魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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54話 Original Episode 4

「はい――レイナを再検査したい、ですか?」

 

 食堂で朝食を囲んでいるとき、ぼくは携帯端末を握ったまま、その部分をわざと大きめの声で復唱した。

 当然、隣の席でパンにかぶりついていた潤と、スープの器に口をつけていたレイナが動きを止め、こちらに目を向けた。

 

『ええ、先日の検査記録を見たところ、少し気になる部分がありまして』

「気になる部分?」

『はい。リンカーコアの異常――その、なんと言いますか、歪みの様なものが発生しています。あの時は気付けないほど些細な変化ですし、問題は無いかもしれませんが……』

「その『歪み』を直す、と?」

『高町空曹もご存じでしょうが、リンカーコアというのは非常にデリケートな器官です。魔法を行使するにもコアの反応が必要不可欠。前例はありませんが、もしこの「歪み」がなんらかの影響を与えるとしたら――』

「――将来、レイナの魔力行使に不具合が出るかもしれない?」

『可能性は低いですが』

 

 ――信用していいのか。

 レイナの事に気付いているのかもしれない。

 しかし、本当の事かもしれない。もしぼくの勝手な判断でこの提案を却下し、将来レイナが魔法を使うときにデメリットが発生したら。

 なんなら、今ここで答えを出さずに、『予定を確認する』と言ってぼく自身かナグリーで検査してみるのも手だ。

 けれど、下手に断っても良い印象は与えないだろう。純粋な親切心を疑われたら、誰だって良い気持ちはしない。

 あの男の挙動におかしな部分は無かった。表情にも悪意は無いように見えた。

 だからといって、やはり簡単に承諾するには――

 

「構わねぇ。行くさ」

 

 そう、潤が言った。

 その言葉を聞いて、ぼくの考えは一瞬でなりをひそめた。

 

「わかりました。斎藤陸曹を向かわせます」

『はい。では、お待ちしています』

 

~~~~~

 

 

「よかったのか?」

「いくらなんでも疑って掛かりすぎさ。俺だってあのおっさんを見てたが、少なくとも悪意は感じられなかった」

「まあ、それはそうだけどさ」

「ちったぁ気ぃ抜いとけよ。そりゃ、俺達は今まで、そうやって疑うことなんて幾らでもあった。必要なことだったからな。けど、もう『強行偵察課』は無ぇんだ。楽にしろよ」

 

 潤はそう言ってレイナをバイクの後ろに乗せ、笑った。

 ぼくは溜め息を吐き、笑った。

 

「お前、変わったな」

「かもな」

 

 潤はレイナの頭にヘルメットを被せる。

 

「ちょいとでけぇな。今度お前用のメットも買うか?」

「うん」

「よしよし」

 

 潤がヘルメット越しに頭を軽く叩くと、レイナは軽く揺れてバイクから落ちかけ、怒ったように潤を叩いた。

 仲が良いな、とぼくは思った。

 

「んじゃ、行ってくる」

 

 潤はぼくの肩を叩き、バイクにまたがると、地上本部の方角へ走っていった。

 ぼくはそれを見送ると、振り向いて六課隊舎に向き直り――驚いて身を引いた。

 目の前にアンソニーが立っていたからだ。

 

「――アンソニー、どうしたんですか」

「『弟』、今日は空いているか?」

「え、ええ。まあ。姉さんの手伝いもありませんし、仕事もだいぶ片付いてますから」

「そうか」

 

 なにか、とぼくが問うと、アンソニーは少し躊躇うような素振りを見せ、

 

「少し話がある。いいか、『一騎』」

 

 その言葉に驚いたが、アンソニーの真剣な、そしてどこか悲しげな目を見て、ぼくは頷いた。

 

「班長が姉御をデートに誘った!」

「こりゃいいネタだ、みんなに――」

 

 ぼくとアンソニーは同時に動き、ライアとレイドを同時に蹴り飛ばして海に捨てた。

 

 

~~~~~

 

 

 剣鋸と盾を構えつつ、バックステップで距離をとる。

 

「でああああああっ!!」

「――せぁっ!!」

 

