ギャグ回でふざけられるんなら良い傾向なんですけどねぇ
「ストライク――」
スマッシャー、と言い切る前にぼくの左腕はヴィヴィオの手刀に弾かれ、スマッシャーは明後日の方向へ撃ち出される。
繰り出される拳をブレードフォームのイノセントハートで受け流し、柄打ちを返す。
柄打ちは避けられたが、その隙にもう一度スマッシャーを撃ち込み、距離を取る。
「姉さん、まだ? そろそろやばいんだけど」
「あと少し!」
その答えに「具体的に」と聞き返したいのを堪え、ぼくは突撃してくるヴィヴィオにチャージを仕掛ける。
お互いの加速から繰り出された拳と刃がぶつかり合い、刃先で逸らしていなす。
ぼくは二、三回近距離でイノセントハートを振るうと、高速機動でクロスレンジからミドルレンジまで離脱し、アクセルシューターで弾幕を張る。
さらに砲撃を撃ち、高速機動で接近戦を仕掛ける。
「ちょこまかと!!」
繰り返されるそれを学習したらしく、その全てをヴィヴィオは避け、防ぎきった。
「――マジかよ」
その勤勉さに感心を通り越して呆れ果てる。
ぼくの戦い方で一番有効――だと個人的に思っている――な戦法である、近接・射砲撃を瞬時に切り替える撹乱混じりの攻撃を、ヴィヴィオはあっという間に見切っている。
普通の魔導師なら、この変化についてこれずに混乱し、最後にはぼくの砲撃か斬撃を食らって墜ちる。これまでに何度も、次元犯罪者確保の際に、この戦法の有用性は証明されてきた。
それが、今目の前に居るヴィヴィオには通じていない。
「……強いな、ヴィヴィオ。ちょっとだけ、楽しくなってきたよ」
「うるさい!」
少女にしては少しばかり猛りすぎな叫び声と共に打ち込まれる電撃を纏った拳を見て、ぼくも左腕に電撃を走らせる。
《thunder arm》
「でぇりゃぁぁぁぁぁ!!」
叫び、拳に向けて拳を打ち込む。
かち合い、スパークを散らすそれを見てぼくは思わず笑いを溢し、イノセントハートを真上に放り投げる。
《はぁっ!?》
AIで器用に驚愕を再現したイノセントハートの声を聞きながら、ぼくは両手足に赤い電撃混じりの魔力を流し、左腕を捻るようにして、ヴィヴィオの拳を逸らして振り抜く。
ぼくらの両腕は一瞬自由になり、ぼくらの両目はお互いを睨む。
そして、そこからはラッシュの掛け合い。
ヴィヴィオの左フックを右拳で弾き、ぼくは同じように左フックを仕掛ける。
それをヴィヴィオは僅かな体捌きで掠らせる様にして避け、左足でぼくの側頭部に向けで蹴りを繰り出す。
それを避けられた勢いのまま側頭部に動かした左腕で防ぐと、その左腕を戻すと同時に右腕を前に振り抜き、ヴィヴィオの左肩に打撃を食らわせる。
それを食らって不快そうに眉を寄せたヴィヴィオは、衝撃で左半身が下がる勢いを利用し、右の蹴りをぼくの腹に叩き込む。
それをギリギリの集中防御で防いだぼくは、右足の回し蹴りを上から抉るように叩き込む。
咄嗟に両腕を頭上で交差させて防いだヴィヴィオに、両脚による回し蹴りの連続で腕を弾き、ぼくはそのまま右手を掌底の形にして腹に添える。
そして、右掌に集めた魔力をスマッシャーとして撃ち出した。
「うあぁあああっ!」
「なんとか決まったか」
悲鳴と共に吹き飛ぶヴィヴィオを見て、大きく息を吐き出しながら、丁度落ちてきたイノセントハートを逆手でキャッチする。
《なんてことするんですか!》
「反射的行動だ。許せ」
《反射で武器を投げ捨てますか、普通!?》
「ぼくは色々と普通じゃないからな――ちっ、どうやら効いてないらしい」
目の前に悠々と飛んできたヴィヴィオは、埃を被ってはいるが、目立った外傷は無い。
