StrikerS編 エピローグ
「ほれ、完成品だ。六課の終わりに間に合ってよかったよ」
そう言って、訓練場に呼び出されたティルクにバスタードソードが手渡された。
それなりの長さがあるはずだが、背の高いティルクが持つと普通のサイズに見える。
拳二つ分はある柄に、大きめの柄頭、前傾した十字鍔。そこから真っ直ぐに伸びる刀身は、刃の部分が金色のクリアパーツで作られ、それを挟み込むようにして鋼色の鋼材が組み合わせられている。
「新開発のクリアタイプの鋼材を使うことが許されてな。魔力の浸透力が従来の鋼材よりも高く、魔力斬撃の効率と威力の向上が見込めるはずだ」
「開発が遅れたのは、その新開発の鋼材とやらのせいか?」
刀身を眺めながら言ったティルクの言葉に、ナグリーは面目ない、と頭をかく。
「見た目は一件プラスチックみたいだが、加工が大変でな。そいつで刀身を丸々作れりゃよかったんだが、時間と設備が無かったんで無理だった。最初から薄っぺらいものを刃に加工するだけで一杯一杯。だから、強度を上げるための鋼材で補強プラス三層構造にすることで衝撃を分散させて、なおかつ見た目も重視した逸品だ」
「あとは最終調整だけだ。それは
ティルクは頷き、剣を正面に構えて目を閉じる。
魔力の動きを感じる。そうぼくが認識すると同時に剣に魔力が注がれ、縁取るような金色の刃の輝きが増した。それに対して剣の順応性を調整する。
計測モニターに目を移すと、魔力の限界供給量にはまだまだ余裕がありそうだ。
「よし。ティルク、あの『剣』を使ってみろ」
「大丈夫なのか?」
その言葉は、以前ぼくの剣鋸を壊した前科がある故に出てきたものだった。
「前のノコギリと違って複雑な機構は積んでないし、構造も頑丈性重視だ。全力でやれ」
「了解っ――!」
ティルクはその場で飛び、地上から二メートルほどのところで剣を両手で握り、頭上に掲げる。
先程と同じように目を閉じるが、深呼吸も合わせ、その集中力は並ではない。
「シュベルトシュナイデン――」
鍔から先を、強烈な魔力の放射が包み込む。噴き上がるような莫大な魔力の奔流の塊が剣の形を成し、その衝撃が離れているぼくらの所にまで伝わってくる。
巨大な魔力剣だが、フェイトさんのジェットザンバーとは違い、ただ魔力剣を大きくしたものではない。
ティルクのあれは『でかい剣で叩き斬る』というものではなく、剣の形をした魔力の奔流で対象の防御を破り、そこから爆発させるようにして斬り砕くタイプの技だ。あくまで斬撃であるが、その威力は
あれ以来、訓練でぼくもあれを受けたことがあるが、シールドで防御しても打ち破るし、切り口ができればそこから爆発じみた斬撃を叩き込まれる。まさに一刀両断を体現した、一撃必殺の大技だ。
当然、ぼくは一撃で気絶した。隙は大きいが、使われると全力で回避しないと間違いなく墜ちる。
ともあれ、限界魔力量は問題なく稼働している。その出来に満足し、ぼくとナグリーは拳を打ち合わせた。
「OKだ! 完璧な出来だぞティルク!」
「ああ、よくわかる。今までのどんな剣よりも手に馴染む」
ティルクも獰猛な笑みを浮かべ、剣を振り回し、手の中で回して逆手に握ると、同質の鋼色の鋼材で作られている腰の鞘に納めた。
「しかし、訓練には間に合わなかったな」
ぼくはそう呟き、日付を見た。
四月ニ十六日。もう訓練はなく、解散を待つだけとなっている。剣の仕上げに予想以上に時間が掛かってしまったぼくらのミスだ。
「まあ、すぐに使うことになるから、その時に慣らすさ」
「すぐ使う? もう解散日だぞ」
