「抜刀――紫電!」
ぼくの全力の抜刀術をティルクは盾で受けるが、その威力に彼は大きく体勢を崩した。
そんなティルクの様子を見て、ぼくは満足して頷き、未だに刀身に赤い電流が走る黒刀を肩に担いだ。
「紫電一閃のバリエーション・抜刀タイプだ。けど、実戦で使うには、もう少し練習が必要かもな」
「やるね相棒。抜刀術なんて、ロマン溢れる技をモノにするなんて」
潤が頭の後ろで手を組ながらからからと笑った。
ティルクがそれを見て呆れたように笑う。
「ロマンで言えば、全身に炎を纏えるお前も、相当なものだろう」
「まあ、それもそうかもな。『炎熱』の変換資質は結構便利なんだぜ。二人もありゃよかったのにな」
「ぼくはもう『電気』があるからな。変換資質は二つもいらん」
「俺はそもそも戦闘スタイルが『斬るだけ』だからな。資質があっても特に変わらん」
「なんだ、つまんねえの」
潤が不満げに口を尖らせると、その隣にいつの間にか、小さな黒い影が立っている。
「お兄ちゃん」
「うおっと、レイナか。どした、こんなとこに。危ねぇから離れてろよ」
その言葉を受けたレイナは、少し迷う素振りをして、
「私も訓練したい」
その言葉に、潤が真剣な顔になった。
「――どうした、急に。お前は俺達の『戦い』には関心がなかったと思うが」
「私も、強くなりたい。守られるだけ、っていうのは、嫌」
ティルクが何かに思い至ったらしく、頭を抱えたのを視界の端で捉えながら、ぼくは成り行きを見守る。
潤は少し悩み、
「駄目だ」
そう言った。まあ、当然だな、とぼくは思った。
「お前はまだまだガキだ。戦うことなんて考えなくていい」
「でも」
「戦い方なんて教えられない。俺は教えられるほど強くねぇからな」
そこで、潤がぼくをちらりと見た。
潤がなにを求めているのかがわかり、ぼくは頷いた。
「確かに、戦うなんて無茶だ。今の――まだ5歳のレイナじゃ、学んでもなにも出来ないよ」
潤は頷き――
「けど、魔力のトレーニング位なら、今から始めても問題は無いよ」
――続けて言ったぼくの言葉に唖然とした。
ぼくはそんな潤に笑いかけ、
「なに言ってんだ、って顔してるな」
「――その通りだよ」
「なにもおかしいことではない。俺だって親父に、6歳の時から魔力操作の練習をさせられた。魔力は身体訓練と違って、深刻な負担も無い。訓練に早すぎるということはないだろう」
潤は呻いた。
こいつ自身もわかっているはずだ。将来、間違いなくレイナは魔法を使う。こんな事を言ってくるくらいだから、おそらく放っておいても、レイナは独学で魔法を習うだろう。
ならば好き勝手されるよりも、今のうちから少しずつ教えていけば、無茶をされることもない筈だ。
潤もぼくと同じ考えに至ったようで、
「……わーったよ。簡単な事から教えてやる。その前に、色々と検査をしてもらうがな」
一騎、と声をかけられ、ぼくはリベレーターを展開し、精密スキャンモードでレイナを見る。
頭の天辺から爪先までを数秒間見つめていると、結果がオーグメントとしてレイナに表示される。
「潜在魔力量は――少し高めだな。魔力だけでもBクラス相当はある。魔法資質は圧縮・強化型。変換資質は、無し」
潜在魔力量の多さに驚くと同時に、当然だ、とも思った。
レイナは人造魔導師だ。
ぼくらがまだ強行偵察課だった時に、違法研究施設で生み出された。そう考えれば、魔力量が多いのは当然だと思う。
そう考えながら、ぼくは結果だけを伝えると、潤は顎に手を当てた。
「圧縮・強化……身体強化にピッタリな資質だな」
「ああ。その代わり、魔力の放射は苦手なタイプだ。撃てなくは無いが、練習が必要だろうな」
「なら、とりあえずは身体強化を教えるか」
~~~~~
中庭に移動した俺は、さっそくレイナに向かって講義をたれる。
「
「ん――」
レイナは頷き、目を閉じて集中する。
すると、レイナの両腕が淡く光った。
「飲み込み早ぇな。次は両足にやってみろ」
足首から先が同じように光る。
レイナが、光っている自分の両手足を見て、驚いたように目を見開く。
