魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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この作者は話が一段落しかけると数ヵ月放置する悪癖があります。戦闘をテンションで書き切るので賢者タイムが長いようです


70話 Original Episode 20

 あのままティルクは気絶し、医療室へ運ばれた。シグナムさんはヒビの入ったレヴァンティンを見つめ、

 

「まさか、これほどとはな」

 

 その言葉を聞いたぼくの視線に気付くと、あの魔力斬撃の威力が高いのは読めていた、と説明してくれる。しかし。

 

「想像以上だった。逸らしていなければ――真っ向から受けていたとしたら――レヴァンティンは砕かれていた」

 

 そう、静かに呟く。 レヴァンティンも静かに同意する。

 

「ティルクのあの剣は?」

「――昔、見たことがある。古代ベルカの騎士が使っていた技だ」

 

 シグナムさんはレヴァンティンを待機状態に戻し、続ける。

 

一太刀(ひとたち)で敵を斬り捨てる剛の剣。剣術における読み合いも、防御も、全てを纏めて叩き斬る絶対の剣だ」

「魔力剣ゆえに重さも無く、振りも恐ろしく速い。けどあれだけの魔力を使ったら、さっきのティルクみたいにエンプティになるんじゃ?」

「当然、熟練した剣士は魔力量を調節して使用する。その場合は威力も落ちるが、それでも雑兵を蹴散らすには充分すぎる」

 

 シグナムさんは空を仰ぎ、大きく息を吐く。

 

「あいつは、どこであの剣を知ったのだろうな」

 

 多少なりとも、シグナムさんはティルクのあの剣を知っている。

 つまりは、古代ベルカに関連した剣であることは間違いないだろう。

 

「みんな、ありがとう。たぶんもう大丈夫だと思う。時間とらせてすみませんでした!」

 

 ぼくは集まってくれた全員に頭を下げたが、既に戦闘状態に入っていた人が数人いたので、それを収めるために模擬戦の相手をしたのだった。

 

 

~~~~~

 

 

 そして、回収されたティルクの剣鋸を預かり、ぼくはその破損っぷりを眺めて溜め息をついた。

 この剣鋸は魔力を流して鋸を作動させる造りをしている。注がれる魔力量に応じて回転速度も破壊力も上がるということだ。

 ぼくはそれ以外の魔力運用をこのノコギリに組み込んでいない。それはつまり、あの馬鹿でかい魔力剣を構築した魔力すらも、この剣鋸は『注がれた魔力』として認識し、凄まじい回転により火花を散らしていた。

 簡単に言えば、あまりの魔力過多により、内部の機構が焼き切れたのであった。

 

「ティルクはあの『剣』をこれから使うだろうし、ノコギリ要素は外した方がいいかな」

「かもねぇ。魔力剣機構を強化した両刃剣を作った方がいいんじゃないかね」

「形態変化の機構を追加する、っていうのはしないの?」

「ティルクは幾つもの剣を戦闘中に使い分けるなんて、器用な真似できないと思うんですよねぇ」

「いや、しかし。ただの両刃剣よりも剣鋸の方が破壊力は高いだろ。シールドを継続的に削る事ができるし、敵の得物と打ち合うときも損傷を与えられるぞ」

「けど、最後にやってたティルクの剣の振り方見たろ? 叩き付けるのではなく振り抜くようなあの振り方じゃ、その『削り』も意味が無いだろう」

「いっそ両刃剣と剣鋸をどっちも作るってのもありか」

「ティルクは二刀流とか出来そうな戦闘スタイルじゃないと思うけど」

「ですよねぇ。難儀難儀」

 

 シャーリーを含めた技術班の話し合いを聞きつつ、ぼくは破損した剣鋸を分解していく。

 コアは無事なので、それを流用する。剣鋸として、ティルクの戦い方を常にその身に感じてきたコアだ。

 たとえ高度なAIを搭載していなくとも、ティルクはこいつを自分の『剣』として認めるだろう。

 そろそろティルクの様子を見にいくか、まぼくはコアをシャーリーに預けると、医務室へ向かった。

 

 

~~~~~

 

 

