魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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72話 Original Episode 22

「どうだった? 行ってみた感想は」

 

 六課の隊舎に戻る頃には夕方になってしまい、食堂へ向かうと姉さんとフェイトさんが居たので同席させてもらったところ、フェイトさんがそう切り出した。

 ヴィヴィオの姿を探すと、なにやらギンガと一緒に食べていたレイナの所へ、ピーマンを持って移動している。好き嫌いの無いレイナに食べてもらおうという魂胆らしいが、姉さんが気付いていない筈がなく、だめだよヴィヴィオ、と声を掛けられている。

 ぼくは少し考え、

 

「そうだな……まあ、元気そうだったよ」

 

 先の質問にそう答えた。

 そんなぼくを見て、姉さんが首をかしげた。どうかした、とぼくが聞くと、

 

「一騎、何か良いことあった?」

「え、いきなりなにさ」

「なんかにこにこしてる」

「にこ、にこ? ぼくが?」

 

 そんなわけない、ぼくはそんなキャラじゃない、とパンにかぶりつく。

 

「ね、フェイトちゃん。この子、なんか嬉しそうだよね」

「そう、かな。一騎は最近いつも楽しそうだけど」

 

 とんだ評価である。

 

「施設で何かあったの、一騎?」

 

 そんな言葉をフェイトさんに向けられ、ぼくは先程までの状況を思いだし――何故だか喋りたくなかった。

 

「まあ、あったはあったけど」

「どんなことあった?」

「まあ、話をしたというか」

「ナンバーズの子と?」

「まあ、そうだね」

「どの子と?」

「まあ、その――なにさ、やけに踏み込んでくるね」

 

 簡潔に答える度に、姉さんとフェイトさんは交互に問い詰めてくる。なにやらもどかしそうな表情を浮かべ、テーブルを挟んでいるのに身体を乗り出してくるほどに。

 

「いいからいいから。どの子?」

「まあ――別に、誰でもいいでしょ」

 

 その返答は失敗だったのかどうか、二人はアイコンタクト――もしかしたら念話――を交わし、ぼくに向き直る。

 

「「あやしい」」

「……なにがさ」

 

 ぼくは溜め息を吐いた。

 

「だって、一騎は私に隠し事なんてしないお姉ちゃん子だもん」

「え、なにその理屈」

「一騎って仕事では嘘が上手いけど、日常会話で誤魔化したり答えづらいときは『まあ』って前置きしてから話すよね」

「別にそんなことないでしょ。まあ、確かにつか――む」

 

 無意識な反論にも『まあ』があることに気付き、ぼくは押し黙った。

 フェイトさんがそんなやりとりにくすりと笑い、

 

「でもなのは、一騎は相談事ならわたしにしてくれることが多かったよ。ね、一騎」

「うーん……確かに、それはあるかもしれないけど」

 

 フェイトさんへのぼくの言葉に、姉さんはむっとして、

 

「いいもん、一騎の初恋はフェイトちゃんだってバラしてやるから」

「なぁっ――!?」

 

 突然の横暴に、ぼくは思わず声をあげる。

 

「ねえ、フェイトちゃん」

「えっ、あの……そ、そうなの、一騎?」

 

 フェイトさんが僅かに頬を染め、ぼくに聞いてくる。

 

「……それ、本人であるぼくに聞くの」

 

 これはまずい、とぼくは思った。ダブルバインドだ。どう答えても墓穴を掘る。

 なれば。

 

「じゃあ、姉さんの初恋はユーノさんだって言いふらしてやろう」

「違うよ。私の初恋は一騎だも~ん」

「はぁっ!?」

 

 一瞬で返された。普段は見せないようないたずらっぽい笑みを浮かべ、ぼくを見てくる。

 劣勢だ、とぼくは危機感を覚える。

 

