ナグリーに呼ばれた。デバイスルームに来い、だそうだ。
そういうわけで、とりあえず向かうことにする。
「なんだナグリー。わざわざ呼び寄せて」
「おお、姉御。ちょいと頭のサイズを計らせてくれ」
「……は?」
いったいなにを言っているんだろうか、とぼくが疑問に思った途端、一瞬でぼくの頭にバインドが掛けられる。
「いってぇ!?」
「ようし、計れた測れた。案外頭ちいせぇのね、姉御」
バインドが外れると同時にリブレンドの前にモニターが出て、そんなことを宣った。
まるで孫悟空の様な気分になったぼくは不機嫌なのを隠さずに二人を睨む。
「おい――わざわざ呼んどいて、用はそれだけか」
「まあまあ怒るな。これは姉御の装備なんだから」
「ぼくの――?」
円筒のガラスケースに浮かんでいるのは、マイク付きヘッドホンに似たなにか。
「なんだ、これ。ヘッドセットか?」
「ちょっと違う。ヘッドマウントディスプレイさ」
「姉御、確か携帯端末型デバイス持ってたよな。情報処理特化の」
「
「そうそう、これ」
ナグリーはぼくの手から携帯端末を奪い取り、ガラスケースの中に放り込んで作業を開始する。
ぼくが唖然としていると、リブレンドが苦笑しながら説明を始める。
「姉御の端末をこのヘッドマウントディスプレイと組み合わせる。もちろん、今まで通り通話もメールも出来る。ただセットアップができるようになるのさ」
「ようし、出来たぞ」
「お、相変わらず仕事が早いねぇ」
ほれ、被ってみるか、とヘッドセットを差し出される。
ヘッドホンにマイクが付いただけの様なそれのどこにディスプレイの要素があるのかは不明だが、このまま帰るのは気に入らないので、受け取って頭に被ってみる。
「サイズを調整すんぜ」
ナグリーが弄り、少し緩かった部分が頭に固定される。
「そのリベレーターとやらをセットアップすれば、このヘッドマウントディスプレイも展開される。便利だろ」
「……いや、まずこれはなんなんだよ」
ぼくはヘッドセットの耳元をこつこつと指先で叩く。
それはこうやって使うんだ、とナグリーが耳の後ろの方にあるスイッチを押す。
「ちなみに、手動でも自動でも展開できる。設定は任せるぜ」
すると、ヘッドセットの両側から、両目を覆うようにバイザーが展開された。
「うわっ、なんだこれ」
「さっきから『ヘッドマウントディスプレイだ』と言っているじゃないか」
そして、バイザーの部分に様々なテストパターンが投影され始める。それぞれは一瞬しか映らないが、『情報同期開始』だの『処理機能動作確認』『誤差微調整中』だのと小難しい言葉がならび、次々に『complete』、最後に『システム・オールグリーン』の文字が出て、バイザーを通して目の前の空間が見えるようになった。
ナグリーとリブレンドが楽しそうに笑っているのが見える。
「お、終わったか。どうだ、姉御」
「これ、なんの意味があるんだ」
「戦闘時にあらゆる情報を
どういうことだ、と聞き返す。
「例えば、敵が魔力弾を撃って来たとする。その瞬間、それをスキャンして誘導弾か直射弾か。撃ち出された弾の数は幾つか、ダミーはどれか、という情報を、バイザーに投影してくれるのさ」
「近接・高速戦闘の場合だと、目元を保護する役目もある。さらに、相手の動きが――裸眼に比べて――僅かだがクリアに見えるようになる」
へぇ、とぼくは返し、バイザーを通して見る世界を見回してみる。
遠くを見ると、自動的に焦点が合い、ズームされる。
「望遠機能もついてる。便利だろ。あと、マルチロックをするときにも効果を期待できるぜ」
「確かに凄いな」
解除、と軽く思うと、バイザー部分が光になって消える。
展開、と念じると、光がぼくの目元を覆い、それが消えるとバイザーが展開されている。
「このヘッドセット、貰っていいのか」
「ヘッドマウントディスプレイだと言うとるのに。ともかく、今日からそれは姉御のデバイス『リベレーター』だ」
そう言うと『リベレーター』が光り、元の形である携帯端末に戻った。
スライド式携帯電話と同じ形状のそれを弄り、性能に変化が無いことを確認すると、ぼくはデバイスルームを後にする。
~~~~~
「というわけで、ヴィータさん。やりましょう」
「一騎。お前いつからそんな好戦的になったんだよ」
「ヴィータさんに勝ったらこの好戦的なのも戻りますよ。さあさあ」
「――まあいいか。また潰してやるだけだ」
「負けませんよ。今回はリベレーターもあるんですから」
二人はセットアップして空に飛び上がり、ぶつかりあって火花を散らした。
高町が頭に取り付けてるヘッドマウントディスプレイの説明はさっき聞いたが、俺にはどうも非効率に思えてならない。
そのぼやきを、テスタロッサ執務官に聞かれたらしく、疑問を返してきた。
「どうしてそう思うの?」
