「はじめまして、っス」
「……はじめ、まして」
「……ハジメマシテ」
ウェンディ義姉さんとノーヴェ義姉さんの言葉に対し、お兄ちゃんは片言でそう返した。
私はそんな三人に背を向け、ぷるぷると肩を震わせて笑い出しそうなのを堪えている。
「えーと、お二人さん。俺のことは知ってるか?」
「レイナの兄貴」
「格闘家」
「「あとは……」」
それだけみたいだ。まあ、私が話したのもそのくらいだし、充分俺を言い表してんな、とお兄ちゃんも頷いた。
「「あ、あとギンガの『男』」」
「いやっ、それはいらねぇっ!」
声を揃えて突きつけられた言葉にお兄ちゃんは声を荒げた。私はとうとうくすくすと笑い出してしまう。
「ともかく、そんだけ知ってりゃ顔合わせにゃ充分だ。あと、ナカジマ三佐は?」
「向こうに顔出しに行ったっス」
「ほーう。別に、お前らも行っていいんだぞ。向こうには姉妹もいるんだろ」
「いやー、折角
「あ、ああ」
そんな微笑ましいやりとりを眺めているのもいいけれど、私は三人だけで話をさせてみようかな、と考え、
「お兄ちゃん。私、義父さんのところに行ってくるね」
「えっ? レイナ、兄貴と話さないんスか?」
「後で戻ってくるよ。それまで三人で話しててね」
お兄ちゃんに目配せをすると、わかってるよ、と言わんばかりに頷いた。
私はにこりと笑ってその場を後にして、中庭のようなスペースへ移動する。
「えっと……」
辺りを見回す。ディードさんとオットーさんが会釈をしてきて、私も笑顔で頭を下げる。
義父さんがチンク義姉さんと話しているのを見つけたのでそちらへ歩いていく。
「こんにちは、チンク義姉さん」
「やあ、レイナ。久しぶりだな」
チンク義姉さんは私に気付くと、ぽんぽんと頭をなでてくれた。
「レイナ、ノーヴェ達はどうした?」
「とりあえず、三人で話させてみようかな、って思って」
「三人――やはり、
「うん、そうだよ」
私が肯定すると、大丈夫だろうか、とチンク義姉さんは呟く。
「たぶん大丈夫。ウェンディ義姉さんがなんとでもしてくれるよ」
「……確かにな。誰とでも打ち解けられるのはあいつの長所だ」
「あと、ディエチ義姉さんは?」
「ああ、ディエチなら……」
そこでチンク義姉さんは、この人にしては珍しくにやりと笑って指で示した。
「あそこだ」
その指の先には、二人の人影が並んで座っている。一人はディエチ義姉さんだ。そして、その隣で座っている人を見て私はぽかんとした。
ナチュラルに揃えられた栗色の髪に、中性的ながら凛々しく整った顔立ち。白と青――確か教導隊――の制服を着ていて、それは私もよく知っている人だった。
「あれって、もしかして一騎さん?」
「ああ、高町三尉だ。今しがた来たばかりだが」
チンク義姉さんがそう言って頷き、義父さんがほほう、と声をあげる。
「高町のぼうずが、ディエチと?」
「はい。本人達は隠しているつもりのようですが――おそらくは
「そうなの?」
私は素直に驚いた。ヴィヴィオもなのはさんも、一騎さんがディエチ義姉さんと仲が良いなんて一言も言ってなかったのに。
「……なに話してるんだろ」
~~~~~
「久しぶり、ディエチ。元気してたか?」
「うん。最近はわりと元気だよ、カズキ」
ぼくが手をあげて声をかけると、ディエチも同じように手を小さく振って応えてくれた。
そのままディエチは、自分の右側の芝生をぽんぽんと叩いて示す。隣に座れということだろうか。お言葉に甘えて腰を下ろし、ネクタイを緩めて一息吐く。
「…………」
「ん、どうかした?」
「い、いや、なんでも」
こちらをじっと見ていたディエチに声をかけると、露骨に目を逸らされた。
なんだったんだ、と考えながら、ぼくは手に提げたビニール袋を見せた。
「はい、これ今回のお土産」
「またケーキ?」
「ふふん。ぼくがそう何度も同じ手を使うと思うなよ」
なにその言い方、とディエチが苦笑するのを横目に、ぼくが取り出したのは紙袋だ。
口を開くと、ふわっとチョコの香りが広がる。
