「お、お前……全力だったろ」
「ばれました?」
「当たり前だ。あの術、見たことあるぞ。テスタロッサ・ハラオウン執務官が幼少期に使っていた物だ」
「調べてるんですか?」
「今や『エース・オブ・エース』と並ぶ逸材だ。気にならない奴はいないだろう」
「たぶん、執務官なら削りきれたんでしょうけど。ぼくじゃまだ、足りないですね」
「それでも、二枚砕かれたぞ。俺も防御には自信があったんだがな」
ぼくと教官は同時に溜め息を吐いた。
結局、ぼくの
「だが、あれだな。お前は、まだ強くなれるんじゃないか?」
「なれますかね」
「ああ。末恐ろしいが、俺なんかよりも強くなるだろう。エース・オブ・エースにも、追い付けるんじゃないか?」
「教官は、姉さ――高町教導官と?」
「ああ。局の戦技披露会でな。ラストの砲撃を相殺して、すんでの所で勝った。おそらく、人生で一番の血戦だったぞ」
つまり、この教官は姉さんに勝ったのだ。
その事実に驚くと同時に、この教官に勝つことができれば、姉さんにも追い付ける、ということか。
もちろん、その日のコンディションや、ほんの僅かなミスなどでその結果になった、ということももちろんあるだろうが、あながち間違いじゃ無いはずだ。
「それじゃ、今日はこれで終わりだ。全員、ちゃんとダウンしとけよ!」
ちなみにぼくが魔力切れで気絶している間にチーム戦は終わったらしい。
空戦魔導師や騎士による集団戦を見逃したことを、ぼくはとても残念に思った。
~~~~~
「お前、本当に13か? 実は高町教導官本人じゃないだろうな」
「姉さんはもっと強いよ。それこそ、ぼくなんか比べ物にならないほどに」
斎藤にそう返しながら、ぼくはポニーテールを縛っている紐を解く。
纏まりがばらけ、背中に長い髪が流れ落ちる。
それを見て、斎藤がほう、と声を出す。
「お前が髪を伸ばしてんのは、姉の影響かい?」
「姉さんとフェイトさんの影響だ」
最初は子供心と、理想として
「ま、いいんじゃねえの。似合ってるぜ」
「ありがとよ。シャワー、先にいいかい?」
「言ったろ、レディファーストだ」
「紳士なことだ」
斎藤のからかいに、ぼくは皮肉を返した。
~~~~~
「今日は合同訓練だな」
「へえ、そうなんだ」
そう返すと、斎藤は呆れたような顔をして、
「朝礼で言ってたろが。居眠りこいてたのか?」
「そんなことはない。イメトレをしてたんだよ」
「マルチタスクが働いてないぜ、魔導師くん」
「マルチタスクを全て利用して、数種類のイメトレを同時にしてたんだよ」
その中のどれかで話を聞いておけよ、と斎藤が呟く。
「じゃあ、ぼくらが組むわけだな」
「そういうことだ。頼むぜ、相方」
「相方、ね。よろしく頼むよ」
~~~~~
「というわけで、コンビと合流してください。今から合同訓練です」
いつも通りに空戦機動と射砲撃の訓練を済ませると、陸を指導している方の教官が言う。
「よう、高町」
「ああ、斎藤」
ぼくは声をかけてきた斎藤に振り返る。
「相変わらずの腕前だな」
「お前、ちゃんと訓練受けてるか? ぼくの方ばっかり見てんじゃないぞ」
「俺をなめてもらっちゃ困る。これでも、陸の方じゃ名は知れてんだぜ」
斎藤がしゃくった方を見ると、回りの注目を浴びていることがわかる。
『おいおい、斎藤ってあんなひ弱そうなのとコンビだったのか?』
『斎藤? どんなやつなんだ?』
『ああ、恐ろしい高出力の身体強化魔法と、炎の変換資質を用いた拳法を使うらしい。それは、どの型にも当てはまらない、新しい拳法だと』
『それ、我流だろ』
『まあそうなんだがね』
『そう言った方がおもしろいだろ』
『こっちも聞きたいんだが、あっちのひ弱に見えるがなかなか整った顔立ちのアレは?』
『みんな大好き「エース・オブ・エース」の妹だ。姉に劣らない射砲撃の腕前だとか』
『あれ、弟って聞いたが?』
『え、男なん?』
『ああ、オレも弟と聞いている』
『あたりまえだろう。あんなにかわいい子が女の子な訳がない。女の子であることなど許されんのだ』
『マリク、てめえ変態か』
『なにをいまさら』
『……そんなに女顔か? アレ』
