翌日、朝食を終えたぼくが
「なんだ、どっか行くのか、相棒?」
「定期検診のために地上本部へ」
「地上本部?」
そこで潤が思い出したように頷き、
「お前のコアか」
「そう。もう少し定期検診が必要なんだってさ。面倒くさいことこの上ないが、サボってもし不具合があったら困るからな」
「なるほどねぇ」
そこで潤が、
「あ、そうだ。お前の検診受け持ってるのって、どんな人だ?」
そう言ってきた。
ぼくは質問の意味が掴めずに首をかしげ、
「どんな人、ってのは?」
「信用できるか?」
「恐らくはな。まだよくわからんが……なんの話だ? 要点を言え」
「レイナを診て貰いたい」
ぼくは少し驚き、聞き返す。
「なにかあったのか?」
「いや。ただ、レイナは人造魔導師だ。そういう意味での
「だが――」
大丈夫なのか。
そう、ぼくは聞いた。
「なんとかするさ」
潤はそう応え、ぼくは頷いた。
~~~~~
「送ってくれてありがとうございます、フォレスタ二佐」
「帰りも頼んます」
「構わんさ。俺も本部にはちょいと用があったからな」
終わったら連絡くれ、とフォレスタ二佐は車を走らせた。
ぼくは潤を見ると、彼はレイナと手を繋いで頷いた。
「話したのか?」
「病院で検査する、ってな」
まあ、誤魔化し方としては適当か。
ぼくはこの前と同じルートで、科学主任の男性のもとへ行った。
「ああ、高町空曹。どうぞこちらへ」
前と変わらず、少し柔らかい笑みを浮かべてぼくを促す。
そして、ぼくの後ろに立っていた潤とレイナを見て、おや、と声を出した。
「彼はぼくの同僚、斎藤陸曹です。隣の少女は彼の『妹』。彼女が少し魔力の運用を練習したので、その結果――リンカーコアの成長具合や、不具合が無いか検査して貰いたいんです。お忙しいところ申し訳ありませんが、お願いできないでしょうか」
とりあえず、即興で考えた話だが、嘘は無い。
男性はいいですよ、と快く頷いてくれた。
ぼくはひとまず安心するが、念のため警戒しておけ、と潤に視線を向けた。
~~~~~
「リンカーコアには変化無し。……もう、定期検診は終わりにしましょうか、高町空曹」
「本当ですか?」
「ええ、1ヶ月経っても変化が無いとなれば、もう充分でしょう」
やっと面倒な検査から解放される。
ぼくは笑顔を浮かべ、男性に礼を言った。
「では、そちらのお嬢さんと変わってください」
ぼくは横になっていた台から起き出て、レイナに寝るように言う。
レイナは特に気にした様子もなく、台に寝転がる。
それを確認すると、ガラスケースが台を覆った。それを見ても、レイナの表情に不安は無い。
大したもんだ、とぼくは男性の隣まで歩いていく。
潤は反対隣に立っている。
「では、始めます」
男性はモニターをいじり始めた。
次々とモニターが表示され、様々なパラメーターが映し出されている。
「リンカーコア容量86%。回復速度79%、それによる変化値は約5、6ずつ上昇中……」
パーセンテージは一般局員を50%とした時の値、変化値はおそらく回復にあたってのリンカーコアの容量増大値か。
「成長度や魔力量はかなり高いですね。とても5、6歳の少女とは思えな――?」
そう判断していると、突然男性の指が止まった。
ちらりと男性を見ると、モニターを見ながら眉を寄せている。
ぼくと潤は油断なく男性の挙動に気を配る。
数秒後、男性はモニターを閉じ、レイナの寝ている台のガラスケースを開いた。
「かなりリンカーコアの値が大きいですね。良い魔導師になれますよ」
そう言ったこの人物の顔には最初と同じく、笑みが浮かんでいる。
潤に目配せすると、相棒は頷いてレイナを連れてきた。
「ありがとうございます。それでは」
「気を付けてお帰りください」
~~~~~
「バレた、かね」
どうだろうな、とぼくは呟いた。
そんな呟きにレイナが首をかしげて、
「どうしたの、お兄ちゃん」
「いんや、なんでもない。このまま街で遊んで帰ろうと思ったんだが、ギンガとスバルから呼び出しがかかってね」
潤がモニターを弄りながらそう誤魔化した。
まあ、メールが来ていて、スパーリングの相手をしてほしい、と呼ばれているのは本当のようだ。
「それじゃあ、六課に戻るか?」
「ああ。そうするよ」
ぼくは頷き、フォレスタ二佐に連絡を取る。
~~~~~
「よう中将。どうだ、生き恥さらした気分は」
「……フォレスタか。呼び出した覚えは無い。出ていけ」
未だに地上本部のトップに座っているレジアス中将に対し、俺は意地の悪い笑みを作ってやる。
「命の恩人に、随分な態度だな。強行偵察課があの戦闘機人を捕まえてなけりゃ、あんたは殺されてたんだぜ、中将?」
「『強行偵察課』、か。随分と勝手なことをしてくれたものだな。お前達が公開意見陳述会で仕出かしたこと、忘れたとは言わせんぞ」
「非人道的な違法研究、資金の横流し、賄賂、非合法な取引、犯罪者との繋がりその他諸々。それを調べ上げ、必要であれば脅し、潰すのが
そんなことより、と俺は続ける。
「お前、ゼストと話したんだろ」
明らかに、レジアスの肩が動いた。
「記録に残ってた敵の『空戦魔導師』は間違いなくゼストだった。死人が生き返ったとは驚きだが、未練でもあったんだろうな」
レジアスは厳しい表情をしている。
俺は側まで歩き、肩を軽々しく叩く。
「精々自分の罪と向き合ったこったろ。昔は真面目君だったお前が捻くれた頑固親父になって、今まで重ねてきた罪と、な」
「…………」
まあ、そんなことはどうでもいい、と俺は続ける。
俺は仕事上顔が広く、ゼストとレジアスの二人とは、少し付き合いがあった。この二人の因縁云々には興味があったが、そんなことを聞く気にはならない。
「聞きたいことがある」
「……なんだ?」
「八年前の『事故』。あれにお前は関わってたか?」
レジアスは俺に目を向けた。
「……八年前?」
「そう。捜査任務中の空戦魔導師達が『未確認兵器』に襲撃を受け、沢山の犠牲者を出した、あの痛ましい『事故』だよ」
「それは……知らん」
「本当か? あの事故について、強行偵察課の
「本当だ。その事故については――なにも知らない」
俺はレジアスの目を見つめた。
レジアスは、目を逸らさない。
頭から爪先まで見ても、おかしな部分は無い。
本当のようだ。
「そうか。聞きたいのはそれと――」
――お前はいつまで
「――っ」
「さっさと降りた方が身のためだぜ。『レジアス・ゲイズ中将』」
俺は最後、そう威圧をすると、高町から連絡が来ていることに気付き、「時間だ」といって踵を返す。
レジアスは俺が部屋を出ていくのを、ただ呆然と見ていた。