魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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86話 三年半過ぎて

「一騎、ブレイブとフランメの同型デバイスを作ってくれ」

「なら金を寄越せ」

 

 そう切り出した潤にぼくが簡潔に返すと、奴は見事に固まった。

 ぼくはそれを無関心に眺めながら箸を動かす。

 潤はそんなぼくに倣って茶碗から白米をかきこみ、ろくに噛まずに飲み込んでから、

 

「……金?」

 

 そう聞き返してきた。

 ぼくはもぐもぐと咀嚼しながら、

 

「当たり前だろうが」

「俺にブレイブ作ってくれたときはタダだったじゃねぇか?」

「あの時は経費で落ちたからな」

 

 デバイス一つ作るのにどれだけ掛かると思ってるんだ、というぼくの言葉に潤は箸を落とした。

 隣で食べていたヴィヴィオが驚きながらも落ちていく箸をキャッチし、しかしわざわざ台所で洗ってやってから潤へ渡した。

 

「サンキュ、ヴィヴィオ……なあ一騎、そこをなんとか。俺は戦技教導隊(エースたち)と違って安月給な上、()()を養うために食費も取られて――」

「お前の給料が安かろうとぼくの知ったことじゃない」

「オヤジがアホみたいに働かせやがるし、なのに残業代も雀の涙なんだぜ?」

「文句ならそれこそナカジマ三佐に言え」

 

 お醤油取ってと姉さんに言われ、箸を置いてから渡し、

 

「そもそもなんで同じ型のデバイスが必要なんだ。ブレイブを壊した、とか抜かしたらぼくは二度とお前にデバイスは作らないぞ」

 

 ずずず、と味噌汁を啜りながら聞いたぼくの言葉に、潤は決まりが悪そうに唸った。唸りながらもその箸は止まらない。

 そして空になった茶碗を「おかわりお願いします」と姉さんに渡し、頬を掻きながら切り出した。

 

「実はだな……」

 

 

~~~~~

 

 

 俺がナカジマ家の一員として迎え入れられてから、大体半年くらい経った頃の事だ。

 女だらけの兄妹とも打ち解け、()()の陸士部隊である108部隊の仕事にも慣れ、ノーヴェと一緒にレイナに格闘技の指導をする日常。

 とても気楽で、昔とは比べものにならない程に平和な日々。俺自身もストライクアーツ――俺の格闘はギリギリ範疇らしい――の競技者として資格取得に励んでいたこの時期。

 

「なあノーヴェ。段位以上は筆記もあんのか?」

「あるぞ」

「うへぇ。マジかよ」

「ん? なんだよ兄貴、勉強(べんきょー)は苦手なのか?」

 

 ニヤリと笑いながら言われた言葉に、俺は肩を竦めた。

 

「苦手っつーより嫌いだね。できないわけじゃないんだが」

「へーぇ?」

「……お前、信じてねぇな? これでも訓練校じゃ次席の次に優秀だったんだぜ」

「微妙な位置っスねぇ」

「うるせぇ。主席(カズキ)次席(アローン)が優等生すぎるんだ」

 

 ソファでだらしなく寝転がっているウェンディの茶々に答えると、チンクが教本を持ってきてくれた。

 

「ともかく、筆記ならノーヴェに教えてもらうといいだろう」

「えぇ? チンク姉、なんであたしが」

「筆記においては有段者のお前がよく知っているだろう? せっかくお前が使っていた教本(これ)もあるんだ。兄上に少し教えてやれ」

「そーゆー訳だ。頼んます」

「んー、まあいいけどよ」

 

 チンクに乗っかって両手を合わすと、以外とすんなりノーヴェは引き受けてくれた。なんだかんだで面倒見の良いこいつのことだし、しっかりと付き合ってくれるだろう。俺も誰かと勉強した方が覚えやすいタイプだし、その方がありがたい。

 

「お兄ちゃーん」

 

 そんな時、レイナが二階から降りてきた。

 

「ん、どうしたレイナ」

「あのね、あのね」

 

 と、俺の腕に抱きつくようにして、

 

「私ね、お兄ちゃんと同じデバイスが欲しい」

 

 男を誑かすかのような表情の上目遣いで、そうねだってきたのだ。

 

 

~~~~~

 

 

「と、いうわけなんだが」

「じゃあ作るとするよ」

「はあっ!?」

 

