姉さんの砲撃が止むと同時に、ヴィヴィオが頭を抱えて苦しみだした。
「ヴィヴィオ!」
「なのはママ――ダメ、逃げてぇ!」
近づこうとした姉さんをヴィヴィオが攻撃する。
「だめなの……ヴィヴィオ、もう帰れないの……」
それを見て、ぼくはヴィヴィオの異変の原因を探るためにスキャンをかける。
そして、無機質な声が部屋に響く。
『駆動路破損 管理者不在 聖王陛下、戦意喪失。これより、自動防衛モードに入ります』
自動防衛、ということばに、ぼくは姉さんと視線を交わす。
「一応ぼくらの事がわかるようにはなっているから、洗脳は解けている。だったら、クアットロとは別の影響を受けてるのか……?」
「この船と関係してるのは間違いないね。けど、その鍵になるものが――」
「たぶん、レリックのせいだ。ヴィヴィオに埋め込んだ、っていうのを、スカリエッティから聞いている。ゆりかご自体はかなりダメージが入っているから――」
「レリックを壊せば、ヴィヴィオを助けられる!」
ぼくの言葉に、姉さんが肯定するように言い、うなずいた。
「破壊するためには、魔力ダメージを与えればいいか」
ぼくはそう判断すると、涙を流し続けるヴィヴィオに目を向ける。
そして、姉さんとヴィヴィオが
「ヴィヴィオ、今助けるから!」
「ダメなの――止められない!」
「駄目じゃない!」
姉さんがカートリッジをロードし、砲撃を上乗せして撃ち抜く。
その瞬間、ヴィヴィオは姉さんの背後に回り、拳を叩き込む。
それを姉さんは防ぐが、連続で打ち込まれる拳に砕かれ、床に叩き付けられる。
「もう、来ないで……」
ヴィヴィオが俯き、小さく呟く。
「わかったの、私。もう、ずっと昔の人のコピーで、なのはマ――なのはさんもフェイトさんも、本当の親じゃないんだよね……この船を飛ばすための、ただの鍵で、玉座を守る、生きてる兵器」
「ちがうよ……」
その言葉に、姉さんが静かに言う。
「本当のママなんて、もう居ないの。守ってくれて、魔法のデータ収集をさせてくれる人を、探してただけ……」
「ちがうよ!」
「ちがわないよ!」
ヴィヴィオは涙を流しながら叫んだ。
「悲しいのも、痛いのも、全部偽物の、作り物。私は、この世界に居ちゃ行けない子なんだよ!!」
その言葉を聞いて、ぼくは思わず叫んだ。
「偽物なんて何一つ無い! ヴィヴィオがレイナと遊んでたときの笑顔も、その時に感じたはずの喜びも、全部本物の筈だ。それを作る事なんて――できやしないんだよ!」
「産まれ方は違っても……今のヴィヴィオも、そうやって泣いてるヴィヴィオも、偽物でも作り物でもない!」
さらに続ける。
「甘えん坊ですぐ泣くのも、転んでも手を貸さなきゃ起きられないのも……ピーマンが嫌いなのも――私が寂しいときに、『いい子』ってしてくれるのも……私たちの大事なヴィヴィオだよ」
「みんなヴィヴィオが大事なんだよ! ヴィヴィオが居てくれなきゃダメなんだよ!」
「私は、ヴィヴィオの本当のママじゃ無い――けど、これから、本当のママになっていけるように努力する!」
ぼくらは言葉を続けながら、少しずつ近づいていく。
「だから……居ちゃいけないなんて、言わないで!」
姉さんが涙ながらに叫ぶ。
「本当の気持ち、ママ達に教えて?」
「私は――」
ヴィヴィオは嗚咽混じりに言う。
「私は、なのはママ達の事が……大好き」
さらに大粒の涙が堰を切ったように流れてくる。
「ママ達とずっと、一緒にいたい!」
泣きじゃくる姿を見て、ぼくは『何故か』安心した。
それが何故かは、よくわからなかったが。
「ママ――お兄ちゃん――助けて……」
それを聞いて、ぼくと姉さんは頷く。
「助けるよ」
「何時だって、どんな時だって!」
ヴィヴィオが拳を繰り出す。
今度は姉さんが受け止め、ぼくが瞬間的にチェーンバインドを掛ける。
ぼくと姉さんはヴィヴィオを挟むようにして対角線上に立ち、レイジングハートとエクシードモードにしたイノセントハートを構える。
そして、魔力集束を開始する。