「実の弟が初恋なんて、ありえないだろ」

「一騎も昔は『お姉ちゃんと結婚するー』って言ってたのに」

「昔の話はいいだろ!」

「一緒に指輪も買ったのに」

「あのペアリングはただのアクセサリーだ!」

「『フェイトさんって凄いきれいだよね』とも言ってたなー」

「フェイトさん美人なんだから別に間違ったこと言ってないじゃんか!」

「ほら認めた」

「なにその暴論!?」

 

 ぼくは自分の姉がここまで横暴だということに呆れ果て、フェイトさんに助けを求める。

 

「フェイトさん、なんとかしてよ」

「う、うん……なのは、一騎も困ってるし、あんまり昔の話は――」

「フェイトちゃんもまんざらでもなかったんじゃないのー?」

「えっ!? そ、それは、その……」

 

 ――この人はどこまで引っ掻き回すんだろう。

 ぼくは頭を抱えた。

 

「だって一騎は高町家の末っ子だから、年上に甘えてるだけかな、って思ってて……わ、私は別になんとも思ってなかったよっ!」

「ほんとにー?」

「ほんとだよ!」

「一騎とよく一緒に話してたでしょ。お姉ちゃんの私を差し置いて」

「だ、だってそれは――」

「……姉さん、その辺にしてよ。みんな見てるよ」

 

 食堂中の視線が大騒ぎしているぼくらに集まっている。

 局でも有名人の恋愛話(コイバナ)となれば、気になるのはわからなくもないが。

 

「ふーんだ」

「まったく、自分が相手居ないからって……」

 

 ぼくがぼそりと呟いた言葉を聞き、姉さんはちらりと目をぼくに向けた。

 その眼は不用意な発言を咎めるものではなく、何かに気付いたような眼だった。

 

「なにさ」

「……やっぱり良いことあったでしょ」

「またその話?」

「うん。今度は真面目な話」

 

 その言葉に、ぼくは眉をひそめた。が、姉さんの顔は素直に嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「一騎がこんな冗談に付き合ってくれたの、初めてだったから。今までの一騎って、冗談でも私に悪口言ったりしなかったもん。嬉しくって、ついはしゃいじゃった」

「……そう、かな」

 

 確かに、ぼくは姉さんと深い話をしたり、お互いをからかうような冗談を言い合ったことはなかったように思う。

 それは姉さんに対する罪悪感によるものであったのだろう。ぼくは無意識か否かに関わらず、姉さんと距離をとっていた。

 やはり、それは姉さんを不安がらせることになっていたんだろう。

 

「……ごめん、姉さん」

「ん、どうしたの、急に」

「まあ、ちょっとね」

 

 ぼくは笑ってごまかす。フェイトさんはわかっているのか、にこにことぼくらを見ている。姉さんもあまり気にしていないようで、まあいいか、と納得し――

 

「そういえば、ケーキはちゃんと買っていった?」

「ん? ああ、言われた店で、店員さんに色々選んでもらったよ」

「あの子にはどんなケーキが喜ばれた?」

「ショートケーキを食べてたけど――」

 

 ぼくはそこまで答えて自分の失敗を悟る。自然な流れで「あの子」というワードを出してきたのは、間違いなく誘導尋問だ。しかし、それに気付くのは少し遅かった。

 

「ふ~ん」

 

 その時の姉さんはとても良い笑顔をしていた。

 

「やっぱりね」

 

 フェイトさんも興味深そうに頷く。

 ああ、とぼくは頭を抱えたくなるのを堪えた。

 

「……けど、基本どんなケーキも喜ばれたよ。ショートケーキみたいなシンプルなのが人気ではあったね」

 

 ぼくはそう取り繕うと、コップを傾けて水を飲む。

 別に知られて不都合があるわけでもない。二人には単に「暇だし、気まぐれで行ってみる」と言ってあるのだ。となれば、どうあったか話しても問題は無いし、むしろ話の流れとしては話した方が自然である。

