俺にも思うところはありますよ。なんですか、その刀》

 

 そういうイノセントハートの声色は、どこか面白くなさそうだった。

 おそらく、主が自分以外のデバイスを使っていることが気に入らないんだろう。

 

「スカリエッティがくれたデバイスだ。性能はそこそこだよ――まあ、改良の余地はあるし、使いやすさもお前ほどじゃないが」

《それを聞いて安心しました》

 

 そこでイノセントハートは、ぼくの魔力との同調を開始する。

 ぼくの赤い魔力がデバイスの隅々まで行き渡り、全体が赤の同系色に変わった。

 蒼色だったデバイスコアが深い、黒さを感じさせるほどの深紅に。それを囲う銀色のフレームと水色のグリップエンドが、燃えるような緋色に変わる。

 

「イメチェン、ってところか」

《中々お洒落でしょう》

「ははっ」

 

 ぼくは笑った。

 黒い刀身の刀を鞘に納めて、ベルトに差し直す。

 そして、ぼくは自分の長髪を眺めた。

 

「――イノセントハート」

《yes sir》

 

 イノセントハートは、一瞬でブレードフォームに切り替わった。

 その対応の早さに満足しながら、ぼくは束ねている髪の根本に、刃を滑らせる。

 

「あっ」

 

 姉さんが声を漏らしたが、ぼくは自分でも驚くほど簡単に、自分の長い髪を切り落とした。

 これでぼくは、あの『ぼく』と同じ、短い髪に戻った。

 もう、『ぼく』とぼくの乖離は無い。もう無理に、(ぼく)を遠ざける必要はなくなったのだから。

 

「――よし、行こうか。姉さん」

「うん」

《フォローに回りますよ、姉上》

《ええ、頼みます》

 

 姉さんが頷き、イノセントハートがエクシードモードに変形しつつ、レイジングハートに言った。

 

 

~~~~~

 

 

 聖王の間に繋がる扉。

 ぼくが先程丁寧に開いた扉を今度はぶち破り、ぼくらは部屋に滑り込むようにして着地する。

 ぼくと姉さんは同時にデバイスを構える。

 

「あら、協力するなんて言っておきながら、結局裏切るの?」

「ああ。わかってたろ、こうなるってことは」

 

 軽口を叩くクアットロに、ぼくは笑って言う。

 

「投降するか、ぶちのめされるか、どっちか選べよ」

「どっちもお断りよ、っと」

 

 クアットロがヴィヴィオに触れようとした途端、姉さんが砲撃を撃つ。

 だが、クアットロはかき消えた。

 

「やっぱり幻影か。まあ、お前なんかに、敵の真ん前に出てくる度胸は無いよな」

『……相変わらず失礼なガキ』

「黙れ。ヴィヴィオを解放して投降しろ」

『嫌よ』

 

 突然、ヴィヴィオが苦しみだした。

 ぼくは床を蹴り、ヴィヴィオが拘束されている玉座を破壊しようとしたが、魔力が放出されて吹き飛ばされる。

 

「……っ」

 

 床を滑りながら体勢を立て直すと、ヴィヴィオは自身の魔力に包まれて浮かんでいる。

 

「ヴィヴィオ!」

 

 姉さんが叫ぶが、聞こえている様子はない。

 そして、ヴィヴィオのすぐ横にクアットロが映っているモニターが出現した。

 そのクアットロの声は、ヴィヴィオに聞こえているようだ。

 

「……ヴィヴィオをけしかける気だ」

 

 ぼくの呟きに、姉さんが視線をぼくに向ける。

 

「あいつは悪趣味だからな。親子で戦うのを見たいんだろうね」

「……ッ」

 

 姉さんが苛立ったように唸るのを横目に、ぼくはイノセントハートを握り直す。

 そして、ヴィヴィオの身体が変化していく。

 

「――身体強化とは違うな。変身魔法か?」

《いえ、既存の魔法とは少し違うようです》

 

 面倒だな、とぼくは悪態をつくと、すでにヴィヴィオの『変身』は終了しており、全体的に黒い防護服に身を包み、長い金髪をサイドテールに纏めている。

 ゆっくりとヴィヴィオが眼を開く。

 

 そして、唐突にそれは始まった。

 

 ヴィヴィオはぼくの目の前に猛スピードで迫り、拳を振りかぶる。

 咄嗟に左腕を出して拳を防ぐと、今度は蹴りがぼくの側頭部に迫る。

 後ろに半歩下がり、顔を逸らして紙一重で避ける。

 その次の回し蹴りには完璧に反応が追い付き、ぼくはイノセントハートで足首と膝を絡めて、身体全体を使って放り投げた。

 だが、ヴィヴィオは空中で体制を立て直し、再び床を蹴ると、今度は姉さんに向かって迫る。

 

「速い――」

 

 ぼくはイノセントハートをブレードフォームに切り替えると、姉さんとヴィヴィオの間に割り込んでヴィヴィオの攻撃を防ぐ。

 

「邪魔しないで!」

「何を吹き込まれたか知らないけど――」

 

 整った顔を歪め、恐ろしい形相で怒鳴るヴィヴィオに気圧されながら、ぼくは拳と蹴りを凌ぐ。

 

「――ママ達の顔も忘れたのか?」

「貴方達がママを傷付けた!」

「――くそ、面倒臭いな!」

 

 洗脳は行き過ぎると脳に障害を遺すことがたまにある。

 さっさと大元(げんきょう)を見つけて潰すのが手っ取り早い筈だ。ぼくはそう考え、後ろの姉さんに念話を飛ばすと、既に実行中だ、と返ってくる。

 つまり、姉さんは既にクアットロの居場所をサーチ中、ということか。

 なら、ぼくは時間を稼ぐとしよう。

 

「ぼくが相手してやる。掛かってこいよ、ヴィヴィオ!」

 

 お前がその名前を呼ぶな、と激昂して吼えるヴィヴィオに辟易しながらも、ぼくはイノセントハートを構えた。

 

 