もう解散までの秒読みにはいっている。訓練も無いし、緊急出撃も無い。今から模擬戦の相手なんてしたくないが。
そんなぼくを見て、ティルクは面白いものを見つけたと言わんばかりの表情をした。
「なるほど。お前は知らないんだな」
「知らないって、なにがだよ」
「まあ、楽しみにしておけ」
くっくっ、と笑い、「剣、感謝する」とだけ言って寮へ歩いていった。
最後の言葉の意味がわからず、ぼくとナグリーは顔を見合わせた。
~~~~~
そして、解散日。
「――みんなと一緒に戦えたこと、誇りに思います」
あれから姉さんに聞いてみたが、話をはぐらかされたので結局なにがあるのかはわからずじまいだ。
しかし今日、この日になにかがあるようだ。ぼくはそう確信して、目の前の
「次の部隊でも、みんなどうか元気にがんばって」
そう締め括られた挨拶に、拍手をする。なんとも面白味の無い挨拶であるが、今のぼくにはどっちでもよかった。
ぼくは解散すると同時、ティルクの背中を小突く。
「うおっ、なんだ?」
「結局なんなんだよ。お前が楽しみにしてろって言ってた『何か』は」
「……すぐにわかる」
結局言わないのか。ぼくは不満に思い、溜め息を吐く。
「よーう、カズキ」
「あ、ハーヴェイ。アンソニーとアレクセイも」
ぼくは合流したハーヴェイと拳をぶつけあわせ、後ろのアンソニーとアレクセイに頭を下げる。
「一騎。六課でお前と話すことができてよかった、素直にそう思う」
「ぼくもです。アンソニーと話して、少なからずぼくは変われた。ありがとうございます」
ぼくらが握手をすると、こんな場でも大盾を背負ったままのアレクセイがティルクに話し掛ける。
「ティルク、捜査官の資格勉強に付き合ってやったんだ。頑張れよ」
「はい、アブラモフ三尉!」
ティルクは敬礼をするが、アレクセイはそれに応えず、代わりに手を差し出した。
ティルクは一瞬戸惑ったようだが、笑顔を浮かべてその手を握った。
「……感謝します」
「ああ。またな」
「カズキ、ジュンによろしくな」
「わかってるよ、ハーヴェイ。またね」
おう、と応えると、ハーヴェイは二人の肩に手を回してフォレスタ二佐の方へ歩いていく。
二佐と目が合ったぼくとティルクは敬礼をする。フォレスタ二佐は敬礼を返すが、額の前に揃えた手を二本の指だけを立てた形に変えると、ぼくらにむけてウインクしてきた。
ぼくらが苦笑すると、満足そうにけらけら笑いながら六課の隊舎を出ていった。通りすがりのはやてさんに挨拶も忘れない。
「お別れか……あの人達とも数年一緒だったんだしな。なんか、寂しいもんだな」
「ああ、そうだな」
さて、どうしたものか。考えていると、誰かに後ろから抱き付くようにのし掛かられた。
「わっ……ね、姉さん?」
「終わったね、一騎」
少し寂しそうな声色で、のし掛かってきた姉さんは囁くように言った。
「……そうだね。なんだか、あっという間にも、凄く長いようにも感じたよ」
「あ、なのは。一騎見つけたんだ」
フェイトさんがぼくらを見付けたようで、こちらに駆け寄ってくる。そして、ぼくの状況を見てくすりと笑った。
「一騎、なのはに絡まれてる」
「どうしたんだろう。六課が解散して寂しいのかな」
「最近一騎と話せてないから寂しかったんだよ~」
姉さんがぐりぐりとぼくの背中に額を擦り付ける。
形容しがたいむず痒さに、ぼくは身震いする。
「なのは、みんな集まってるよ。そろそろ行かないと」
「はーい。行こ、一騎」
「ティルクも、ね」
「はい」
フェイトさんに呼ばれたティルクは姿勢を正して敬礼をする。