「その感覚を覚えろ。それを元に、全身を強化してみろ」
レイナは深呼吸し、 瞳を閉じた。
十秒程で、レイナの全身が光る。全身が発光した事で、色がはっきりわかるようになった。
「へえ……お前の魔力光、緑色なんだな。俺と同じだ」
「ん――本当だ。綺麗」
レイナは回りながら自分の身体を眺めた。
回る度に、レイナの黒い長髪が翻る。
よし、解除してみろ。そう言うと、レイナは頷き、軽く手を振り払うようにして身体強化を解いた。
この手の動きは俺の真似かな、と内心笑いながら、俺は話を続ける。
「今度はこれを一瞬でやってみろ。こんな風に――」
俺が右腕を前に伸ばし、全身に炎を――変換資質は意識するしないに関わらず、炎を発生する――纏うと、レイナが感嘆の声をあげた。
「かっこいい」
「だろ? ほれ、やってみ」
「うん」
レイナは同じように右腕を前に出し、目を閉じて全身に力を込めるように息を鋭く吐いた。
瞬間、レイナの全身が直視できない程に光が強くなり、俺は慌ててレイナを止めた。
「い……今のじゃ、強すぎる。危なかったぞ」
「どうして?」
「身体強化ってのは、自分の身体に魔力を流して、腕力脚力その他を文字通り強化するものだ。人間の身体は多少の無茶は利くように出来てるけど、さっきのお前みたいに無茶苦茶な強化を掛けたら負担が強すぎるんだ」
「負担が強すぎる、ってことは――」
「筋肉痛程度ならかわいいもんだ。下手すりゃ神経を痛めて後遺症が残る。身体強化自体は簡単な魔法だが、射撃魔法と変わらずに、制御をミスれば暴発する」
それを聞いて、レイナが少し慌てて俺にすがりつく。
「じゃあ、かなり危ないものなの?」
「慎重にやっていけば負担どころか、むしろ効率のいいトレーニングになる。経験を積めば負担の限界も延びていって、強い強化も掛けられるようになる。けど、最初は慎重にやっていくんだよ。何事も適度に、だ」
「――最初に言って欲しかった」
「いや、まさか俺もお前がここまで身体強化を簡単にこなすと思ってなかったんだ。最初から注意しとくんだったな。反省してる」
「ううん、私も悪いから。それじゃあ、今度は慎重に――」
今度は成功だ。レイナの胸の中心から全身にかけて、一瞬で淡い緑の魔力光が包んだ。
「よし、動いてみろ。どんな感じか、ってのに慣れる必要がある」
「ん」
レイナはタタタッ、っと走り出す。
そして、加速の初動に堪えきれずに前のめりに転び――そうになったのを前転して体勢を立て直し、今度は全力で走り出した。
一瞬の受け身動作に俺は唖然としながらも、中庭を一周して戻ってきたレイナに声をかける。
「すげぇなお前。受け身取れるのか」
「前、ヴィヴィオと遊んでたら転びそうになって。無意識に転がったらなんともなかった」
子供ってのは無意識にすごいことをやらかすもんだ。俺も昔、ハンドスプリングの勢いをそのまま踵落としの形でディレンドに当たってしまい、気絶させたことがある。
これは間違いなく俺が悪く、ディレンドの首が無事だったのは殆ど奇跡なのだが、奴は笑って許してくれた。
「でも、すごい。脚が速くなるし身体も軽くなる」
「かといって、遊びには絶対に使うなよ。魔法は遊戯じゃない」
「うん、わかってる」
ならよし、と俺はレイナの頭を撫でた。
撫でられながら、レイナは思い出したように、
「私は、炎ってどうやるの?」
「ん? ……ああ、これのことか」
俺は手のひらに炎を纏わせる。
「俺のこれは変換資質、っていう――なんていうか、生まれもっての特徴だ」
「その、変換資質が無いと炎は出せないの?」
「いや、んなこたねぇよ。本来、炎や電気は『魔力変換プロセス』とかいうのを使って、魔力を変化させて発生させる。『変換資質』はそのプロセス無しで変化させられる資質、ってだけだ。だから、誰でもやろうと思えば炎は使える」
レイナの表情が少し明るくなる。
「使いたいのか?」
「お兄ちゃんが使ってるから」
「慕ってくれるのは嬉しいが――」
俺は頭を掻いた。
「変換プロセスは正直面倒臭い。俺達
「ん――わかった」
少し残念そうに頷いたレイナの頭を軽く撫で、練習を再開した。