 背後から突撃してきたモンディアル、そのストラーダの穂先を切り払って軌道を逸らす。

 すぐに腰を落として盾を構え、ナカジマのナックルを受け止める。

 そして、ランスターが射撃準備をしているのが視界に入ると、俺は前宙をするようにナカジマを跳び越え、全力で疾走する。

 

「シュート!」

 

 阻止は間に合わなかった。

 歯噛みする間もなく、俺は飛行魔法を使い、身体を回転させながら魔力弾全てを避けきる。

 

「でぇりゃああああああ!!」

 

 雄叫びを揚げながら更に回転。

 遠心力を利用した斬撃をランスターに叩き込む。

 流石に正面からの攻撃は、跳躍して避けられる。

 だが、それは読んでいた。俺は地面を蹴って向きを半ば無理矢理に変え、ランスターに追い縋る。

 斬り上げが入る。そう思った瞬間、俺の足に何かが絡みつく。

 

「鎖――っ」

 

 地面から伸びたルシエの拘束。それにより、俺は空中で静止する。

 その一瞬に、ナカジマが全力で拳を叩き込んできた。

 

「ぐぅっ!」

 

 無理に盾で受けたせいで体勢が悪く、左腕を弾かれながら、鎖に足をとられていたせいで、半円を描くようにして地面に叩き付けられる。

 背中の衝撃に呻くと、俺の真上から、ストラーダのブーストを噴射したまま、モンディアルが思い切り振り下ろしてくる。

 盾を出そうにも、左腕の痛みがそれを邪魔する。俺はとっさに剣鋸で受ける。

 

「「はあああああああっ!!」」

 

 俺とモンディアルはお互いに叫びながらも、力の差と体勢により拮抗している。

 そして、ナカジマとランスターの砲撃体制、追加で放たれたルシエの拘束魔法。そして、徐々に押されているこの鍔迫り合い。

 俺は自身の敗北を悟った。

 

 

~~~~~

 

 

『そこまで』

 

 ストラーダを無理矢理弾き、鎖が俺の四肢を地面に縫い付けた瞬間、高町教導官の声が響いた。

 俺は抵抗をやめ、その場で力を抜いた。

 

仮想敵(ティルク)の捕獲を確認。任務完了――って、なるわけ」

「や……やった」

「ティルクさんに……勝った」

「ああ――惨敗だ」

 

 ランスターとナカジマの呟きに、俺は溜め息混じりに応えた。

 そして、モニターの高町教導官に顔を向ける。

 

「やはり、敵いませんね。フォワードメンバーも、随分強くなった」

『だって。よかったね、みんな』

 

 鎖が解除されると、俺は身体を起こして肩を回すと、剣鋸を鞘に納めて座り込んだ。

 

「ティルクさん、大丈夫ですか」

「ああ。問題はない」

「すみません。お忙しい中、相手を頼んでしまって」

「訓練の『犯罪者』役は強行偵察課でもやっていた。流石にがんじがらめにされたのは初めてだったが」

「ご、ごめんなさい……」

 

 そう言ってルシエを見ると、わたわたと謝ってきた。

 気にしていない、と俺は笑いかける。

 ルシエがはにかんだように笑うのを見て、では仕事に戻ります、と高町教導官に告げると、俺は騎士甲冑を解除して隊舎に戻った。

 

 

~~~~~

 

 

「フォワード諸君、ティルクを倒せるほどに強くなったんだねぇ」

 

 僕が声を掛けると、フォワードの四人は驚いたように振り向いた。

 ナカジマ嬢が近付いて声を掛けてくる。

 

「クォーツ、どうしたの?」

「僕だって訓練くらいするさ。 ま、訓練といっても姉御と兄貴は居ないし、ティルクはあんたらの相手してたし、高町教導官にお願いして、訓練場の隅っこでガジェット撃ってただけなんすけどね」

 

 その言葉を聞いて、ランスター嬢が首をかしげた。

 

「どしたん、ランスター嬢。僕が訓練してちゃおかしいか」

「確かにそれはおかしいけど――ちょっと気になるんだけど、いい?」

 

