魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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66話 Original Episode 16

「ティルクの様子が変?」

 

 最近はいつも変だろ、と言い掛けてぼくは寸前でとどまった。

 その話を振ってきたティアナに、とりあえずオウム返しに訪ねる。

 潤が問題起こしたと思ったら、今度は分隊長か。ぼく含め、本当に『偵察課』は問題が多すぎる。

 

「具体的にどう変なんだ?」

「えっと、上手く言えないんですけど……時々塞ぎ込んでいるようでして」

「……あいつが?」

 

 ティルクが塞ぎ込んでいる、というのが想像つかない。普段から生真面目なくせして向こう見ずで、戦闘でも剣と盾を構えて敵に突っ込んでいく身長190㎝越えの脳筋野郎が。

 そう考えていたことが口に出ていたらしく、ぼくの言い草にティアナが苦笑いを浮かべた。

 

「うーん、今のところ心当たりは無いな。とりあえずぼくの方から聞いてみるよ」

「あ、すみません、ありがとうございます」

「……随分と御執心だな」

 

 小さく呟いた言葉は運良く聞こえなかったらしく、ティアナは不思議そうに首をかしげた。

 なんでもないよ、とぼくは笑い、

 

「休憩終了! 訓練再開するぞー!」

 

 そう、声を張り上げた。

 はい、という元気なフォワード陣の声、うーい、というやる気無さげな阿呆共の声。無言で立ち上がるアンソニー達三人。水分補給のボトルを皆から回収する癒し要員のレイナとヴィヴィオ。

 そして、大きく息を吐いて剣鋸を地面に突き立て、それを支えに立ち上がる金髪の騎士殿。

 

(……様子が変、ねぇ)

 

 そう考えながら見ていると、ティルクと目が合った。ぼくは不自然にならない程度に笑いを浮かべて誤魔化し、右手にイノセントハートを握り、左手で玄月を鞘から抜いた。

 両手を軽く振りながら、姉さんの隣へ移動する。

 

「それじゃ、模擬戦始めるよ。一騎、フォワードの相手頼める?」

「え、またぼく?」

 

 ぼくは不満を顔に出し、姉さんに聞き返す。既にフォワードの技能はそれぞれAAランクはゆうに越えているはずだ。以前よりぼくも鍛えているとはいえ、全力を出しても四人相手は少し厳しい。

 『弟』としての意地で、絶対に『勝ち』にいくが。

 うわ、不満そう、と姉さんはくすくす笑い、

 

「じゃあ、他の人に任せる?」

「そうだな……じゃあ、防御寄りの二人を相手させるか。ティルク、アレクセイ! ちょっと来てくれ!」

 

 ぼくが玄月をぶんぶんと振りながら呼ぶと、アレクセイが大盾を背負い直し、ティルクは剣鋸を腰の鞘に納めて、こちらに歩いてくる。

  

「どうした」

「フォワードの模擬戦相手、頼めるか」

「俺とティルクが、か」

「うん」

 

 ぼくの頷きに、アレクセイがティルクを見る。

 

「行けるか?」

「ええ、問題ありません」

「よし――引き受けよう」

 

