「やはり、歪みがあります」
科学主任のおっさんが出したモニターには、リンカーコアの拡大図らしきものが映っている。
確かに、指されたところには凹みの様なものがある。
「このへこんでるところですか?」
「はい。リンカーコアの変形など、本来はあり得ないんですよ。いえ、あり得ないというよりは、前例が無い。
その台詞に、俺はおっさんの目を睨むようにして見る。
「どういうことですか?」
「――失礼ですが、この子に大して無茶苦茶なトレーニングをさせられていませんか?」
「無いですね。俺が教えたのは身体強化だけで、それすらもかなり軽めのものですし」
「では、この子の生まれについては?」
俺は表情をわざと困惑したものに変え、おっさんに対して少し不安げにたずねる。
「生まれ、とは?」
「ご存じ無い?」
「……はい。『現地で保護した娘』なんで」
「そうですか――斎藤陸曹、少しよろしいですか」
俺の嘘を信用したのか、おっさんは補助していた女性技官にレイナを任せると、俺を部屋の外へ連れ出す。
「落ち着いて聞いてほしいのですが――あの子は『人造魔導師』である確率が高いです」
とっくに知ってる。だが俺は、あえて初めて知った、という驚いた表情を作った。
「人造、魔導師……」
「はい。ご存知とは思いますが、人間を培養し、外科的な処置を行うことで、魔力運用技術やその他能力を底上げする、という技術です。当然、人の行いとして許されるものではない」
「じゃあ、レイナの『歪み』は――」
「半ば強制な『処置』のせいでしょう。リンカーコアに手を加えたせいで、ほんの僅かに歪んでしまっている。普通の検査では気付かない程、とても小さなものですが」
そこまでは知らなかった。しかし、歪みが本当にあるのなら、それを放置していて大丈夫なのか、と俺が尋ねると、
「わかりません」
「わからないって……」
「なにしろ、前例が無いのです。ですから――彼女をもう少し詳しく調べたい」
俺は顔を俯かせて考えた。
レイナのリンカーコアを放っておけば、異常が出るかもしれない。そんなことにはさせたくない。
だが、この男を完全に信用することは出来ない。こいつは既にレイナが人造魔導師であると知っている。レイナを頼んだとして、果たしてどこまで任せていいものか。
いや、考えすぎか? ここはミッドチルダの地上本部。下手なことは出来ないだろうし、するメリットも無い筈だ。
レイナには念話を教えてある。距離はまだ確かめていないが、もし何かあれば自分で助けを呼ぶこともできる筈だ。
「どのくらい掛かりますか」
「数時間はかかるかと」
「……では、お願いします」
~~~~~
ぼくは車の助手席に座りながら、クラナガンの町並みを眺めている。
海鳴市よりも大きいだろうな。そうぼんやりと考えつつ、運転席でハンドルを握っているアンソニーを見る。
視線は真っ直ぐ前を見ていて、普段のように、落ち着いた雰囲気を出している。
けれど、少しだけ違和感がある。どこか
「なあ、一騎」
「はい?」
「最近はどうだ?」
「最近、ですか」
いきなりなんの話だろう。
とりあえず、思ったことを言う。
「まあ、楽しくやってます」
「ほう」
「憑き物が落ちたっていうのか、言いたいことを全部言い切ったんで。今はもうスッキリして、姉さん達と過ごせてます」
「言い切った、とはなんだ?」
「えっと……ぼくが今まで、姉さんに遠慮してた鬱憤を晴らした、というか。そんな感じです」
「それで、全部終わったのか?」
その言葉に、ぼくは固まった。
姉さん個人に抱えていた想いは解決した。
けれど。
「……終わったものもあります」
「……そうか」
ぼくはまだ、心の中に抱え込んでいるものがある。
これは、これだけはどうしても解決できない。なぜならそれは、ぼくがずっと苛んできた罪だからだ。
いや、罪なんて言うほど大層なものではないだろう。
けれど、どうしてもぼくの脳裏からは、
「一騎、ここで私は、お前に対して辛いことを思い出させる。その事を先に謝っておく」
思わずアンソニーを見る。既に車は駐車スペースに止まっていることに、いま気付いた。
ここは、と辺りを見回し、今ぼくらがどこに居るのかわかった。
「医療センター……?」
「ああ、そうだ」
アンソニーは車を降りた。
「お前に話したいことが――聞きたいことがある」