もっとも、ぼくは非殺傷で魔法を使っているし、打撃の際も特殊な緩和を用いて外部の衝撃だけにダメージを抑えているので、傷を負うことなどほとんど無い。
だが、それはぼくが確実に『手加減』をしていることになり、ぼくはそれだけでヴィヴィオより一歩遅れを取っている。
つまり、このまま戦い続けるのはとてもまずいのだ。
「――見つけた!」
が、ちょうどよく姉さんの声が聞こえてきて、ぼくは安心した。
後ろに目を向けると、姉さんの隣にはサーチャーの映像が出ており、それには唖然としたクアットロが映っている。
『エリアサーチ!?』
「ゆりかごの外に居る連中を操って『遊ぶ』のに夢中だったか? 今の今まで気付かなかったなんて、お笑い草だ」
ぼくは素直に笑ってやる。
どうせ、戦闘機人と戦って苦戦している魔導師達を見て嘲笑っていたんだろう。
「ぼくも個人的に嫌いだけど、制裁は姉さんに任せるよ」
姉さんは無言で距離算出の座標を聞き、その方向に向けてレイジングハートを構えた。
『だ、だけどここは最深部――』
「姉さんの戦闘記録、知らないわけじゃないだろ。無駄な足掻きはやめて、諦めろよ」
ぼくは殴りかかってくるヴィヴィオの拳を掌で掴んで力比べのように張り合いながら、そうモニターの向こうに言った。
ブラスター3、と一気に解放した姉さんがゆっくりと息を吸い込む。
「ディバイン――バスターッ!」
そして、モニター越しではない悲鳴が、ここまで聞こえてきた。
~~~~~
「――防衛ラインは、もう大丈夫そうだな」
ガジェットの数はもう多くない。俺が行くまでもなく、守りきれるだろう。
が、サボるつもりは無い。俺は医療院から市街地まで戻ろうとし――見慣れた人影を二つ見つけた。
ひとつは、恐ろしく厳めしい面の巨漢。
もうひとつは、その巨漢に背負われた、黒い長髪の小さな少女。
「親父とレイナ!?」
俺は急降下し、二人の目の前に着地する。
「馬鹿親父! こんなところに何しに来た!」
「お嬢さんの所望だ。兄君が心配らしくてな」
「なに――?」
レイナが親父の背から顔を出す。
「お兄ちゃんは――」
「とっくに
「そうだ」
「親父……」
「案ずるな。少女一人くらい、守る自信はある」
「あんたの自身なんて知らん! 現役引退したおっさんは黙って避難誘導に従ってろ!」
「だが、傍に居させてやるのも良いだろう。離しておいて、不安を募らせるのも良くない」
「――子供の我が儘を一々聞いてたら、避難も終わらないし市民も守れないんだよ! 元局員なら、そのくらいわかるだろ!」
「父親としては、息子が糞真面目で我が儘なんてこれっぽっちも言わなかったからな。お前の言う『子供の我が儘』の面倒さなんて知らんのだよ」
「――いいかげんにしないか、親父。事態の深刻さがわかるだろう?」
苛立った俺が睨むと、親父は肩をすくめる。
「まあ怒るな。とりあえず、この子の兄君の所へ案内してくれ『局員さん』」
「――オーケイ、『現地協力者』。病人の搬出を手伝ってくれ」
「了解した」
俺は頑固親父に聞こえるように大きく溜め息を吐き、斎藤のもとへ案内した。
点滴や呼吸器諸々に繋がれたままの斎藤を見て、レイナは泣きそうになりながら、親父の背から降りる。
「お兄ちゃんは、今どうなってるの?」
「眠っている。心臓は動いているし、呼吸も安定しているから、急に動かしたことによる命の心配は無い――親父、伏せろ!」
俺は叫ぶと同時に跳び、空から降ってきたガジェットを斬り飛ばす。
「敵襲か!?」
「ああ!」
俺は追撃に備えて空を見上げる。大量のガジェットが降ってくる――が、それらは滞空せずに地面に墜落した。
