4話 訓練校
ぼくは真新しい訓練校の門を見上げる。
ミッドチルダ北部にある、『第一陸空総合訓練学校』。
つい最近、新しく作られたものらしい。空戦魔導師志望と陸戦魔導師志望のどちらもが、魔法を学ぶことができる場所だ。
年々増えていく魔導師志望の子供達を効率よく教育し、未だ溝が深い空と陸の橋渡しの役目も担うという、とてもとても素晴らしい理念を掲げる重要な施設だそうだ。
至極どうでもいいが。
ぼくは緩んだポニーテールの紐を結び直し、門をくぐった。
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小学校を卒業したぼくは、あらかじめ決まっていたこの新設訓練校への入学を果たした。
この学校なら、ぼくは航空魔導師としての技能を学び、将来共同戦線を張ることもあるであろう、陸戦魔導師とのコンビネーションを学ぶこともできる。
作られた理由はまだしも、この学校のシステムはかなり画期的といえる。
「寮の部屋は……へえ、同じ部屋のやつは陸戦志望か」
そして、寮の二人部屋は、空志望と陸志望の二人が同じ部屋になるように組まれているらしい。
これもまた、『橋渡し』とやらの為だろうか。
ともあれ、ぼくは自分の部屋の番号を確認し、荷物を置きに向かった。
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部屋に入ると、誰も居なかった。
やはり、まだ同室の誰かさんは来ていないようだ。
荷物を適当に放り、二段ベッドのどちらを占領してやろうかと考えていると、部屋の扉が開く音が聞こえ、ぼくはそちらを向いた。
「おや、もう来てたのか。一番乗りは叶わなかったな」
そう、軽口のような独り言を叩きながら、靴を脱いで上がってくる。
黒髪に、流暢な日本語。どうやら、日本人の男のようだ。
「お前も、この部屋なのかい」
「ああ、そうだぜ……ん?」
言うなり、男は怪訝な顔でぼくを見た。
「エース・オブ・エース……?」
その男がぽつりと呟いた言葉に、ぼくは納得した。
今のぼくは、髪型や声の雰囲気が、姉さんとそっくりだ。
もちろん、髪型は姉さんはサイドポニーだし、声の高さも明らかに違うのだが、もし偶然姉さんと一緒に居るところを見られたら、双子と思われることもあるかもしれない。
別に顔は似ていない(父さんと母さんにも言われている)し、ぼくは中性的であって女顔でもなんでもないのだが、雰囲気が似ているのだそうだ。
「ぼくは高町一騎。歳は13。空志望だ」
「ああ、俺は斎藤潤。陸志望の素人。同じく13だ」
そう言って、ぼくよりも頭一つ分高い斎藤と握手をする。
そのごつごつとした、傷だらけの手は、それだけなら素人だなんて信じられないほどの迫力がある。
そして、斎藤が口を開く。
「お前、『高町』って」
「ああ。『高町なのは』は、ぼくの姉さんだよ」
「へえ、かの有名なエース・オブ・エースに弟がいるなんてな」
「そりゃ、姉さんの名前が知れたのはつい最近だろ。加えてぼくは、今日初めてミッドに来たんだ。知ってたら驚きだよ」
「それもそうかね。まあ、俺も最近ミッドに来て知ったばっかだがな。ともあれ、そんな未来のエースと同じ部屋なんて、畏れ多いね」
斎藤は大袈裟に肩を竦め、
「足を引っ張らないように努力するよ」
「遠慮はいらないよ。ぼくだって、まだまだなんだからさ。だから
「そりゃどうも。んじゃ、これからよろしく頼むわ」
「こちらこそ、だ」
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「次、38番、高町!」
「はい」
その姓が呼ばれ、ぼくが返事をすると、周りがざわつく。
『高町、って……』
『エース・オブ・エースの?』
『じゃあ、あいつは高町なのはの弟なのか』
ここでも、だ。
いや、むしろミッドの方が姉さんの名前は知れ渡っている筈だ。
ここでどのような扱いを受けるかはわからないが、ぼくは姉さんの名に恥じぬようにしなければならない。
「まずは飛行魔法だ。空にリングがあるだろう。それを順にくぐれ」
「了解しました」
ぼくはバリアジャケットを纏い、少しだけ浮かぶ。
「始め!」
その声に、ぼくは一気に加速をする。
ぼくの全身が魔力で包まれ、身体を保護する。
そして、スピードを殺さないまま、カーブ状に配置されたリングを一気に通り抜ける。
ぼくが通ると同時にリングは移動を開始し、次はさらに上空だ。
ぼくは手を拡げ、空気抵抗を利用してほぼ直角に曲がる。
上下まっすぐに配置されたリングを通り、すぐに方向転換をする。
今度は、空から地上に向かって、斜めに下るルートだ。
『last』と書かれているので、これを通ると、あとは着地すればいいんだろう。
ぼくは更にスピードを上げ、一瞬でリングをくぐると、地面にドリフトをかけるようにして着陸した。
