魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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59話 Original Episode 9

「六課の応援は?」

『フォワードが出動しました!』

「頼む。地上本部は混乱してて、増援は期待できそうに無い」

 

 ぼくはアンソニーにレイナを任せると、車から降りる。

 

「ぼくも飛んで向かう。飛行許可を」

 

 了解、という声。それから数秒掛からずに、許可が降りたと言葉が続く。

 

「アンソニー、レイナを頼みます」

「ああ。気を付けろよ」

「大丈夫ですよ」

 

 ぼくの自信満々な笑みに、アンソニーは呆れたように溜め息をつくと、車を走らせた。

 ぼくはイノセントハートを握り、駆け出す。

 

「イノセントハート、セットアップ!」

 

 ぼくの身体は紅の魔力光に包まれ、制服が消えると同時にインナースーツを纏う。

 黒いインナーに金色のプレートが展開され、白地に赤いラインの入ったロングコートを羽織り、腰の部分には皮ベルトが巻かれると同時に、黒い刀が差し込まれる。

 右手にはエクシードモードで構築されたイノセントハートを握る。

 

「高町一騎。出撃する――行くぞ、イノセントハート!」

 

 ぼくの言葉に、イノセントハートはコアを輝かせた。

 

 

~~~~~

 

 

「いいかげんどきやがれ! お前の相手をしてる場合じゃねぇんだよ!」

「犯罪者が――ふざけたことを抜かすな!」

 

 剣鋸を横薙ぎに振るうと斎藤は屈んで避け、返す剣でその首を狙って斬ると、次は身体を回転させるように跳び越え、その勢いで回し蹴りを叩き込んでくる。

 それを盾で防ぐ。同時に反対の足での踵落としが俺の肩に打ち込まれるが、鎧と身体の頑丈さで耐えると、剣鋸を斬り上げる。

 斎藤は両腕を交差して防ぐが、俺はそのまま力任せに上空へ打ち上げる。

 

「追い打ち、行くぞ」

 

 飛行魔法を発動し、追撃。空中で不安定な斎藤の背を上から思いきり盾で殴り付ける。

 地面に落下しようとする斎藤の腹に今度は膝蹴りを入れると、空中でゆらりと浮かび上がったその身体に、剣鋸を振りかぶって斬りつける。

 

「がっ――」

「落ちろ」

 

 斬った体勢をそのまま縦に回転し、その勢いを両手で握った剣鋸でもう一度斬り下ろすと、斎藤は地面に叩きつけられた。

 

「所詮は陸戦魔導師。飛行禁止の手合わせならともかく、一対一……さらに空も飛べないお前相手に、俺が負けるわけがないだろう」

 

 そう俺は呟き、仰向けに倒れている斎藤の隣に降り立つ。

 

「飛べなきゃ勝てない、なんて誰が決めたよ」

「――ッ」

 

 そう呟いて斎藤は跳ね起きると、炎を纏った拳を俺の顔面に叩き込んだ。

 

「ふざけやがって!」

 

 その叫びと共に、連続で拳が打ち込まれる。

 右の拳、裏拳、左フック、右フック、左の後ろ回し蹴り、続けて右の回し蹴り。

 拳で押されていた俺は、最後の二発の蹴りは盾で受けたが、大きく仰け反る。

 

「エクスプロージョン!」

 

 そこに、斎藤は炎熱砲を撃ち込んだ。

 強烈な炎が、俺の身体を飲み込んで焦がす。

 幸い効果時間は短い。三秒ほどで炎は消え、俺は煙と炎の残滓を剣鋸で振り払った。

 

「見た目に違わずタフな野郎だよ、本当」

「そういうお前は、見た目に似合わず軽い拳だ」

「うっせぇよ。それが俺のスタイルだ」

 

 斎藤は苛立たしげに地面を蹴り、炎を纏う。

 全身を覆う炎。それは今までとは明らかに強さが違う。少なくとも、もう少し火加減は弱かったはずだ。

 そう考えて見ていると、ある違いに気付いた。

 今の斎藤の炎は、ガントレットから放出されているように見える。

 炎に隠れて見えづらいが、ガントレットの隙間からも炎が噴射されている。

 いつのまにこんな変化ができたんだろう。俺は口を開く。

 

「なにがあった?」

「今さら事情聴取かい……笑わせんな」

「なら、取調室で聞くとしよう!」

 

 剣鋸を肩に担ぐように構え、地面を蹴って加速する。

 斎藤も前傾姿勢で構えると、俺が剣鋸を振り下ろすと同時に跳び、拳を剣鋸に向けて繰り出す。

 

「「おおおッ!!」」

 

 雄叫びをあげながら、得物がぶつかりあう。

 俺の鋸はなおも回転を続け、斎藤のガントレットに擦れて、ガリガリと音を立てながら火花が散る。

 

「でかい口叩いておきながら、やっぱたいしたことねぇんだよな!!」

「遅れはとっていない。それだけで充分だ!」

 

 俺は負けじと怒鳴り返す。

 斎藤は剣鋸を蹴り上げ、俺の胸当てを蹴りながら大きく後ろに跳んで距離をとる。

 

「なにが! こんなの続けてたって疲れるだけだぜ、騎士(ナイト)さんよぉ!」

「安心しろ。こんなのを続ける気は毛頭無い――形勢は、俺に傾く」

「なに――」

 

 その瞬間、茜色の魔力弾が連続して斎藤に叩き込まれる。

 斎藤の背後からは雷を纏った槍が襲い、大きく体勢を崩したその腹に強烈な拳が叩き込まれる。

 大きく吹き飛んで地面を転がった斎藤の身体を、鉄の鎖が巻き付いて動きを封じた。

 

「遅くなりました!」

「ティルクさん、ご無事ですか!?」

「お怪我、急いで治療します!」

「治療が終わるまで下がってください。前は僕らが支えます!」

「……言った通りだ。なあ、斎藤」

 

 俺の前で、フォワードメンバーがそれぞれのデバイスを構えている。

 即座にルシエが俺の側まで寄ってきて、回復魔法をかけてくれる。

 

「事情は聞いてるな?」

「はい。何が起きて――潤さんがなにをしたか」

「いけるな、ナカジマ?」

「……はい!」

「ならいい。奴を捕らえるぞ」

 

 俺の言葉に、四人が声を揃えて応えた。

 

 