 そして医務室の扉を開けると、ティルクは既に目を覚まし、身体を起こした状態で、フォワードに話を始めていた。

 どうやら先客のフォワードが来ていたようだ。比較的ティルクはフォワードに懐かれているので、心配して来たんだろうか。

 なんとなく部屋に入るのが躊躇われ、ぼくは扉の陰でティルクの話を聞く体勢に入った。

 

「そうだな。俺は……物心ついたときから剣を握っていた」

 

 どうやら、ちょうどいいタイミングだったらしい。ティルクはいつもどおりの穏やかな声で話している。

 

「親父が剣士でな。俺は親父に教わって、剣を振っていた。最初は単純に、楽しかったんだ。俺は言ってしまえば普通の子供で、特撮ヒーローに憧れたり、ゲームや漫画の主人公を格好良く思ったことがあった。だから、素直に楽しんでいた。剣を振って、親父に技を教わって。練習終わりにはお袋が俺の好物を作ってくれたり。そうやって、楽しく過ごしていた。恵まれた家庭だった」

 

 そこで、ティルクは目を閉じた。昔を懐かしむように。記憶を手繰り寄せるように。

 

 

~~~~~

 

 

 確か、俺が10歳の頃だ。元々身体の弱かったお袋が、とある病気を患った。症状が重くなれば命に関わる、と医者に言われた。

 もちろん、助かった。しかし、当時は本当に命を落としかねないほどに、病状は深刻だった。

 俺はお袋が死ぬかもしれない、という不安に涙を流していた。病院へ通っては眠り続ける母にすがるように泣き続けた。

 そんな中、親父は平然としていた。いつもどおりの生活をし、俺に練習用の剣を渡してきた。

 俺はそんな親父に怒鳴り散らした。なぜそんなに平気でいられるのか。お袋が死ぬかもしれないのに、そんな状況で剣なんて振ってられるか、と。

 すると親父はこう言ったんだ。

 

(あいつ)が死ぬことはない。昔から今まで、ずっとオレが守っているからだ」

 

 今考えれば、根拠も何も無い言葉に思えるが、なぜか俺にはその言葉が不思議と頭に残った。

 俺は、なぜ親父はそんなに強いのか、と聞いてみた。

 俺も親父のように、誰かを守れるか、と。

 すると、親父は目を閉じた。

 

「強さは必要だ。人を守るために。優しさも必要だ。人を助けるために」

 

 俺なりに考えるなら、守るだけなら、強さだけでなんとかなる。しかし、誰かを助けるために――助けたいと思うそれ自体が――優しさが無ければ考えることは出来ない、という事ではないかと思う。

 

「何より必要なのは、お前自身の想いだ。 お前が守りたい人。お前が助けたい人。それを判断し、決めるのはお前自身の想いだ」

 

 幼い俺には意味がわからなかったが、強さがあれば、守りたい人を守り、助けたい人を助ける。それができるんだと思った。

 それはまるで、物語の騎士のようだと思った。

 そして、その『強さ』の証明として、親父はあの巨大な魔力斬撃を俺に見せた。お前にもいずれ、こういう『強さ』を身に付けられる、と。 

 

 

~~~~~

 

 

「しかし、訓練校に入る頃には、俺は一時期目指した『物語の騎士』を忘れる程度には常識が身に付いていた。それこそ『騎士は物語の中だけだ』と考え、剣の練習は日常となり、その剣技を活かすために局員になろうと思った」

 

 そう話すティルクは、声の調子が低い。自分なりに、思うところがあるのだろう。

 

「剣には自信があった。しかし、訓練校では俺より強い奴が居た。髪の長い女みたいな奴で、剣一本なのに、剣と盾を使う俺を圧倒した。『エース・オブ・エースの弟』などと囃し立てられているそいつに、俺は最初、あまり良い印象を持たなかった」

 

 圧倒した、とか言われているが、ぼくは実際余裕があるように見せていただけだ。動揺があろうと、疲労があろうと、それを顔に出すと相手に感付かれ、隙を突かれるからだ。

 

「しかし、剣の腕は一朝一夕では身に付かない。剣に限らず、技術は継続して修練を積まなければ上達しない。この『弟』とやらは、何でもないような振りをしているが、その実、何年も訓練を続けているのだろう、と思った」

 