今までに使った砲撃や誘導弾、シールド、砕かれたバインド、使った魔力を全て、ぼくらのもとに集める。
「ヴィヴィオ……ちょっとだけ、痛いの我慢できる?」
姉さんが聞く。
「……うん」
ヴィヴィオも頷く。
「いい子だ」
ぼくはそう呟いた。
「防御を抜いて、魔力ダメージでノックダウン! 行けるね、レイジングハート!」
《いけます》
「こっちもだ……やるぞ、イノセントハート」
《オーライ》
ぼくと姉さんはそれぞれデバイスを振り上げる。
「「全力全開!」」
更に魔力が大きくなる。
ヴィヴィオの拘束に使っていたバインドも、直前で収集する。
「「スターライト・ブレイカー!!」」
圧倒的な魔力の奔流。
それら全てがヴィヴィオに照射された。
正直、気絶しかねないほどの、かなりの衝撃だろう。
それを一身に受けたヴィヴィオの悲鳴と同時に、身体からレリックが浮き出てくる。
「ブレイク――」
アレを破壊すれば、終わらせられる。
「「シュート!!」」
その掛け声と共に撃ち切ると、レリックが壊れ、爆発が起きる。
ぼくはイノセントハートから吹き出る蒸気を振り払い、姉さんの隣に着地する。
「ヴィヴィオは……」
「うん」
巨大なクレーターがあり、その中心に幼い姿に戻ったヴィヴィオはいた。
「ヴィヴィオ!」
「来ないで……」
先程のものとは違い、まだ少し舌足らずな声。
ヴィヴィオはうつ伏せの状態で倒れていて、起きるために必死に手足を動かしていた。
それを見て、姉さんが息を呑んだ。
後から聞いた話だが、ギンガが出向してきた日の訓練が終わった後、ヴィヴィオが走ってて転んだらしい。
その時はフェイトさんが助けたらしいが、その後、姉さんは「次はがんばろう」と言ったのだそうだ。
「1人で、立てるよ――」
そういうわけで、ヴィヴィオは今、一人でがんばっているのだ。
「――強くなるって、約束したから」
そして、瓦礫に掴まって立ち上がる。
それを見た姉さんは、耐えきれずに走りだし、ヴィヴィオを抱き締めた。
ぼくはイノセントハートを肩に担ぎ、二人を眺めると笑って大きく息を吐いた。
~~~~~
『聖王陛下、反応ロスト システムダウン』
先程と同じように、無機質な声が部屋に響き渡る。
と、そこで先程姉さんがぶち抜いた穴から、はやてさんが飛び込んでくる。
「なのはちゃん――あれ一騎、髪切ったん?」
「それ、今聞くこと? 結構ピンチ、っぽいけど」
『艦内復旧のため、全ての魔力リンクをキャンセルします』
その言葉に、はやてさんの飛行魔法が消え、ユニゾンが解除され、リインが投げ出される。
リインを手で受け止めながら、ぼくらは続けられるアラート音声に耳を傾ける。
『艦内の乗員は、休眠モードに入ってください』
「……だとさ。永眠なんてことにならなきゃいいけど」
ぼくが軽く呟いた言葉を聞いて、はやてさんの眉間に皺が寄ったが、ぼくは気付かない振りをした。
~~~~~
ぼくはクアットロを回収し、それで、どうする、とみんなに聞いた。
「しゃあない、歩いて脱出や」
「ま、そうだろうね。最近運動不足だったし、行くしかないか」
『乗員は所定の位置に移動してください……繰り返します、乗員は所定の位置に移動してください』
そこでまたシステム音声が流れる。
『これより、破損内壁の応急処置を開始します。破損内壁、および非常隔壁から離れてください』
その言葉と同時に、ぼくが出てきた穴が格子に塞がれ、ぶち抜いた扉も隔壁に閉ざされる。
ぼくは振り向いて、格子に全力で蹴りを叩き込むが、びくともしない。
「閉じ込められたか――」
ゆりかごは、衛星軌道上に上がると同時に、次元艦の一斉砲撃を浴びせられるらしい。
つまり、ぼくらは脱出に失敗すれば、言葉通りに宇宙の塵になるわけだ。
「――助けが来るのを待つしかない、か」
~~~~~
市街地の方でも、やはりガジェットは止まっているようだったが、ゆりかご付近ではまだ戦闘が続いているようだ。
「ティルク空曹長! 暇なら少し手伝ってくだせぇ!」
「ん――グランセニック陸曹?」
俺は地面に停まっているヘリの横で手を振っている陸曹とナカジマ、ランスターを見付けた。