~~~~~

 

 

 ガジェットがあめあられと撃ち出す射撃を広範囲防御魔法を上乗せした盾で防いでいると、通信員が声を張り上げた。

 

「アローン空曹長!」

「どうした!?」

「聖王医療院から救難信号です! 救援をお願いできますか!」

「医療院だと――教会騎士は何をやっている。すまないが、任せる!」

 

 ガジェットは撃ち漏らしていないと思うが、別ルートで向かったのかもしれない。

 俺は飛行魔法を発動し、進行ルート上にいるガジェットを斬りながら速度を上げた。

 

 

~~~~~

 

 

 AMFに慣れていないのか、ただの実力不足か。ガジェットⅢ型四機に苦戦している騎士を後退させ、数分で全滅させる。

 

「患者の避難はどうですか?」

「お、終わっていません!」

 

 その言葉に、俺は眉をひそめた。

 

「まだですか? あとどのくらい?」

「重傷者やICUの患者を動かすには、まだ時間が掛かります」

「……わかりました。俺も協力しますから、手早く済ませましょう」

 

 助かります、と頭を下げる騎士と別れ、俺はICUへ向かう。

 病院の中には被害は無いが、入院している患者が次々と運び出されている。

 見舞い客も避難を呼び掛けられており、院内着を着ていない人も混じっている。

 レイナ達が来ているかと思ったが、どうやら居ないようで、俺は移動を再開する。

 そして、未だにベッドに寝たきりになっている斎藤を見つけた。

 

「……おい」

 

 ガラス越しに思わず声を掛けるが、返事はない。

 当然だ。全治一ヶ月なんて重症、いくらこいつが頑丈でも、意識が回復するまであと二週間は必要だろう。

 

「――みんな、戦ってるぞ」

 

 俺は、ぽつりと呟いた。

 

「みんな、自分の信念を持って戦っている――なのに、お前も、俺も戦っていない」

 

 この声は、あいつに届いているだろうか。

 部屋を隔離するガラスに手を当てる。

 

「お前が六課防衛の時、何を思ったのかは知らない。聞きたいことも幾らかある」

 

 記録映像に残っていた、斎藤が『リンドヴルム』と(さけ)んだ竜。

 レイナが言っていた、『守れなかった』という言葉。

 だが、それよりも。

 

「みんな心配している。さっさと起きて、レイナを安心させてやれ」

 

 そこで、俺は自分のやってる事の滑稽さに気付いた。

 救助の手伝いに来たのに、俺はなんで物言わぬ患者に語り掛けているのだろうか。

 

「――何を気取ってるんだか」

 

 自嘲し、俺は作業に取り掛かった。

 

 