砂埃が巻き上がり、ぼくは顔をしかめ、煙を晴らすために周辺に少しだけ魔力を放出する。
それによって、ぼくを包んでいた砂埃は四散し、ぼくはみんなの唖然とした表情を一気に見ることになった。
そのなかでも、教官が冷静にモニターを見ながら、
「クリアタイム9.8秒。評価S」
その言葉に、見ていた他のメンバーから歓声があがった。
『速ええええぇぇぇ!! マジか!? 9秒!?』
『マジで!? いままでの最速だって、24秒だぜ!?』
『スピードと機動の両立がなあんなに完璧なんて、本当に俺らと同年代か!?』
『さすがエース・オブ・エースの弟!!』
『すげえ、尊敬するぜ!』
ぼくは困惑した。
身も蓋もない中傷ならともかく、こんな手放しの称賛など受けたことがなく、どうすればいいのかわからなくなった。
戸惑っていると、教官が、
「飛行試験は余裕でクリアだな。いっそまとめて射撃までやっちまうか。その分なら、魔力弾は撃てるだろう?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、スフィアを幾つか出すから、それを破壊してみろ」
教官が手を伸ばすと、上空にスフィアが16個出現する。
これなら一気にできるな、とぼくは杖を構え、同じ数の、16個の魔力弾を生成し、スフィアの群れを突っ切ると同時に殲滅する。
「今度は射撃用スフィアだ。撃ってくるから、避けるか弾くかして、破壊しろ!」
「了解!」
出現と同時に射撃を開始したスフィアにも、ぼくは落ち着いて対処する。
精度もスピードも、フェイトさんのランサーよりは遅いし鈍い。
ぼくは左手にバリアを張って防ぎ、避けながら、杖でスフィアを叩き壊していく。
「次、大型のシールドスフィアを出すから、砲撃を撃ってみろ」
最後の射撃スフィアを破壊すると同時に振り向き、杖を回して構え、カートリッジをロードする。
「ディバインバスター!」
魔力を凝縮し、一瞬で全てを撃ち出す。
その砲撃の反動を回転して吸収し、バスターがシールドスフィアを撃ち抜くのを見て満足する。
「クリアだ! 降りてジャケットを解除しろ」
ぼくは教官の言葉に頷き、地面に降り、セットアップを解除する。
小さなクリスタルになったストレージの杖をポケットに仕舞うと、教官からお褒めの言葉をいただく。
「予想以上だな。資料に書かれていたよりも、出来はよかったぞ」
「そうですか?」
「ああ。基本的な魔法戦闘は可能、ってな。基本となる土台はしっかり出来てる。良い教育を受けてきたんだな」
その言葉に、ぼくは頭を掻き、視線を逸らす。
その先には、陸戦魔導師の集まりがあった。そこについさっき見掛けた斎藤がテストを受けているのが見える。
斎藤はスフィアにステップで距離を詰め、炎を纏った拳で殴って砕く。
囲むように移動してきたスフィアを同じように炎を纏わせた回し蹴りで蹴り砕くと、バク転をしながら弾を避け、距離を取った。
(あいつ、格闘型か。しかも、かなりの練度だ)
ぼくはそう判断し、事実、斎藤が全てのスフィアを破壊するのに時間は掛からなかった。
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「よう、見てたぜ。凄かったじゃないか」
部屋に戻ると、先に終わっていた陸チームの斎藤がポカリの缶を投げ渡してくる。
ぼくはプルタブを開き、
「凄かったのはそっちも同じだろ。相手をしていた教官を殴り倒していたみたいだが」
「あれは向こうが甘かったんだよ。俺のせいじゃない」
「というか、素人って嘘だろ。お前の動きは、かなり出来ていたが」
「魔法に関しては素人だよ。魔力を身体に回す事――身体強化、っつうんだったか――それしかできねえよ」
「その格闘の腕だけでも、凄いと思うがな。誰に習ったんだ?」
「誰にも。我流だよ」
まさか、あの動きが我流で出来るとは信じがたかったが、斎藤の眼は真剣で、茶化すような事でもないので、ぼくは黙って頷いておく。
「あとお前、炎を出していたが、あれは――」
「変換資質、っていうんだったか。『炎熱』の変換資質が、俺にはあるらしい」
感心した。ぼくは変換資質が無いので、純粋にすごいと思った。
「やっぱ、お前はエース・オブ・エースに鍛えられたのか?」
「ああ、そうだよ。姉さんだけじゃないがな。姉さんを知ってるなら、わかるんじゃないかな。『フェイト・T・ハラオウン』と『八神はやて』を」
「……『金の閃光』に『夜天の主』」
「ああ。その通りだ」
「まったく、常識外れだな。羨ましいよ」
「……そう、かな」
「ああ。俺からしちゃ、そういう風に教えてくれる人が居なかったからな。そういうのは、良いと思うぜ」
「……いいことばかりじゃないさ」
ぼくはそう呟く。
謙遜ではなく、本心として。
だが、斎藤は聞こえなかったようで、少し疑問顔を向けてきた。