 あっさりと意見を変えたぼくに潤は呆れと驚きが混ざった声をあげた。

 

「え――えらくあっさり請け負うじゃないの、相棒」

「ぼくはてっきり、お前が壊したから新しいのを頼んできたと勘違いしてただけだ。妹の友人(レイナ)のためならいくらでも作ってやるさ」

 

 ぼくらの会話を聞いて、ヴィヴィオがここぞとばかりに口を開いた。

 

「潤さん、レイナも自分のデバイスを持つようになるんですか?」

「ああ。一騎が請け負ってくれるんなら確実だ。レイナに辛い報告をしなくて済むし、よかったよかった」

 

 満足げな潤の言葉を聞いてヴィヴィオが溜息を吐き、

 

「いいなー、私も自分専用のデバイス欲しいなぁ……」

 

 ちらっ、と目が動く。

 

「なんだ、ヴィヴィオはまだ持ってなかったのか」

「はい、そうなんですよー」

 

 ちらちらっ、とぼくと姉さんを見てくる。

 姉さんとぼくは同時に味噌汁の椀に手を伸ばし、さも気付いていないかのように同じ動作で口へ運ぶ。

 

「……ああ、なるほどね。存外高町家は厳しいようで」

「うう~……」

 

 潤が察したようにつぶやくと、姉さんが恨みがましい視線のヴィヴィオを見てにこりと笑い、

 

「基礎が完成するまでは自分専用のデバイスとかいりません」

《それまでは私が代役を》

 

 そうレイジングハートと共にきっぱりと言い切る。続けてぼくに視線が向けられるが、

 

(かあ)さんが決めた方針だしね」

 

 ぼくはこの件に無関係だと言外に伝え、イノセントハートはおどけた声色でヴィヴィオの隣へ浮かぶ。

 

《たまには姉上(あちら)よりも俺を使ってみては如何です、レディ?》

《言い寄るのを止めなさい、出来損ない》

《んなっ――俺の方がスペックは上なんですよ!》

《そんなもの誤差の範囲でしょう》

 

 どうにもレイジングハートはイノセントハートに対して辛辣だ。自分の模造品という経緯に、大なり小なり気に入らないものがあるのだろうか。

 言い争いながら飛び回る赤いコアの二機を眺めながら、ぼくは箸を置いた。

 

「ともかく、レイナにデバイスを作ってやればいいんだな?」

「ああ、頼むぜ」

「うぅー……お兄ちゃん、私にも作ってー!」

「まあ、別に作ってあげてもいいけど――」

一騎(カズキ)?」

「――や、やっぱやめとく。(ぼく)が甘やかし過ぎるのはよくないからね」

 

 姉さんにぽつりと名前を呟かれ、ぞくっとした悪寒を感じた。教育方針に口は出さないと言ったのだ。手を貸すことすらぼくには許されない。

 ヴィヴィオは聞こえなかったようでぼくの理不尽に不平を述べているが、あまり勝手をすると本当にぼくの命に関わるので我慢してもらう。

 そんな一連の流れを見て潤が笑い、

 

「楽しそうだな、一騎」

 

 そう、楽しそうに、嬉しそうに笑った。ぼくもその言葉を聞いてふっと笑い、

 

「ああ、毎日楽しいよ」

 

 自信満々に頷くと、そう答えた。それを聞いて、姉さんとヴィヴィオも嬉しそうに笑った。

 潤は満足げに頷くと箸を置き、姉さんに向けて両手を合わせた。

 

「ごちそうさまでした、高町一尉。すみませんね、突然お邪魔した上に夕食までいただいてしまって」

「気にしなくてもいいよ。一騎は最近あんまり食べないし、食べてくれる人が居ると作りがいもあるからね」

「おいおい相棒、お前こんなに美味い飯がありながら食ってねぇのか?」

「……色々あるんだよ」

 

 ぼくは眼を逸らし、皿を片付けるために重ねていく。

 

「最近()()が多いみたいでね。まあ、それは付き合いだから仕方ないけどね」

 

 その言い方に含みを感じるのは、決してぼくの被害妄想ではあるまい。

 こちらを見てにこりと笑う姉さんに、ぼくは気まずさが増していく。

 

「なんだなんだ相棒、女か?」

「殺す」

「最近のお前バイオレンスだよな!?」

 

