魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

86 / 97
前半:小ネタ
中盤:ちょっと真面目な話
後半:コイバナ

といった構成になっとるです。
そろそろ一騎をはっちゃけさせる頃合い、と考え始めてます。



81話 半年過ぎて6

「いい、一騎? お姉ちゃんは気になるの」

「はい」

「弟がお姉ちゃん思いに育ってくれたのはとっても嬉しいよ」

「そうですか」

「でもね、やっぱりちょっとだけ不満があるの」

「なんでしょうか」

 

 びし、と指を突きつけられる。『人に指をさしちゃダメなの!』と、この姉に注意されたのはぼくが何歳の頃だったろうか。

 

「一騎が片思いしてるのに、身近な女性である私に相談してくれないこと!」

「はあ」

 

 なにを言ってんだこの人は。

 

 

~~~~~

 

 

 そんな気が触れてしまった姉をいかに諌めるかを考えながら、お風呂沸いてるから入ってきなよ、と背中を押しながら浴室に送り出す。

 

「一騎は最近、お兄ちゃんに似てきたね」

「兄さんに? 何が」

「顔とか、声の雰囲気とか。昔の可愛い顔と違って、男前になってきたね」

「そりゃ二次性徴だよ。やっと始まったんだ」

「あー、そういえばクロノ君も十代後半で背が伸び始めた、ってフェイトちゃんが言ってたよ」

「男はそういうもんなの」

「えっ、本当?」

「嘘だよ。ぼくやクロノさんが遅すぎるんだ」

 

 潤やティルクは昔から高かったし。

 クロノさんへの発言に他意は無い。

 

「あっ、そうだ。一騎、背中流してくれない?」

「イヤだ」

「えー、いいじゃん減るもんじゃないのに。ヴィヴィオとは時々お風呂に入るでしょ?」

「小学一年生の妹を風呂に入れるのはおかしな事じゃない」

「二十歳の美人なお姉ちゃんの裸が見れるんだよ?」

「姉の裸には興味無いよ」

「じゃあもしフェイトちゃんに誘われたら?」

「喜んで入る」

「エッチ」

「まあフェイトさんはそんなこと誘ってこないだろうけど」

 

 そう答えるのも男の甲斐性だよ、と続けて脱衣所に押し込み、扉を閉めてやる。

 最近うちの姉は幼児退行でも始まっているのだろうか。まあ、ぼくらの姉弟関係が子供っぽいことは認めるが、しかしあの絡みは少々めんどくさい。いやまあ、ぼくが楽しんでいることも否定はできないのだが。

 しかし、先のいちゃもんはよろしくない。はあ、と溜め息を吐く。

 

「普段は意識しないようにしてるんだけどな……」

 

 ああも焚きつけられては、会いに行きたくなってしまう。

 顔が見たくなり、声を聞きたくなり、名前を呼ばれたくなる。

 

「……っ」

 

 思わず名前を呟きそうになり、慌てて首を振る。もし聞かれでもしたら面倒だ。

 

「昨日のティルクに感化されたんだろうな」

 

 またもや溜め息を吐くが、気持ちが止まらずに溢れてくるような感覚は残っている。

 だから――

 

「――今度、また会いに行こうかな」

 

 そうしよう、とぼくは一人で頷いていた。

 

 

~~~~~

 

 

 姉さんが風呂をあがるまでの間、教導ビデオを見ながら今日の動きを確認していると、携帯端末(リベレーター)が震えだす。通信だ、とポケットから取り出して画面を見ると、ぼくは予想外の相手に戸惑った。

 

ティアナ(teana)……?」

 

 何故。アフターなトークならティルクに発信するべきだろう。

 そこまで考えてから、別件だろうということに気付き、画面の通話ボタンをタップする。

 端末の画面からモニターが飛び出してきて、ティアナの顔が表示される。

 

『夜分遅くにすみません、一騎さん』

「いや、大丈夫だよ。どうかした?」

 