 

~~~~~

 

 

「長引いてんな」

 

 フォワード陣とティルク・アレクセイの模擬戦を眺めていると、ヴィータさんがグラーフアイゼンを肩に担ぎながらそう呟く。

 

「あの二人の強みは頑丈さですし。元の体躯も結構なものだし、何よりも――」

「――『盾』か」

「ええ、その通り」

 

 ちょうど今、アレクセイが盾に防御魔法を上乗せしたところだ。

 金属でできた大盾が淡く発光し、右腕にそれを持ったアレクセイは腰を落として構える。

 その盾はスバルが繰り出した拳を真っ向から受け止めた。ナックルと盾がぶつかる重厚な金属音が響き渡り、ぼくは顔をしかめる。

 雄叫びをあげながら勢いを増すスバルに対し、歯を食い縛り、地面を抉りながら耐えるアレクセイ。

 その拮抗を破ったのはアレクセイだ。真っ向から止めていた拳に対し、僅かに角度をずらし、更に力を緩めた。

 それにより、スバルのナックルは防御を抜き掛ける。が、アレクセイほその僅かな力の緩みを見逃さず、盾を思いきり跳ね上げた。

 盾はリボルバーナックルのスピナーの部分をかちあげ、スバルは腕を大きく上に弾かれた。

 

「おお。完璧なタイミングだ」

 

 ヴィータさんが声をあげる。ぼくも頷き、

 

「やっぱりアレクセイ、すごいな。防御に関しては局でも一番かも。素の防御力も桁違いだけど、ああいう弾き返し(パリィ)とかの技術も滅茶苦茶うまいんだよな」

 

 盾というのは、どこかのゲームのように『とりあえず構えていれば攻撃が防げる』なんて簡単なものではない。

 相手が繰り出してくる攻撃に角度を合わせ、受け止める、もしくは受け流す。高速戦闘中のそれは口で言うほど簡単なことでは無く、今アレクセイが置かれている状況も含めれば、確実な防御は至難の技だ。

 しかも、盾が大きければ、そのぶん自分の視界も盾に遮られる。ティルクの様に小型のカイトシールドならまだしも、アレクセイのはそれこそ身の丈程の大盾だ。

 それを完全に使いこなしているアレクセイにとって、防げない攻撃など無いと断言することができるだろう。

 なにせ、『防御ごと潰すのが得意分野』なヴィータさんでさえ、アレクセイの盾を砕くことはできないのだから。

 

「すんげぇやっかいだな。かといってアレクセイにばっか構ってると……」

 

 アレクセイに腕を弾かれたスバルは即座に離脱に移る。マッハキャリバーを使い、後退する。

 そこで、真上から迫るティルクの剣鋸。

 寸前で気付いたスバルは横に身体を投げ出すようにしてその斬撃を避けた。掠る程の僅差で標的を逃した剣鋸は勢いのまま地面を大きく抉る。エリオとティアナがフォローに入り、全員が体勢を立て直す。

 

「アレクセイに気を取られていると、破壊力抜群のノコギリが襲い掛かってくる。なんとも面倒な布陣ですね」

 

 ティルクがゆっくりと立ち上がり、剣鋸を振るって土を払う。アレクセイが盾を持ち直すと、ティルクの前に陣取り、再び大盾を構える。

 

「しかも、気味が悪いくらい息がぴったりだ。ありゃ面倒くせぇぞ」

 

 げんなりとした表情のヴィータさんが言う。

 その通り。ティルクとアレクセイは相性が良い。戦闘スタイルという意味でも、なによりも人間的な、性格的な意味で、だ。

 ぼくとアンソニー、潤とハーヴェイ、ティルクとアレクセイ。強行偵察課の中でも、ぼくらとアンソニー達は、それぞれ戦闘スタイルや性格が合っている。それぞれがコンビを組めば、どんな相手との戦闘でも、自分達のペースで進めることができる。

 それは、今この模擬戦でも如何なく発揮されている。頑丈な『盾』を持ち、防御に優れた二人組を相手に、フォワードは攻めあぐねている。

 

「撃っても殴っても防がれる。不意打ちをするにも相手の隙は無い。かといって油断すると一撃で沈められる威力の『剣鋸(ゼーゲ)』や『(パイル)』が襲い掛かる」

「ありゃぁ望み薄、だな」

「ですね。ぼくと姉さんが複合砲撃(ブラスト)を撃っても、あの盾に防がれるんじゃないですかね」

 

 冗談と本気を半分ずつにその台詞を言い、ぼくはヴィータさんに笑い掛けた。

 そーかもな、とヴィータさんは興味無さげに同意した。

 

 

~~~~~

 

 

 結局、守りを固めたティルクとアレクセイの防御を抜ける筈が無く、フォワードはじわじわと消耗していった。

 その消耗を見抜いた二人は瞬時に攻勢に出た。がむしゃらに見えるような航空剣技で躍り出るティルクに、大盾に備えられたパイルバンカーを構えて突撃するアレクセイ。

 疲れ果てていたフォワード達が、長く持ちこたえられる道理は無かった。

 

「なんか大人気ないなぁ」

「自分でけしかけといて、よく言うな」

「うーん。フォワードなら面白い攻略法を編み出してくれるかな、って思ったんですけど。もう少し時間がいるかな」

「それじゃ、またあの二人をあてるのか?」

「ええ。姉さんに相談してみます」

「ま、それはそれでいい経験になるか」

 

 ヴィータさんも笑って頷く。

 そして、ぼくはヴィータさんをじっと見つめる。

 ぼくの視線の意味に気付いたヴィータさんは、うんざりしたように溜め息を吐いた。

 

「通算、6戦4勝2引分。まだ諦めてねぇのか、お前」

「言ったでしょ、勝つまでやるって。それに、最初こそ4回は負けてるけど、最後2回は引き分けなんですよ。もう少し続ければ勝てるかも」

「シグナムとやれ、シグナムと。なんでいつもあたしなんだよ」

「最初はヴィータさんもノリノリだった癖に……」

「飽きた」

「女心って難しいですね」

 

 ぼくの言葉に、ヴィータさんは鼻で笑った。

 

「じゃあ、魔法全部ありにしましょう。武器攻撃だけじゃなく、射撃魔法とかも全部ありの全力の模擬戦」

「イヤだ」

「ケチ」

 

 負けるのが怖いんじゃ、とか言う安い挑発に乗るような人でもない。ぼくはぶつくさと文句を垂れつつ、フォワードを蹴散らした二人のところへ歩いていく。

 

「お疲れさま、どうだった?」

「見ての通りだ」

 

 アレクセイが事も無げに言う。ぼくは軽く呆れた表情を浮かべ、

 

「感想を聞いてるんだよ」

「そうだな……中々のチームだと思う。それぞれの実力もある。思い切りも良い」

 

 アレクセイは中々に高評価だ。

 

「ティルクは?」

「ん? あ、ああ……そうだな。俺もだいたい同じだ」

 

 剣鋸を地面に刺し、その柄に手を置いてぼうっとしていたティルクが、ぼくの言葉にそう答えた。

 アレクセイがその不自然な返答に、首を僅かにかしげる。

 

「大丈夫か? どこかに食らったか?」

「は? いえ、問題ありません」

 

 そう首を振るティルクはいつも通りに見える。

 が、言われてみれば確かに違和感がある。

 

「……ふむ」

 

 まあ、少し様子を見るとしよう。

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