ぼくはポケットで振動した携帯端末を取り出す。
この端末は通信専用に開発したものだ。
ぼくが使っている杖型デバイスは、戦闘用に全ての容量をつぎこんでいるので、他の機能がまったく使えなくなっている。
そういうわけで、ぼくは通信用のデバイスも必要になり、マリーさんに教えてもらった事を思いだし、この携帯端末『リベレーター』を完成させたのだ。
そして、
『やっほ』
「姉さん」
ぼくは自分の頬が緩むのを感じる。
「三日ぶり、かな」
『そうだね。どう、訓練学校は』
「綺麗な施設だね」
『あはは、確かにね。作られてからまだ二ヶ月くらいだし。一騎達が初めての訓練生だよ』
「設備は最新みたいだね。この部屋、結構広い上にシャワーまで完備されてるし」
今は斎藤が使っている。
ぼくは斎藤の「レディファーストだ」という厚意に甘え、不機嫌になりながらも先に使わせてもらった。
『だって、ミッドの訓練校の中で一番のエリート校だからね。待遇もいい筈だよ』
「でもここ、かなり高いでしょ。通うだけでも何万かかることやら」
『心配しなくていいよ。一騎は特待生だから学費全額免除』
いつの間にそんな手続きをしていたんだろう。
「そりゃ、期待に応えないとね」
『さっそく訓練あったんでしょ? どうだった?』
「あ、うん……」
ぼくは少しだけ口ごもる。
『もしかして、上手くできなかったの?』
「いや、そうじゃなくて。最初だからかな、少し、簡単すぎたような気がするんだ」
『簡単すぎた?』
「うん。だって、空戦機動とか、射砲撃とか。ぼくが今までにやったことばかりで。レベルも、あんまり高くないな、って思ったり」
『それはそうかもね』
その言葉に、ぼくは姉さんにどういうこと、と聞き返す。
『だって、一騎は私たちに鍛えられたんだよ?』
その言葉を聞いて、ぼくははっとした。
そうだ。昔はよくわからなかったが、姉さん達はみんな、Sクラスのエース達だ。
それは、一般の魔導師とは比べ物にならないほど上位の実力者だということ。
つまり、その人達にしごかれ、死にそうになりながら訓練をして鍛えられたぼくもまた、姉さん達ほどではないにしろ、それなりの実力を持っている、と判断してもいいのだろうか。
「どうだろう。ぼくは」
『大丈夫、一騎は強いよ。だから、自信をもっていいんだよ』
「そう、なのかな」
『自分に自信を持てずに、過小評価するのは、一騎の悪い癖だよ。一騎は強い。お姉ちゃんが保証します』
そう言って、姉さんは笑う。
その、とても綺麗な笑顔に、ぼくは顔が熱くなるのを感じながら、
「ありが……とう……」
『うん』
そこで、ぼくの後ろで扉が開く音がする。
「いい湯だったぜ。湯船に浸かるなんて、何年振りだろうな」
斎藤が頭をバスタオルで拭きながら、バスルームから出てきた。
「おや、話し中かい?」
「いや、まあ」
「じゃまして悪かったな。洗濯機回すが、お前の洗濯物は?」
「じゃあ、インナー頼めるか」
「あいよ。んじゃ、ごゆっくり」
ぼくのインナーシャツを受け取ると、斎藤はバスルームに隣接した洗面所に入っていった。
『今のって』
「斎藤潤、っていうんだ。ルームメイトだよ。これからの訓練が進んでいけば、コンビを組むようになる」
『日本人なんだ。珍しいね』
「まあ、そうかもね。文化の違いがほとんど無いから、今のところはうまくやれてるよ」
『喧嘩しないようにね』
「わかってるよ。っと、そろそろ消灯だ」
『あ、もうそんな時間なんだ。ごめんね、長々と』
「ううん、話せて嬉しかったよ。それじゃ、今度はこっちから連絡するよ」
『うん、わかった。じゃあね』
モニタが待ち受けに戻り、ぼくは大きく息を吐きながらリベレーターを机に置く。
そして、斎藤が後ろで笑っているのに気付いた。
「ずいぶんと仲が良いようで」
「そりゃ、悪いわけないだろ。姉と弟だよ?」
「俺にゃ兄弟は居ないんでな。その辺はよくわからんのだよ」
「まあ、いない人から見れば、どう思うかわからないけどね」
「いる奴から見ても、おかしいと思うぜ。少しばかり、甘酸っぱかったからな」
「聞いてたのか?」
「さてな。点呼の時間だぜ」
斎藤ははぐらかし、さっさと廊下に出ていった。
~~~~~
次の日も、早朝から訓練が入る。
「今日はいつも通り戦闘機動、射砲撃の後、2チームに別れて模擬戦を行う」
その言葉に、みんながざわめく。
そりゃ、訓練二日目でいきなり模擬戦なんて言われても、どうしようもないだろう。
「なに、簡単さ。防いで避けて撃つ。これだけだ」
少しばかり、ブーイングが起こる。
ぼくは慣れているが、昨日初めて魔法を行使した奴だっている筈だ。そういう人にとって、これはかなり厳しいことになるだろう。
「勝ったチームにはプラス点だ。負けたチームも、戦術とかがうまくできてりゃ、点になるぞ」
その言葉に、みんながぼくの方を見た。
確かに、ぼくが居たチームの方が勝つ可能性は高いだろう。
それに気付いたらしい教官が、
「じゃあ、高町は俺とやるか」
「はい?」
「俺と
ということに、またみんなが騒ぎ出す。
教官と戦う、ということに対する驚きがほとんどだが、中には「高町!やっちまえ!」という声もあり、教官が眉を寄せてそちらを睨んだ。
「ったく、俺だって空戦でAAA+をとれる程には実力がある。そう簡単には負けねえよ」
空戦でAAA+、というとかなりのものだ。上から数えたほうがよっぽど早いくらいの、上位の魔導師。
今のぼくでは、総合ランクでもまったく届かないだろう。
だが、やはり戦いたい、という気持ちはあり、負けたくない、という気持ちもある。
「全力でいきます」
「お手柔らかに、とお願いしようとしてたんだがな」
だからぼくは、全力で挑むことにした。
~~~~~
「ディバイン――」
「まずっ、
「バスタァーッ!!」
死角に回り込んでの瞬間砲撃だったのだが、教官は凄まじい反射神経でシールドを張り、防ぎきる。
「
教官が両手に持っている短杖のうち、左の短杖から三発の魔力弾が撃ち出される。
違和感を覚え、プロテクションを張ると、三つの魔力弾は炸裂し、細かい弾丸をばらまいた。
あんな使い方もあるのか、と舌を巻く。
やはり、何十年とある経験の差は凄まじい。どれだけ撃ち込もうと、的確な防御に防がれ、決定打が入らない。
「
「アクセルシューター!」
教官の二つの短杖から連続で撃ち出される魔力弾を、次々と相殺していく。
「アクセルシューター、弾幕集中!ランサー、ファランクス・セット!」
誘導弾に紛れ込ませるように、高速直射弾を射出するスフィアを大量に準備する。
それに気付いた教官が、慌てて防御を切り替える。
「
「打ち、砕けぇっ!」