「六課の応援は?」
『フォワードが出動しました!』
「頼む。地上本部は混乱してて、増援は期待できそうに無い」
ぼくはアンソニーにレイナを任せると、車から降りる。
「ぼくも飛んで向かう。飛行許可を」
了解、という声。それから数秒掛からずに、許可が降りたと言葉が続く。
「アンソニー、レイナを頼みます」
「ああ。気を付けろよ」
「大丈夫ですよ」
ぼくの自信満々な笑みに、アンソニーは呆れたように溜め息をつくと、車を走らせた。
ぼくはイノセントハートを握り、駆け出す。
「イノセントハート、セットアップ!」
ぼくの身体は紅の魔力光に包まれ、制服が消えると同時にインナースーツを纏う。
黒いインナーに金色のプレートが展開され、白地に赤いラインの入ったロングコートを羽織り、腰の部分には皮ベルトが巻かれると同時に、黒い刀が差し込まれる。
右手にはエクシードモードで構築されたイノセントハートを握る。
「高町一騎。出撃する――行くぞ、イノセントハート!」
ぼくの言葉に、イノセントハートはコアを輝かせた。
~~~~~
「いいかげんどきやがれ! お前の相手をしてる場合じゃねぇんだよ!」
「犯罪者が――ふざけたことを抜かすな!」
剣鋸を横薙ぎに振るうと斎藤は屈んで避け、返す剣でその首を狙って斬ると、次は身体を回転させるように跳び越え、その勢いで回し蹴りを叩き込んでくる。
それを盾で防ぐ。同時に反対の足での踵落としが俺の肩に打ち込まれるが、鎧と身体の頑丈さで耐えると、剣鋸を斬り上げる。
斎藤は両腕を交差して防ぐが、俺はそのまま力任せに上空へ打ち上げる。
「追い打ち、行くぞ」
飛行魔法を発動し、追撃。空中で不安定な斎藤の背を上から思いきり盾で殴り付ける。
地面に落下しようとする斎藤の腹に今度は膝蹴りを入れると、空中でゆらりと浮かび上がったその身体に、剣鋸を振りかぶって斬りつける。
「がっ――」
「落ちろ」
斬った体勢をそのまま縦に回転し、その勢いを両手で握った剣鋸でもう一度斬り下ろすと、斎藤は地面に叩きつけられた。
「所詮は陸戦魔導師。飛行禁止の手合わせならともかく、一対一……さらに空も飛べないお前相手に、俺が負けるわけがないだろう」
そう俺は呟き、仰向けに倒れている斎藤の隣に降り立つ。
「飛べなきゃ勝てない、なんて誰が決めたよ」
「――ッ」
そう呟いて斎藤は跳ね起きると、炎を纏った拳を俺の顔面に叩き込んだ。
「ふざけやがって!」
その叫びと共に、連続で拳が打ち込まれる。
右の拳、裏拳、左フック、右フック、左の後ろ回し蹴り、続けて右の回し蹴り。
拳で押されていた俺は、最後の二発の蹴りは盾で受けたが、大きく仰け反る。
「エクスプロージョン!」
そこに、斎藤は炎熱砲を撃ち込んだ。
強烈な炎が、俺の身体を飲み込んで焦がす。
幸い効果時間は短い。三秒ほどで炎は消え、俺は煙と炎の残滓を剣鋸で振り払った。
「見た目に違わずタフな野郎だよ、本当」
「そういうお前は、見た目に似合わず軽い拳だ」
「うっせぇよ。それが俺のスタイルだ」
斎藤は苛立たしげに地面を蹴り、炎を纏う。
全身を覆う炎。それは今までとは明らかに強さが違う。少なくとも、もう少し火加減は弱かったはずだ。
そう考えて見ていると、ある違いに気付いた。
今の斎藤の炎は、ガントレットから放出されているように見える。
炎に隠れて見えづらいが、ガントレットの隙間からも炎が噴射されている。
いつのまにこんな変化ができたんだろう。俺は口を開く。
「なにがあった?」
「今さら事情聴取かい……笑わせんな」
「なら、取調室で聞くとしよう!」
剣鋸を肩に担ぐように構え、地面を蹴って加速する。
斎藤も前傾姿勢で構えると、俺が剣鋸を振り下ろすと同時に跳び、拳を剣鋸に向けて繰り出す。
「「おおおッ!!」」
雄叫びをあげながら、得物がぶつかりあう。
俺の鋸はなおも回転を続け、斎藤のガントレットに擦れて、ガリガリと音を立てながら火花が散る。
「でかい口叩いておきながら、やっぱたいしたことねぇんだよな!!」
「遅れはとっていない。それだけで充分だ!」
俺は負けじと怒鳴り返す。
斎藤は剣鋸を蹴り上げ、俺の胸当てを蹴りながら大きく後ろに跳んで距離をとる。
「なにが! こんなの続けてたって疲れるだけだぜ、
「安心しろ。こんなのを続ける気は毛頭無い――形勢は、俺に傾く」
「なに――」
その瞬間、茜色の魔力弾が連続して斎藤に叩き込まれる。
斎藤の背後からは雷を纏った槍が襲い、大きく体勢を崩したその腹に強烈な拳が叩き込まれる。
大きく吹き飛んで地面を転がった斎藤の身体を、鉄の鎖が巻き付いて動きを封じた。
