魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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65話 Original Episode 15

 六課中にばら蒔かれたぼくの画像を全て回収し、阿呆共を叩きのめしたあと、潤の面会許可がでたようなので、ぼくは潤の収容された隔離施設へ向かった。

 入る前に扉の前で立ち止まり、念のため、制服の身だしなみを整えてから施設に入る。

 

「高町一騎空曹です。面会したい」

 

 受付で七面倒な手続きとIDカードの認証を済ませ、隔離室に向かう。

 扉を開けると、部屋には潤が一人で座っていた。

 

「「よう」」

 

 同時に声を出し、片手をあげる。

 ぼくは歩いていって、潤の隣に腰をおろした。

 

「元気そうだな」

「ま、そらそうだ。やることねぇのに、どうやって疲れるっていうんだ。筋トレしただけで注意されるんだぞ。仕事熱心なのはいいことだが、少しは手ぇ抜いてもらいたいね」

 

 潤はそう、からからと笑った。

 普段通りだ。おかしなところは無いように見える。

 

「なんで逃げたんだ」

 

 ぼくは取りあえず、一番気になっていることを聞いた。

 

「取り調べか?」

「まさか。オフレコさ」

 

 潤はぼくの言葉に少しだけ目を閉じたが、あっさりとした口調で話し始める。

 

「別に。俺は両親を次元犯罪者に殺された。だから俺は、そんな奴と同じ『犯罪者』になりたくなかっただけさ」

 

 どういうことだ、とぼくは聞く。

 

「どういうもなにも、そのままさ。俺は犯罪者に両親を殺されて、俺自身も殺されかけた。そんとき局員の人に助けられて、保護された。管理外世界出身の俺がミッドにいたのは、それが理由さ。家族はもう居なかったし、魔力資質があるのがわかって、全寮制の訓練校をすすめられた」

「その局員って?」

「わからん。顔も覚えてないが、背の高い男だった。まあ、今会ったってわからんし、構わねぇけどな」

 

 ぼくはとりあえず納得する。

 どうやら、たいした理由じゃなさそうだ。

 

「じゃあ、あの蛇は?」

「俺にもわからん。わかるのは、あいつは大昔の竜だってこと。精神体のような形で、あのガントレットの中に入っているということ。そして――」

 

 ――リンドヴルム(あの竜)は、『炎熱』の始祖だ。

 

「始祖って、なんだ」

「『炎熱』ってのは魔力を変換プロセスで炎に変えるもの。そう思ってたし、俺が持ってる『資質』もそうだ。けど、そうなる(・・・・)前には、当然『炎熱変換』なんて無かった」

 

 急に始まった昔話にぼくは怪訝に思いながらも、とりあえず続きを聞く。

 

「純粋に『炎』があったんだよ、古代ベルカには。『炎熱』ではない『炎』。それを操る『竜』と、それと契約した『帝』が」

「……で、その『帝』とやらが『炎』を得て、改良した結果『炎熱』が出来た、とか、そういう話だろ」

 

 話を先取りしたぼくに、潤は驚いたような顔をした。

 

「そうだけど……なんでわかった?」

「そこまで聞けば想像がつく。それじゃあ、お前はその『帝』とやらの血縁だとでも言うつもりか?」

「いや、厳密には正しくない。俺を含めて、今次元世界中にいる『炎熱』の変換資質の持ち主。そいつら全員が、ほんの僅かずつだが、『帝』の血をひいてるんだ」

 

 これには流石に驚いた。

 

「そんなに大勢?」

「大昔の王様だぜ。子供だっているだろうし、なにより次元世界がたくさんあるんだ。少しずつ広まっていったって、ちっとも不思議じゃないぜ」

「……その知識は」

「リンドヴルムが教えてくれた。偶然俺も『炎熱』だったからな。何かの縁だと思ったんだろ」

 

 ちなみに容姿も似てるらしい、と締め括る。

 ちょっとした勉強になったな、とぼくは考え、

 

「話は戻るが、それはお前が逃げたことと関係あるか?」

「いいや、無い」

 

 ぼくは溜め息を吐いて立ち上がると、ズボンについた埃を払う。

 

「だったら尚更だ。罪は罪、なんて言うつもりはないけどな。お前が逃げなきゃ、少しでも更正期間は短くなったはずだ。レイナだって、お前が居なかったら、これからどうすればいい?」

 

 潤は答えず、顔を伏せた。

 

「ぼくが言いたいことはそれだけだ。更正期間中、精々勉強して出直すことだな」

 

 ぼくがそう言って踵を返すと、袖を掴まれた。

 

「勝手だってのはわかってる」

 

 潤は小さな声で呟いた。

 

「レイナを頼む。今の俺は、あいつに対してなにもしてやれない。頼む、レイナを守ってくれ」

 

 顔は伏せたまま。しかし、その声は今までに聞いたことが無いほどに弱々しく、か細かった。

 なんだかんだ、潤が参ってるのはわかってる。けれど、ぼくはその言葉に強烈な嫌悪を感じた。

 

「お前は、一方的な都合ばかり……!」

 

 ぼくは苛立ち、口からその言葉が漏れた。

 

「やりかたは幾らでもあっただろうが! あの主任を殺したのはお前で、逃げ出したのもお前だ! 殺さなくても、拘束するなり、レイナを先に解放するなり――幾らでも!」

 

 その言葉を聞いて、潤がぼくを睨み、

 