グランセニック陸曹の呼び掛けに応え、その横に降りる。
「今からこいつらをゆりかごまで運びます。援護、頼めますかい?」
「ゆりかご――二人を?」
「行きながら説明します!」
「ティルクさん、お願いします!」
「なのはさん達が危ないんです!」
切羽詰まった様子の二人に気圧されつつも頷き、俺はヘリと並んでゆりかごまで飛行しながら状況を把握する。
「なるほど、中の高町一尉達と通信が通じない。ランスター達がゆりかご内に突入するから、そのためのガジェットの排除をする、と」
「俺も援護します。結構スキマ狙うんで、当たらねぇでくださいよ」
「ギリギリの援護は慣れています。ああ、そうだ。これを持っていけ」
「え?」
俺は左腕からカイトシールドを外し、ナカジマに持たせる。
「高町姉弟と八神部隊長が中に居るんだろう。なら、どれだけ頑張っても全員を運ぶのは難しくなる」
俺は盾に巻き付けるようにしてロープを絡める。
「高町に渡せ。あいつなら上手く使う」
俺はそう言うと、ヘリの進行ルートを塞ぐガジェットを斬り飛ばす。
大きく旋回し、ガジェットの注意を引き寄せながら斬り抜ける。
俺の死角に少しでもガジェットが入れば、グランセニック陸曹の魔力弾に撃ち抜かれて爆散する。
「陸曹、かなりの腕だな」
ヘリパイロットをやっているようだが、狙撃の腕は
その援護を受けながら着実にガジェットを減らしていくと、ヘリからゆりかごに向けて魔力で出来た道が伸びていき、それをバイクに乗ったランスターとナカジマが駆けていった。
それを見届けると、俺はヘリの離脱を援護し、もう一度ゆりかご周囲のガジェットの数を減らしていった。
~~~~~
暫くすると、音が近づいているのに気付いた。
姉さんたちと顔を見合わせ、幻聴でないことを確認する。
「エンジン音、か?」
「うん」
それを知覚すると同時に壁が突き破られる。
「お待たせしました!」
「助けに来ました!」
スバルと、見覚えのある盾を背に背負い、バイクに跨ったティアナが顔を出した。
そして、ティアナがぼくに盾とロープを渡してきた。
「ティルクさんから、渡すようにって言われたんですけど……」
「盾を?」
ぼくは少しだけ考え、意味がわかった。
スバルは自力で走れるようだし、ティアナのバイクは一人分空く。
スバルが姉さんとヴィヴィオを運び、ティアナがはやてさんとついでにクアットロを運ぶとすると、どうしてもぼくは乗り切れないことになる。
ぼくは思わず声をあげて笑ってしまった。
「こりゃ、
「はい……?」
~~~~~
「お、出てきたな」
ゆりかごから先ほどと同じように、魔力で出来た道が出現し、そこからみんなが飛び出してくる。
高町一尉を背負い、ヴィヴィオを前抱きにしたナカジマ、後ろに八神部隊長と戦闘機人を乗せたランスターのバイク。
「――予想通りだな」
そのバイクの後ろからロープが延びている。
その先には、スケートボードさながらにカイトシールドに乗り、勢いよく飛び出してきた高町の姿。
高町は勢いあまって道から外れ、その体制を維持したまま自由落下を始める。
が、ゆりかごから脱出し、AMFの効果が無くなったことが既にわかっていたようで、慌てた様子も無く腰の黒い刀でロープを切って盾を頭上に跳ね上げると、飛行魔法を展開して回転しながら盾を左手でキャッチした。
無駄に格好つけたがる奴だ。
「脱出成功。貸しができたな、ティルク」
「こんど飯を奢ればチャラにしてやるさ」
俺の言葉に、コンビニ弁当を寄越してやる、と高町は笑い、盾を半ば投げつけるようにして返してきた。
そして、頭上で大きな爆発音。
見上げると、ゆりかごはきれいに無くなっていて、爆発の光だけが見えている。
「任務完了。祝いの花火、ってところか」
「高町。まだいけるよな」
「ああ、まだ動ける」
なら、負傷者の救護を手伝え、という俺の言葉に、高町は心底面倒臭そうな顔をした。
一騎を脱出させる方法を考えていませんでした。
3分で考えた案があれです。どうぞ笑ってやってください。