「チョコポット、っていうお菓子だよ。そこそこ人気らしい」
「へぇ……」
袋を覗き込んでいたディエチが、ちらりと許可を求めるようにぼくの目を見てきたので、笑って頷いてやる。
ディエチは手を伸ばして小さなそれを一つ取り、口に含んだ。
さくさくと小気味の良い音が聞こえてきて、ディエチの表情が綻んだ。
「ん、おいしい」
「だろう。スバルに教えてもらったんだ」
まあ、実はぼくも食べるのは初めてなのだが。
ぼくも一つ口に含み、食感とチョコの控えめな甘さを楽しむ。さくさくの食感という奴はどうしてこんなにも人を魅了するのだろうか。
そんなぼくをまたもやディエチがじっと見ていることに気付き、ぼくは口に3つほど放り込みながら首をかしげた。
「さっきから、どうかした?」
「え、いや。その――カズキ、ありがとね。来てくれて」
その言い方に、ぼくは引っかかるものを感じた。
ディエチはそんなぼくの疑問を感じたようで、
「んーと、さ。カズキは忙しい、ってわかってるつもりなんだけどね。また来るのかどうか――ちょっと不安だったなぁ、なんて」
そう、申し訳なさの中に少しの寂しさを混ぜて、ディエチは笑った。
ぼくはそうか、と頷き、
「ごめんな、ここ数ヶ月、教導や装備のテストが立て込んでてさ。時間が取れなかったんだ」
「あ、ううん、気にしないで。正直、驚いてるんだ。こんなに何度も会いに来てくれるとは思わなかったから」
「迷惑か?」
「え……ううん、そんなことない!」
ぼくの言葉に、ディエチはぶんぶんと首を振った。
「なら良いだろ、何度も来たって」
「でも、時間も掛かるでしょ。こんな海上まで来るのは」
「大丈夫だよ。時間を掛けてでも来る価値があるんだから」
ぼくが笑って言うと、ディエチは言葉の意味をちゃんと理解してくれたのか、少し頬を赤らめた。
「あの、あんまりそういうこと言わないでくれると助かるんだけど……」
「どうして」
「……は、恥ずかしいし」
膝を抱え、口元をうずめる様にして呟く。
そんな様子がおかしくて、ぼくはくすっと笑ってしまう。それをディエチは咎めるように怒った表情になり、
「きみ、わたしをからかって楽しんでるでしょ」
「いや、まさかそんな。ぼくは(潤と違って)そんな趣味は無いよ。ただ――」
ぼくが言葉を区切ると、ディエチはなに、と不機嫌そうな表情のまま続きを促す。
「ディエチもとっつきやすくなったな、と思って」
「――っ」
ぼくの言葉に面食らったようで、驚きに目を見開いた。
「そ、そうかな?」
「
「
そうだったか、とぼくは顎に手を当てて考え込む。確か――
「一番最初って……ヘリを砲撃してきた時か?」
「初めて話したのは地上本部のときだよ」
その言葉で、そういえばそうだった、と思い出す。
ディエチの砲撃を相殺して回り込み、杖を突きつけたのだった。
「まあ、敵同士だったしな。ゆりかごの中でも、お互いを監視してたようなもんだし」
「わたしはいつカズキが裏切るか、気が気じゃなかったよ。真っ向勝負は勝ち目無いってわかってたから」
「そうだな。どのタイミングで全員斬り捨てて逃げ出そうか、っていつも考えてたよ」
ぼくはチョコポットをぽいっと上に飛ばし、落ちてくるそれを口で受け止めながらそう答える。まあ、考えてはいても、実行に移すには情報も時間も足りなかったのだが。
ディエチもぼくの持っている袋から幾つか取ると、上品に一つずつ口に含む。
「やっぱり逃げようとしてたんだ?」
「そりゃあな。まあいいじゃないか。結局ぼくはディエチと戦えなかったんだし」
その言葉に何を感じたのか、ディエチが恐る恐る聞いてくる。
「……も、もしかして、残念がってる?」
「ああ。残念に思ってる」
「えぇっ――」
ぼくの溢れ出る闘争心に慄いている様子のディエチに、チョコポットを袋ごと渡す。
「なんていうか……ディエチの砲撃はフルチャージでSクラスは余裕で超えるだろ?」
ぼくは掌に拳を打ちつけ、
「ぼくも――万能とはいえ――射砲撃に傾倒した魔導師だ。だから、
ゆりかごの一件を思い出し、溜息にして吐き出した。
