魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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77話 半年すぎて2

 面会だ、と言われたのは夜だった。

 こんな時間に面会に来るやつなんて知れている。事件が起きてすぐの時なんて、面会時間が過ぎようと構わず話を聞いてくる背広の連中が居た。

 半年経ってるのに、まだ終わらないのか。俺は溜め息を吐き、面会室のドアをくぐった。

 

「よう」

 

 しかし、俺の予想を裏切り、そう言って軽く手を挙げたのは陸の制服を着た初老の男性。

 

「――ナ、ナカジマ三佐ぁ?」

「元気そうだな、斎藤一士」

 

 俺は思わず口をつぐみ、三佐の正面に座る。

 

「何度も言ってるだろ、そんな呼び方はやめろ。一応お前の保護者になるんだぞ、俺は」

「……あんたを『お父さん』と呼べと?」

「戸籍上はそうなるな。レイナはちゃんと呼んでくれてるぞ」

 

 『義父』としてな。そう思ったが口には出さない。このおっさんも気付いているだろうから。

 俺の考えを知ってか知らずか、三佐は悠々と湯飲みを手にとって茶を啜った。

 俺は多少口ごもると、頬を掻きながら、

 

「別に三佐の事は嫌いじゃないですがね。俺にも昔親が居たわけですから、なんかね」

「知ってるさ。なら、お前が呼びたいように呼べばいい。俺もまだ『斎藤ー士』って呼んでるしな」

 

 で、と俺は話を進める。

 

「なんでこんな時間に来たんで? いつもは休日の昼間に来たり、更正プログラムの講師役(せんせい)のギンガに着いてきた時くらいじゃないすか」

 

 俺とレイナを引き取ってくれると聞いて以来、何度かこうして来てくれるのだが、こんな遅い時間に来るのは初めてだ。しかも一人で。

「ギンガは今日から仕事で暫く来れねぇし、レイナは高町のところで預かってもらってる。まあ、お前を見に来たのはついでだよ」

「ついで、ね。戸籍上は息子の男に対して」

 

 俺の皮肉に反応せず、三佐は一息吐いて、

 

「今日、ノーヴェとウェンディの拘留期間が終わる。俺は二人の迎えに来たんだよ」

「ノーヴェとウェンディ……赤毛の二人組だったか。記録で見ただけで、俺は面識ねぇな」

「おや、そうだったか?」

「俺がやりあったのは栗毛の二人組。少し顔の雰囲気が似てたような気もするし、双子かもな」

「ほう……まあ、ノーヴェ達も『ナカジマ』の一員だ。お前からしたら妹だな。今度連れてくるから挨拶しろよ」

「へいへい……」

 

 しかし、と俺は思った。

 

「けどよ、随分と早いじゃねえか。まだ半年だろ? 俺なんかあと二年半も拘留期間あんだぞ」

「あの二人は一番――言っちまえば罪が軽い。他はもう何年か必要だが、お前ほど長くはねぇよ」

「――ま、そりゃそうだ」

 

 俺は人殺してるんだし。

 それも口に出さなかったが、俺の言葉から察したようで、三佐は目を細めた。

 

「お前の状況は聞いてる。やむを得ない――とは言い切れんが、冷静な判断ができない状態ではあったろう」

「……どうだか」

 

 そう言われたことは一度や二度じゃない。俺の裁判の時、二佐や一騎も言っていた。『斎藤潤は妹を危険にさらされ、冷静な判断を欠いていた』と。

 確かに、あの時の俺は冷静に判断できない状態ではあっただろう。しかし、それでも俺は俺自身の意思であの男を攻撃し続けた。レイナを守るために、レイナを傷付けたあの男を。

 それは事実であり、冷静であろうがなかろうが俺の判断だ。それを言われるのは、どうも気に入らなかった。 

 

――言い訳をして、楽になろうとしているかのようで。

 

「『俺にもプライドはある』とでも言いたげな顔だな」

 

 三佐が息を吐いて、目付きはそのままに続ける。

 

「何を勘違いしてるのか知らんが、お前はまだ18のガキだ。そんなお前にはどうにもできない事もあるし、同時にお前が気に入らなくても被せられるモノもある」

 

 被る、とは罪のことだろうか。

 それとも、擁護のことだろうか。

 

「お前は気に入らんだろうが、お前を助けようとした人間は少なくない。高町のぼうずもそうだし、フォレスタのやつもそうだ」

 

 そんなことはわかっている。だからこそ俺は反論する言葉が見付からず、違う話題を持ち出して文句を言う。

 

「……俺はもう19だけどな」

「おろ、いつの間に?」

「いつの間にもなにも、俺誕生日七月だし」

二月(ふたつき)も前じゃねえか。言ってくれりゃお前にもバースデーケーキを買ってやったのになぁ」

「いや、いらねぇけど」

 

 面会に来たレイナに「お誕生日おめでとう」って祝ってもらったし。

 

