「姉御、なんだか面倒なことになってんぞ」
クォーツが見せてきたモニターには、『大規模空港火災にて八神一尉、研修生に協力を強制』と書かれている。
「これは?」
「僕ら、昨日の空港火災の消火やら何やらに協力したじゃないか。それが、なぜだかわからんけど『八神一尉が強制した』とかいうことに」
「……これ、どこのページだ?」
「首都航空隊でっせ」
「アホらしい。大方、仕事を取られたから逆ギレしてるだけだろう。はやてさんだって、こんなガセにどうこうされるほど脆くない」
「まあ、僕もそう思うんだがね。一応、伝えておこうと」
「ああ、ありがとう」
クォーツはモニターを閉じると、饅頭をぼくに差し出してくる。
「なんだい、これ」
「マリクが命を懸けて守った饅頭。なんと、普通のとまったく変わらない味がする」
なんだそりゃ、とぼくはひとつつまんでみる。
「ん……確かに、普通の饅頭だな」
「でしょう。なのにあいつ、『オレの愛と勇気のお陰で美味さ倍増!』とかほざいてるんで」
クォーツはそのまま背を向け、歩いていった。
ぼくは何も言わず、残りの一口を口に放り込んだ。
~~~~~
『心配せんでも大丈夫や』
「あ、やっぱり?」
『昨日の事は証言してくれる人もたくさんおるからな。もう問題なんて、あってないようなもんやよ』
「それなら安心だ。ごめん、無駄に時間取らせて」
『ええよ。一騎と話すのもだいぶ久しぶりやからな。なのはちゃんやフェイトちゃんにべったりで、はやてお姉ちゃんは寂しかったんで』
「あはは……」
思わず苦笑すると、はやてさんはなにも言わずにモニターを閉じた。
冗談ではなく、わりと本気だったのかもしれない。
今度からは、はやてさんとも定期的に連絡を取ることにしよう。
「大変だね、お前も」
「ん、やっと上がったか」
「ああ。まったく、広いバスルームだよ。2,30分なら余裕で入ってられるな」
「それで、大変とは?」
「いやね。三人も姉みたいな人が居るとなると、相手も大変なんじゃないかと」
「別に、そんなことはないよ。お前だって、人と話すことが面倒臭い、なんて思ったことは無いだろ。それと同じだ」
「へえ、そんなもんかね」
「さあ、夜の点呼の時間だ。さっさと並んでおくぞ」
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「姉御、朝飯ご一緒するぜ」
「どっか行け」
「斎藤の兄貴ぃ、姉御が冷たい」
「その姉御ってのやめたらどうだ」
「なにを馬鹿な。姉御は姉御だろう。そんなこともわからないなんて、兄貴は馬鹿だなぁ」
「殴るぞ」
「ナグリー、呼ばれてるぞ」
「なんだよマリク、朝からうるさいな。また姉御と兄貴に喧嘩を売ってるのか?」
「オレがいつ喧嘩を売った?これはオレの愛情の証である」
ぼくは寝起きでぼんやりする頭になんとか栄養を送り込もうとスープを口に運ぶ。
「おはよう、高町」
「ああ、ティルク。おはよう」
「調子が悪いのか?隈ができているが」
「ああ。思春期真っ盛りな少年の夜は長いんだよ」
「……まあ、なにかあったら相談してくれ。遠慮せずにな」
笑って言ったぼくとは対称に、真面目な顔でティルクは言うと、席に座ってパンをかじり、スープを啜る。
ぼくもパンをスープで流し込むと、席を立つ。
ごちそうさま、と食器を返すと食堂から出て、訓練場に向かう。
~~~~~
訓練場に移動し、ぼくは大きな欠伸をする。
「ん、姉御。疲れてる?」
「ちょっとな。昨日の訓練で、やたらとぼくに勝とうと模擬戦を連続で申し込んでくる、マリクとか言う奴がいてな」
「なんだか親近感の湧く奴だなあ。まあ、姉御に勝つんなら、真っ向からじゃなく精神的に磨耗させいでぇっ!?」
「よく飽きないな、マリクも」
「ヴィンズ、姉御がグレた」
「うるせえよエロゲ脳。お前が悪い」
「なにぃ、オレに味方はいないのか」
「阿呆仲間なら腐るほどいるだろ」
「じゃあクォーツと姉御を堕とす方法を話し合ってくる」
マリクが不思議な踊りをしながら歩いていくのを見て、ぼくは溜め息をついた。
「姉御、マリクの部屋を漁ったんですが、奴は男の娘が好きらしい」
「あいつ、病気か……」
「ちなみにクォーツはなんでもいけるそうです。たとえ男でも」
「バイなのか」
「ちなみにオレも男の娘が好きです」
「二度と近寄るな」
ヴィンズは比較的まともだと思っていたが、とんだ見当違いだったらしい。
「いつまでも駄弁ってないで、訓練始めるぞ」
いつのまにか来ていたらしい、教官が呆れたように言った。
~~~~~
