魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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48話 StrikerS30

 ヴィヴィオを起こさないようにベッドから起き出し、シャワーを浴びに行く。

 洗顔と洗髪を済まし、身体を軽く流すと、髪を乾かしてから部屋に戻り、制服に着替える。

 そして、上着のボタンを全て止め終えたところで、ベッドから声が漏れてきた。

 そちらに目を向けると、ヴィヴィオがぼんやりと、開ききらない目をこすりながら身体を起こしている。

 うつらうつらとしているヴィヴィオの頭を軽く撫でると、横に倒れ込み、もう一度眠りに落ちていった。

 その様子に、思わず笑みが漏れる。

 昨晩、この子のお陰で、ぼくはあの出来事に苦しめられずに済んだ。

 

「けど――」

 

 あの映像を思い出して、ぼくが苦しむということは。

 

「――やっぱり、トラウマなのかな」

 

 姉さんとのわだかまりと、このトラウマは別のものだ。

 どうしたものか、と思わず溜め息を吐いてしまう。

 

「ん~……」

「あ、起きた。おはようヴィヴィオ」

「ん……おにいちゃん、おはよう」

 

 今度は眠らないらしいので、ぼくはヴィヴィオを抱き上げてベッドから降ろし、洗面所で顔を洗わせた後、パジャマから昨晩のうちに預かった普段着に着替えさせる。

 イノセントハートはまだ自己調整中のようだ。まあ、戻ってくるまでには済んでるだろう。

 無造作に掴み取った携帯端末にメールが来ていることに気付いたが、ヴィヴィオが髪むすんで、と制服の裾を引っ張るので、後で確認することに決めた。

 

 

~~~~~

 

 

「姉さん、フェイトさん、起きてるよね。入るよ」

『いいよー』

 

 そのまま扉を開けると、既に制服に着替え終えた二人が談笑しながら髪の毛を整えていた。

 

「チィッ! 姉御にラッキースケベを期待したのが阿呆だったか!」

「任務変更。ライア、撤退だ。気付かれる前に――」

 

 いつのまに着いてきていたのか、後ろでカメラを準備していた二人を叩きのめして廊下の窓から捨てると、おはようと声を掛けながら部屋に入り、扉を閉める。

 

「おはよう。ヴィヴィオ、お兄ちゃんと一緒で、よく眠れた?」

「うん! いつもよりよく寝れた気がする!」

「そう? 一騎のベッドって、ママ達のと違うの?」

「ん~……お兄ちゃんの匂いがしたから、なんか安心した!」

「あ、なんとなくわかるな。一騎の匂いって落ち着くよね」

「は?」

 

 そんな事を言ったフェイトさんに思わず聞き返す。

 

「ぼくの、って――」

「え、そう? フェイトちゃん」

「うん。なんか、上手く言えないけど」

「どれどれ――」

「えっ、来るの? というか今更?」

 

 姉さんが近付いてくる。

 一瞬逃げ出したくなったがそれは叶わず、姉さんは抱き付くようにしてぼくの胸元に顔を埋めてきた。

 頭の中でパニックを起こしているぼくに構わず、姉さんは暫く顔を埋めると、満足気な表情でぼくを解放した。

 

「確かに」

「でしょ」

 

 短く言葉を交わす二人を見て、ぼくは思わず床にへたり込んだ。

 

「あ、一騎が骨抜きに」

「うるさいよ」

《マスター》

「あれ、どうしたのレイジングハート」

《時間です》

「時間? あ、もう時間近い――って、なのは!」

「へ――ああっ!! 早朝訓練の時間来てる! もう、一騎のばかっ!」

「ぼくのせいかよ!? どう考えたって姉さんの自己責任だろ!?」

 

 

~~~~~

 

 

 ヴィヴィオをフェイトさんに任せ、ぼくは一回自分の部屋に戻る。

 机の上に置いてあるイノセントハートが点滅してぼくを迎えた。

 

《どこに行っていたんですか?》

「姉さん達の部屋」

《朝っぱらから……若いですね》

「……お前、どうした?」

《AIも学習しますよ。今のは『からかい』を含めて言ってみました》

「なんか、そのうち面倒臭くなりそうだな、お前」

 

 失敬な、と呟くイノセントハートを手に取り、首に掛ける。

 レイジングハートと瓜二つになった赤色のコアを弄んでいると、イノセントハートが抗議するように点滅し、

 

《そういえば、携帯端末(リベレーター)にメールが着ていたようですが》

「ああ、そういえば。すっかり忘れていた」

 

 携帯端末をポケットから出し、チカチカと光るそれを操作して受信ボックスを開く。

 

「――ッ!」

 

 その差出人を見てぼくは息を呑み、通話ボタンでレイナを呼び出す。

 二回コール音が鳴ったところで、携帯端末の画面に顔が映る。

 

『はい、レイナです』

『――あ、一騎。なんだか久しぶりね』

「朝早く悪い、レイナ――ギンガも一緒か、丁度良い。二人にいい知らせだ」

 

 そのぼくの言葉に、レイナは画面の向こうで首をかしげた。

 何が切っ掛けかはわからないが、六課に戻ってから――その前からかも知れないが――どこか落ち着いた雰囲気になったレイナに、ぼくは笑って言った。

 

「潤の意識が戻った」

『――えっ!?』

『それ、本当!?』

 