 ナンバーズと軽く打ち解け、その後ディエチと話をした、と言えばそれで済む話だ。しかし、ぼくは自分の考えとは裏腹に、それを話そうとはしなかった。

 というのも、目の前のお二人がぼくをからかおうとしているから、といった理由が主だが。

 そんなことを考えながら、ぼくはパンの最後の一欠片を口に放り込んだ。

 

 

~~~~~

 

 

「高町。少し慣らしを頼めるか」

 

 訓練が始まる前、ティルクがそんなことを言ってきた。なんのことかと思えば、ティルクの手にはファルカタと呼ばれる、変わった形の剣が握られている。

 ぼくは頷くと玄月を抜き、イノセントハートを待機状態に戻す。これが非人格のストレージデバイスなら地面に突き立てるところだが、以前同じことをこいつにやったら《土っぽい土っぽい》とうるさかったので、それ以来やっていない。

 お互いに剣に魔力を流し、ぼくは両手で正眼に、ティルクは片手をこちらに向けるようにして、軽く足を広げて立つ。

 

「一合打ち合えば感覚は掴めると思う。すまないが、よろしくたのむ」

 

 得物が変わったというのに、その言い草。しかし剣に特化した騎士なら、それが大口ではないことを証明できる。

 ティルクが一息で間合いを詰め、鋭い一閃を打ち込んでくる。ぼくは半歩下がりながらそれを流し、返す刃で首を狙う。それをティルクは手首を回すようにして剣の向きを変え、振り上げてぼくの刀を打ち上げる。

 そのまま振り下ろされるファルカタを左ステップで避け、ぼくは身体を捻って思いきり突きを繰り出す。

 その剣先をティルクはしっかりと見定めていて、切っ先が届く前に切り上げで払われる。歯噛みし、二、三度打ち込むも、それらが全て防がれる。

 ぼくは斬り払いを相殺し、距離をとって構えをといた。

 

(……やり辛いな)

 

 あの剣、ただ前のめりに曲がってるだけかと思いきや、妙にタイミングを崩される。

 普通の西洋剣などは先にいくほど刀身が僅かに細くなるので、それに反応して受けるまでになんの問題もなかった。

 しかし、前に湾曲しているとなると、ティルクの振る手よりも先に刀身が食い込んでくる。しかも振るわれる力を先端に集中して斬るタイプのようで、普通の直剣よりも打ち込みが重く力強い。

 普通の感覚で受け止めると、湾曲した刀身の先端が首に食い込みかねない。そんなやり辛さがあった。

 

「……悪くない」

 

 ティルクが剣を目線の高さに掲げ、そう呟いた。

 ぼくは玄月を振るって魔力を払うと鞘に納め、息を吐く。

 

「それ、受けてる側はやりにくいことこの上ないぞ」

「そうだろうな。手応えが違う」

 

 ティルクは剣の出来に満足しているようだが、しかしそれを使いこなす自分の腕が上がっていることに気付いていないようだ。

 それを言ったところで慢心するような男ではないが、まあ、言わなくても問題ないだろう。

 

 

~~~~~

 

 

 訓練の最後はいつも模擬戦をするのだが、ぼくはまたもや姉さんに呼ばれる。

 

「一騎、今日は高速機動型の騎士を仮想敵としてフォワードの動きを確認したいんだけど……」

「ソニックムーブを多用して近接戦闘を仕掛ければいい?」

「うん。撹乱や奇襲を主にしてね」

「得物は玄月一本?」

「基本はそう。イノセントハートはブレードで使うならOK」

「射撃は?」

「無し。魔力刃の展開や応用はありね」

「装甲は薄くした方がいいかな」

「一騎のジャケットなら、通常の四割ダウン程度かな」

「了解」

 

