魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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62話 Original Episode 12

 砲撃を撃ち終え、イノセントハートが蒸気を吹き出した。

 ぼくは息を荒くしながら目を細めると、炎で象られた蛇は大きく吼えながら地面に墜落し、悲鳴とともに四散した。

 それを見届けて、ぼくは大きく息を吐いた。

 

「……逮捕行動に移る」

 

 玄月をもう一度鞘から抜き、潤を牽制しているティルクの隣に降り立つ。

 

「終わったな。帰ったらそのガントレット、詳しく調べさせてもらうぞ」

「これで勝てる見込みは完全に消えた。斎藤、今すぐ投降しろ」

 

 ぼくはイノセントハートを潤に向け、砲撃のチャージを開始する。

 潤は俯いたままで、なんの反応も返さない。

 左手をかざし、バインドを掛ける。

 拍子抜けするほどあっさり、潤の身体にフープバインドが巻き付いた。

 

「投降の意思表示と見ていいんだな」

 

 潤は掠れた声で、ああ、と頷いた。

 その瞬間、潤のバリアジャケットが解除され、膝をついて倒れ込んだ。

 

 

~~~~~

 

 

魔力切れ(エンプティ)だ。まあ、あれだけの身体強化を長時間続けて、ましてやあんな蛇――どういう魔法か知らないが――を出してたんだ」

「当然と言えば当然だな」

 

 ティルクはぼくの言葉に同調すると、制服姿に戻った潤を肩に担いだ。

 

「さて、どこへ護送するか。近場だと地上本部だが」

「うーん……ん?」

 

 ぼくは腕を組んで唸ると、オーグメントにマップデータが表示され、多数の反応がこちらに向かってきているのがわかった。

 

「一騎さん、誰か来ます」

「魔力反応多数……ああ、地上の航空魔導師部隊だ。相変わらずのお早い出動で」

「……だが、俺が最初に斎藤と戦闘を開始してから、15分ほどだ。昔に比べれば仕事は早くなった方だが――」

 

 ティルクの言葉に、それだけしか経ってないのか、とぼくは少し驚いた。

 体感としてはかなり長い間戦っていたと思っていたのだが。

 

「あ、来ましたよ」

 

 スバルが見上げた先に、十数人ほどの小隊が飛んできているのが見えた。

 それらはぼくらの目の前に降り立ち、隊長と思われる一人が現状を見て、ほう、と息を吐いた。

 

「容疑者は?」

 

 ティルクは黙ったまま、担いでいる潤を動かした。

 

「遅れたことは謝罪する。では、容疑者の護送はこちらで引き受け――」

「いや、こちらがやる」

 

 ティルクは淡々とそれだけ言った。

 そのあまりに突き放した態度に、ティアナ達が少し驚いたようにティルクを見た。

 そして、戸惑うような視線をぼくに向けてきた。

 まあ、その反応は仕方がないかもしれない。

 

「しかし、逮捕行動でお疲れだろう。せめてもの詫びに――」

「詫びるくらいなら、少しでも早く来ることだ」

 

 今のティルクは、本気で怒っている。

 潤と戦ったときの様な、怒鳴り散らしていた時とは真反対の怒りだ。

 面倒事になりませんように、とぼくは溜め息を吐いた。

 

「お言葉だが、こちらも最大限の努力をしている。人員を集め、作戦を説明し、出撃する」

「なら、手際が悪すぎるんだ。人集めなんて二分、説明は移動しながらで充分。時間がかかることなんて無い」

 

 ティルクの物言いが、相手の隊長さんの気に障ったようで、眉をひそめて言い返してくる。

 

「そちらの所属を問いたい。このように失礼な物言いをされると、こちらとしても不快だ。所属と階級を添えて、貴君の言動を報告させてもらう」

 

 そのあんまりにあまりな物言いに、ぼくは呆れ、フォワードはティルクを心配そうに、不安そうに見ている。

 

「名を問うならば、そちらから名乗るべきだ。礼儀を知らぬのはそちらも同じだろう」

「……失礼した。ニルス・クレスト三等空尉だ。では改めて、そちらの名は?」

 

 この隊長さんはティルクより二つ階級が上であるらしい。

 こんな歳を取った人なのに、18歳のヴィータさんや、20歳(ハタチ)のアレクセイ、ハーヴェイと同じ階級というのは、なんともアンバランスな気がして可笑しかった。

 ぼくがそんな事を表情に出さずに考えていると、ティルクはゆっくりと口を開いた。

 

「ティルク・アローン空曹長」

 