 素手に魔力刃を構築して振り降ろすと、潤は死に物狂いで白羽取りをして防いだ。その手はしっかりと魔力(ほのお)で防護されている。

 

「こら一騎、食卓で暴れないの!」

「だって姉さん、この馬鹿が――」

「そのくらいいいじゃない。とっくにみんな知ってるんだから」

 

 だからこそタチが悪い。別にぼくもディエチも吹聴している訳ではないのに、何故か関係者各位に知れ渡っている。

 フェイトさんはもちろん、はやてさんやヴィータさん、まさかのシグナムさんにすらからかわれたのだ。いい加減ぼくの我慢も限界に近い。

 そういえばディエチもよく姉妹に話のネタにされるらしい。

 

「――ナカジマ家に討ち入りするか」

「そんときゃ俺が殺してでも止めるぞ」

「お前なんかがぼくに勝てるわけ無いだろう」

「……それが相棒に言う台詞かよ」

 

 潤は肩を落とす真似事をした。

 事実として、ぼくと潤には大きな実力の隔たりがある。決して潤は弱いわけではないのだが、それでもオーバーSランク魔導師であるぼくと比べたらその差は歴然だ。

 

「話を戻すぞ。作るのは二つ。ブレイブとフランメ――つまり、ヘッドギアとガントレットのデバイスを作ればいいんだな?

「ああ、頼む」

「そうだな……来週にでもレイナを連れてこい。アジャストする」

「一週間でいいのか?」

「ブレイブは機構も構造も単純だし、ガントレットの方は元からデータが残ってるしな。デバイス二個くらい余裕だよ」

「……空戦魔導師の言うセリフかね、それ」

 

