魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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61話 Original Episode 11

 潤は全身に炎を纏い、爆発するような勢いで突進してくる。

 いや、実際足の裏辺りで爆発を起こしてむりやり身体を加速させているようだ。まったく無茶をする。

 ぼくは慌てずに右手のイノセントハートを構え、砲撃を撃つ。

 

「こ……のっ!」

「ッ――避けた!?」

 

 潤はそれを転がるようにして避け、すぐさま駆け出してくる。

 ぼくはショートバスターに切り換え、もう一度狙いをつける。

 オーグメントにポインターが表示され、ロックする。

 

「ファイア!」

「くそが、鬱陶しい!」

 

 三連射をも、潤は圧倒的な反応速度で避けて見せた。

 

「どうした相棒、見えるぞ!」

「……調子に乗るな」

 

 ぼくは舌打ちをし、カートリッジをロード。アクセルシューターを生成し、円を描くように撃ち出す。

 四方八方から迫る誘導弾。それを潤はまず身体を前傾させて一つを潜り抜け、転がるようにして次をかわし、地面を殴り付けて跳ね起きる勢いで避け、次は姿勢を下げて後頭部を掠る程ギリギリに、さらに続けて前宙するように跳んで足を狙った誘導弾を避けると、残りを蹴りと拳で打ち砕いた。

 そのあまりに人間離れした動きに、ぼくは愕然とした。

 

「なんなんだよ、お前はっ!?」

「行ける――!」

「この――!」

 

 潤が繰り出してくる拳を、左手の玄月で受ける。

 潤は拳を下げると蹴り、裏拳とラッシュをかけてくる。

 それをぼくは両手のデバイスと集中防御で防ぎ、隙をついて後ろ回し蹴りを腹に叩き込んだ。

 

「がっ――」

「エクセリオン!」

 

 身体を回転させる勢いを乗せた玄月で斬り、更に回ってイノセントハートを潤の首に突き付ける。

 

「バスター!」

 

 零距離砲撃。しかし、エクセリオンバスターを片手で保持するのは困難で、数秒も保たずにぼくは右手を大きく引き、身体を捻ることでむりやり衝撃を吸収した。

 そして、吹き飛んで倒れていた潤は跳ね起き、口許を拭った。

 

「やっぱ強ぇな、相棒」

「……やけに頑丈だな。普段ならとっくに沈んでるだろう、お前は」

 

 潤は首を鳴らしながら、

 

「今の俺は全力だ。簡単にゃやられねぇよ」

「……そこまでして、逃げたいか?」

「捕まりたくない、ってのはみんな思うことじゃないか?」

「黙れよ。悪いが、レイナと約束した。お前を捕らえて、さっさと社会復帰させる」

 

 ぼくの言葉に、潤は目を細めた。

 

「ぼくもお前を助けたいとは思う。やれるだけのことはするつもりだ」

「――悪いが、認めたくないんだ」

 

 潤は小さく呟いた。

 

「俺が人を殺したってことを。あの野郎(・・・・)と同じ、人殺しだってことを」

 

 あの野郎、と言った潤の顔は、歪んでいた。

 ぼくはゆっくりと息を吸った。

 

「甘ったれんな。認めたくない、だと。自分の罪から逃げるなよ」

 

 罪から逃げるな。ぼくのこの言葉には、僅かながら自嘲が含まれている。

 ぼく自身は、ずっと自分の罪悪から逃げていたのだから。

 しかし、今はあいつを倒すことが最優先だ。ぼくは玄月に雷を走らせ、イノセントハートを構えて砲撃を撃つ。

 潤は咄嗟に横に跳び、避けた。

 

「手前勝手な理由で逃げ出して、逮捕行動に出た局員への暴行。容疑者はこれについて意味不明な供述――これ以上ぼくを苛つかせるな」

 

 砲撃を止めると同時、ソニックムーブを使い、潤の背に回り込む。

 玄月を突き出すと、寸前で反応した潤は身体を捻って避ける。

 ぼくはそのまま踏み込み、斬りつける。刃は潤の肩を捉えた。

 返す刃で左に斬り上げ、イノセントハートで思いきり殴り付ける。

 ぐぁ、と潤が呻き、ぼくを睨んで吼える。

 

「――いい加減に!」

「するのはお前だと言ってるんだよ!」

 