 さっそく用件を訪ねるが、ティアナは少し躊躇う様子を見せた。

 眉間にしわがよっていて、僅かに目が赤い。どうやらぼくに発信する前にも随分と悩んでいたようだ。よほど重大な用なのか。

 もし下らない用事(のろけ)だったりしたら――

 

『聞きたいことがあるんです』

 

 ぼくの考えは、ティアナの真剣な表情によって一瞬で意識の外へ出た。

 

「……いいよ。なんでも答える。遠慮せずに聞いて」

 

 だからぼくは、同じように真剣にそう伝える。

 

『……一騎さんも「偵察課」だったんですよね』

「ああ」

『ティルクさんが言ってたんです――』

 

――人を殺しても罪悪など感じなかった、って。

 

「……ふーん」

 

 ぼくは思わず眼を細めた。

 そんなぼくにティアナがぐっと息を呑むが、ゆっくりと続ける。

 

『聞けなかったんです。その意味がよくわからなかったけど、ティルクさんは――』

「ティルクは他の局員に『人殺し』と罵られた事がショックだっただけだ。偵察課で人を殺したことは、ティルクの精神とは関係無い」

 

 ぼくは先にそれだけ話した。

 ティアナはそれを聞いて、何かを確信したような顔になった。

 

『それが聞きたいんです。けして一騎さん達を悪く思ってる訳じゃないんです――けど、どうして人を殺した罪悪を感じなかったのか、っていうのが気になって……』

 

 ふむ、とぼくは腕を組んだ。なるほど、よくよく考えれば当然の疑問だろう。

 ぼくらは人を殺してきた。しかし、精神を病むこと無く、罪悪に苛まれることなく、平穏無事に毎日を過ごしてきた。

 それが、ティアナ達のような一般の局員には不気味に映るのだろう。客観的に考えれば、人を殺している人間が飄々としているのは、確かに理解に苦しむ。

 そんな疑問を、ずっと抱えていたのだろうか。ぼくは顎に手を当て、頷いた。

 

「そうだな。結論から言えば、それが『命令』だったからだ」

 

 ぼくはそう言った。当たり前のように。

 

「ティアナだって、今まで命令を受けて仕事をしたことがあるだろう。それと同じなんだよ」

『え……』

 

 ティアナは眼を見開く。まあ、何を言ってるのかと思われるだろう。人を殺しているのに。

 しかし、ぼくらにとっては『命令だった』ということ。それが全てだった。

 

「仕事だったんだよ。そう命令されてたんだよ。だからぼくらはそれを遂行した。悪いことなんてしていない(・・・・・・・・・・・・)。だから罪悪なんて感じる必要(こと)はないんだよ」

『それは……いったい?』

 

 良識を持った人なら、不快感さえ覚えるかもしれない答え。しかし、ぼくはどんな人間であっても、同じ状況になれば、誰もが同じ行動を起こすだろうという確信があった。

 

「人は命令されれば、責任から逃れられる。仕事であれば、どれほど残酷なことでもやれる。それがどんな結果を生むかを知っていても、だ」

『それは……人間心理の話ですか?』

「まあ、そんな感じかな。もちろん、命令を出した本人がどう感じるかは知らない。知りたくもないし、教えてもくれないだろう」

 

 地球出身の人なら、アイヒマンという男を知っているだろう。ナチスドイツの時代に生きていた人物だ。ぼくらのこの麻痺した感覚は、おそらく彼の精神状態と同じものの筈だ。

 ぼくらは罪悪なんて感じていない。結果として人が死んだとしても、それは悪人だし、それが命令だったから。

 そう思い込んだ。自分を騙すように。いっそシンプルにすら感じられる価値観を持っていなければ、ぼくらは間違いなく精神を病んでいただろう。

 

「だから、偵察課(ぼくら)はこうして気楽に生きている。ティルクも思うところはあるだろうけど、罪悪はほとんど感じていない。あいつがもどかしく感じているのは、そのへんだろうな」