 それでも、潤にしては珍しく素直に楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

~~~~~

 

 

 そして一週間後。近くにある公共魔法練習場で潤とレイナが向かい合って立っている。

 後ろでは姉さんとヴィヴィオも見に来ていて、興味(姉さん)と期待(ヴィヴィオ)をそれぞれ目に宿している。

 

「ほら」

 

 ぼくがレイナに待機状態のデバイスである緑の宝石が埋め込まれた腕輪を渡すと、眼を輝かせる。

 

「わぁ……! お兄ちゃんのとお揃い!」

「だな。流石製作者、再現度バッチリだ」

「まあそう褒めるな」

 

 ぼくは笑いながらモニターを周囲に表示し、レイナに目を向ける。

 

「腕輪型の待機形態だが、デバイスは中に二つとも入ってるからな。念のため魔力運用の幅に遊びは持たせてるけど――レイナの魔力資質がどれほど変わったかだな」

「なに? 作る前に調べたよな?」

「子供は()()するのが早いからな」

 

 技術の面でも、魔法の面でもな。そう説明しながら、軽く使用者認証を済ませると、ぼくは意地悪く笑い、

 

「だから、最初から全開にはしないでくれよ。下手したらオーバーヒートで修理(おあずけ)だぞ」

「き、気を付けます」

 

 そんな言葉に、表情を固くしながらレイナが頷く。

 深呼吸をしてから真剣な雰囲気に変わると、腕輪を嵌めた右腕を前に突き出すように掲げ、

 

「『ディア』、セットアップ」

 

 そう唱えた。全身を明るい色の炎が包みこむ。

 セパレートタイプのインナーを纏うと、腰元にミニスカートが展開され、袖無しの黒いジャケットをその上に纏う。

 額にヘッドギア型のデバイス――《ディア》が装備されると、中心にあるコアが光を放つ。

 両手の甲に緑の光が集まり、炎へと変わって一気に両腕を包み込む。

 それが払われると、現れたのは流麗なガントレット。五本指に分かれ、指先から肩までを覆う金属の手甲。その拳を握り締めると同時、両足にも膝までを覆う金属のグリーブを装着する。

 火の粉と共に舞い上がる黒髪が後頭部でポニーテールに束ねられると、ごう、と音を立てて周囲に魔力が放出される。

 

「――とりあえずは成功だな」

 

 ぼくはほっとしながらモニターのキーを叩く。

 ゆっくりとレイナが目を開き、自分の腕を覆うガントレットを眺めながらゆっくりと手を開閉する。わずかに金属が擦れる音が鳴るが、それは決して動きを阻害することは無い。

 

「一騎さん、これって……」

「そのガントレットは《ケーニギン(Königin)・フランメ》。見た目はケーニッヒと同じだが、中身はレイナ用にしっかり作ってある」

「――はい、わかります。すごく馴染む」

 

 潤がその横で同じようにセットアップをする。同じ意匠の黒いジャケット、ヘッドギア、ガントレット。すべてが瓜二つのその姿を見て、お互いに嬉しそうに笑う。

 

「そのヘッドギア――《ディア》の機能は二つだ。一つは、潤の《ブレイブ》と同じように、常に魔力素を蒐集してリンカーコアに還元してくれる。あまり効率が良い訳じゃ無いが、その僅かな差が大事になったりするからな。素の魔力量が多いからって馬鹿にはできない機能だぞ」

「そうなの?」

「当たりめぇよ」

 

 潤が腕を組んで頷く。

 

「二つ目は、レイナの術式構成を補助する役割だ。近接戦闘において、素早い魔法の構築は重要だからな。レイナの思考と同調(リンク)してるから、文字通り、言葉通りの意味で()()()()に魔法を使えるようになる」

「マジかよ!? それってすげえ便利なんじゃねえのか?」

「言っとくが、熟練の魔導師相手だったらそこまでのアドバンテージにはならないぞ。ぼくだってデバイス抜きの魔法は余裕で使える。実戦経験の少ないレイナだからこそ、この機能は有用なんだ」

 

 レイナの魔力資質は当然高いが、どうにもマルチタスクがうまく働いていない。それはおそらく精神的なものだとぼくは睨んでいる。

 レイナが目指しているのは『潤』だ。決して魔導師として優れている訳ではなく、身体強化と牽制の炎熱砲だけで愚直に戦い抜く《焔闘士》だ。

 その在り方は、魔導師とは異なる。訓練を積めば一流の魔導師になることも可能なレイナだが、潤を目指しているからこそ、意識的に自分を闘士たらしめている。

 それが正しいのか間違っているのか。それは、ぼくが口を出すことではない。

 

「次に、《ケーニギン・フランメ》はレイナの魔力による打撃の強化や、魔力(ほのお)を打ち込む頑丈な放出機として機能する。装甲内部で特殊な緩衝材を使用してるから、どんな打撃や爆発を起こしても中身(なまみ)に衝撃は通らない。だから、多少の無茶でも悪影響は無いよ」

「おお、中々良い調整じゃねぇか。俺の《ケーニッヒ》にもやってくれねぇか?」

「《ケーニッヒ》には最初からその機能は搭載されてるよ」

 

 マジかよ、と軽く肩をすくめ、潤はレイナに向き直る。

 

「じゃ、()()()いくか」

「うん!」

 

 そうこちらを見てくる二人にぼくが頷くと、お互いに向き合って構えた。

 

「行くよ!」

「おう!」

 