「だって、わざわざ情報を投影するなんて。AIならともかく、普通の人間に、戦闘中に逐一投影される文字を読む程の余裕があるとは思えません。少なくとも、俺には無理です」
「そうだね、私にも無理だと思う」
「だが、あいつならできるだろうな」
後ろからシグナム二尉の声が突然聞こえてきて、俺は少し驚いた。
「高町には、ですか?」
「ああ、一騎ならな。あいつは
「そう。頭が良い、って言う訳じゃないみたいだけど、回転が早い、っていうのかな。デバイス抜きの術式構成とか、私やなのはよりも『少しだけ』速いんだよ」
「そうなんですか?」
驚いて訪ね、上で戦っている高町を見上げる。
「一騎は決して技術が高い訳じゃない。だが、精神的な余裕が少しでもあれば、しっかりと考えて動くことができる。あらゆる
「最近の一騎、変わりましたよね。なのはにも甘えるようになったし、ヴィータやシグナムにも、少し遠慮が無くなったように思います」
「あの歳でやっと甘え方を覚えた、といったところか」
テスタロッサ執務官の言葉に、シグナム二尉も静かに笑った。
「その『変化』が、一騎を成長させている。昔はヴィータ相手など、三分も持たなかったのにな」
「シグナム……それ、8年くらい前ですよ」
「む――そうだったか」
あいつは昔から子供っぽいからな、とシグナム二尉は照れ臭そうに頭を掻いた。
「まあ、いい変化だ。それは間違いないな」
「はい。今の一騎なら、もっともっと強くなれますね」
「追い越されんよう、私も精進せねばな――ティルク、空いているなら、一ついいか?」
「了解しました。やりましょう」
俺はシグナム二尉の申し出に喜んで答えた。
~~~~~
俺は病院のベッドで、モニターを弄ってニュース欄を眺める。
「……JS事件、ね」
そんな大きな事件が、起こっていたんだ。
俺が寝ている間に、みんなは戦っていたんだ。
「――俺は」
俺は。
ただ寝ていただけだ。
みんなが命を張って戦っていたのに。
俺は、その場に居なかった。
「――ッ」
なんのために戦う、とかは興味が無い。
いや、俺はレイナを守りたかった。そのために六課を必死で守ろうとした。
だが、叶わなかった。
「レイナを守るどころか、ヴィヴィオを連れ去られたんだから――」
そこで、なにかが引っ掛かった。
レイナを守ろうとしていた。それは間違いない。
だが、あの瞬間だけは、ヴィヴィオに対する感情が上回った。
なぜだ? 俺にいったい何があった?
「――リンドヴルムって、なんだ?」
あの時、俺が撃ち出した魔法。
蛇に足と翼を生やしたような、あの竜。
俺はあいつを知っていた?
いや、俺の魔法は身体強化と炎熱砲撃だけだ。あんな魔法を覚えた記憶は無い。
「――そんな記憶、無い」
なにかが引っ掛かる。
俺は忘れている。なにかを。
なにを?
「俺が魔法を知ったのは――もう、4、5年前か?」
思い出すのは嫌だが、それを見返しても、あんな竜を見た記憶は無い。
やはり、わからない。だが、引っ掛かる。
「――ああ、くそ。わけわからん」
頭を掻くが、やはり違和感は拭えない。
そして、また自分を責める。
俺は六課を守れなかった。戦闘に参加できなかった。
みんなが戦っていた横で、自分は参加していなかった。
――そんなの、惨めじゃないか。
俺は生きている。死にかけたらしいが、迅速な治療により命が助かった。
みんなは口々に喜んでくれた。
だが俺は、とても惨めで、いたたまれなくなった。
ザフィーラの旦那も、重傷を負っていながら、最後は戦闘機人の確保に参加したらしい。
なのに、俺が事件が終わってから一ヶ月も寝ていた、ということは。
俺の実力が圧倒的に足りていない、ということだ。
「――くそっ」
そうでなければ、こんな傷は負わなかった。こんな長く意識を失っていなかった。
ずっと寝ていて筋肉が落ち、見るからに細くなった俺の腕。
それは自分の無力さを表しているかのようで。
「俺は――」
自分の実力なんて、気にしていなかった。
勝とうが負けようが、気にしちゃいなかった。
だが、俺はやはり弱いんだ。
どうしたらいい?
「――なあ、相棒。お前はどうやって乗りきったんだよ」
思わず、一騎にそう愚痴りたくなった。
当然、この病室には俺一人で、応える者はいない。
この孤独感。怖くなるほど静かで、真っ白な空間。
とてつもなく怖い。頭がおかしくなりそうだ。
自己嫌悪と、疑心暗鬼。おそらくはこの二つ。
「いやだ――」
やっぱり俺は、弱いんだ。どれだけ訓練をしたって、相棒にデバイスを仕立てて貰っても。
昔から、なにも変わっちゃいない。なにひとつ守れちゃいない。
両親が殺された、あの時から。
次から潤の話をやろうかな、と思ってます。
ただ、にじファンで連載していた頃と状況がまったく違うので、どうしたもんかな、と。お先真っ暗。