魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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せっかくの正月なので、それにちなんだ小話を書いてみようとしたのですが、977字書いたところで飽きてしまったのでやめました。


85話 三年過ぎて

 JS事件が終わってから三年。

 ぼくが教導隊に所属してから三年。

 姉さんとヴィヴィオが一緒に暮らし初めてから三年。

 

「姉さん、ぼく――」

 

 そんな時期に、ぼくは決意した。

 

「この家を出ようと思う」

 

 

~~~~~

 

 

 その言葉を聞いて姉さんは混乱したようで、まずぼくの頬をはたいた(ビンタ)

 あまりの横暴に声も出せずにいると、姉さんはあわあわとしながらぼくの襟首を締め上げて問いただしてきた。

 

「えっ!? なに!? 女!?」

 

 間違いなく混乱している。というか「女!?」って。

 家を出る=外に女ができた、という発想がなんかもう古い。

 

「い……いや、別に。ぼくなりに思ったことがあってさ」

「も、もしかして……一騎のお茶碗割っちゃって、こっそりすり替えたこと怒ってる?」

「そんなの、別に怒るようなことじゃないよ」

「こ、この間の教導で一時間ずっと全力戦闘させちゃったこと?」

「それはぼくにしか出来なかったことだし、自分の限界も知れたから、結構良い経験だったよ」

「じ、じゃあ、一騎の端末でディエチに『愛してる』って勝手にメールしたこと?」

「なにしてんだよアンタはッ!?」

 

 慌てて端末を確認すると、確かに送信履歴にそんなメールがある。

 この前ディエチが『わ、私も……』と顔を赤くしながら言ってきたのはこれが原因か。「何かあったのか?」と返して彼女が膨れっ面になったのも頷ける。

 ……早急に事情を説明して土下座しなければならない。早急に。

 

「だ、だってだって! 三年も経ってるのに一騎ったらまだ告白してないって言うんだもん!」

「んなっ――言ったよ! 『きみのこと好きだ』って!」

「いつ?」

「さ、三年前……」

「そんなのダメ! 何回でも言いなさい! むしろ今すぐ電話して言いなさい!」

「うるっさい! ぼくの勝手だろうが!」

「勝手、じゃない! 私ディエチに相談されたんだからね! 『カズキが最近冷たいような気がして』って。一騎は女心がわかってなさすぎなの!」

「そ、そんなの勝手な言い分じゃないか!」

「勝手でもなんでも――それでも言って欲しいのが女なの!」

 

 そんなんでよく三年も続いてるね、というダメ出しに、ぼくは言葉を詰まらせる。女心を語られれば、ぼくには反論のしようがない。

 というか、言ってほしいのだったら尚更余計なことはしないで貰いたい。

 

「こ、この――っ」

 

 せめてもの抵抗で憤怒を籠めて睨むと、姉さんは合点がいったように「あっ」と声を出した。

 

「家を出るって――もしかしてディエチと同居するの?」

「ち、違う!」

 

 そういうことを一度も考えた事が無いと言ったら嘘になるが、それでも思い至った動機は他にある。

 そうして言い争っていると、家のチャイムが鳴った。

 ぼくと姉さんは即座に意識を切り替え、玄関へ向かう。

 休日の真っ昼間。しかし、こんな時間に訪ねてくる知り合いに心当たりは無い。フェイトさんは合鍵を持っているから普通に上がってこれるし、かといって来るのなら事前に連絡が来る。

 十中八九、セールスマンの類いだろう。そういうのを追い返すのはぼくの役目なので、目付きを鋭くさせながらドアを開き――

 

「よう、一騎」

「……潤」

 

 ぽかんとした。

 ミッドでは珍しい真っ黒な髪と瞳。180ちょいはある高めの身長。端正な顔立ちだが、しかし飄飄とした雰囲気を醸し出す親しみやすい笑顔。

 右手の手首には腕輪が身に付けられている。そこにはぼくが作ったヘッドギア(ブレイブ)と、古代ベルカの遺物であるガントレット(ケーニッヒ・フランメ)が収まっていることを、ぼくは知っている。

 この男が焔を纏い、その身一つで戦い抜く闘士であることを、よく知っている。

 

「お前、なんで……」

 

 訓練校からの相棒が、何故かそこに居た。

 

 