訓練が昨日より厳しくなっていくことを楽しく感じながら、ぼくはシャワーを浴びる。
思わず口から息が漏れ、濡れた髪が体に張り付く。
「……ん?」
なにか違和感を感じたが、眠たかったのもあり、さっさと体と頭を洗い、髪を乾かしてベッドに潜り込んだ。
~~~~~
「姉御の入浴シーンだよ~。昨日撮ったばかりの一番新鮮な姉御の裸体を、なんと格安のこのおねだ」
ぼくはそう言ってデータを売り捌いているマリクを殴り倒すと、記録用の簡易デバイスを叩き折る。
「あ"あ"っ! 苦心一時間の最高傑作がぁ!!」
「すんません姉御。マリクにはよく言っときますんで、ご勘弁を」
「いででででででで」
「この才能を他にいかせないのか、こいつは」
「ええ、こいつは自分の興味の無いことはまるっきりダメな奴でして」
「痛い痛い。ギブギブ。ウィルス、オレ死ぬ」
そうマリクの頭を鷲掴みにして床に連続で叩きつけながら、自分も頭を下げるウィルス。
ぼくは溜め息をついてその場を去り、
「ちなみにバックアップはここにある」←マリク
「ほほう、一つもらおうか」←ウィルス
方向転換して二人に飛び蹴りをかました。
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「高町、少し剣の相手をしてくれないか」
「ぼくと真面目に話してくれるのはティルクだけだ」
「……やっぱり、悩み事でもあるのか?」
ティルクが眉をひそめながら聞いてくる。
なんでもない、と答えると、ぼくは貸し出しが可能な剣型の簡易アームドを一つ手に取る。
ティルクは自分が持ち込んでいる腕輪をかざし、セットアップ、と唱える。
ぼくと同じタイプの、白いロングコートの胸元にプレートが着いたバリアジャケットを纏い、剣と盾のセットが左腕に装備される。
盾には剣が収納できるスペースが設けられているらしく、盾から伸びている剣の柄を握ると、払うように引き抜く。
ぼくはバリアジャケットのみを展開し、剣を構える。
「それじゃ、クリーンヒットを先に入れた方が勝ち。ジャケットを抜かないようにな」
「ああ、それで頼む」
ティルクが真剣な表情になり、盾を構え、剣先を下げるようにして構える。
ぼくも右手で剣を握り、足を少し拡げて腰を落とす。
「おおおっ!!」
ティルクが動く。
鋭い角度とスピードで降り下ろされるそれを、僅かに身体をずらして掠るようにして避け、剣を左に切り払う。
ティルクはそれを盾で防ぐと、シールドバッシュで弾くように振るおうとするが、ぼくはあえて盾を押さえつけるように力を込める。
少しの間拮抗するが、ティルクは素早く身体を引き、剣を突き出してくる。
それをぼくは左手で剣の面を打って逸らし、その勢いのまま回転して剣を叩きつける。
「はあああっ!!」
「ちっ!」
ティルクが舌打ちをし、強引に剣を払う。
純粋な力ではティルクに負けるぼくは大きく吹き飛ばされ、なんとか空中で体勢を立て直し、地面を滑りながらようやく止まる。
ぼくは剣を大きく振りかぶると、全力でティルクに向かって飛ぶ。
ティルクはぼくの動作を見て、盾を前に出す。
「穿空牙!!」
「ぐっ!」
僅かに怯んだ隙を逃さず、突き、払い、もう一度切り込む。
その一撃で盾を弾き、振り下ろされる剣。
それを蹴りで防ぐと、ぼくは飛行魔法で地面と平行に移動して回り込み、
「紫電一閃!!」
無防備な背中に斬撃を見舞った。
~~~~~
「姉御とティルク! 天才格のご存知この二人が繰り広げる、人外的な剣技の打ち合いを、驚きの高画質でお送りする! このBDが、なんとこのお値段!」
「訓練校の敷地内で、金銭を用いる取り引きをしているとはな、マリク研修生?」
「おや、教官。お一ついかが?」
「なんだ、この饅頭は」
「オレの愛と勇気がたっぷりと詰まったものです。土産物としては飛び抜けた美味さ。そうですね、一つ10ポケでいいですよ」
「人の話を聞けばかもん。いいから少し来い。少し話をしよう」
「いやだいやだぁ! 教官みたいなオッサンに掘られるなんていやだぁ! オレの処女と童貞は姉御の為に取ってるんだぁ!」
「なあ、高町」
「やっていいですよ」
「姉御おおおおおお!?」
ぼくは大袈裟に耳を塞ぐ素振りをして、マリクから顔を逸らした。
まったく、質の悪い冗談だ。本気なのかもしれないが、深く考えることはしないようにしよう。
さて。
「BD貰っていこう、っと」
自分の動きを確認するためにも、映像を見るのは大事だ。改善点もたくさんみつかることだろう。
ぼくはそう考え、積み重なっていたディスクをひとつ貰っていくことにした。