 すぐに行きたい、と言うレイナとギンガを部屋まで迎えに行き、廊下ですれ違ったティルクを捕まえて寮を出る。

 はやてさんに外出の旨を伝えて許可を取り、ティルクの運転するジープで聖王医療院に向かう。

 

「斎藤の目が覚めたと言っていたな。聞かせてもらっていいか」

「本人からメールが着たんだよ。『起きたぞ』ってな!」

「お兄ちゃんらしいね」

「まったくね」

 

 レイナの言葉に、ギンガが笑って応える。

 

「さっさと退院してもらわないとな」

 

 そう言ったティルクの笑顔も、最近は当たり前になってきたが、この男も昔はさっぱり笑わない奴だった。

 ぼくも、ティルクも、クォーツ達も。

 みんな、六課に来てから生き生きしている。

 最近、それを改めて感じるようになっていた。

 

 

~~~~~

 

 

 病室の扉を開くと、その男は大欠伸をしていた。

 少し延びたが、まだ短い黒髪と瞳。上半身を起こしていて、院内着の隙間から所々に包帯が覗ける。

 そして、その瞳がこちらを向いた。

 

「お、レイナ、ギンガ。一騎にアローンも。元気してるか」

「お兄ちゃん――」

「――よかった」

 

 あっけらかんと言う潤に、感極まった様子でレイナが駆け寄り、抱き付いた。

 潤は少し驚いたようだが、すぐにいつもの笑顔に戻り、レイナの頭を撫でた。

 

「そんなに寂しかったかい。すまんね、レイナ」

「寂しかったに――決まってるよ」

「ギンガも。悪いな、心配かけた」

 

 優しく微笑んだ潤の言葉に、ギンガは笑顔でうなずいた。

 ぼくは頭の後ろで手を組み、

 

「潤、お前は一ヶ月半ほど眠ってたんだぞ。さぞかし良い夢を見てただろうな」

「夢――?」

 

 ぼくの言葉に、潤が無表情になり、頭を抱えた。

 

「どうかしたの?」

「夢――なんだっけかな。なんか、夢を見てた気がするんだが……思い出せねぇ」

「夢なんて、ほとんど覚えてないのが普通だろ」

「そうなんだがよ……」

「お兄ちゃん――?」

「いや、まあいいか。夢くらい、大したことねぇさ」

 

 潤は朗らかに笑うと、レイナの背中をあやすように軽く叩く。

 ぼくの隣にティルクが歩いてきて、

 

「それで、怪我の具合はどうだ」

「まだ動くな、ってさ。けど、あと一週間もすりゃ退院できるとも言ってた」

「そんなにか。結構早いんだな」

「昨日までずっと安静にしてたからな」

 

 そう言って潤はからからと笑う。

 それを見て、ぼくはとても懐かしい気分にさせられた。

 

「変わってないみたいでなによりだ」

「人間、そんな簡単に変わらんだろ」

「一騎は心配してた、ってことでしょ」

「おんや、そうかい相棒?」

「知らないうちに『重傷で入院してる』なんて聞いたら、あいつ何やったんだ、って思うだろ」

 

 ぼくが呆れ混じりの溜め息を吐くと、潤は包帯の上を軽く撫でる。

 

「まあ、重傷、つっても、大したことなさそうだけどな」

「馬鹿かお前は――医者が努力してくれた結果だ。感謝しておけよ」

「わーってるよ――そろそろ面会時間だぜ。ほら、さっさと帰って仕事仕事」

 

 俺はもうちょい休暇を満喫するからよ、と続けた。

 

 

~~~~~

 

 

 元気そうだったぞ、というぼくの言葉に、フォワードのみんなも安心したように笑った。

 

「潤さん元気ですって」

「よかったです!」

「安心しました」

「早く復帰してください、って伝えてください! またスパーしてほしいんです!」

 

 口々に言うフォワードのみんなに、ぼくは少し驚いた。

 

「あいつ、こんなに慕われてたのか」

「世話になった奴は多いそうだが」

「はい、僕やスバルさんは時々手合わせして貰ってましたし」

「私は、レイナと遊ばせて貰ったことがあって。その時凄く優しかったんです」

「私は、射撃訓練に付き合って貰ったことがあります。寸前で避けられるから、当てるためにフェイントを使ったり、とても練習になるんです」

「へぇ……あいつ、凄いな」

 

 世渡り上手、とでも言うんだろうか。

 後輩とのコミュニケーションもしっかりと行っていたらしい。

 

「とにかく、あいつはもうすぐ退院だよ。で、代わりと言っちゃなんだけど、今日はこれからぼくとティルクの二人を相手に模擬戦だ」

「俺なんかに相手が勤まるかは心配だが、全力で行かせてもらう」

「「「「えっ」」」」

「『えっ』ってなんだよ。実際、ぼくらがついていけるかわからないぞ」

 

 最近、フォワードのみんなもかなりの実力がついてきていると姉さんから聞いている。

 

「気を抜いてると追い抜かれるぞ」

「わかってるよ。最近はヴィータさんやシグナムさんと打ち合ってるんだ。ぼくだってまだ強くなれる」

 

 いつかは全力の姉さん達と一対一で互角に戦えるほどにはなりたいものだ。

 

「イノセントハート、セットアップ」

 

 バリアジャケットを纏い、左腰に黒い刀を差し、右手にイノセントハートを握る。

 

「――精々、強くならなきゃな」

 

 ぼくは自分の目標を改めて認識し、小さく呟いた。

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