「ま、あれこれ考えるのはやめるって決めたんで。好きなように、自分のやりたいように。そしてなによりもレイナのために生きたいと思ったから、俺は絶対に立派な人間として返り咲いてやりますよ」

「それに関しては任せとけ。職場も家庭も、最上のものをプレゼントしてやろう」

 

 俺の所属はここから出たら陸士108部隊に異動となる。つまりはこのおっさんの下で働くことになるわけで、その言葉はそれなりに信用できた。

 なら、とそれに乗っかって俺はにやりと笑い、

 

「なら、その最上の家族の中にいる最上の長女(ギンガ)さんを俺の嫁として頂けませんかね?」

「俺より稼げるようになったら考えてやるよ」

 

 無理じゃねえか。

 

 

~~~~~

 

 

 隔離施設の暮らしは端的に言えば面倒臭い。まあ、犯罪者の俺が文句を言える立場ではないが、既に知っている常識や法律や用語などをもう一度勉強させられるのだ。

 更正プログラムは基本的に戦闘機人(ナンバーズ)や孤児のような、普通の暮らしが出来ずに犯罪を犯してしまった者に課せられるものだ。そういう意味では、俺に対して行っても意味の無いものだ、と言い切ってしまってもいいかもしれない。

 まあ、刑務所で強制労働させられるよりはよっぽどマシだろうが。

 そんなことを考えてぼんやりとしていた俺を、指導担当の女性職員が厳しく咎める。

 

「斎藤ー士、プログラムに集中してください」

 

 了解です、と呟くように答え、無表情に多少の真剣さを織り混ぜた表情を作り、プログラムのモニターに目を向ける。

 くどくどと厳しい表情と言葉で更正プログラムの規定の文章を読み上げるのを聞きながら、俺は考え事を続ける。

 

(……せめてトレーニングくらいはさせてほしいよなぁ。こちとら身体が資本の『闘士(ファイター)』なんだから)

 

 こんなことでは施設から出たときには鈍りきってしまう。

 そう考えて、俺は自分を『闘士』と自称したことに少し驚きを覚えた。

 近代ベルカ式の術者は多くが『騎士』を名乗る。アローンなんかはその見た目からして代表例と言っていいレベルだし、モンディアルや元副隊長の二人も――彼女らは古代だが――やはり騎士を名乗っている。

 しかし、俺は自分を闘士と意識している。格闘家としての矜持かと思ったが、しかし、格闘スタイルのギンガやスバルは魔導師として登録していたと思う。

 

(……魔導師、か)

 

 あの二人が魔導師と名乗っている理由はわからない。憧れの人物が魔導師なのかもしれない。

 そう適当に結論付け、俺は自分のことに思考を戻す。

 

(……まあ、俺は騎士なんて名乗るほどの『誇り』は無いからな)

 

 俺は誇りなんて持ち合わせていない。だから、『騎士』なんて豪勢な名を名乗る気はもうとう無かった。

 それに。

 

(……騎士ってのは武器を使ってるイメージがあるしな。だからこそ――)

 

 拳で戦う俺は、騎士というよりも――

 

(――『闘士(ファイター)』だよな)

 

 自称するならばこちらの方がいいだろう。

 なるほど、なかなか悪く無い。思い付いた途端、自分はそうあるべきだと思えた。俺にしっくりくる称号だと思えた。

 

 俺は、魔導師でも騎士でもない。闘士だ。この身で闘うための戦士だ。

 

 女性職員に対して適当な受け答えをしながら、俺は内心でそう考えていた。

 

 

~~~~~

 

 

「斎藤ー士、面会が来てるぞ」

「お、りょーかいです」

 

 そんな俺がこの施設における、唯一の楽しみと言えば、やはりと言うべきかこれだ。

 入所初期は取り調べをたくさんされてうんざりした『面会』だが、最近来るやつは決まって俺個人の関係者だからだ。

 

「お兄ちゃん!」

「よう、レイナ」

 

 面会室に入った俺に対し、嬉しそうに声をあげたのはレイナだ。

 椅子に腰掛け、機嫌が良いのか足をぷらぷらと揺らしている。

 俺もその隣に腰を降ろすと同時、レイナが待ちきれないとばかりに話し始める。

 

「お兄ちゃん、私ね。一騎さんに頼んでお兄ちゃんのビデオ見せてもらったんだ」

「ビデオ?」

 

 一騎が持っている俺のビデオというと……

 

「もしかして、俺が残していたレイナの成長記録か……?」

「……お兄ちゃん、そんなの撮ってたの?」

 

 違ったらしい。ジト目で俺を見てくるレイナに肩を竦めて答える。

 

「可愛い妹の成長を記録して何が悪い。思い出は大事なんだぞ」

「ふーん……なんかお兄ちゃんらしくない言葉だね」

 

 失礼な事を言ってくれる。

 ちなみに入学式の写真やビデオは一騎がしっかりと(ヴィヴィオメインで)撮影・保存してくれているらしい。

 