『まあ、そう見ようと思えば見えないこともないな』
確かに、ぼくも斎藤も有名らしい。
どうやらあのグループは阿呆の集まりのようだ。少し知った顔も混じっている。今後、関わることも考えておけば、楽しくなるだろう。
「ほらな、俺もお前も人気者さ」
「確かにな」
~~~~~
「障害物を回避しつつ、射撃スフィアをすべて破壊、フラッグの位置まで到達する。いいな?」
「
確認を済ませたぼくが頷くと、陸教官がモニターを操作する。
すると、地上には中型の射撃スフィアと、飛び越えられる程度の障害物が出現する。
上空には射撃スフィアのみだが、数が尋常じゃない。
「制限時間は……そうだな、お前らなら一分あればいいか」
空教官がタイムをセットする。
「GO」
その言葉と同時に、斎藤が駆け出す。
その反射神経と加速の早さに舌を巻きながら、ぼくは飛行魔法を発動して飛び、スフィアを破壊していく。
「高町! あとどれくらいだ!?」
「9秒で終わる!」
「了解!」
斎藤は既にコースの六割をクリアしている。
障害物を曲芸紛いの動きで飛び越え、その勢いを殺さずにスフィアに蹴りを叩き込む。
そのまま回転し、裏拳と正拳でスフィアを次々と破壊し、コースを疾走する。
やはり、腕はかなりのものだ。
ぼくがスフィアを殲滅し、斎藤の援護をしつつ、同時にフラッグ地点に到達したのは、それからすぐだった。
「ターゲットオールクリア」
「経過タイム48秒。かなりのもんだな」
二人の教官が言うと、それぞれがぼくらに注意をする。
「高町。お前は少し誘導弾と砲撃に傾倒しがちだ。せっかく使えるんだから、直射弾を利用すりゃ、もう数秒は早く破壊できるぞ」
「わかりました」
「斎藤は全体的に良いのですが、障害物を越える動きを考えて。遊びでは無いのですから、必要最小限の動きで越えるようにしてください」
「努力しますよ」
確かに、跳び越える時に一々回転などしていると、狙い撃ちにされるだろう。
というか、ぼくならする。
「越えやすいんだよな、あれ」
「サーカスにでも入りたいのかい」
「俺は局員になりにここへ来たんだ」
「ここにいる全員そうだろうさ。遊びで来ている奴は一人もいないぞ」
ぼくは訓練を続けているみんなを見ながら、
「全員、本気でやってるからな」
局員、か。そう斎藤が呟き、ぼくはどうした、と聞いてみる。
「なあ、管理局ってのは、どうして出来たんだと思う?」
斎藤がそう聞いてきたので、ぼくは肩を竦め、
「多数ある次元世界を、しっかりと管理、統治するため。放っておいたら、次元犯罪者がわんさか出てくるからな。局を作ることで、そういう連中が行動を起こそうと思わないように、という抑止力になる」
「ま、そう言われてるな。俺もそう聞いた」
斎藤の呟きに、ぼくはハッ、と笑う。
「そういう建前だよ。実際は偉いさんが独裁政治を目指してるだけだ」
「おっと、きついこと言うね」
「まあな。別にぼくは、『犯罪の無い世界』だの『次元世界の平和の為に』なんていう欺瞞の為に局員になりたいわけじゃない」
「そりゃ、理由は人それぞれだな」
そこで斎藤が、少し躊躇うようにして聞いてくる。
「高町は、どうなんだ?」
「言ったろ、ぼくは管理局の理念に従う気はない」
「いやそうじゃなくてな。従う気が無いなら、どうして局員になろうと思ったんだ、って聞きたいんだ」
ぼくは質問の意味を理解した。
「姉さんのためだ」
「へえ、高町教導官のため?」
「ぼくは、姉さんの為に生きてるようなもんだ。生まれた時からずっと。姉さんが居なければ、ぼくが生きている意味が無くなるほどに」
「なんだ、やけに妄信的だな」
「赤ん坊の頃から今まで、ずっと姉さんに引っ付いてたんだ。シスコン、ってレベルじゃないかもな」
「まあ、あんな完璧な姉じゃ、それも仕方ないのかね」
その言葉を聞いて、ぼくは顔をしかめてしまった。
「おや、なんか気に障ることでも言ったかい?」
「いや、なんでもないよ。そうだ、姉さんは完璧なんだよ」
ぼくは笑いを浮かべ、そう絞り出すように言った。
阿呆の集まりはこれから出番が増えていきます。