 ぼくはイノセントハートにモニターを出してもらい、ロングコートをパージして、金のプレートアーマーが着いたインナーとズボンだけになる。バリアジャケットの出力を弄ると後で設定し直すのが面倒だし、高速機動を多用するならロングコートは僅かに動きを阻害するからだ。あとあまり連続で高速機動魔法を使うと、裾がばたばたと凄まじくはためいて気持ちが悪い。

 イノセントハートを待機状態にして、首に掛けるのではなく、左手首に巻いておく。

 

「よし」

 

 身体が暖まっているのを確認して、玄月を左腰のベルトホルダーに差して準備万端、と意気込む。

 

「それじゃ、始めるよ。条件は仮想敵の捕縛。10分以内に捕縛できなかったら、訓練の始めからやりなおしだからね」

 

 つまり、十分でぼくを倒さなければ駄目ということだ。それを聞いたとき、時間切れまで全力で――そう、全力で(・・・)逃げ回ってやろうか、といった悪戯心が浮かんできたが、流石に大人気(おとなげ)ないのでやめておく。

 今回ぼくのやることは、早く動いて攻めまくることだ。携帯端末(リベレーター)を展開し、オーグメントが正常に動作するのを確認する。

 全身に魔力を流して身体を強化し、さらに、バチバチと鞘に収まった玄月に赤いスパークが弾ける。

 

「レディ……ゴー!」

 

 ぼくは地面を踏み砕く勢いで蹴り、同時にソニックムーブを発動。傍目から見れば、姿が消えたかのように錯覚するはずだ。

 しかし、それは注意を疎かにしていた場合だ。

 ぼくの高速機動はそれなりに速いが、フェイトさんよりも格段に遅い。さらに、最近ではエリオが技術を高めてきているので、ぼくの速さに追い付きつつある。

 ぼうっとしていれば見失う。しかしそれは、つまり注意をしていれば見失わないということだ。

 この模擬戦は、『仮想敵が高機動型の騎士という事前情報を得ている』という想定で行っている。

 

「スバルさん!」

 

 つまり、ぼくの機動は見破られており、相応の対応が可能ということだ。

 ぼくは初撃でまずはスバルにダメージを与えるために一直線に突っ込んだのだが、エリオにはぼくが見えているし、真っ先にターゲットにされたスバルに注意を飛ばすこともできる。

 

「――紫電ッ!」

 

 ぼくが居合い抜きの紫電一閃を繰り出すが、スバルは寸前で身を引き、ジャケットを僅かに裂いただけに終わった。

 ぼくは舌打ちをすることすらもどかしく、もう一歩踏み込んで袈裟斬りを繰り出すが、完全に知覚された後の追撃は入らず、バリアで防がれる。

 ぼくは防がれると見るやすぐさま左に走り出す。右からはエリオがソニックムーブを発動させようとしているのが見えたからだ。

 半円を描くように駆けると、直角に曲がるようにしてセンターガードのティアナを狙う。霞の構えを真似て全力で地を蹴り、身体の捻りを突き込むために溜める。

 これは間違いなく入る。ぼくは始めからこれを狙っていたし、ただの疾走からの急加速はシンプルゆえに不意を突く事ができる。

 その突きが入らなかったのは、ぼくがそれ(・・)に気付いて行動を中断し、その場から飛び退いたからだ。

 

「読まれたッ――」

 

 ぼくが先程まで狙っていた――突きを中断しなければ到達していた――場所に、歯噛みをしたティアナがダガーを構えて頭上から襲い掛かってきた。

 ぼくが突きを入れようとしたティアナは幻影だ。ぼくのオーグメントを誤魔化しかけるほどの幻影パターン。おそらく携帯端末の情報をナグリーから得ているのだろう。あの阿呆め、あとでぼこぼこにしてやる。

 そんなことを考えていると、エリオが抉るようなブーストチャージを仕掛けてくる。

 ぼくの左後ろという、中々に対応しづらい角度からだ。今から避けることは敵わない。左手に斜めにシールドを張り、ストラーダの穂先を滑らせる。完全にずらすことが出来たところで、僅かに力を緩め――再度シールドに突き込まれるストラーダにぼくは息を呑んだ。

