魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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今日本屋に寄ってORIGINAL CHRONICLEの一巻買いました。

なのはを知ったのは中学三年だったなぁ、と読んでるうちにすごく懐かしい気持ちになりました。


68話 Original Episode 18

 さて、ぼくはティルクを訓練所に呼び出し、バリアジャケットのみを展開している。

 環境プログラムを起動していない訓練所は白い足場がただ広がっていて、ぼくらはその中心に立っている。周りには隊長陣、ギンガを含めたフォワード陣、アンソニー達三人、クォーツ達八人が見守るように立っている。

 

「なんだ、これは」

「簡単さ。今から全員と戦ってもらう」

 

 ぼくの言葉に、ティルクは目を見開いた。

 

「……は?」

「今から、全員と、戦ってもらう」

 

 ぼくはわかりやすく区切りながら、もう一度繰り返した。

 周りの皆には既に事情を話しているので、驚きこそ無いが、やはり何人かは複雑そうな顔をしている。

 本当に上手くいくのか、といった表情だ。

 

「何かの冗談か?」

「ぼくは嘘は嫌いなんだよ。何度も吐いてきたけどさ。ああ、安心しろ。一人ずつと一対一(タイマン)だからさ」

「なにが狙いだ……?」

 

 未だにティルクは困惑している。まったく、頭の回転が遅い奴だ。

 ぼくは肩を竦める。

 

「お前がどれくらい弱いのか。それを見定めてやる」

 

 ぼくの直球な物言いに、ティルクの眉間に皺が寄る。ぼくはそれを気にも止めずに、

 

「全力でやれよ。そうじゃなきゃ、意味が無いからな」

 

 ティルクはまだ納得していないようだが、説得するまで話していたら時間が無くなってしまう。ただでさえ、みんな忙しいのに出てきてもらっているんだ。時間を無駄にしたくはない。

 

「じゃあ、まずは誰から行こうか……」

「あたしが行きます」

 

 ぼくが考え始めると、スバルが立候補した。

 積極的な態度に感心と感謝をしつつ、お願いするよ、とぼくは言った。スバルは頷き、先程までぼくが立っていた場所に立つと、戦意を高めるかのように、ナックルを嵌めた右拳を左掌に打ち付ける。そして息を吐き出すと、腰を落とし、拳を構えた。

 ティルクも騎士甲冑を纏い、盾と剣鋸を構える。

 

「どちらかが倒れるまでだ。もちろん事故があったら止めるが……基本的には相手を叩きのめすまで終わらないぞ」

 

 ぼくの言葉に、スバルとティルクは頷いた。

 

「それじゃ、始め!」

 

 ぼくの号令と同時に、スバルのナックルとティルクの剣鋸がぶつかりあった。

 

 

~~~~~

 

 

「やることは簡単。ティルクを全力で叩きのめす」

 

 説明を始めたぼくの第一声に、姉さんを含めた全員が唖然とした。

 考えていることはあると伝えていたので、もっとまともな方法だと思っていたのだろう。姉さんの驚き方は、今までに見たことないくらいぽかんとしていた。

 

「……なんで?」

 

 そう呟くように聞いてきたのはフェイトさんだ。

 ぼくは何処を差すでもなく指を振りながら、

 

「溜まっているものは吐き出せばいい。全力でぶち当たれば、ティルクも全力で返してくる。そうやってストレスを全部吐き出せば、何かが残るでしょ」

 

 フェイトさんは複雑な表情をした。ぼくはそれに対してにこりと笑い、

 

「ティルクは剣士だ。誰よりも――それこそシグナムさんよりも純粋な。それがティルクの弱点であるけど、同時に、なによりの強みなんだ」

 

 ぼくの言葉に、シグナムさんが頷いた。武器の形態変化すらなく、魔力斬撃を飛ばすことすらしないティルクの戦い方を、シグナムさんは理解している。

 

「何よりの強み。特化した戦い方は、鍛えれば何にも打ち破ることは叶わないからね」

「まじかよ……ってこたぁ、鍛えりゃティルクは俺やシグナム二尉を越えられる、ってことか?」

 

 ハーヴェイが肘をついてぼやく。二刀流の剣士であるハーヴェイの腕前は、シグナムさんと互角だ。手合わせ中の打ち合いは芳しいものではないが、引き分けに持っていく技術がハーヴェイにはある。

 だからこそ、ハーヴェイは末恐ろしいのだろう。

 『特化』した戦い方であるティルクの剣技は、極めさえすれば、シグナムさんを超えるほどの強さに変わる筈だ。

 まあ、ハーヴェイも剣一辺倒ではあるのだが、今の問題はティルクなので置いておく。

 

「『特化』した技術に、その他の安易な技術は敵わない。同じように『特化』した技術にしか打ち破ることはできない」

 

 『万能』であるぼくには、それが痛いほどにわかっている。

 ぼくはもとより、格闘主体の潤でさえも近距離砲撃を――たとえ牽制目的だとしても――撃つことができる。

 ティルクには、その牽制すら無い。それは明らかな弱味だ。今の段階では。

 

「だから、ぼくはみんなに頼みたい。みんなの色々な戦い方の『技術』を、あいつにぶつけてやってほしい。それを打ち破ることが――できなくとも何かを得ることが――できれば、あいつは立ち直れる。さらに強くなれる筈だ」

 

 ぼくは全員に頭を下げる。

 

「お願いします。協力してください」

 

 その言葉に、全員が頷いた。

 

 