 そういえば、ティルクと知り合ったばかりの頃。ぼくが自分の技術を『使えない』と言ったとき、ティルクが割り込むように話に入ってきたことがあった。単に興味本意だったのもあるだろうが、訓練をして得た技術(もの)を、そんな言い方で自嘲するぼくに苛ついていたのだろうか。

 

「そいつとは何度も剣を交えた。そいつの剣は、俺が親父に教わった堅実で、強かな剣技ではなく。なんと言うか、我武者羅で、しかし筋が通っている。ある程度学んだ技を、様々な相手と、実戦形式の訓練で組み立てた剣だった。俺は親父としか手合わせをしたことが無かったから、単純に実戦経験が足りず、あいつの剣に敵わなかった」

 

 ぼくがティルクに勝っているのは、実戦経験が豊富だからだ。シグナムさん、ヴィータさん、フェイトさんと様々な戦闘スタイルの練習相手には事欠かなかった。

 

「そうして打ち合っていくにつれて、俺は少しずつ上達していった。今ではあいつと剣を交えれば、勝率は五分になるほどまで来ている。しかし、俺は『そこ』で止まっていたんだ」

 

 ティルクは右手を握り締め、

 

「強くはなった。しかし、進めなくなった。俺に出来ることは剣だけだ。なのに、俺は止まっていた。そうして苛ついて、自分の剣が荒くなっていくのを自覚して。それでも自分を抑えられず、周囲に当たり散らしていた。お前たちにも迷惑をかけた。すまなかった」

 

 そう言って頭を下げるティルクに対し、みんなはどう答えていいのか迷っているようだった。ティルクの生真面目さはみんな知っている。中途半端な慰めでは、ティルクは自分を責めるだけだ。

 だから、フォワードのみんなは考えているのだろう。どういう言葉を伝えれば、ティルクの罪悪感を和らげる事ができるのか。

 ぼくはそう考え、くすりと笑った。

 

 生憎、こいつにそんな気遣いはいらない。

 

「謝ってすむなら局員はいらない、ってな。『迷惑かけてごめんなさい』で許されるのは子供だけだよ」

 

 ぼくはそう言いながらずかずかと医務室に踏み込んでいく。

 隠密行動が得意な元偵察課のぼくが、医務室の外で聞いていたのには間違いなく気付いていない筈だが、みんなはぼくが話に割り込んできた事に驚いた様子は無かった。

 それはティルクも同様で、静かにぼくに視線を移した。

 

「だったら許されるために行動するだけだ。自分の強さに行き詰まって迷惑かけたとか言うなら、その分努力して償うんだな」

「一騎さん――」

 

 ぼくの煽るような言い方は流石にやりすぎだと思ったのか、ティアナが口を開く。

 そんなティアナの心情を察し、ぼくはおどけたように笑う。

 

「まあ、この子達はそんなこと気にしないだろうけど。今までの様に訓練に協力したり、個人的なお悩み相談でもしてやったらいい。他の人達には他のやり方でな。いつもどおりに、だ」

「いつもどおり、か」

 

 そうだ、とぼくは頷く。

 

「反省を態度で示す、って言葉があるけど、その意味はただ落ち込んだり、必要以上にネガティブになるという意味じゃない。同じ失敗をしないように注意して次の行動に移し、結果を出すことだよ」

 

 自分で言ったにも関わらず、ぼくの言葉は、何故かぼく自身にも響いてきた。

 ぼくはずっと自分を責めてきた。あの時姉さんに対して何もできなかった、その事に対して。

 当然、割り切れてなどいない。周りがなんと言おうと、ぼく自身が悔いているのだから、後悔が消えることはない。

 

 しかし、ティルクは違う。

 

 ティルクは生真面目だがネガティブではない。このところは少々問題を抱えていたが、戦闘では特攻するし、物事に直面したらどうしても無理、という場合を除いて自分の意見を通そうとするなど、脳筋な部分が目立つ。

 ポジティブを――楽観的な人間を装っている(・・・・・)ぼくとは正反対の人間なのだ。

 

「わかった――もう大丈夫だ」

 

 ティルクはベッドから降り、ぼくの目の前まで歩いてくる。

 そして、握り拳をぼくに向けて伸ばす。

 

「手間をかけた。礼は今度なにか奢るさ」

 

 いいね、とぼくは笑い、ティルクの拳に自分の拳をぶつけた。

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