~~~~~

 

 

「くそったれ……結局数の勝負か」

 

 拘束している鎖を解こうにも、がっしりと締め付けられていてびくともしない。

 フォワードとアローンが俺に向かって近付いてくるのが見える。

 

「くそが――」

 

 苛立ちをそのまま吐き捨てると同時、俺のガントレットが激しく燃え上がる。

 なにも魔法を発動していないのに、勝手に燃え上がったガントレットに驚いていると、まるで叱咤するようにコアが光った。

 

「――――」

 そして、理解した。

 このガントレットの仕組みを。

 『炎の王(Koenig flamme)』の意味を。

 

「ッ――待て!」

 

 全身に炎を纏った俺を警戒して、アローンが声を張る。

 それを見て、俺は激しくコアを点滅させているガントレットを見て、拳を握り締めた。

 

――お前、そこにいたんだな。

――ああ。

 

 こいつがなんなのか、俺は知らない。けど、こいつはずっと、このガントレットの中で眠ってたんだ。

 なら、外に出してやらねぇとな。

 俺は息を吸い、その名を喚んだ。

 

「――リンドヴルム!」

 

 俺の身体――いや、ガントレットから激しい炎が噴出する。

 その炎は激しさを増しながら、俺の真上の空間に集まっていく。

 放出し終えた炎が一つの塊となり、練るようにして形を変えていく。

 

 まず目に入るのは、とぐろを巻いた、蛇のような細長い躰。

 その背から生える畳まれた一対の翼と、その腹から伸びる二本の前脚。

 一見すれば、蛇に翼と足が生えたような躰。

 それは、炎で象られた竜。

 

 そして、ゆっくりと回転しながら細長い躰が解かれていく。

 翼が拡がり、前脚の爪が開かれ、蛇のような頭部で目の部分が赤く光った。

 頭を持ち上げ、解放されたことに対する高揚を表現するかのように、周囲へ轟く咆哮をあげた。

 

「炎の……竜……?」

「召喚魔法とは違う……? なに、こいつ」

「炎の遠隔操作とも違います――まるで、生きてるみたいな」

「竜魂召喚と、似てる……」

「――下がれ!」

 

 全員が呆然としている中でリンドヴルムが回転し、長い尻尾を振るう。

 それをアローンが真正面に躍り出て、フォワードを庇うように盾で受けた。だがあまりの威力に大きく吹き飛ばされ、ビルの壁に叩き付けられた。

 

「ティルクさん!」

 

 ランスターが駆け寄るが、アローンは反応を返さない。気絶したようだ。

 リンドヴルムは回転を止めると、また大きく咆哮をあげ、俺を拘束している鎖を前脚で引き裂いた。

 拘束から解かれた俺はゆっくりと立ち上がり、リンドヴルムを見た。

 

「悪いな、助けてもらって」

〈これで、二度目だ〉

 

 リンドヴルムが唸った。

 言葉はわからないが、意味は頭の中に入ってくる。

 二度目という言葉で、俺は六課襲撃時の事を思い出した。記録映像にも残っていたが、確かに俺はこいつを喚んだことがある。

 俺が手を伸ばすと、リンドヴルムは頭を差し出してくる。

 炎の塊であるこいつは、しかし、手で触ることができる程に、完全な炎の圧縮体だった。

 

「ここを切り抜ける。けど、絶対に殺すな。怪我もさせるな」

〈承知〉

 

 俺は頷くと、フォワードに向き直る。

 なんとか混乱から抜け出したようだが、リンドヴルムを見て戸惑っているのがわかる。

 

「みんな、落ち着いて。仕組みはわからなくても、あの竜は間違いなく術者が関係してる」

「つまり――」

「潤さんを倒せば――」

「――あの竜も止まる」

「――そういうこと」

 

 おそらくそうだろう。俺にもわからないが、俺がリンドヴルムを喚んだ以上、俺が居なかったらこいつは維持できない。

 六課襲撃の時も、俺が意識を失うと、リンドヴルムも消えていた。

 

「けどよ――」

 

 俺が拳を構えると、その隣でリンドヴルムも顔を揃えた。

 

「今だけは、負けるわけにはいかねぇ」

 

 逃げる。

 ここで負けたら、嫌が応にも受け入れなくちゃならなくなる。

 自分が犯罪者だということを。

 あの男を殺したということを。

 

 罪から逃げるこの行いを、なんと蔑まれてもいい。なんと罵られようが構わない。

 それでも俺は、自分が直接人を殺したことを、認めたくなかったんだ。

 

「誰が相手だろうと、通してもらう。邪魔すんなら、倒すだけだ!」

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