~~~~~

 

 

「潤、施設を出れたんだ。おめでとう――ううん、お疲れさま、かな?」

「いえいえ、ありがたいお言葉で。斎籐潤一等陸士、お勤めを終えて帰還した次第です」

「――なんで施設から出て真っ先に高町家(ここ)に来るんだよ」

 

 先に顔を出すべきはナカジマ家(じぶんち)だろうに。

 そう考えながら、悪びれもせずにリビングに迎え入れられ、普段ならぼくが座っているテーブルの席に図々しく(ケツ)を下ろし、あまつさえ姉さんに淹れてもらったコーヒーを啜りながら、手振りを添えて仰々しく宣ったほぼ10年来の相棒に対してぼくは大きく溜め息を吐いた。

 

「というか、なにが斎籐一士だ。お前はもうナカジマだろうが」

「あー、そうなんだがなぁ。もう20年も斎藤を名乗ってたから、どうにも慣れなくて」

「フェイトさんみたいにミドルネームにでもすればよかったんじゃないのか」

「んー……あ、そういえば高町一尉。前から気になってたんですが、何故(なにゆえ)テスタロッサ執務官はあのような名前なのです?」

 

 んー、と姉さんは思案した。表情は笑顔のままだが、どこまで話すべきか考えているのだろう。

 

「どっちも大切だから、かな」

「……ああ、なるほど」

 

 そして、その最低限の言葉で相棒は理解できたらしい。

 

「それに倣うなら、俺は『斎藤』に未練も何も無い。俺を生み、育ててくれた両親には当然感謝してる。けど、もう(・・)誰もいない斎藤を名乗るには、俺は少しばかり脆すぎる」

 

 そういい、コーヒーカップに口をつける。

 なるほどな、とぼくは内心で呟いた。

 簡単に言ってしまえば、亡くなった両親を思い出してしまう『斎藤』を名乗るのは辛いのだろう。

 決別したはずの過去であっても、思い出してしまうと僅かでも苦しいからだろうか。

 それでも今のように『斎藤』を名乗ってしまうのは、本当に忘れることを無意識に恐れているのかもしれない。

 

「ま、どうでもいいな。お前が書類に名前を書き間違えようが、ぼくには関係ない」

「新しいバイクのローンの連帯保証人に筆跡真似てお前の名前書いといた。ハンコも偽造してな」

「殺す」

 

 瞬時に展開した玄月で居合を放とうとしたが、抜き切る前に潤は柄頭を掌で打ち据え、「冗談だよ」と冷や汗を流した。

 ぼくは居合抜きを未然に防いだ潤の反応速度に驚いたが、おくびにも出さずに鞘ごと玄月を肩に担ぐ。

 ああそれと。バイクといえば、ぼくも先日大型二輪の免許をとった。近いうちに良さそうなバイクを買うつもりだ。

 

「で、結局お前は何しに来たんだ」

「あん?」

「あん、じゃない。なんでナカジマ家に顔を見せる前にここに来たのか、って聞いてるんだ」

「そりゃ、お前」

 

 そこでがちゃ、と玄関のドアが開く音が聞こえた。同時に、ただいまーという元気な声。トレーニングに行っていたヴィヴィオが帰ってきたのだろう。

 

「ここが真っ先に会える場所だからだよ」

 

 ばたばたとヴィヴィオがリビングに上がってくる足音が聞こえる。

 数秒足らずで、リビングにヴィヴィオが顔を出した。

 

「お邪魔します」

 

 毎日一緒に練習している、レイナを連れて。

 