結局、上司に対しての根っこからの生真面目さは直らなかったようだ。フェイトさんも苦笑していた。
~~~~~
訓練場には普段と違い、満開の桜が花吹雪を演出していた。
ぼくの驚いた顔を見て姉さんは満足そうに笑い、ぼくの手を引いて走り出し、奥へ連れていく。
足をもつれさせながらも体勢を立て直し、それについていく。
「桜なんて、どうして?」
「卒業式といえば桜でしょ!」
明らかに普段のテンションではない。やはりと言うべきか、姉さんは少しハイになっている。
桜吹雪の中を走り抜ける。そんな人生初の経験を味わいながら、姉さんは無邪気に走っていく。
そこからめちゃくちゃに走りまわると、人影が見えてきた。フォワードと副隊長達だ。
「とうちゃーく!」
「はぁ……」
姉さんのペースに合わせて、しかも手を引かれながら走りまわるというのは、中々に疲れた。普通に走る早さはぼくの方が早いのだが、姉さんがあまりにも楽しそうだったので、追い越す気にはなれなかった。
あちこち走り回ったぼくと姉さんと同じタイミングで――まっすぐここに向かってきたのだろう――フェイトさんとティルクも到着し、はやてさんとギンガ、ヴィヴィオとレイナもやってきた。
「これで全員かな」
「はい!」
姉さんの言葉に、スバルが応える。
ぼくは息切れが激しく、その場を離れて手頃な桜の樹を背もたれに座り込む。
「お疲れさま、一騎」
「はぁ……はぁ……なんで、あんなテンション高いのさ、姉さん」
ぼくは思わずフェイトさんに愚痴る。
「最後だからね。なのはなりに思うところがあるんだと思う」
「そうかもしれないけど……」
ぼくの隣でティルクが立ったまま樹に寄りかかり、腕を組む。その表情は何かを待ち遠しいと感じているかのようだ。
ぼくは息を整えながら、フォワードの四人と話している姉さんを見る。
「卒業式、か」
あながち間違いではないのかもしれない。まあ、ぼくは卒業式で泣いたことは無いが。
「さあ、湿っぽいのは抜きにしよう!」
その瞬間、隣のティルクが腕をほどいて歩きだし、腰にバスタードソードが展開された。それを引き抜き、剣を掲げながら騎士甲冑を纏う。何事か、とそれに気をとられていると、姉さんとヴィータさん、シグナムさんもデバイスを持ち出した。
「「えっ?」」
「全力全開手加減無し! 機動六課で最後の模擬戦!」
その言葉を聞いて、ティルクの言葉の意味、姉さんのはぐらかしたときの表情。それらの意味がわかった。
隣のフェイトさんも聞いていなかったようで、慌てて右往左往している。
なるほど、ここに呼び出されたということは、ぼくも参加する権利があるのだろう。
なるほど、なるほど。
「イノセントハート」
ぼくの言葉に応え、右手にエクシードモードのイノセントハートが、左腰に鞘に納まった玄月が装備される。
「ああ、もう……一騎もやる気まんまん――」
「当然。こんな面白いこと、黙ってみてられるか」
少し乱暴な口調になってしまうのを押さえきれず、左手で腰の玄月を引き抜き、ジャグリングをするように手で弄ぶ。
「こういうことか。先に言ってくれてもよかったじゃないか」
「楽しみはとっておくものだろう」
ティルクの笑みに、ぼくは納得、と頷いた。
「かーずき! 一緒に頑張ろうね!」
バリアジャケットをすでに纏っている姉さんがぼくに笑いかける。
ぼくもジャケットを装着する。姉さんと同型の、色違いのバリアジャケット。
「おう、姉さん!」
けしてバトルロイヤルではないが、ぼくと姉さんが一緒なら負けない。そう確信できた。
~~~~~
「ほれほれ、花見すんぞ」
「んだよ、ハナミって」