「で、結局なんのビデオなんだ?」

「えっとね、お兄ちゃんの戦ってる映像」

「俺の……戦い?」

 

 それはつまり、文字通り俺が戦闘中の映像だろうか。

 

「それって、どのシーンだ?」

「私が見せてもらったのは、普段の訓練のもの。模擬戦とかが主かな」

 

 流石に一騎は全力戦闘の映像は見せていないらしい。戦い方としては参考になるかもしれないが、俺としてはなるべく見られたくはないものでもある。

 基本的に俺の全力は死に物狂いであり、相手を叩きのめそうと鬼気迫るものだからだ。そんなものを見せるのは、妹の教育上よろしくないだろう。

 

「なにか参考になったか?」

「うん。特に避ける動きや、連続攻撃は面白かった」

 

 そう言って手振りを交えて話し始める。

 

「弾を避けながら近付いて、腕や脚を使った攻撃はすごかったよ。あれは真似できないな、私は」

「まあ、そうだな。一騎やギンガにも言われたよ」

「アクション映画みたいな動きだよね。回転しながら避けて裏拳、そのまま跳んで回し蹴り、とか」

「動きを大きくすれば、威嚇や牽制としても使えるからな。それが通じない相手にはうまくいかねぇけど、翻弄されるタイプの相手にはかなり有効だ」

 

 俺の言葉に、レイナはふんふんと頷いて興味津々といった様子だ。

 俺の戦い方を諌める人こそあれ、学ぶ姿勢を見せたのはレイナが初めてだ。まあ、戦闘スタイルを語ること自体が多くない、というのも理由の一つだろうが。

 

「通じない相手にはどうするの?」

「動きを変える。そもそも俺には決まったファイトスタイルなんて無いからな。攻めたり守ったり避けながら削ったり。そんな感じだ。けど――」

 

 そう俺はレイナを見て、

 

「俺の勝手な考えになるんだが、お前はたぶん、派手で大振りな動きは向いていないだろうな。必要なときに効果的な動きをしていくべきだろう」

「あ、その事でも聞きたかったんだけど……」

 

 レイナは軽く手を挙げる。質問です、と生徒が聞く時のように。

 

「私って、どんな格闘型(スタイル)が向いてるかな?」

 

 それは、レイナの今後を左右する重要なものだと感じた。もし俺が下手なことを言えば、レイナの持ち味を殺すことになる。

 

「それは流石に俺でもわからない。お前の身振りで判断できるほど、俺も実力があるわけじゃないからな。けど、一つだけ言えるのは」

 

 俺は自分の拳を握り締め、

 

「『誰かの真似事』は自分のものにはならない。参考にするのはいい。 動きから学ぶのも大事なことだ。けど、それはあくまでそいつの動きであって、自分のものじゃない」

 

 例えば、と指をたて、

 

「剣が上手い奴の捌き方を真似たとしても、俺の手には剣がない。だから、足や位置取りの動きを真似ることはできても、いざ武器を受けるのは自分のやり方でなくちゃいけない――んだけど、わかるか?」

 

 俺は説明があまり上手ではない。不安に思ってレイナに聞いてみたが、大丈夫、と頷いた。

 

「だから、そのやり方は私自身が見付けなきゃ駄目、ってこと?」

「まあ、そういうことだ。幸い、お前の周りには格闘に限らず、戦闘のスペシャリストがたくさん居る。そいつらにたくさんアドバイスもらって、手合わせしてもらって、自分の戦い方を編み出すんだ」

「編み出す、か……」

「自分に合った戦い方は必ずある。それは自分で気付くときもあるし、無意識に身体が思い付くこともある。まあ、つまりだな」

 

 俺はレイナの頭に手を乗せ、軽く撫でるように動かす。

 

「できることややれること、それを全部やってみろ。そうすりゃ絶対に見つかるから」

「……うん、わかった。みんなと相談してみるね」

 

 レイナはにこりと笑ってそう答えた。

 俺も笑い返すと、そういえば、と疑問を口にする。

 

「今日はどうやって来たんだ? お前一人で来たわけじゃないだろ?」

「あ、うん。今日は……」

 

 そこで、面会室の扉が開く。職員が時間を知らせに来たのかと思い、そちらに目を向けると――

 

「失礼する」

 

 扉をくぐってきたのは、空の制服に身を包んだ背の高い男。生真面目さを思わせるきりっとした顔付きに、短い金髪。昔からの付き合いだと言うのに、俺を一瞥しても大した反応は見せない。

 ティルク・アローン。その予想外の人物に、俺はぽかんと口をあけた。

 

「今日は、ティルクさんが施設に来る用事があるから、って。ついでに連れてきてくれたの」

 

 レイナの言葉を聞きながら、俺はアローンと目を合わせたまま唖然としている。

 そんな俺を見て、そいつは溜め息を吐き、

 

「相変わらず能天気な奴だな。元分隊長に会ったんだから、敬礼の一つでもするのが普通だろう」

 

 などと宣った。

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