 その名前を聞いた相手の数人が、聞き覚えがあるかのように首をひねった。

 

「ティルク・アローン、って……もしかして『強行偵察課』の?」

 

 その言葉が聞こえてきた瞬間、空気が凍った。正確には、相手の小隊全員に緊張が走った。

 

「強行偵察課って、あの?」

「フォレスタ二佐が立ち上げた部隊だよ。合法非合法問わずに違法研究所を潰して回ってる、っていう」

「次元犯罪者の逮捕も行ってるって聞いたが」

「けど、その任務全部で、人を……」

「……人殺しの部隊」

 

 尾ひれが付くのは当然だが、いくらなんでも大袈裟だ。『強行偵察課』は確かに色々と行動を起こしているが、そこまでの悪名だとは思わなかった。

 その部下の言葉を聞いた隊長さんが、咳払いをしてから話を再開させる。

 

「強行偵察課か。噂はかねがね」

「航空武装隊ほどでは無い」

 

 ティルクは意に介さず、そう返す。

 しかし、僅かに。訓練を受けているぼくにでさえ、ほんの僅かにしかわからないが。

 少しだけ、ティルクの言葉が震えている。

 

「しかし、いい加減にしてもらいたい。これから取り調べもあるし、遺体の調査等やることが山程ある」

「だから我々がこのまま護送を行うと言っている。やることがあるのなら、そちらを優先してもらって構わない」

 

 この隊長さんは意地でも自分達の手柄にしたいらしい。

 ぼくは溜め息を吐いて、ティルクの前に進み出る。

 隊長さんが、ティルクより背の低いぼくを見て怪訝な顔をした。

 

「もういいでしょう。手柄を貰おうとするなんて、部下の前でみっともないですよ」

「失礼、貴君の名は?」

 

 ぼくはそう返され、少しだけためらった。

 けれど、すぐに開き直ることにした。

 姉さんの威を借るようで申し訳ないが、この位のことならみんな許してくれるだろう。

 ぼくはそう考え、ゆっくりと口を開いた。

 

「高町一騎空曹です」

「ッ……『エース・オブ・エースの弟』?」

 

 ぼくは頷き、笑う。

 

「こちらの態度が悪いことについては謝罪します。ですが、こちらにとってもいい気分では無いのですよ。後から成果だけかっさらおうとするあなた達に対しては」

「言いがかりを。今の言葉、のちほど――」

「あまりにしつこいようでしたら、こちらも相応の対応をしますが」

 

 ぼくは語尾を強めて言った。ぼくにはコネがたくさんある、と思わせることで、相手が感じるぼくに出来る(と考えられる)選択肢の幅を広げさせる。

 ぼくは自信に満ちた表情で隊長さんの目を見る。

 

「よろしいですか。ニルス三尉」

「……了解した。護送はお任せする」

 

 隊長さんは諦めたようで、部下を連れて去っていった。『弟』という肩書きも一人歩きしているようで、幾分か尾ひれが付いているようだ。

 思っていたより楽だったな、とぼくはそれを見送り、ティルクに向き直る。

 彼は潤を背負ったまま、無表情で立っていた。

 ティアナが心配そうに声を掛ける。

 

「ティルクさん……大丈夫、ですか」

「なにがだ」

「先程の――」

「気にしていない。そもそも、いわれの無いことで愚痴愚痴言われるのは慣れている」

 

 そう言い切り、話を終わらせた。

 ティルクは微笑んでフォワードを見渡し、

 

「協力に感謝する。皆は先に隊舎に戻っていてくれ。あとで逮捕時の事を聞きに捜査官が来るだろう」

 

 言うや否や、ティルクは地上本部の方角へゆっくりと歩き始める。

 ぼくはどうするべきか迷った。

 フォローをするべきか。それとも、フォワードに任せるべきか。

 今のティルクはかなり参っていると思われる。

 

「……人殺し、か」

 

 ティルクが小さな声で呟いたのが聞こえてきた。

 それを聞いて、ぼくはティルクの方へ歩いていき、担いでいる潤を奪い取る。

 

「高町?」

「お前も疲れてるだろ。先に休んでな。ぼくが運んどくよ、こいつを」

「しかし、負担はどちらも同じだろう。まして、お前は身体が小さいし、さっき集束砲を撃ったばかりだぞ」

「ぼくがこの程度でバテるわけないだろ。あと小さいとか言うな。お前がでかすぎるんだよ」

 

 本当はかなり疲れているのだが、精神的にはまだまだ元気だ。少なくとも、ティルクよりは。

 というか、身長192センチとか、ティルクはふざけてるんだろうか。少しでも寄越してもらいたいものだ。

 

「手柄は貰っとくよ、分隊長。ぼくの活躍、姉さん達に伝えてくれ」

 

 それだけ言い残すと、ぼくは空を飛び、地上本部の方角へ向かった。

 

 