 

~~~~~

 

 

「よう、レイナ」

 

 何が起こってるのか、わからなかった。

 朝からヴィヴィオとコロナと練習して、コロナが昼から用事があるっていうからヴィヴィオと遊ぶためにお家にお邪魔したら。

 

「あれ、潤さん!?」

「おっす、ヴィヴィオ。背ぇ伸びたな」

 

 何故かお兄ちゃんが居て。

 私は呆然として動けなかった。

 

「ん? おい、レイナどうした?」

 

 お兄ちゃんが私の顔の前で手を振る。

 それでようやく私は意識を取り戻し、

 

「お、お兄ちゃん――なんで」

「なんで、って……今日には出れるってナカジ――ゲンヤ(おやじ)が言ってたろ」

 

 聞いてない。私はぶんぶんと首を振った。

 

「なに? そんなわけないだろ。昨日オヤジが『お前、明日には出られるぞ』とか余裕ぶっこいて言ってたんだぞ?」

「言っとくけど、ぼくらも聞いてないぞ」

 

 一騎さんの言葉に、なのはさんが頷く。

 

「マジかよ……オヤジめ、黙ってやがったな。サプライズのつもりか?」

「――お兄ちゃん、もうあそこから出れたの?」

「ああ。三年の期間は終わったし、名実ともに放免だよ」

「――じゃあ、お兄ちゃんはずっと一緒に居られるの?」

 

 私の呟くような言葉に、お兄ちゃんはああ、と頷いた。

 

「俺はこれで、ずっとレイナと居られる」

 

 その言葉に、私は感極まってしまう。

 ずっと格子を挟んで話したり、たまに面会室で会ってもたった数十分で引き離されて、次に会うまでの時間がすごく長く感じた。

 話したい事がたくさんあったのに、時間が無さ過ぎた。

 

「お兄ちゃん……」

 

 でも、もう気にしなくてもいい。そう実感し、私は涙が溢れてくるのを止められなかった。

 私はそれを抑えようともせず、嗚咽を堪えながら、おずおずと手を伸ばす。

 お兄ちゃんはそんな私の前にしゃがみこんで、そっと抱きしめてくれた。

 

「おかえり――っ」

「――ああ。ただいま、レイナ」

 

 

~~~~~

 

 

(……真っ先に会える、ね。なるほど、確かにここが確実だ)

 

 声こそあげないが、潤の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らすレイナ。それを受け止め、ゆっくりと頭を撫でている潤。

 ヴィヴィオは潤とレイナのやりとりを見て貰い泣きしている。優しい子に育ったものだ。

 そんな中で、ぼくはその兄妹から目を逸らし――同じように顔を背けた姉さんと目が合った。

 あの抱擁(こうけい)には姉弟(ぼくら)も覚えがある。同じことを思い出していたのだろう、姉さんは気恥ずかしそうに笑った。

 

(私達もあんな感じだったのかな)

(さあ。ぼくはもうちょっと激しかったと思うよ)

 

 自嘲気味に笑うと、そうだったかも、と姉さんは頷く。

 水を差すのも野暮なので静かに見守ること3分、レイナは落ち着いたようで、目元を拭いながら顔を上げた。

 

「もういいのか?」

「うん、満足した」

 

 そう言うレイナの表情は確かに満足そうだった。ふー、と大きく息すら吐いている。

 

「んじゃ相棒、感動の再開も果たしたことだし、ナカジマ家に向かう(かえる)わ」

「ああ」

 

 軽く手を上げて応えた。用が済んだのならさっさと送り出すことにする。

 

「あ、私……」

「レイナも一緒に行きなよ! せっかく潤さん帰ってきたんだから!」

「うん……ごめんね、ヴィヴィオ」

「大丈夫大丈夫!」

 

 ヴィヴィオがレイナの背中を押しながら玄関まで送り出す。

 ぼくらもそれに続き、レイナと潤は並んで姉さんに頭を下げた。

 

「お邪魔しました」

「では高町一尉、自分もこれで」

「はーい。気を付けて帰ってね」

 

 にこにこと手を振る姉さんに兄妹は笑顔で頷き、玄関を出て行った。

 