『そうだったんですか……ありがとうございます。不躾な質問なのに、答えていただいて』

「まあ、それは気にしなくていいよ。ぼくらは何も気にしちゃいないんだからさ」

 

 そう話を締め括り――真面目な話が終わると、なんとなく邪推をしたくなった。

 

「ところでティアナ。騎士様のエスコートはどうだった?」

『えっ!?』

 

 ぼくがにやりと笑って聞いてみると、ティアナはあっさり顔を真っ赤にした。

 

『ど、どうして知ってるんですか!?』

「さあどうしてだろうな。まあ、クラナガンなんてデカイ街を歩けば、誰かに見られていてもおかしくはないだろう?」

 

 ぼくはティルク本人から聞いたのだが、当然それを伝える気は無い。というかティルクから話を聞いた、と相談しに来た時点でどうしても何も無い。

 そんなぼくの指摘に、ティアナはうっ、と声をつまらせる。

 

「それで、どうだったんだ。あの朴念仁は」

『その……優しかった、です』

「だろうな」

 

 あいつはヴィンズやライアに並び、偵察課のメンバーの中でも優しい部類に入る。ぼくはといえば、姉さん達には良い子だと褒められる事があるが、親交の無い人間にはあまり評判はよろしくない。

 ちなみに一番優しいのは潤だったりする。身内限定だが。

 

『ペンダントも買っていただきました』

「ほおほお」

 

 ぼくは相槌をうつ。

 

『それから、食事をして……』

「それでそれで?」

『うわっ、なのはさん!?』

 

 風呂上がりで髪が濡れたまま――当然寝間着は着ている――の姉さんが興味津々でモニターに詰め寄る。

 急に現れた姉さんにうわ、とぼくは声をあげ、新しいバスタオルを取って来てその頭にかぶせてわしわしと拭ってやる。

 

『仲いいですね』

「でしょー。弟は良いよ~、可愛くて素直で。でもそんなこと――」

「どうでもいいから続きっ!」

「早くっ!」

 

 ぼくと姉さんはその体勢のまま言葉を繋げ、うきうきと尋問を再開する。

 

「食事をしてどうしたって?」

『そこで……』

 

 そこで、とティアナが顔を伏せる。頬が赤く染まっていることから、ぼくらは期待に瞳を輝かせる。

 

『好意的に想ってる、って言われました……』

「「よっしゃぁ!」」

 

 ぼくは姉さんとハイタッチをする。ぼくが人前でこんな盛り上がりを見せるのは初めてだが、深夜テンション故の暴挙だ。

 正直、ぼくはそこまでティアナと親しいわけではない。が、そんなぼくにさえ次々と喋ってしまうことから、ティアナも存外舞い上がっているようだ。

 が、そこでティアナの表情が曇った。

 

「ん? どうした、ティアナ」

「嬉しくないの?」

『いえ……嬉しいです、とっても。けど――ティルクさんは、私の事を想い始めたきっかけを話してくれました。すごく、饒舌に』

「まあ、好きな理由を語らせたら男は長いからな」

 

 ぼくはうんうんと頷き――姉さんがそんなぼくを興味深そうに見ていることに気付く。ティアナもぼくがそんな言葉を発したことが意外だったようで、思わずといった様子で顔をあげた。

 ぼくはその視線にさらされて居心地が悪くなり、手を振って続きを促す。

 

「なのに、ティアナは何が気になるんだよ」

『凄く、嬉しかったんですけど……私には、そんな大きな理由が無いんです』

 

 理由、とぼくと姉さんは顔を見合わせる。

 

『私もティルクさんのこと……好き、なんだと思います。けど、どう好きなのか、とかが上手く出てこなくて……』

「理由が上手く見つからないから、好きなことに自信が持てない、ってこと?」

 

 たぶん、と姉さんの言葉に、ティアナが頷く。

 

『これって、もしかしたら私は――』

「違うよ」

 