 潤は炎砲撃を撃ってくるが、脅威では無い。ぼくはフィールド防御だけで炎の中を突っ切り、イノセントハートを握ったままの右手で顎を殴り上げる。

 仰け反った潤の脇腹にイノセントハートの石突で殴打、鳩尾に玄月の柄を食らわせ、飛行魔法を瞬間的に発動し、加速させた空中回し蹴りを抉るように叩き込んだ。

 

「お前の実力なんて知れてる。昔ならいざ知らず、今のぼくにお前が勝てるわけがないだろう」

 

 潤は膝を付きながら、笑った。

 

「今の、か――お前のそのスタイルか? 杖と刀の二刀流」

「ああ」

 

 ぼくはイノセントハートと玄月を見せ付けるように両手を広げた。

 

「あれからぼくはずっと訓練を続けてきた。そしてこれを身に付けたんだ。杖による射砲撃。武器による近接戦闘。ぼくはそのどれもが人並みにできるが、切り換えは難しく、不安定だった」

 

 ぼくは一歩踏み出し、続ける。

 

「しかし、訓練を続けて。それぞれの技量を上げていくと、ぼくはわかったんだ。閃いたと言ってもいい。『切り換えるのではなく、同時に使えばいい』と。組み合わせるのではなく、使いこなすんだ。全ての技能を。それを用いる自分自身を」

 

 ぼくは笑った。

 

「杖と刀を両手に持ち、使いこなすこと。それに振り回されない様に、全てを鍛え上げた。これこそが、『万能型』であるぼくの完成形だ」

 

 横でティルクが感心したように声をあげた。

 

「なるほど、『精神的な余裕』か。シグナム二尉が言っていた事は正しかったわけだ」

「ああ、そういうことだ。今のぼくなら、たとえクォーツ達がまとめてかかってきても勝てる自信がある」

「高町一尉達じゃないのか」

「姉さん達相手なんて無理に決まってるだろ」

 

 ぼくが飄々と答えると、ティルクは呆れたように吹き出した。

 ぼくは笑われたことにムッとしたが、すぐに玄月で潤の蹴りを防いだ。

 

「余所見してんな! 俺を馬鹿にしてんのかよ!!」

「今のお前は相手にならないって言ってるんだよ!」

 

 ぼくは蹴りを受け止めた体勢のままイノセントハートを構え、ショートバスターを食らわせる。

 うわっ、と声をあげて潤が吹き飛ぶと同時、ぼくは距離を詰めて玄月を振り下ろし――炎の尾に阻まれた。

 

「リンドヴルム……」

 

 潤が呆けたように名前を呼ぶと、蛇は舌を出すようにして応えた。

 フォワードが抑える間も無く、こちらに来て潤の援護をしに来たのか。

 

「すみません、一騎さん!」

「急に飛んでいって――うわっ」

 

 壁を蹴って蛇に突っ込んだエリオに対して、前足の爪が振るわれた。

 ぼくは咄嗟に高速機動でその間に割り込み、シールドで防いだ。

 

「しつこいんだよミミズが!」

 

 ぼくは怒鳴ると、シールドを解いて飛行魔法を発動し、蛇に向かって飛ぶ。

 蛇はぼくの罵倒に苛立ったように吼えると、ぼくに向かって加速してくる。

 身体の向きを調整して角度を変え、蛇とすれ違うようにして玄月で斬りつける。

 斬った後の隙に、蛇の尻尾がぼくの肩を打った。

 

「――おおおおおおおおっ!!」

 

 すぐに方向転換。もう一度蛇に向き直り、加速して攻撃。今度は爪とかち合い、ダメージは無い。

 もう一度。今度は刃が炎を裂くのを感じる。

 そうして人外との空戦機動(シザース)を繰り返していくうちに、ぼくは押し負け、爪に玄月を弾かれた。

 さらに尻尾で打ち付けられ、地面に向かってまっ逆さまに落ちていく。

 

「ぐぁっ――!」

「一騎さん!」

 

 墜ちる。衝撃に備えてフィールド防御出力を最大にする前に、ウイングロードを伸ばしていたスバルがぼくを受け止めてくれた。

 

「大丈夫ですか!?」

「ああ――」

 

 ぼくは両手足首にある魔力翼を羽ばたかせると、飛行魔法を発動し直し、浮かび上がる。

 