 僕が訓練するのはそんなにおかしいことなのか。

 まあ、確かに最近は食堂で働いてばかりだったしなぁ。昨日の高町『姉妹』によるリンチは除く。

 そんなことを片隅で考えながら、僕はランスター嬢に続きを促す。

 

「あんた達って、一騎空曹の事は『姉御』で、潤陸曹の事は『兄貴』って呼んでるのに――なんでティルク曹長の事は名前呼びなの?」

「ん――?」

 

 ああ、そういうことか。姉御、兄貴、ティルク。この三人のなかで、唯一ティルクだけが名前で呼ばれていることに疑問を感じたらしい。

 

「ティルクはティルク。そんだけ」

「そんだけ、って……なによ、それ」

「なぁにランスター嬢、そんなにティルクの事が気になるん?」

「えっ、そうなのティア?」

 

 僕がニヤニヤと笑って言った言葉に、ナカジマ嬢も興味ありげに追求する。

 

「違う! 今の言葉聞いて、ちょっと気になっただけ!」

「うむうむ、照れずともよいのに」

「違うって言ってんでしょ――」

「あーはいはい。名前呼びの理由ね」

 

 わりかし真面目気質なランスター嬢をからかうのは面白いのだが、こういうタイプは怒らせると怖い。当然、僕はこういう経験が多いので、相手を怒らせることの無い絶妙な境界線を知っている。

 えーと、理由……理由ねぇ。

 

「さっき言った通り。ティルクはティルクなんだよ」

「だから――」

「なんていうかさ、ティルクって『普通』じゃん?」

 

 ランスター嬢が口を挟もうとしたが、僕が間髪入れずに続けた言葉に首をかしげた。

 モンディアルとルシエ嬢も疑問顔で聞いてくる。

 

「普通って――」

「――ティルクさんが、ですか」

「うむ」

 

 僕は訓練場を出ていくティルクの背を指さしながら、

 

「ティルクはなんというか、真面目人間だろ。何に対しても真剣に向き合うし、人に対する面倒見も良い」

 

 面倒見、の所でランスター嬢は思い当たることがあったようで、頷いていた。

 

「でも、飛び抜けて良いところなんて無い。魔法だって大して使えない。剣技はかなりのものだけど、それだけじゃガチンコの戦いには勝てない。今だって君らに負けてたろ」

 

 少し申し訳なさそうにみんなは頷く。

 

「でも、負けたからって文句は言わない。愚痴ったりしない。ふて腐れもしない。自分の間違いや失敗を踏まえて、しっかりと努力する。そういうタイプだ」

 

 四人の反応を見つつ、続ける。

 

「僕は――僕らは、彼のそういう所を尊敬している。ティルクの真面目なところを。けど時々笑って冗談を言ったりもするし、基本的に相手に優しい。ティルクは、僕ら『強行偵察課』の中で、一番良識を持った人間だ」

「それは――なんとなく、わかるかも」

「因みに背も高いし顔も良いからモテるのよ、彼」

 

 無意識か、眉がぴくりと反応したランスター嬢に、僕は笑って言う。

 

「だから、『姉御』や『兄貴』みたいに中途半端な呼び方をしたくない。彼を尊敬しているのだから、しっかりと彼の名を呼ぶのだ」

 

 別に姉御や兄貴を尊敬していないわけじゃないが。

 そこまで言って、僕は大きく息を吐いた。

 やれやれ、身内を褒めるのも楽じゃない。

 誰かも僕らの良い噂を流してくれないもんかね。

 

「ま、そういうこと。わかったかい」

「なんとなく」

 

 ナカジマ嬢がそう言って頷いた。

 ランスター嬢もわかったかい、と聞くと、頷いた。

 

「ちなみにティルクは、真面目な女の子がタイプだったりするのだよ。更に言うなら、普段は少し冷たい印象を受けるけど、優しい一面を見たりした、とかいうのもポイントは高いぞランスター嬢!」

「いきなりなんの話!?」

「ティア、がんば!」

「応援します!」

「お似合いですよ!」

「アンタ達ねぇ――っ!」

「散開ッ!」

 

 境界線を越えた僕らは、一瞬でその場を離れた。




出会いが無い人は大抵、少し異性と話しただけで意識するものだ(適当)。
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