 そして、今のストラーダはフォルムツヴァイであることに気付いた。槍の各所に追加されたブースターをフル稼働させ、逸らされた状態から一回転してもう一度突きを入れてきたということか。

 今度はぼくが歯軋りする番だった。高速機動中にそんな器用なことをできるとは思っていなかった。さらに、こんな状況でエリオ一人にかまけていれば――

 

「ブラストフレア!」

(……嘘だろっ)

 

 頭上のフリードが火球を撃ち出してくるのが見えて、ぼくは焦りを覚える。いくらなんでも、火球を食らったら爆発ダメージを食らって僅かに動けなくなる。そんなことになれば、一瞬でぼくは戦闘不能だ。

 シールドの維持をしながら、イノセントハートの詠唱で玄月に魔力刃が展開される。

 

「クレッセント……セイバーっ!」

 

 斬り上げの要領で、魔力刃を回転させながら飛ばし、火球を斬り裂く。

 その事に安堵する間もなく、左手のシールドにぶつかる衝撃が消えた。そちらに視線を移すと、槍を突き立てていたエリオが消えていた。どこへ、と考える間も無く、その隙を後ろからスバルが突っ込んでくる。

 咄嗟に身体に引き付けた玄月でナックルを防ぐが、受け流すことができず、ナックルの恐ろしい衝撃に、ぼくの手から玄月が叩き落とされる。

 そのままぼくの顎をかちあげようとナックルが跳ね上がってくる。ぼくは咄嗟に身体をそらすが、スピナーが頬を削るほどの僅差。ぼくはその体勢のまま地面を蹴り飛ばし、後転してなんとか立ち上がり、頬を拭う。拭った袖には赤い染み。

 防御を抜かれ、下手くそな受け身で出血したが、大したダメージではない。ぼくは頬を流れる血を感じながら、追撃を仕掛けてくるスバルの拳を避け、蹴りを防ぎ、イノセントハートがソニックムーブを発動する。

 

「キャロ!」

「はい!」

 

 ぼくの動きは読まれている。ティアナとキャロ、フリードがぼくの進行方向へ射撃を行い、弾幕が降り注ぐ。

 姿勢を低くし、弾幕の隙間を縫うように全速で地面を抉りながら移動し、前転するように落とされた玄月を拾うと、その場から空へと跳び上がる。

 

「空牙っ!」

 

 フリードに向けて魔力斬撃を飛ばす。まるで意に介さないように翼で弾かれるが、ぼくの目的はフリードではない。

 跳んだ勢いをそのまま、振るわれた翼を踏みつけてその背に登る。

 ぼくが玄月を振りかぶる先には、ここまで跳躍で登ってきたぼくに対する驚愕を浮かべているキャロ。

 振り下ろすと、寸前で展開されたキャロのバリアが刃を阻んだ。

 キャロの防御はけして固くはない。ぼくは玄月に魔力を流し、再度叩き付けてバリアを砕く。

 

(取ったッ)

 

 その時、予想外の行動に刃を避けられた。キャロは躊躇うことなく、フリードから飛び降りたのだ。

 空振りした刀身の腹にティアナの徹甲弾が命中し、意識しない方向に弾かれる。玄月をしっかりと握っていたせいで、右手の手首を捻るようにして痛めた。

 

(まずい……)

 

 高所では逆に危険だとぼくは後先考えずに飛び降りる。フリードが身体をよじる動きに足を取られ、不安定な落下だが、身体の動きを傾けてなんとか体勢を立て直す。

 そして、ぼくの真下から、スバルが砲撃を撃ってきた。

 

「――その位置じゃ、通らない!」

 

 ぼくは吼え、左手に巻いていたペンダントからイノセントハートを取り外し、左手にブレードフォームで展開する。

 