「――自滅か? 最近の無人兵器は器用だな」
「親父――阿呆か。制御が消えたんだろ。俺の上司達がやってくれたんだと思う」
なんだ、出番が無かったな、と愚痴る親父を横目に、レイナは斎藤の隣へ歩み寄る。
「――お兄ちゃん、今ちょっと動いた」
「なに!?」
レイナの呟きに、思わず斎藤の顔を覗き込む。
が、目が覚める気配は無い。
「気のせい、かな?」
「――夢でも見てるんだろう。気楽なものだ」
「気楽、という点ではティルクもどっこいだろ。民間人の護衛をしているだけなんだからな」
「――その面倒な民間人を見捨てて、俺は今すぐ他の救援に回ることにした」
俺はそう言って親父達を残し、全力飛行でゆりかごに向けて飛んだ。
~~~~~
どうも、この夢はおかしな感じがする。
俺が知らないことを教えてくるような――俺に何かを伝えるかのような、そんな雰囲気がある。
もちろん、それは俺の勝手な想像だが。
既に一日近く時間が経ち、日は真上に昇っている――と思う。空を覆っている黒雲の聖で、日中でも薄暗い。
「この戦は俺たちの勝利、か」
「……喜ばしいことです」
「かも、な。向かってくる兵士はどうしようもないが、女子供は殺さない。それだけは守ってるよな?」
「もちろんです……が、中には自分で命を絶つ者も居ました。目の前で、自分の胸にナイフを突き立てたのです」
「そうか――まあ、いいさ。今さら良心は痛まん。戦は俺たちの勝ちだ。祝いをやりたきゃ好きにやれ。許可するぞ」
「兵達に聞いてみましょう」
兵士長が一礼し、去っていく。
『俺』の視線は薄暗い空に向けられ、そこを飛び回っているリンドヴルムに向けられた。
『俺』の視線に気付くと、リンドヴルムは地響きをたてて目の前に着地した。
「お前も随分血で汚れてるな。気持ち悪いだろ、洗ってやるよ」
それを聞くとリンドヴルムは頷いて、身体を丸めるようにして寝転び、翼を畳む。
『俺』は近くの兵士に水を汲んでくるように言い、バケツに汲まれてきた、少し汚れた水――この時代では充分に綺麗な水らしい――を手で掬い、血に汚れた鱗に水を掛け、手で拭う。
「お前が来てくれたおかげで、かなり楽になったんだぜ。このご時世、どんなことにも力がいるからな」
その言葉に応えるように、リンドヴルムは蛇の様な舌を出して震わせる。
「ベルカのあっちこっちで戦争が始まってる。俺らみたいな小せぇ国でもな。やっぱ、領土を広げるのはそんなに大事なことなのかね」
リンドヴルムが首を動かし――さしずめ、人が首を鳴らすような仕草だ――、唸る。
「いや、知らん。親父はいきがってたが、あっけなく死んだしな。俺はあの好き勝手やる親父とは似てない、ってよく言われる。同じなのは、俺達の『血筋の証明』である『炎熱』の魔法だけだ」
――『炎熱』……変換資質のこと、か?
そこで、兵士長が戻ってきた。
「宴を始めたいそうです。貴方様にも是非、と」
「ああ、わかったよ。すぐ向かう」
『俺』がそう言うと、兵士長は走って兵達の方へ戻り、リンドヴルムが大きく口を開けて吼えた。
「俺の分をとっておけ、だと? 食糧不足だって深刻なんだから、ちっとは節食してくれよ」
不満げに唸る。
「文句言われようが俺はなんとも思わねぇよ。たとえ小さい国でも、一国の王だ。例え伝説の竜が相手でも、引く気はねぇの」
リンドヴルムは諦めたように唸った。
「うっせーよ、ヘビ畜生。『炎帝』を舐めんな、ってんだ」
『俺』の言葉を聞くと同時に、リンドヴルムは翼を広げ、空に飛んでいった。
それを見届けると、『俺』は宴が行われている方へ足を運んだ。