~~~~~

 

 

 そういうわけで、ティルクは今こんなことになっているわけだ。

 スバルのナックルを軸をずらした盾で逸らし、振りかぶった剣鋸を振るう。斬り下ろしから右への薙ぎ、刃を返して左への切り上げ。腕を回すようにして袈裟斬り。

 スバルはそれらを体捌きで避け、バリアで防ぎ、最後の袈裟斬りをナックルで受け止めた。

 ナックルスピナーと剣鋸が回転しながらぶつかりあい、凄まじい火花を散らす。

 お互いに弾くように腕を振るい、バックステップで距離をとると、もう一度ぶつかりあう。

 どちらかが負けるまで、という条件だ。既にこのぶつかりあいは二桁に達するほどに続けられており、二人は息を切らせながら得物を構え直す。

 やはり、長くなりそうだ。スバルはリボルバーシュートなどの近距離射撃を織り混ぜ、瞬時に加速して距離を詰める。マッハキャリバーによる速度をナックルに乗せ、叩き付ける。

 ティルクはそれを盾ではなく、剣鋸で受けた。拳の左側面を剣鋸で斬り付け、さらに踏み込んだ右足を軸にして回転する。

 振るわれるのは、右肩辺りまで振りかぶられた、左手の盾。

 

「らぁぁッ!!」

 

 雄叫びと共に、横に構えた盾をスバルに向けて振り抜く。剣鋸による斬撃ではなく、側面で行う変則的なシールドバッシュ。それにスバルは反応するが、やはり予想外だったのか、その防御は遅い。

 防御のために交差された両腕を、盾による打撃で弾く。そしてがら空きになった腹に向けて更に踏み込み、剣鋸を振り抜いた。

 クリーンヒット。スバルは大きく吹き飛ばされ、訓練所の地面に叩き付けられそうになる。ぼくはアクティブガードで勢いを相殺し、滑り込むようにしてスバルを受け止めた。

 少し呻いた後、スバルは気を失った。

 

「さすがにスバルでも耐えられないか――ありがとう、休んでくれ」

 

 ぼくはスバルにそう呟き、回復魔法を掛ける。ぼくの畳んだロングコートを枕代わりにして横に寝かせると、次は誰が行く、と聞く。

 次に動いたのはティアナだった。

 

「細かいことはわかってるだろうから言わないよ。近接の裁き方を試すにはもってこいだ」

「はい!」

 

 ティアナは二丁のクロスミラージュを構えると、ティルクと向き直る。

 あ、忘れてた。

 

「ティルク、休憩いれるか?」

「いや、続けてくれ」

 

 息を切らせつつ、ティルクは答える。

 そう言うなら、とぼくは気遣い無しに始めの号令をかけた。

 