そういえば、とディエチがチョコポットを齧りながら切り出した。
「なのはさん、だっけ。あの人、ちょっと前に来たよ」
「えっ!?」
ぼくは弾かれるようにディエチに向き直り、その肩を掴んで詰め寄った。
「姉さんが来たのか!?」
「う、うん」
「なにをしに!?」
「わたしへの面会に――」
「何か聞かれたりしたのか!?」
「ちょ、ちょっと近いよっ!」
顔を真っ赤にしたディエチに胸元を突き飛ばすように押され、ぼくははっとして手を離し、座り直した。
「わ、悪かった。取り乱した」
「いや、いいけど……どうしたの。何か知られたらまずいことでもあるの?」
「知られたら、まずいこと――」
ぼくは聞かれたことを反芻し、ディエチを見た。
先ほどのぼくの行動のせいで、まだ顔は赤いままだ。視線が落ち着かずあちこちを彷徨い、ぼくと目が合うと慌てて逸らす。身体や肩を縮めるように座り込み、激しくなった動悸を抑えるかのように胸に手を当て、浅く息をしている。
そんな様子をみて、ぼくはとある――倫理的によろしくない――感情が沸きあがってくるのを感じた。同時に、それを感じるに足る単純な恋愛感情も。
姉さんに知られたら、まずいこと。
大いに、ある。
「ともかく、姉さんと何か話したのか?」
「ん、と……なのはさんは、ただ様子を見に来ただけみたいだったけど」
「ぼくのことを聞かれたりしたか?」
「うん、聞かれた」
ぼくは再度向き直り――今度は掴みかかったりせず――なんだって、と問い詰める。
「何を聞かれた?」
「えっと……『私の弟がたまに来ると思うけど、変なことされてない?』って」
ぼくは頭を抱えた。何を言ってるんだあの人は。
「『大丈夫です、いい人ですよ』って答えておいたよ」
容易に想像できる。ディエチの言葉に姉さんはきっと――
「来たとき以上にニコニコしながら帰っていったけど」
――バレてる。絶対にバレている。
はあぁ、と溜息を吐いた。隠すことではないのだろうけど、やはり身内に知られるのは非常によろしくない。
「まあ、たぶんなんとかなるか。姉さんもそんなデリカシーの無い人間じゃない――と思いたい――し」
「あの――もしかして、知られたら困るのって……わたしのこと?」
ディエチが自分を指して聞いてきたので、ぼくは押し黙る。
その沈黙は肯定になるとぼくが気付いた時には、ディエチは既に混乱していた。
「えっ、えっと、なんで?」
「……あの人は、ぼくが
ぼくがぶすっとして言った言葉に、ディエチは思い当たったようにぼくを見て、
「じ、じゃあやっぱり、カズキはわたしのことを、
ディエチの追求に、ぼくは気まずさから目を逸らし――レイナと目が合った。
~~~~~
「あ、気付いたみたい」
手を振ろうと持ち上げ――ようとした瞬間、私の隣に一騎さんが一瞬で移動してきた。高速機動だろうか。すごく驚いた。
「レイナ、なんでここに!?」
「えっ? お兄ちゃんと、他の義姉さん達に会いに――」
「っ、そうか――失念していた。今まで面会が被ったことがなかったからな……」
一騎さんはぶつぶつと考え込むように腕を組んだ。
どうしたんだろうと疑問を感じながら、私はこっちに歩いてくるディエチ義姉さんに手を振った。
「レイナ、来てたんだ」
「ディエチ義姉さん、やっほ。一騎さんが居るとは思わなかったけど……よく来るの?」
「え、うん。カズキは何度も来てくれてるよ」
へぇ、と頷きながら私は一騎さんを見た。本人はなんともばつの悪そうな顔をしている。
「どうしたの一騎さん」
「知られるのは嫌だったんだよ」
珍しく当て付けるようなその言葉に、義父さんがまあまあ、と一騎さんの肩に手を置く。
「いいじゃねぇか。高町のぼうずも男だってこった」
「ナカジマ三佐……フォローにもなんにもなってないです」
ジト目で言われた言葉に、義父さんははっはっは、と声をあげて笑った。
「周りに囃し立てられるのもそう悪いことじゃねえぞ。
「まあ、それは――」
わからなくはないけど、と一騎さんは呟く。