 ティアナがその先を言う前に、姉さんがそれを止めた。

 割り込んだ姉さんの言葉にティアナが押し黙り、ぼくが続けて口を開く。

 

「一緒に居て楽しかったのなら、憎からず思っているのは間違いない。極端に考えてみろ。例えばぼくと一緒に街に出掛けたとして、ティアナは楽しめたと思うか?」

『それは……自信、無いです』

「だろうな。ぼくもティアナと出掛けても間が持つとは思わない」

 

 ぼくはティアナを嫌ってはいないが、懸想しているわけでもない。そもそも仲が良いわけでもない。

 だから、ティアナになんと言われてもぼくにダメージは無い。逆も然りだろうから、ぼくもあっさりそう返した。

 

「言っちゃなんだけど、好きな理由なんて後付けだよ」

『後付け、ですか?』

「好きになるのは知らないうちに好きになってるもんだ。そこには大した理由はない。けど、男は理屈っぽいからな。もっともらしく、しかし嘘ではない言葉で好きになった理由を作るんだ。ティルクの云々だって、もちろん理由の一つであり、大事なことだろうけど――アイツはたぶん、最初からティアナが好みだったんだろうさ」

「おお、至言っぽいね」

 

 姉さんがぱちぱちと手を叩いてぼくを茶化す。しかし、その顔はどこか嬉しそうであり、本心では感心していることが見てとれる。

 

「ティアナは正直、ティルクの見た目で惹かれてる部分もあるにはあるだろ。あいつは顔が良いからな」

『……優しくて、頼りがいもありますから』

「そうだろう。ティルクもたぶん一緒だ。ティアナは顔も良いし――少しいきすぎる時もあるが――真面目で努力家だ。性格的に、ティルクが好みそうな女であることは間違いない!」

 

 ぼくはそう言い切り、びしっと指を突きつける。

 昨日までティルクがティアナを想っていたことを知らなかったお前が何を、と言いたそうに姉さんがジト目でぼくを見ているが、気にしないことにする。

 バスタオルで髪の毛を押さえるようにして水気を取りながら、姉さんが口を開く。

 

「まあ、そうだね。案外見た目は大事だったりするかも。一目惚れ、なんて言葉もあるしね」

「正直言うと、ぼくも潤もティルクもみんな面食いだ。潤だってギンガを好いてるみたいだが、そのギンガも美人だしな」

「じゃあ一騎自身の眼鏡に適った人は?」

「姉さんとかフェイトさんとか」

「……また誤魔化された」

 

 ぶー、と頬を膨らませる姉さん。流石にこの程度でぼろを出すと思われては困る。

 

『顔、ですか……』

「まあ、顔がどうのって言うと良いイメージが沸かないかもしれないけど。理由なんてつけようとすればいくらでもあるし、無いなら無いで大丈夫だろ。『好きだ』って伝えて相手も『好きだ』と答えてくれれば、それはもう両思いだ。交際に発展してもおかしくない」

『そう、ですね。言われてみれば、そうかもしれません』

「結構暴論じゃない?」

 

 姉さんは少し納得できないようだが、恋愛をしたことない人には黙っていてもらう。

 ぼくは姉さんの浮いた話を聞いたことがない。昔、ユーノさんがそう(・・)なのではと疑って闇討ちを仕掛けたことがあるが、聞いてみたところ良くも悪くも『友達』止まりらしい。

 ちなみに誤解は解けたので、ぼくとユーノさんの関係は良好だ。

 

「さてと、ぼくも風呂入ってくるよ。じゃあな」

「じゃあ私が背中流してあげよっか」

「あんた風呂上がったばかりだろ。いらないよ」

「あ、それじゃあ後は頑張ってね、ティアナ」

『は、はい……ありがとうございます』

 

 最後の最後で苦笑いを浮かべてティアナは通信を切った。

 ぼくはじゃれついてくる姉をかわすと、脱衣場に飛び込むと同時に鍵をかけた。

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