「ここで指揮をしているのは……はやてさんか」
ぼくはサーチャーで確認し、みんなの方を向いて言う。
「いいか、ぼくが通信するから、そこで出される彼女の指示に従え。『夜天の主』は広域殲滅だけじゃなく、指揮能力にも長けているからな」
「「「「「了解!」」」」」
全員の返事にぼくは頷き、未だに燃え続けている空港を睨みながら、モニターを出し、敬礼をする。
「八神一等陸尉! こちら『陸空総合訓練校』の高町研修生です! 微力ながら救助・消火活動に協力いたします!」
モニターの向こうで、はやてさんはぼくが出てきたことに驚いたようだが、すぐに表情を引き締め、
『人手が足りなかったところです! 協力、感謝します!』
「こちらは現在、空戦研修生30名、陸戦研修生20名が動けます! 指示を!」
『飛べる人は空から救助隊の支援を、他は要救助者の搬送をお願いします!』
「了解しました!」
本当は、訓練中の研修生は非常事態に出動することは無いのだが、人手が足りないのだから文句は言われないだろう。
モニターを閉じ、ぼくは同じクラスの班に向き直り、
「ということだ。飛べる奴はぼくに、飛べない奴は斎藤に続いて救助に当たれ! フィールド防御を最優先で維持しろよ」
「わかった。そっちも気を付けろよ。じゃあ、陸は四人の五チームに別れろ! それぞれのチームで援護をするぞ!」
ぼくは斎藤がしっかりと指揮できていることを確認し、飛べる30人を見て、
「こっちは四人で7チームを作れ。二人余る計算だが、そこはぼくとティルクがやる!」
「オーライ! 気を付けろよ、姉御!」
「やかましい、さっさとやれ。怪我だけはするなよ」
「見たか、今のツンデレ!」
「いや、あれはクーデレだろう」
「なあクォーツ、どう思う?」
「我輩は、あれは純粋に心配をしているが故の注意が、ついぶっきらぼうになってしまったと考える。つまり、クーデレと判断する」
その言葉を最後に、みんな真剣な表情になり、別れて飛んでいった。
ぼくは隣の男に向き直り、
「行くぞ、ティルク!」
「ああ、高町!」
~~~~~
「空港火災、か。酷い状況だ。いったい誰がこんなこと……」
また一人、救助を終えると、ティルクが呟いた。
「見た限りじゃ、判断はできないな。消火も救助も、人手不足で間に合ってない」
ぼくたちは、現役の陸士部隊との集団演習に来ていた。空港で火災が発生したと聞き、救助活動に参加するために来たのだ。
今ここに居合わせているのは、本当に偶然としか言えない。
「俺たちが居なければ、もっと救助は遅れているだろうな」
「そもそも、こういうのは空がちゃんとしてなきゃダメなんだよ。首都の航空魔導師部隊はいったいなにをやってるんだ」
緊急出動は、どれだけ遅くても全力で飛行すれば15分以内には着くはずだ。
すでに火災が発生してから20分は経過している。
「とにかく、ぼくらだけでもやらなくちゃならない。もし火災を発生させた元凶を見付けられたら、もっといいんだがな……よし、サーチ完了。このフロアに生命反応は無い」
「了解、他は?」
「クォーツの班が手こずっているな。あそこは中央ホールだ。かなりの広さがあるから、厳しいだろうな」
そこで、はやてさんの声が広域通信に乗せて聞こえてくる。
『全員、指定フロアから待避してください! 消化活動を行います!』
ぼくらは頷き、窓から脱出する。
飛行魔法で空に待避すると、遠くの空で光が瞬き、建物が凍り付き始める。
確か、『アーテム・デス・アイセス』だったか。
対象を凍らせる、はやてさんの術だ。
「冷たっ」
「雪が降ってきたな」
ぼくは首筋に降ってきた氷に声をあげてしまう。
制御に失敗したんだろうか。
ぼくは広域殲滅はあまり使えない(魔力量の関係で厳しいため)ので、よくわからないが。
「他の連中は?」
「ああ……救助を終えたらしい。氷結の余波が向こうにも届いたのかもな」
「なら、もう全てのフロアの救助は完了したわけだな」
「ああ、すぐに消火も終わる。もう安心して大丈夫かな」
「一騎!」
思わず名前を呼ばれ、振り返ると、
「姉さん!」
「やっぱり! はやてちゃんから聞いたんだよ。一騎が救助に参加してる、って」
「うん。訓練校の演習で陸士部隊に来てたんだ。その最中にこの事故のことを聞いて、研修生ながらでしゃばりに来た、ってわけ」
「そのでしゃばりの御陰で、怪我をした人はいても、亡くなった人はいなかったみたい。お手柄だね」
「うん。けど、みんなもうまく動いてくれたから、っていうのが一番だよ」
「そう――あ、きみもありがとうね。一騎、無茶ばかりしたでしょ」
そして、隣のティルクが黙っていることに気付き、そちらを向くと、固まっていた。