「美人だと認めてくれたぞ。よかったなディエチ。姉も鼻が高い」
「もう……チンク姉、からかうのはやめてよ」
うんうんと頷きながら言ったチンク義姉さんの言葉に、ディエチ義姉さんは顔を赤くして怒る。
「一騎さんは良い人だと思うけど。何か気に入らないことでもあるの?」
「レイナまで……というか、別にわたしは不満なんて――」
「はい、こちら高町三等空尉」
そこで、一騎さんの声色が真剣なものに変わった。携帯端末を手に持ち、そこから発せられる言葉を聞いて、目付きが細められる。
「了解、現場に急行する」
一騎さんは通信を切ると、また端末を更に操作して「飛行許可を」と連絡したあと、ポケットに仕舞った。
「近場で問題が起きたらしい。行ってくるよ」
「えっ、
ディエチ義姉さんが驚いて声を上げる。
ああ、と一騎さんが頷いて、
「たとえ海の向こうでも、
そうあっさり言い切った。
「ごめんな、ディエチ。またすぐ来るよ」
「ううん、それよりも――」
ディエチ義姉さんは一騎さんの右手に触れて言った。
「――気をつけてね」
「
間髪入れずに一騎さんは答えた。その自信満々な笑みに、私とチンク義姉さんはぽかんとして顔を見合わせる。
けれど、ディエチ義姉さんはそれを聞いて安心したように微笑んだ。
「そっか。じゃあ、頑張ってね」
「ああ。またな」
そう言って一騎さんは駆け出した。
「……ふふっ」
ディエチ義姉さんは嬉しそうに笑っているけど、私達には訳がわからない。
「まあ……信頼しているということ、か?」
首をかしげながら言ったチンク義姉さんの言葉に、私も一緒に首をかしげた。
義父さんはチョコポットを一粒口に放り込んで、うまいうまいと満足そうだった。
~~~~~
15分ほど飛行して、ぼくは通信で指定された場所へ到着した。ミッド南部の山間に位置する自然保護地区だ。この時期は気候も良く、ハイキングに来る人も多い。
現場指揮の魔導師だろうか、20前後ほどの女性がぼくに気付いて敬礼をする。
「高町三尉!」
「どんな状況ですか?」
「我々も通報を受けて駆けつけたのですが……」
女性は現在わかっていることを教えてくれた。ぼくはそれを聞いて眉をひそめる。
通り魔、と言うのが妥当だろうか。民間人が多数襲われ、一人が既に死亡している。
「怪我人は?」
「重傷者4名、軽傷者2名です。前者の4名は既に医療センターへ搬送しています」
「後者は?」
「現在応急処置を行っています。しかし、だいぶ混乱しているようで――」
女性は後ろで治療を受けている二人の男性を手で示す。話を聞くことはできなさそうだ。
しかし、死人が出ているのか。場合によっては、ぼく一人では手に負えないかもしれない。
「他に局員は?」
「部下が四人、周辺の捜索に。それと、アローン准尉にも協力を頂いています。准尉は被害者の遺体を調べに行くとのことでした」
「ティルクが……? わかりました。彼らが話を聞ける状態になれば、事情聴取をお願いします」
「はい!」
遺体はまだ亡くなった状態のままらしい。幸いだった。容疑者の情報が無い以上、少しでも手がかりになるかもしれない。
場所を教えてもらい、急いで向かう。50メートルほど森に踏み込んだ辺りで、見慣れた騎士甲冑の男がしゃがみこんでいるのが見えた。隣には死体が一つ仰向けに倒れている。その出血は凄まじいもので、周辺の地面に飛び散り、赤黒い染みを作っている。
ぼくはティルクの隣へ同じようにしゃがみこみ、
「どうだ?」
と聞いた。ティルクはぼくが来たことに驚いた様子も無く、妙だ、と返してくる。
「男性だ。年齢は30前後といったところか。死体はまだ温かいから、死んでそれほど経ってはいない。が、傷跡が随分と惨い。何かが食い込んだような無数の傷と、まるで腹を引き裂いたかのように臓物が散らばっていて……腸が何箇所か欠けている。探してみたが、近くに欠片は無かった」
「食われたのか……? 危険生物が出るなんて聞いてないけどな」