~~~~~

 

 

 まず目についたのは、荒廃した大地。

 空を見上げると、黒雲が覆い尽くしていて、見慣れた青空を拝むことはできない。

 俺の隣には、竜の顔。

 それを辿ると、そいつは俺に付き従うように翼を畳み、身体を丸めていた。

 蛇のような長い躰に、一対の翼と前足。鱗はわずかに湿り気を帯びていて、爬虫類のそれに近い。

 俺が手を伸ばすと、そいつは心を許しているかのように、俺の手が頭に触れても、行動を起こさない。

 ゆっくりと頭――額かもしれないが――を撫でると、心地よさそうに躰を震わせる。

 

――なんだ、これは。

 

 俺はそこで疑問を持つ。

 ここはミッドチルダじゃない。それは確実にわかる。

 なら、ここはどこだ?

 恐らく、今までに見たことがある世界じゃない。

 こんな荒れ果てた世界なんて、今の時代、次元世界中を探しても、そうそう残っていない。

 いや、そもそも、俺はミッドで六課を防衛していた筈だ。なのに、なんでこんな世界にいる?

 

――夢、か?

 

 もしそうなら、のんきに寝ている場合じゃない筈だ。

 夢というのは面倒なもので、覚めようとしてもうまく起きれないことが多い。

 だが、俺は明晰夢と自覚した瞬間から、確実に目覚める方法を知っているし、たった今実行してみたのだが、目が覚める気配は無い。

 さっさと起きて、一騎とアローンの援護をしなくちゃならないのに、レイナを守らなくちゃならないのに。

 

――ん? 誰か来たな。

 

 視界が竜から外され、目の前で片膝を付く男に移る。

 

「どうだ?」

「準備、完了致しました」

「そうか、苦労かけたな。明朝仕掛けるから、今日はゆっくり休むようみんなに伝えてくれ」

「はっ!」

 

 『俺』がそう言うと、男は応えて一礼し、走って戻っていく。

 

――なんだ、よくわからん夢だな。

 

 偉そう――とは違い、少しばかり気遣う様に話しているが、『俺』と男の立場はかなり離れているらしい。

 視界はまた、蛇に足と翼を生やした様な竜に戻る。

 

「――また戦だよ。まったく、嫌になるぜ」

 

 『俺』の言葉を聞いて、竜は舌を出し、唸った。

 

「わーってるよ。けど、文句くらい言わせてくれ。これで何度目だと思う? 五回目だぞ。今月に入ってもう五回目。まったく、いつまで続けりゃいいのかね」

 

 竜が空を見上げ、また唸った。

 

「ああ。親父の代から続いてる阿呆らしい戦。ベルカの天下統一が目的なのか、自分の力を示したかっただけなのかは知らん。残念ながら、俺は天下に興味は無い」

 

――ベルカの統一?

 

「俺は、俺の『友』を助けたいだけだ。覇王と、その想い人を、な」

 

――ベルカ、覇王……古代ベルカ、か?

 

「大っぴらにシュトラと同盟は組めないが、向こうに有利になるように戦局を塗り替えていく。お前にも協力してもらうぞ。そのためにお前を従えたんだからな、リンドヴルム」

 

 リンドヴルム、と呼ばれた竜は頷いた。

 

――リンドヴルム?

 

 俺があの時、朦朧とした意識の中で、無意識に放った魔法と同じ名前だ。

 あれは炎が竜の形を象っていたが、確かに、実際に竜として再現したらこんな感じになるんだろう。

 

――あの魔法と関係あるのか?

 

 少しだけ、この夢に興味が沸いた。

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