「遅くなりました!」
「ティルクさん、ご無事ですか!?」
「お怪我、急いで治療します!」
「治療が終わるまで下がってください。前は僕らが支えます!」
「……言った通りだ。なあ、斎藤」
俺の前で、フォワードメンバーがそれぞれのデバイスを構えている。
即座にルシエが俺の側まで寄ってきて、回復魔法をかけてくれる。
「事情は聞いてるな?」
「はい。何が起きて――潤さんがなにをしたか」
「いけるな、ナカジマ?」
「……はい!」
「ならいい。奴を捕らえるぞ」
俺の言葉に、四人が声を揃えて応えた。
~~~~~
「くそったれ……結局数の勝負か」
拘束している鎖を解こうにも、がっしりと締め付けられていてびくともしない。
フォワードとアローンが俺に向かって近付いてくるのが見える。
「くそが――」
苛立ちをそのまま吐き捨てると同時、俺のガントレットが激しく燃え上がる。
なにも魔法を発動していないのに、勝手に燃え上がったガントレットに驚いていると、まるで叱咤するようにコアが光った。
「――――」
そして、理解した。
このガントレットの仕組みを。
『
「ッ――待て!」
全身に炎を纏った俺を警戒して、アローンが声を張る。
それを見て、俺は激しくコアを点滅させているガントレットを見て、拳を握り締めた。
――お前、そこにいたんだな。
――ああ。
こいつがなんなのか、俺は知らない。けど、こいつはずっと、このガントレットの中で眠ってたんだ。
なら、外に出してやらねぇとな。
俺は息を吸い、その名を喚んだ。
「――リンドヴルム!」
俺の身体――いや、ガントレットから激しい炎が噴出する。
その炎は激しさを増しながら、俺の真上の空間に集まっていく。
放出し終えた炎が一つの塊となり、練るようにして形を変えていく。
まず目に入るのは、とぐろを巻いた、蛇のような細長い躰。
その背から生える畳まれた一対の翼と、その腹から伸びる二本の前脚。
一見すれば、蛇に翼と足が生えたような躰。
それは、炎で象られた竜。
そして、ゆっくりと回転しながら細長い躰が解かれていく。
翼が拡がり、前脚の爪が開かれ、蛇のような頭部で目の部分が赤く光った。
頭を持ち上げ、解放されたことに対する高揚を表現するかのように、周囲へ轟く咆哮をあげた。
「炎の……竜……?」
「召喚魔法とは違う……? なに、こいつ」
「炎の遠隔操作とも違います――まるで、生きてるみたいな」
「竜魂召喚と、似てる……」
「――下がれ!」
全員が呆然としている中でリンドヴルムが回転し、長い尻尾を振るう。
それをアローンが真正面に躍り出て、フォワードを庇うように盾で受けた。だがあまりの威力に大きく吹き飛ばされ、ビルの壁に叩き付けられた。
「ティルクさん!」
ランスターが駆け寄るが、アローンは反応を返さない。気絶したようだ。
リンドヴルムは回転を止めると、また大きく咆哮をあげ、俺を拘束している鎖を前脚で引き裂いた。
拘束から解かれた俺はゆっくりと立ち上がり、リンドヴルムを見た。
「悪いな、助けてもらって」
〈これで、二度目だ〉
リンドヴルムが唸った。
言葉はわからないが、意味は頭の中に入ってくる。
二度目という言葉で、俺は六課襲撃時の事を思い出した。記録映像にも残っていたが、確かに俺はこいつを喚んだことがある。
俺が手を伸ばすと、リンドヴルムは頭を差し出してくる。
炎の塊であるこいつは、しかし、手で触ることができる程に、完全な炎の圧縮体だった。
「ここを切り抜ける。けど、絶対に殺すな。怪我もさせるな」
〈承知〉
俺は頷くと、フォワードに向き直る。
なんとか混乱から抜け出したようだが、リンドヴルムを見て戸惑っているのがわかる。
「みんな、落ち着いて。仕組みはわからなくても、あの竜は間違いなく術者が関係してる」
「つまり――」
「潤さんを倒せば――」
「――あの竜も止まる」
「――そういうこと」
おそらくそうだろう。俺にもわからないが、俺がリンドヴルムを喚んだ以上、俺が居なかったらこいつは維持できない。
六課襲撃の時も、俺が意識を失うと、リンドヴルムも消えていた。
「けどよ――」
俺が拳を構えると、その隣でリンドヴルムも顔を揃えた。
「今だけは、負けるわけにはいかねぇ」
逃げる。
ここで負けたら、嫌が応にも受け入れなくちゃならなくなる。
自分が犯罪者だということを。
あの男を殺したということを。
罪から逃げるこの行いを、なんと蔑まれてもいい。なんと罵られようが構わない。
それでも俺は、自分が直接人を殺したことを、認めたくなかったんだ。
「誰が相手だろうと、通してもらう。邪魔すんなら、倒すだけだ!」