「ティルク、どうした?」
「あ、い、いや。かの『エース・オブ・エース』と話すことができるとは思わなかったもので」
「いいよ、そんなにかしこまらなくても。私も、きみと変わらない普通の魔導師だよ」
「高町教導官は、皆の憧れです。当然、自分も魔導師として尊敬しています」
「あはは。ちょっと、照れるかな」
そこで、ぼくの横にモニターが7つ出現する。
それには、ナグリーにクォーツ、ウィルスなど、別れた7班それぞれの班長が映っていた。
『こちらクォーツ。姉御、中央ホールの消火完了だ!』
『ナグリー。西玄関も終わった。ここで閉じ込められてた人は居たが、幸運にも怪我人はいないみたいだ』
『リブレンドだ。こちら土産物コーナー。饅頭やせんべいは燃えちまったな。合流したチームの
『東エントランスホールのウィルス。ここは跡形もなく崩壊しちまいました。幸い、避難は最優先で済んだから、ここも軽傷者はあれど、死者は0です』
『こちら連絡通路のレイド。狭いから煙が濃くてな。数人、中毒を起こしかけてた。その人たちは、さっき医療隊から大丈夫だ、と連絡が来たから安心していい』
『こちら貨物倉庫担当のヴィンズ。ここが一番被害が大きいように思う。もう少し調査を進めてみる』
『ライアだ。こちら飲食コーナー。お焦げが食欲をそそる真っ黒な肉の丸焼きがいくつも出来てる。まあ、この中に人間はいないようだ。運がよかったな』
ぼくはそれぞれの報告を聞いて安堵の溜め息をつく。
確かに、民間人に死者は居ないようだ。
「じゃあ、みんな医療隊のところで落ち合おう。マリクについては、今医療隊の面倒を増やすことも申し訳ないから、ぼくが治療する。ヴィンズ、なにか見つけた?」
『ああ、1つだけ内側から爆発したような包みらしきものがある。画像を送る』
モニタの端にクリップが表示されるので、それをタップし、開く。
確かに、原形が残っていないほどに粉微塵になったものが写っている。
『まわりに怪しい人影は無し。まあ、当たり前だけどな』
「わかった、ヴィンズ、もういい。医療隊の場所で落ち合おう。画像と一緒に、陸士部隊の人たちに報告しておくよ」
『ああ、姉御。んじゃ、あとでな』
ぼくはモニターを閉じると、姉さんに向き直る。
やけににこにこしている姉さんに、なにさ、と聞くと、
「一騎にもお友達ができたんだな、って思って」
「いや、まあ……とにかく、ぼくらはもう行くよ」
「うん、お疲れさま」
「姉さんも。またね」
ぼくはティルクに頷き掛け、移動を開始した。
~~~~~
「お、無事だったみたいだな」
みんなが集まっているところに着地すると、斎藤が声を掛けてくる。
「なんとかな。そっちも無事なようでなによりだ」
「俺は問題ない。炎には慣れてるからな。それより大変だったんだぜ。四人家族を助けたんだが、親父がパニクって泣き叫びながら関係無い方に逃げ出すわ、それを見た娘さんが泣くわ、それにつられて赤ん坊も泣くわ。おまけに母親は気絶しちまって」
泣きたいのは俺だ、という言葉に、斎藤と一緒の班だったメンバーも頷いた。
「失礼、ちょっといいか?」
その、低い声に振り向くと、白髪の混じった頭の、陸士部隊の制服を着た、落ち着いた印象を受ける男性が立っていた。
ぼくらは一斉に敬礼をする。
男性はそれに敬礼を返し、
「108部隊のゲンヤ・ナカジマだ。協力、感謝する。お陰で救助活動がはかどった」
「いえ、当然のことです」
斎藤が間髪入れずに答える。
「自分達も研修生とはいえ、局員の端くれですから」
「確かにな。だが、腕前は一般の魔導師と比べても遜色無い。将来が楽しみだ」
「ありがとうございます!」
ナカジマ氏はもう一度、
「後日、改めて礼に伺う。協力、本当に感謝する」
それだけ言うと、自分の隊があるであろう方向に戻っていった。
「ナイスミドル、といったところか」
「その言い回し、なかなかに古いぞ。まあ、同意はするが。そういえばマリク、火傷は大丈夫か?」
「背中が燃えるように痛い」
「見せろ、治療してやる」
「やったぜ! 姉御のデレがようやくぅいだあああああああ!!」
ぼくは火傷の痕を殴り、治療魔法を当てる。
そんなぼくにナグリーがもたれかかってきて、
「姉御、働いたら腹へった! なんか食いに行こーぜぃ」
「アホか。ぼくらは演習の途中だったんだぞ。戻るに決まってるだろうが」
「うわーい、クソッタレが!」
「うわ、こっち来るなゴミクズ!」
「テメエ、張り倒す!」
「斎藤の兄貴ぃ、助けてぇ!」
「お前らうっせえよ。高町、さっさと戻ろうぜ」
「クォーツ、助けて」
「さわるな変態」
「お前に言われたくねーよ!」
弟は『姉御』、斎藤は『兄貴』と呼ばれてます。
見た目とカリスマ的な意味で。