~~~~~

 

 

 取り残された俺は高町を追う気力も無く、その場に座り込んだ。

 そして顔に手を当て、大きく息を吐く。

 

――流石に、正面から言われると堪えるな。

 

 人殺し。

 確かに、そうだ。俺達は人を殺してる。自分達の手で直接ではないにしろ、殺しているのにはかわりない。

 『強行偵察課』に入隊したことを後悔するつもりはさらさら無いが、なんとも気分が悪くなってしまう。

 普段は気にしないようにしていたが、やはり『強行偵察課』の評判は良くないようだ。

 

(俺達全員、あんな風に言われてるんだろうか)

 

 俺と高町と斎藤。ディレンド達八人、ケレット二佐やモルス一尉達。

 もしそうだとすると、自分以上の不快感が沸き上がってくる。

 苛立ちに似た不快な感情を抑えようと耐えていると、隣に誰かが座った。

 

「……ランスター」

 

 

~~~~~

 

 

「よし行けランスター嬢。ティルクは参ってる。今がチャンスだやっちまえ」

「うわっ、クォーツさん?」

「クォーツさん、いつのまに……」

「こんな面白そうなイベント、阿呆(ぼく)が見逃すはずが無いだろ」

 

 僕はそう言いながら、ティルクの隣に座り込んだランスター嬢を指さす。

 ナグリーから受け取っていたムービーカメラをもう一度起動させ、座っている二人に向けて設置する。

 実はさっきの姉御達の戦闘も録画済みである。

 姉御が格好よく「紫電一閃」とか叫びながら参上したあのシーンから、リンドヴルムとかいう蛇との空戦機動(シザース)、果ては『イノセント・レクイエム』という姉御の砲撃・斬撃の集大成と見える必殺技まで、映画さながらのカメラアングルで録れている。

 あとで高町一尉達に送信しておこう。そのお礼にサインをもらうとしよう。そうしよう。

 

「しかし、戦闘は終わりか。僕も援護に回ろうかと思ったんだけど、やっぱ無理だね。僕は局員に向いてないわ」

「あ、そっか……クォーツ、やめちゃうんだっけ」

「ふはは。何となく合わないような気がするだけだけどね」

「辞めて、どうするんですか?」

 

 少年の言葉に、僕は腕を組んで唸る。

 

「ふーむ……考えてないなぁ。まあ、なるようになる。死にゃせんだろうしな」

「困ったことがあったら、気軽に相談してくれていいからね」

「ありがてぇ。そんときゃ頼りにさせてもらうぜ、ナカジマ嬢」

 

 そこで、念話が僕の頭に響いてきた。

 姉御だ。

 

(クォーツ、そこにいるんだろ?)

(ん、バレてたか、仕方ない。どした姉御)

(……すまん。潤を運ぶの、結構キツい。手伝ってくれ)

 

 姉御の、その申し訳なさそうな口調に僕は思わずニヤニヤと笑ってしまい、気味が悪そうに少年とルシエ嬢が顔をしかめた。

 

「いや、申し訳ない。ちょっと姉御のお手伝いしてくる。あのカメラ、しっかりと回収してくれよ」

「任せといて!」

 

 ナカジマ嬢の元気の良い返事に満足し、僕は姉御の居る方角へ身体の向きを変え、飛行魔法を発動して飛び立った。




(……なんで俺はティアナとティルクをくっつけようとしてるんだろう)
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