「お前が俺と同じ状況になって、同じことを言えるか!? 高町一尉がレイナと同じ状況になってたとして、お前はそれでも同じことを言えるってのか!」

「知るかそんなこと!」

 

 あまりにも簡潔なぼくの返答に、潤は呆れと驚きが混じりあった表情になる。

 

「その時にならなきゃわからんさ! けど、ぼくは姉さんを助けるために出来ることをする! 最善ではなくても、最悪な方法を避けてな!」

「俺の言い分だって同じだろうが! 俺は『最悪』を避けた! レイナの死、っていう最悪をな!」

「『数年間レイナに会えない』っていう代償と比べてもか!?」

 

 潤は歯軋りをした。この程度で言い負かされるなんて、普段のこいつならあり得ないことだ。

 やはり、こいつはかなり参っている。

 

「お前がどんな過去を持ってようが、どんな考えで主任を殺そうが、なんだっていい。ぼくはそんなのに興味はない」

 

 ぼくは潤の手を振り払い、

 

「今お前に必要なのは、充分な時間だ。幸い、それはこれから手に入る。ゆっくりと頭を冷やすんだな」

「……ああ」

 

 突き放すようなぼくの言葉に、潤は力が抜けたように座り込んだ。

 

「レイナのことは任せておけばいい」

 

 そして、その言葉に、顔をあげた。

 

「お前にはあるが、レイナに罪は無い。ティルクも同じ考えだ。レイナはぼくらが守ってやる――さっさと出てこいよ」

 

 そう言い切り、ぼくは部屋を出た。

 

 

~~~~~

 

 

「おかえり」

 

 寮の自分の部屋に戻ると急にそんな声が聞こえ、ぼくは咄嗟に身構えたが、それがレイナによるものだとわかると、ほっと息を吐いて拳を下ろした。

 

「レイナ……なんでこの部屋に?」

「お兄ちゃんの部屋がどういう感じなのか、見てみたかったから」

 

 考えてみれば、レイナはこの部屋に来たことが無いんだったか。

 そんなレイナの興味は、部屋の半分を占めている潤のトレーニング器具に向いていた。

 

「これ、お兄ちゃんの?」

「ああ。訓練が無い時――六課に来てからは結構な頻度だけど――に、それで鍛えてる」

 

 最近はぼくも使わせてもらっている。

 

「魔法は?」

「ん?」

「お兄ちゃんや皆は、どんな風に魔法を習ったの」

 

 おそらく、自分がどう魔法を習うべきか、考えてるんだろう。

 ぼくは椅子に座り、首もとを掻いた。

 

「潤達は、基礎を学んだあと、実戦形式の訓練で鍛えてきた。もちろん、教官の指導とかはあったけど、殆どは自分で考え出した戦い方だ」

 

 自分で? と、首をかしげるレイナに頷く。

 

「自分ができる事や得意な事を見付けて、それを中心に鍛えていく。潤にとっては、近接格闘がそれだな。まあ、潤の格闘技術は、ミッドでよく見るストライクアーツとは違って、少し無茶苦茶なものだけどな」

 

 拳が来ると思ったら蹴りが飛んできたり、殴りに来たと思ったら掴まれて投げられたり。

 それはそれで見切りにくいし、インファイトで打ち合うにはかなり苦労するけれど。

 

「魔法も同じだ。自分に合った種類の魔法で訓練をして、経験を積んで、戦い方を確立させていく。クォーツ達の中じゃ、レイドがこの代表だな。アイツは直射弾の速度と精度がかなり高いから、狙撃手として戦ってる」

 

 『本気に徹甲弾を撃てばヘリだって一撃で落とせる』と言っていた。どこまで本当かは知らないが。

 

「ティルクは父親から剣を習った、って言ってた。ぼくやティルクみたいに、誰かから習うのが一番だとは思うけど、潤やクォーツ達みたいに、自分で戦い方を見つけるのも悪くはないと思うよ」

「私はどんなのが向いてるかな」

 

 ええっと、とぼくはあごに手を当て、レイナの資質を思い出す。

 

「確か、圧縮・強化系だったよな。射撃は苦手だし、身体強化、もしくは物質強化に適性があるんだから、潤やティルクみたいな近接戦闘(クロスレンジ)を重視すると思うんだけど。剣とか槍とか、武器を使ってみたいか?」

 

 レイナは首をふった。まあ、当然か。

 

「ってことは、徒手格闘か」

 

 レイナの頷きを見て、ぼくは唸った。

 潤の影響なのは明らかだ。ならば、ぼくがそれを教えることはできない。

 ぼくの格闘はザフィーラの真似事だ。魔力を纏わせた拳を無理矢理叩きつけるタイプの、言ってしまえばごり押し拳法。

 潤の回避重視のスタイルとは正反対だし、そもそもレイナが徒手格闘の中でどんなものに向いているのかがわからない。

 

「もし徒手格闘をしたいなら、潤と同じように、自分に合った格闘スタイルを見つけなくちゃならない。それはぼくにはどうしようもない」

「……わかった」

「まあ、自分なりに訓練してみるといい。助言ならぼくにもできるし、他の人だって喜んで協力してくれるさ」

「うん」

 

 レイナはそう頷くと、潤のトレーニング器具をじっと見つめた。

 

「……それはやめとけよ」

 

 ぼくの呟きに、レイナは残念そうに肩を落とした。

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