「ああ。ミッドには野生の動物は居るが、人を進んで襲う種はいない。自然保護地区ではあっても、人の出入りは多いからな。人間を警戒して山や森の奥深くに隠れ住んでいるはずだ」
「魔力残滓は……無いな。少なくとも魔法による殺傷じゃない。物理的な手段だ」
ぼくはこの遺体が森の中にあることに疑問を持った。
「この人、どこから来たんだ?」
「足跡を見つけたが、
「辿るか?」
「まだだ。情報が無さ過ぎる」
ぼくは頷き、周辺を調べてみる。
近くの樹木に傷が入っていて、獣毛が引っかかっていた。身体をこすり付けたのだろうか。
地面も見てみれば、犬の様な足跡も見える。
「犬……いやキツネ――いや、大型の狼か?」
「その辺りが無難だとは思うが、わざわざ人間を食い殺す理由が無い」
ティルクの言葉に、けどさ、とぼくは反論する。
「見たところここはそのイヌ科生物の縄張りだ。狙われる理由はそれで充分だとも思うけど」
「俺達は動物の専門じゃない。だからこそ、違う視点で見てみるのも大切だ」
「それはわかってるつもりだよ」
ぼくはぶっきらぼうに答えた。
「それで、違う視点から見たアローン准尉は何がわかった?」
「これは人の手によるものだ」
ぼくはそれを聞いて頷いた。動物に理由が無いのなら、それを作り出すのは人間だろう、と予想はできていたからだ。
「人の手によるものだとしても、殺したのは明らかに動物によるものだろ」
「ああ。だから妙だと言っている」
ぼくは男性を再び検める。開かれた口からは吐血が目立ったが、僅かに黄ばんだ歯も見える。そこでぼくは違和感に気付いた。
血の臭いに混じって、僅かだが甘ったるい臭いを感じた。タバコの臭いだな、と思い至り、ポケットの中身などを調べてみる。
紙箱が尻ポケットに入っていた。
「やっぱりタバコだ……」
「調べてみろ」
開封済み。5本残っている。しかし、ボックスタイプにしては少々大きめだし、量の割には僅かに重い。振ってみれば、タバコとは別の擦れるような音がする。
引き裂くように中身を見れば、一枚のカードが隠されていた。
「カードキーだ」
「どこかの鍵、か……。経験上、研究所かもしれないな。脱走されて口封じを謀ったか」
かもな、とぼくはカードを握って立ち上がる。
「これ以上調べても何もないだろうな」
「かもしれん。遺体の方は任せて、足跡を辿っていこう」
ぼくらはティルクの見つけた足跡を辿って森の奥へ入っていく。
続いている足跡を逆に辿っている形になるのだが、人の足跡を追い掛けるかのように、幾つものイヌ科の足跡が見える。足跡はどれも深く、周りの土が跳ねている。男が走って逃げていたのは間違いない。
しばらく歩いただろうか。
《生体反応5。マスター、警戒を》
エクシードモードのイノセントハートがコアを光らせ、ぼくらに注意を促した。
ティルクが腰のバスタードソードを右手で、ぼくが玄月を左手で同時に抜く。
ぼくらの背後から複数の唸り声が聞こえ振り向くと、四本足で立つ獣が姿を表した。
「狼だな……」
「――しかも、血の匂いだ。十中八九、あの男性を食い殺したやつらだろうな」
人の味を知ったのなら処理しなければならないが――まだ確定したわけではない。威嚇のために、狼よりも少し手前の地面に向けてイノセントハートを構え、炸裂弾を非殺傷で撃ち出した。
バシュッ、という音と共に土が弾けるが、狼達はおびえる様子を見せなかった。
「……?」
もう一発をさらに近くに撃つと、狼は
ぼくはその動きを見てはっとして――
「ティルク、構えろ!」
猛然と飛び掛かってきた一匹の顎をイノセントハートで払い除け、玄月で二匹目を斬り払う。
『高町三尉! アローン准尉!』
さっきの魔導師の女性から通信が入った。
『被害者の男性から情報を聞きだせました!』
ティルクが躍り出て狼を蹴り飛ばし、ぼくの背後を庇うように背中合わせで立つ。
『彼らの話では――』
ぼくらを取り囲む形になった狼達が、ぼんやりとした光に包まれた。
『――
光が強くなると、狼達は後ろの二本足で立ち上がるように姿を変えていく。
ぼくは舌打ちをした。
「使い魔……っ!」