「これでやっと全部解決、になるかな?」

「ああ、そうだね。あいつが――潤が戻ってきたなら、六課から続いてきたいざこざは、やっと全部終わった」

「レイナ、すっごく嬉しそうだった!」

 

 自分のことのように喜ぶヴィヴィオを微笑ましそうに見て、姉さんはゆっくりとぼくに向き直り、

 

「さあ一騎? さっきの家を出ていくっていうのはどういうこと?」

「えぇっ!? お兄ちゃん家出するの!?」

「このっ――」

 

 ヴィヴィオまで巻き込んできた姉さんに、ぼくは大きく溜息を吐いた。

 

 

 

 

「で、どうしてそんなこと言い出したの?」

 

 そうして改めてぼくを問い質してくる。ご丁寧にぼくらの前にはコーヒー――ヴィヴィオにはキャラメルミルク――が置かれていて、長期戦に備えているのがよくわかる。

 更に言うなら、二人は敵対するかのようにテーブルを挟んでぼくの向かいに座り、じっとこちらを見つめている。心なしか二人とも涙目だ。

 ぼくは気まずい思いをしながらコーヒーを一口飲み、

 

「……ぼくは、居候の身だ」

 

 そう切り出した。姉さんの目が僅かに動く。それが訝しんでいるのか、それとも何かに気付いたのか。その表情は、ぼくでも判断がつかないほどに複雑だ。

 

「たまに考えるんだ。ぼくはなんで高町家(ここ)に居るんだろう。ぼくはこのままここに居ていいんだろうか、って」

「……どういうこと?」

 

 姉さんが静かに問い返してくる。

 

「ぼくはもしかしたら、これ以上高町家(ここ)に居るべきではないんじゃないか。そう考えることが多くなってきたんだ」

「そうじゃなくて! どうしてそう思ったのか、その理由を聞いてるの!」

 

 ヴィヴィオが一瞬驚くほどの声。普段なら絶対に出さないような、悲鳴混じりの声。

 そんな声と表情を見てぼくは尚更もどかしい気持ちになったが、それでも伝えることは伝えなければならないと思った。

 

「……ここは、姉さんとヴィヴィオの家だ。例え家族であっても、必要以上に干渉することは良くないと思った」

 

 当然、これだけでは言いたいことは伝わらないだろう。ぼくは言葉を続けた。

 

「ここには、姉さんとヴィヴィオが積み上げていく物語が、いっぱいに満ちていく筈なんだ。二人がやっと手に入れた、親子としての時間を過ごしていくための場所(いえ)。ここで過ごされるそれはきっと、これまでに無いほどに色鮮やか(ヴィヴィッド)なものである筈だ」

 

 そこにはきっと、ぼくの入り込む余地は無い。

 灰色を地で行っていたぼくが居たら、ヴィヴィオにも、姉さんにも、良くない影響(いろ)がでてしまいそうだから。

 

「もっと言うなら、ぼくはなのはの『弟』であり、ヴィヴィオの『兄』だ。そんな中途半端な立場のぼくには、親子の間に入る資格は無い」

 

 だから、あまり長くこの家に居るべきではない。そう思った。

 

「……そう」

 

 姉さんはそう呟くと、コーヒーを音を立てずに飲む。

 その表情は、いつも通りの気楽なものだった。

 

「まったく、一騎はいつもそう。他の友達には気楽に接するくせに、家族に対して――私に対してはどこか一歩退いて話すんだから」

「そんなつもりは――」

「ない? 本当にそう言える?」

 

 ぼくは思わず押し黙った。

 ほんの僅かであっても、ぼくにはまだ()()()の悔恨が残っている。それを突かれると、ぼくは反論しきることはできない。

 

「……やっぱりね。まったく、ばかなんだから」

 

 一人で納得し始めた姉さんを見て、ヴィヴィオもうんうんと頷いている。

 ぼくは少しばかりイラっとした。

 

「なんだよその言い草。ぼくは真剣に考えて――」

「ねえ一騎。あなた、周りの人になんて呼ばれてるか知ってる?」

 