 

~~~~~

 

 

 ぼくは驚いていた。正直なところを話すと、いくらティアナでもティルク相手には分が悪いと考えていた。

 だが、その予想は外れた。

 

「はぁっ!」

「――っ!」

 

 ティルクの一閃。それをティアナは跳躍して避ける。後方に跳び、避けると同時に両手のクロスミラージュを連射する。撃ち出された魔力弾は的確にティルクを捉え、鎧の隙間や剣鋸を握る手を撃ち抜いている。

 それらにティルクは歯を食い縛って耐えると、加速して連撃を繰り出す。

 急加速と、剣鋸の唸り。近接戦闘に慣れていないと、その二つに意識を取られて反応することはできない。技術云々ではなく、単純にチェーンソー染みた剣が襲い掛かってくるのは恐ろしい。

 しかし、ティアナはそれを捌いている。射撃型で、騎士ではないティアナが、だ。

 射撃型としては、近接戦闘の得意な騎士を近付けるべきではない。近づく前に勝負を決めるか、持久戦になるにしろ、相手の剣が届く距離まで詰められる事は好ましくない。

 

 これは(一応)射撃型であるぼくとしてもそうだ。ぼくは射撃の方が間違いなく得意なので、本来は距離を取って撃ち続けるべきだ。しかしぼくはどうしてか刀を抜いて相手に応えてしまう。これはとても悪い癖で、姉さんによく怒られる。

 まあ、最近はぼくの戦闘技術がそういうもの(・・・・・・)になってきているので、納得はしてもらえるようにはなったのだが。

 

 話が逸れた。ともかく、そういう事情が射撃型にはあるのだが、今回ばかりは仕方がないことだ。

 それよりも、ティアナがティルクの剣を前にして無事でいることに、ぼくは驚いていたのだった。

 

「おおおおおっ!!」

 

 ティルクが叫ぶ。魔力を纏わせた斬撃。それをティアナは紙一重で避け、魔力弾を浴びせかける。

 そういえば、ティアナがスバルを相手に近接格闘の訓練をしていたのを見たことがある。あの時は型の流れの確認するかのような軽いものだったのだが、もしかしたら、実戦レベルの組み手をしたことがあるのかもしれない。

 それなら、あの反応速度も納得だ。

 

「ああいうのをガン・カタって言うのかね」

「知らんよ」

 

 聞こえてきたナグリーとリブレンドの呟きを無視しながら、ぼくは目の前の戦闘に意識を集中する。

 ダメージで言えば、ティルクが押されている。なにせ、振るう剣は当たらず、魔力弾を食らい続けているのだから。

 しかし、ティアナが優勢かと言うとそうでもない。単純に、精神面でティアナは追い詰められている。

 ティアナは防御に優れてはいない。衝撃を殺す受け方も不得意だろう。つまり、当たればやられる。その緊張が、ティアナを大きく追い詰めている。

 

(……長くは続かないな、お互いに)

 

 そう考えていると、唐突に終わりが訪れた。

 

「せぁっ!」

 

 ティルクが斬撃ではなく、突きを繰り出したのだ。腰を捻り、腕の伸縮を活かした鋭い刺突。それまで振り回される斬撃に慣れていたティアナは、咄嗟にクロスミラージュが展開したダガーを交差して鋸に当て、逸らす。

 そこで更にティルクは踏み込み、両腕で握った剣鋸を大きく振り上げた。ティルクの腕力をもってすれば、ティアナは軽すぎる。大きく後ろに吹き飛ばされた。

 あの勢いでは体勢を立て直すのはほぼ不可能だ。ティアナは受け身を取るが脚を踏ん張りきれず、尻餅をつくようにして倒れ込む。

 

「終わりだ」

 

 そして、ティアナに剣鋸が突き付けられた。

 降伏勧告。ぼくは勝負がついたことを知り、お疲れ様、とティアナを下がらせた。

 負けたティアナには悔しさこそあるが、不満は無さそうだった。

 

 

~~~~~

 

 

 そのあとエリオ、キャロ、ギンガと続けて戦い抜き、ティルクは流石に疲労が濃い。

 エリオは持ち前の高速機動で翻弄した。が、速さで攻められることに(主にぼくが多用するせいで)慣れているティルクは、敢えて攻撃を食らうことで動きを止めさせると、一息に剣鋸を振り抜いた。高機動型特有の防御力の低さが仇となり、エリオは負けてしまった。

 キャロはフリードとの共闘を許可していた。いくらなんでもキャロにドンパチはキツすぎる。ティルクは竜相手の戦闘経験は皆無で、支援魔法付きの炎ブレスと独特の飛行に手こずっていたが、次第にパターンを見切ったのか、ブレスを吐く際の隙を見付け、すれ違い様に斬り抜けた。もちろん斬撃は訓練用に緩和を掛けているが、クリーンヒットしたと判断され、フリードは戦闘不能判定を受けた。流石に一人では勝てない、とキャロは降参した。

 ギンガ戦だが、これが一番手こずっていた。ティルクの疲労が溜まっていて、更にギンガはスバルよりも堅実な戦い方をするから長期戦になった。

 そして、何よりも長引いた要因はギンガの利き腕だ。単純に、盾持ちは左利き相手には戦いづらいのだ。ギンガの左の拳を盾で防ぐためには、腕を交差させる形になってしまう。そうすると剣鋸を握る右腕を振ることが難しくなる。

 そういうわけで、業を煮やしたティルクは剣鋸で防ぎつつ斬り、さらに盾でも攻撃するという荒業ラッシュを仕掛けて押し切った。ぼくは思わず唖然としてしまった。もし潤が居たら、あいつも真っ青になっただろう。それほどに激しいラッシュだった。

 

 そういうわけで、五連戦を終えたティルクは剣鋸を杖代わりにして、息を喘がせている。

 流石に休憩が必要そうだな、とぼくは考えると、ちょうど昼時らしく、レイナとヴィヴィオが訓練場の入り口で手を振っている。

 