「高町一尉達の故郷に伝わる伝統的な文化だとさ」
「この『サクラ』という花を眺めて飯を食うらしい」
「然り」
「ふーん。花なんて眺めて楽しいのかね」
「まあ、野外で食うのも悪くはない」
「まるでピクニックだな」
「実質ピクニックなんだが」
「うわ、花びら口に入った。うぇっ」
「おいおいちょっとちょっと。花散りすぎじゃね?」
「てか、ここ一応訓練場だろ。勝手に入っていいのかね」
「へーきへーき。サクラ眺めて飲み食いするだけなんだから」
「然り」
「ほうら酒だぞう」
「ノンアルだぞう」
「酒サケ鮭シャケ」
「サケはローフィッシュでシャケは調理済みだと聞いたことがある」
「然り」
「逆じゃね?」
「然り」
「花見、つーわけだからサクラモチも作ってみたぞ」
「ぬぁんだこれ。葉っぱついてんぞ」
「その葉っぱを剥がして単品で喰うのが通らしい」
「然り」
「本当か? モシャ……しょっぱ!?」
「マジで食ってるよばっかみてー」
「幼虫かよ」
「然り」
「お前さっきからシカリシカリうっせぇんだよッ!」
「然り」
「死ねッ!」
「マジギレである」
「サクラモチの葉っぱくわえながらマジギレとかギャグかよ」
「あ、本体はうめぇのなこれ」
「うむ。アンコをサクラが練り込まれた生地でくるんである」
「え、サクラってこんな味なんです?」
「え、違うの?」
「おいピンク幼虫。食ってみろよ」
「幼虫って呼ぶな! 死ねッ!」
「ウワサによると、サクラの枝を折ってしまったら、樹に殺されてその根によって土に取り込まれるらしい」
「マジかよサクラって食人植物なのか」
「桜の色も人を栄養として育つ度に色鮮やかになっていくとか」
「え、サクラって人間の味なんです?」
「然り」
「うっへぇ」
「怒られるぞ」
「ん……? なんか騒がしくね?」
「まわりが既に騒がしいだろ」
「いや、なんか魔法戦の音がさ」
「んん?」
「聞こえるような……」
(スターライト……)
「聞こえるなぁ(諦観)」
「聞こえるなぁ(興味)」
「聞こえんなぁ(逃避)」
「然り(思考停止)」
(ブレイカーっ!!)
「爆発オチなんて」
「いやいやそんな安直な」
「ねえ?」
「来るぞっ!!」
「えっ!?」
「えっ、ちょっと待ってブレイカー威力範囲広すぎじゃn」
~~~~~
「……六課解散日、か。出たかったっちゃぁ出たかったな」
俺は相変わらず代わり映えの無い窓の外を眺めている。
ここに居るのは仕方の無いことだが、部隊の解散に立ち会うために一日くらい外出許可をくれと言ってみたが、案の定却下された。
溜め息を吐く。何度目かもわからないそれを繰り返す度、なんとも言えない無力感のようなものが渦巻く。
「……うし!」
だからといって、俺はそれを味わって喜ぶタイプではない。
さっさと気持ちを切り替える方が、俺に合っている。
「三年、か。少しばかり長いが、しっかりおつとめ果たしてそっちに戻るからさ」
小さな窓に向けて、大きく手を伸ばし。
「レイナ、ギンガ……少しだけ待っててくれよな」
そう一人、静かに呟いた。
これにてStrikerS編は終わりとなります。長い間お待たせしてしまった読者の皆様のご期待に沿えるものが書けたかはわかりませんが、自分なりに話を纏めたつもりです。
続きに関しましては、ViVid編を書く予定であります。
ひとまずは完結ということで、ここまでお付き合い頂いた読者の皆様、ありがとうございます。少しでも面白いと感じて頂いたり、このキャラが好きだ、などと楽しんでいただけたのであれば、作者としてそれ以上の喜びはありません。