 唐突な質問。ぼくは出鼻を挫かれたが持ち直し、

 

「『エース・オブ・エースの弟』……?」

「そうだね。じゃあ、高町なのは(わたし)がなんて呼ばれてるかも知ってる?」

 

 姉さんがどう呼ばれているか、だって? そんなの――

 

「『エース・オブ・エース』じゃないのか?」

「『エース・オブ・エースの(あね)』。私、最近そう呼ばれることがあるの」

「……はぁ?」

 なんだそれは。『エース・オブ・エース』は高町なのはを指す言葉だ。ぼくはそのエースの弟であるが故に『エース・オブ・エースの弟』なのだから。

 なのに。

 

「不思議だよね。私も最初に『姉』って呼ばれたときびっくりしちゃった。私にも、少しは『エース・オブ・エース』って呼ばれることに誇りはあったから」

 

 そう言う姉さんの表情は、しかしとても嬉しそうだった。

 

「ねぇ一騎。どう思う?」

「どう、って……」

「私はこう思ったよ。もう『エース・オブ・エース』の称号は私のものじゃ無くなったんだ、って」

 

 その嬉しそうな表情の姉さんは、本当に綺麗な笑みを浮かべ、

 

「『エース・オブ・エース』はね。(わたし)(かずき)称号(もの)なんだよ」

「姉さんと――ぼく、の?」

「私、そう感じたときすっごく嬉しかった」

 

 うきうきとした様子さえ見せながら、姉さんは語る。

 

「やっと周りの人も、一騎を認めてくれたんだ、って。一騎のことを『エース(わたし)の弟』じゃなくて、私と一騎の二人を『エースの姉弟』だって評価してくれたんだよ」

 

 エース・オブ・エースの()

 その称号はぼくにとって誉れだ。しかし、姉さんにとっては『弟』――つまり、自分よりも下に評価されているように感じたのだろう。

 

「一騎だって強いのにね。自分の万能型(スタイル)を極めて、最近はもっともっと強くなってきてる。それこそ、私が本気を出しても勝てるかどうかわからないくらいに」

「――それ、本心で言ってる?」

「もちろん」

 

 以前戦技披露会でぼくを叩きのめしたことは忘れているらしい。

 溜め息を堪えるぼくに、姉さんは幼子に言い聞かせるように指を立て、

 

「私が姉で、一騎は弟、ってことじゃないの。いい? ()()()()()なの」

 

 (わたし)(あなた)ではなく、姉弟(わたしたち)

 言葉の問題だ。そこになんの違いもありはしないだろう。

 

 ――そう感じながらも、心のどこかで明確な違いを実感してもいた。

 

「ぼくと姉さんじゃなくて、ぼく達――」

「そう。だから気にすることなんてないよ。そんなの幾ら考えたって、今さらだよ」

「――ああ、そうか」

 

 影響が出るかもしれない、と先程ぼくは言った。なんて他人事で、盲目だったのだろう。

 

「――そうだね。自分でも馬鹿なこと言ったと思う」

 

 影響なんて、既に手遅れなくらい出ているんだ。

 (ぼく)がどんな変化を及ぼすかなんて、そんなのどうだっていいんだ。

 なら、この期に及んで悪影響を恐れるなんて無意味じゃないか。

 

「――ぼく、ここに居てもいいんだね」

「もちろん」

 

 間髪入れずに返された言葉に、ぼくは自分が安堵したのを感じた。 

 