「双刃ッ!!」

 

 両手の刀から、交差する形で連続して魔力刃を飛ばす。

 即座にイノセントハートに魔力刃が展開され、その赤い刃を掲げ、玄月を腰だめに構えてまっ逆さまに落下する。

 魔力刃が砲撃を切り裂き、密度と威力が鈍ったところに身体を回転させて全てを打ち払う。

 両足でしっかりと着地し、高速機動を発動――

 

「サンダー……レイジ!」

 

 寸前、ぼくの後を追うように頭上から、エリオが雷を纏ったストラーダを叩き付けてきた。

 その一撃を切り払おうと、反射で右腕を振った事にぼくは後悔した。

 痛めた手首ではストラーダを受けきることができず、押し負けた玄月の峰がぼくの左肩に打ち付けられる。

 その状態で周囲に電気を撒き散らされ、ぼくはそれを間近で食らってしまう。

 声をあげる間も無く、全身を流れる電流がダメージを蓄積させる。

 

「キャロ!」

 

 ティアナの声と同時に、ぼくの身体に四本の鋼鉄の鎖が四肢に巻き付く。同じくしてエリオが離脱する。

 

「――っ!!」

 

 ぼくはイノセントハートを地面に突き立て、魔力刃に魔力を過剰に流し、爆発させる。

 地面が砕けたことで、三本の鎖の拘束から解放され、右腕以外が自由になる。

 その状態で、スバルが逃すまいと攻めてくる。ぼくはわざと地面から足を離してバリアでナックルを受ける。

 右腕の鎖を利用して振り子の様に一回転し、勢いをそのままスバルの背中に向けて蹴りつける。

 

「ソニックムーブ!」

 

 ぼくは右腕の鎖をの張りを確かめると、ソニックムーブを発動する。加速をつけて全力で右腕の鎖を引っ張る。

 ぎしぎしと腕が締め付けられるが、砕かれた地面によって鎖の拘束は鈍っている。

 ソニックムーブの加速と、右腕の腕力で無理矢理鎖を引き抜く。

 

「うお――っと」

 

 力の拮抗が崩れる瞬間、というのか。鎖が抜けた瞬間の勢いを、ぼくはすっ転ぶように転がって僅かに殺し、前のめりになりながら駆ける。

 その際、右手の玄月と左手のイノセントハートを交換する。この二つは、玄月の方が重さがある。痛めた右手では軽めのイノセントハートの方がやりやすい。

 そうして両手の刀を握り直すと、その場で反転して止まり、高速機動を解く。

 

(……まずいな)

 

 息をあえがせながら、ぼくはもう一度ソニックムーブを発動。まるで回りの動きが遅くなったかのように感じられるその感覚の中で、極限まで集中する。

 魔力刃を飛ばし、再度フリードの火球を斬り刻み、ティアナの弾幕と狙撃を避け、当たりそうなものは両手の剣で切り払う。

 そこで、その遅い世界で凄まじい速さで突貫してきたエリオの、振り下ろされたストラーダを交差した剣で受け止める。

 

 そして、ぼくは失敗したことに気付いた。

 

 ぼくとエリオの真上。そこからスバルがほぼ直角にウイングロードで滑り降りてくる。

 その加速を余すことなく、ストラーダの後押しをするようにナックルで打ち込んだ。

 

「があっ!」

 

 その一撃でぼくの玄月にヒビが入り、支えていたイノセントハートの魔力刃が砕ける。

 同時に、地面に叩き付けられる形で仰向けに殴り倒された。

 地面が砕ける程の、背中に伝わる凄まじい衝撃に、ぼくの肺の中の空気が全て吐き出される。

 身体を起こそうとするが、全身の痛みにそれはかなわない。

 

(……負けた)

 

 ぼくは自分の身体にバインドを掛けられたところで、とうとう抵抗をやめた。

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