「――助かった。ありがとう」

 

 ぼくが頭を下げると、助けることができたからか、スバルは嬉しそうに笑った。

 それにぼくも笑い返し、表情を引き締めて上空の蛇を睨む。

 

「それにしても、随分と強い蛇だな。なんなんだ、あいつは?」

「わかりません。潤さんのガントレットから出てきたように見えましたけど――」

 

 ぼくはそれを聞いて考え込む。

 ガントレット。確かあのケーニッヒ・フランメは古代ベルカの物だ。なら、それ関係の生き物だろうか。

 ともあれ、潤に関係しているのは間違いない。なら、潤を倒すのが一番てっとり早い方法だろうが、あの蛇はそれをことごとく邪魔してくる。

 ぼくはスバルに指示をし、玄月を回収して鞘に納めると、みんなのもとへ降りた。

 ティルクに目配せをすると、彼は頷き、潤に対して剣鋸を構えた。

 ぼくはそれを見届けると、フォワードの四人を見回す。

 

「蛇を先に仕留める」

 

 ぼくの言葉にみんなは驚いたようだが、すぐに頷いた。

 簡単だ、とぼくは続ける。

 

「ティアナ、スバル、エリオ。少し時間を稼いでくれ」

 

 三人が頷くと、ぼくはキャロに目を向ける。

 

「奴にバインドを掛ける。キャロ、協力してくれ」

「はい!」

「よし――頼むぞ」

 

 ぼくはカートリッジをロードし、魔方陣を展開すると同時、ティアナ達三人が行動を起こす。

 ぼくはティアナの弾丸と、スバルのウイングロード、エリオの機動の邪魔をしないルートをオーグメントで選定し、そのルートに沿って設置型バインドを仕掛けていく。

 キャロのサポートを得ることで、ぼくは設置する距離を遠くまで、バインドの強度を強めて構築していく。

 そして、フォワードの援護のおかげで、バインドは容易く完成した。

 

「レストリクトロック――捉えた!」

 

 バインドは、合計五つ。

 蛇の首、両足、腹、尻尾にそれぞれが嵌め込まれ、空中に磔にする。

 

「古代ベルカの竜だかなんだか知らないが」

 

 ぼくはカートリッジを全てロードし、新たにマガジンをリロードすると、左手を翳す。

 すると、円を描くように、六つの魔方陣が展開される。

 

「大昔の霊体が、いつまでも居座ってるなよ」

 

 六つの魔方陣全てに、魔力を集中させる。

 

「いくぞ、イノセントハート!」

《はい、マスター!》

 

 魔方陣から砲撃を撃ち出す。

 六角形の頂点を象るように、砲撃は六方向に分かれて撃ち出される。

 撃つと同時、ぼくはソニックムーブを発動し、蛇の目の前に高速で移動する。

 そしてイノセントハートをブレードフォームにし、玄月を抜く。蛇に肉薄すると同時、両手の刀を全力で振るった。

 ぼくの両腕は凄まじい勢いで加速し、ぼく自身の視界にさえ、刃の軌跡しか映らないほどの速度で蛇を斬り刻んでいく。

 

「全力!」

 

 吼え、双刃を交差させて斬り抜ける。

 

「全開!!」

 

 ぼくが蛇の後ろを取った瞬間、撃ち出した六つの砲撃は、蛇を囲むようにして集束して撃ち抜く。

 トライデントスマッシャーの応用だ。威力を分散させ、砲撃の数を増やしたもの。

 その六つの砲撃が着弾する頃には、ぼくは玄月を鞘に納めてエクシードモードに切り換えたイノセントハートを構え、魔力集束を完了している。

 

 そして、ぼくはイノセントハートを振り下ろした。

 

イノセント(Innocent)レクイエム(Requiem)!」

 

 集束砲撃を撃ち出す。

 七つ目の砲撃。それは先の六つとは比べ物にならないほどの威力を発揮し、六つの砲撃ごと蛇を呑み込んだ。

 

「無辜の魂を、その果てに……眠れ、安らかにな!」

 

 呟き、ぼくはイノセントハートを握り締め、カートリッジをロードした。

 

「ブレイク――シュート!!」

 

 更に砲撃が上乗せされる。

 その間、蛇の悲鳴が場に轟いていた。

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