 

~~~~~

 

 

 そういうわけで、家を出るという決意はあっさりとなりを潜め、ぼくは現在猛ダッシュで街を駆け抜けている。

 ギリギリで魔力を用いない全力疾走。しかしぼくのそれは一般人よりはよほど速いようで、通行人が目を見張って道を開けていく。

 それを申し訳なく、しかしありがたく思いながら走り抜け、ぼくはようやく待ち合わせ場所に到着する。

 

「よし、なんとか間に合っ――」

「二分遅刻だよ」

 

 そんなぼくにそう声を掛けてきたのは、当然と言うべきかディエチだった。

 

「……ごめん、ディエチ」

「珍しいね、カズキが待ち合わせに遅れるなんて」

「悪い――ちょっと、ごたごたしてて」

「ふーん」

 

 自然に応対しているが、しかしどこか言葉の節々にはトゲがある。

 その理由はもちろん、姉さんのイタズラメールが原因だ。

 この前からずっと不機嫌なので困りきっていたぼくだが、理由がわかれば対応のしようはある。

 

「ディエチ、この前はごめん。あれは姉さんの嫌がらせだ」

「あれって――」

 

 ディエチは顔を赤くし、むっとした表情になる。

 

「あのメール、なのはさんが送ったの?」

「ああ。ぼくはあのメールには関係してない。でも、ぼくも悪かった」

 

 多少しどろもどろなぼくの謝罪に、全てを察した様子のディエチは呆れたように溜め息を吐き、後ろを向いた。

 

「まあ、それならまだ許せるかな」

「……本当にごめん」

「……ね、カズキ」

「ん?」

 

 その姿勢のまま、ちらりとぼくを振り返る。

 

()()自体はなのはさんのいたずらなんだよね?」

「ああ」

「それはわかったんだけどさ。その……なんというか……」

 

 意を決したようにディエチはまごついていた口を開き、

 

「カ、カズキは――私のことを()()想ってくれてるの?」

「そう……?」

 

 『あれ』は姉さんのイタズラ。『そう』という言葉は、きっとそのイタズラの内容を指すもの。

 では、ディエチの言葉の意味とは――

 

「え、えっと――」

 

 口ごもる。意味を理解した途端、言葉が上手く出てこなくなる。仕事では幾らでも使える二枚舌も、姉さんやフェイトさんに対してはあっさり言える親愛の言葉も。

 

 ディエチ(かのじょ)を前にしたら、上手く話せなくなる。

 

 そんなぼくの様子を、ディエチは顔を赤くしたままじっと見ている。そのいじらしい表情と、僅かに揺れている瞳を見て、ぼくの頭が真っ白になる。

 

 ――それでも言って欲しいのが女なの!

 

(――うるさいなぁ、もう)

 

 ぼくはこんなときでも頭の中でしゃしゃり出てくる姉にうんざりしつつ、

 

「ああ。ぼくは――ディエチのことが好きだよ」

 

 そう、言葉にすることができた。

 それを聞いたディエチは赤い顔のままだった。だが、ほんの少しだけ口許を緩ませ、

 

「ありがと――私もカズキのこと、好き」

 

 そう、微笑みと共に返してくれた。




今回も本編の補足的なもの+αです。

一騎が家を出ようとしたのは『なのはとヴィヴィオ、二人の親子としての関係を邪魔したくない。二人に変な影響を与えたくない』という考えによるものです。理由をあれこれ挙げていますが、実は一騎がその場で考えているものなのであまり整合性がありません。
もっと言うなら色鮮やか(ヴィヴィッド)という表現を使ってみたかっただけです。
『影響とか邪魔とか気にする以前に手遅れじゃん』という開き直りによって、一騎の家出の考えは無くなりました。

一騎は『弟』という称号に満足していましたが、それはなのはにとっては不満であったようです。
『エースの姉』と『その弟』ではなく、『エース・オブ・エースという姉弟』になれたことに何よりも喜びを感じた、という感じです。
『姉』から見た『エース・オブ・エースの弟』を書こうとしたのですが、上手くできているかはわかりません。

潤が返ってきたのでようやくViVidに入っていけます。しかしViVid編では一騎はディエチとイチャついてばかりだと思うので、潤やレイナを中心に話が進んでいくと思われます。

ちなみにForce編は今のところ
『ドゥビルに砕かれるティルク』
『アルナージに蜂の巣にされる潤』
『万能型ゆえに延々と新装備のテストに駆り出される一騎』もしくは『口の悪さと目付きの悪さでヴェイロンと張り合う一騎』
という末路しか思い付かないので、本編を書くのはたぶん無理です。
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