「昼休憩とる?」

「うん、そうしようか」

 

 ぼくは姉さんの提案に頷いた。

 

 

~~~~~

 

 

「本当、すみません。午前丸々観戦に使わせちゃって」

「構わんさ。見ている間にもイメージトレーニングはできる。試合う前の対策としてな」

「フォワードの成長具合を見れるのも面白ぇしな」

 

 ぼくの言葉に、シグナムさんとヴィータさんが答える。

 その言葉は本心で言っているらしく、二人の顔は穏やかだ。

 

「一騎、どう?」

「まだわかんない。だいぶ辛くなってるみたいだし、もう少しかな」

「しかし結構なスパルタだねぇ、姉御。こんなの本当に意味あるん?」

「それを試してるんだ。お前はあっち行け」

 

 ぼくは今姉さん達と話してるんだ、とクォーツを追い返した。

 

 

~~~~~

 

 

 姉御め、許さん。僕にだって美人なエース達と雑談する権利はあると思うんだ。別に邪な気持ちで手を出そうと思ってるわけでもないのに。

 まあ、盗撮はしたことあるので全く邪ではないとは言えんが。

 

「よう、姉御の方どうだった?」

「聞く前に追い出された。ティルクは?」

「ああ、めちゃバテてる。いくらティルクでもフォワード陣とガチンコ連続じゃなぁ」

 

 マリクが示した先では、ティルクが座り込み、息を整えている。

 騎士甲冑のプレートを外してできるだけ身軽になり、目を閉じて魔力運用の要領で体力を回復させている。

 

「でもやる気はあるっぽい。経緯は不本意でも、この模擬戦自体は結構気に入ってるのかね」

「うーん、姉御たち三人は結構バトルマニアだしねぇ」

 

 うんうんと頷きながら僕は考える。

 

 姉御は戦闘中やたらとテンションが高い。普段は冷めてるくせに、戦闘中は叫んだり吼えたり、挙げ句に自分に酔っているような台詞を吐き、肉食的な笑みを浮かべることさえある。記録映像を見たが、ゆりかごの中でヴィヴィオ嬢と殴りあってた時なんか酷かった。すんげぇ楽しそうだったし。そういう普段とのギャップは『エース・オブ・エースの弟』の名と共に有名になったようで、結構局内でも人気がある。最近は髪も切り、普通に成長したおかげで中性的なイケメンになった姉御は、男女問わずちょくちょく声を掛けられるようだ。安定のシスコンっぷりで上手く避わしているが。しかし、最近姉御は戦闘機人達の居る海上隔離施設に行ってみようと思ってるらしい。なんか気になる相手でもいるんかな。

 

 兄貴は飄々としているようで、結構真面目な性格だ。訓練は真面目にするし、それによって強くなることが嬉しく、楽しいのだろう。そして、その成果が発揮できる模擬戦とかが好きなんだと思う。それに、戦いだけでなく、事務仕事もぶつくさ言いながら丁寧にやっていたりする。しかし本人はまったく意識しておらず、寧ろ自分を卑下している。見た目や言動と対照的な、そういった謙虚さ(?)は女性に受けるようで、兄貴は結構モテる。見た目も良いしね。まあ本人はレイナ嬢にぞっこんだが。更に六課に来てからはギンガ陸曹と一緒に居るところをよく見る。つまりはそういうことなのかね。

 

 ティルクは純粋に剣が好きなんだと思う。子供の頃から父親に教えられた、と言っていたが、それを今まで続けていられるのは好きだからに他ならない。そして、父親から教わった剣がどこまで通用するのか、それを試したいんだと思う。父親は元局員らしい。調べたことは無いが、データは残ってるだろう。今度探してみようかな。ともあれ、その目的を果たすためには、戦うのが一番だ。まあつまりそういうことで、戦う=剣なのである。剣を振るうことができればティルクは楽しいんだろう。そういったまっすぐさは姉御と兄貴には無いものだ。やっぱり素直にすごいと思う。我欲も無く、人に優しく、やるべきことをやる。忠義に重んじるかのように。局でも一番『騎士』らしい人間だろう。そして、そういった騎士だの忠誠だのはやはり夢見る乙女の定番らしく、若い女の子にキャーキャー言われている。羨ましい。

 

 さてさて。そんな三人はみんな問題を抱えている。

 姉御は高町一尉関連。これはもう解決したようだ。

 兄貴は現在立派な犯罪者。早く出てきてほしいものだ。

 そしてティルク。自分の弱さを痛感して滅茶苦茶になっている。それを解決しようと皆動いているが……さて、どうなるんだろうか。

 

 僕にはさっぱりわからない。

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