 同時に炎を纏う。両手足に炎が現れる潤に対し、レイナは全身を炎が覆う。身体強化と共に発生する炎は、その強さによって火力が変わる。

 魔力量が少ないため限られた拳足(ぶぶん)に魔力を回す潤とは違って、魔力が潤沢なレイナは節制をする必要が無い。さらに、その身体強化の練度はぼくから見ても驚くほどのレベルだ。

 レイナが地面を蹴ると、まるで爆発するような勢いによって一瞬で潤に肉薄する。しかし潤は――慣れているからか――微塵も動揺せずに手の甲でレイナの右拳をいなした。

 即座に左の拳。それをまた受け流す。レイナは踏み込み、流された腕を曲げ、肘を繰り出す。潤が流すのではなく防御した。その僅かな硬直によって生まれた隙にもう一度右の拳を叩き込む。

 そこから一気にレイナは攻勢に出た。右拳を引くと同時に左のアッパー。防御のために構えられた潤の腕をはじくと、強化による跳躍の勢いと共に蹴り上げる。サマーソルトだ。それを潤が上半身を引いて避けると、攻撃を外したレイナのがら空きな背に向けて拳を繰り出す。

 そこでレイナは驚くべき動きに出た。逆さまの状態になっている身体を捻りながら、グリーブの爪先で炎を爆発させるように回転する。回転によって傾いた身体は潤の拳を避け、加速した脚は回し蹴りとして潤の側頭に打ち込まれる。

 サマーソルトからの、着地待たずの回し蹴り。ぼくでもあんな芸当はできないぞと呆れていると、さすがの潤も驚いたようで、バックステップで距離を取りながら蹴られた部分を手で押さえている。

 

「いってぇ……いつの間にそんなこと覚えたんだよ」

「覚えたというか、いま思い付いたの!」

「なっ――なんて破天荒な……」

「兄そっくりじゃないか」

 

 ぼくの皮肉に潤が不満げに唸ると、再度レイナは潤に向けて疾走する。

 地面が抉れるほどの踏み込みに「後で整備しないとね」「ねー」と後ろの母娘(おやこ)が能天気に会話をしているが、兄妹(きょうだい)はそんなことを気にしていられないらしい。レイナが溌溂とした笑顔で潤に打ちかかり、潤も同じように獰猛な笑みを浮かべながらそれを受け流し、避け、相殺する。

 当然、潤は手加減をしている。しかしそれはハンデでは無い。潤は威力を制限しているだけで、全力の技術を持って応じている。

 まあ、最初は油断していたみたいだが。回避上手のあいつが頭にクリーンヒットを貰うなんて、普段ならありえない。しかし一発貰って潤も(文字通り)火が点いたのか、今ではレイナの連撃を完全に見切っている。

 だからこそ、二人とも楽しいのだろう。

 目標となる者(ジュン)それを目指す者(レイナ)だ。ならば、その実力はある程度開いていなければ意味がない。潤は追いあげてくるレイナに満足しながらも自身も鍛錬を怠らず、レイナは幾ら追い縋っても届かない潤を目指して闘志を燃やす。

 それはとても理想的な関係だと、ぼくは思う。お互いに焔を帯びた拳を構えて距離を詰め――

 

「「はあっ!」」

 

 拳を打ち合うと、拳先に圧縮された炎が爆発する。全霊の一撃によって発生したそれはすさまじい衝撃を生み、お互いに地面を削りながら勢いを殺す。

 四つん這いになりながらも二人は同時に顔を上げ、さらに激しさを増した炎によってお互いに地面を蹴り、

 

「はいストーップ」

 

 割り込んだぼくによって止められた。抜いた玄月の鍔元で潤の拳を受け止め、鞘でレイナの胸元を抑えて留める。

 突然の乱入者に二人は呆然とし、状況を理解すると目つきを鋭くさせてぼくを睨む。

 

「どけよ相棒。今いいとこなんだ」

「そうですよ。一騎さん、邪魔しないでください」

 

 殺気すら感じられる怒りを露わにする二人。

 ぼくは溜息を吐いた。

 

「あのなぁ。ぼく、慣らしだって言ったよな?」

「知るか。どけ」

「知りません。どいてください」

 

 二人は今にも殴りかかってきそうな形相でぼくに食って掛かる。

 もう一度溜息を吐きそうになるのを堪え、

 

「あのな、いいか。いくら公共の練習場だからって、あまり飛ばすと周囲の被害が――」

「うるせぇ! どけって言ってんだ!」

「いい加減にしないと怒りますよ!」

 

 ぼくの溜息は舌打ちに変わった。

 

 

~~~~~

 

 

「馬鹿どもが。バトルマニアも大概にしろよ」

 

 玄月を鞘に納め、イノセントハートを肩に担いだぼくは、叩きのめして目の前で正座させた二人に対して思わず暴言を吐いてしまう。

 

「慣らしだって言ったよな? 全開にするなっていったよな? そもそも全力戦闘をするような場所でも状況でもなかったよな?」

「「はい」」

「何が『はい』だ! 内心笑ってんのわかってんだぞ、そこの軽薄面!」

「は、はあ。すんません……」

「レイナも! いきなりのデバイスで全力戦闘なんて、緊急出撃(スクランブル)でも無い限りありえないんだぞ! わかってるのか!?」

「……ごめんなさい」

 

 ふん、とぼくは鼻を鳴らしてセットアップを解除し、待機状態のイノセントハートが魔力翼でふわりと浮かぶ。

 

「まあまあ一騎、そのくらいで。ね?」

「そうだよー。レイナも潤さんも熱が入っちゃっただけで、悪気は無いんだから」

「だから尚更悪いんだよ」

 

 ぼくは大きく溜息を吐いた。せっかくこの二人をおとなしくさせて後始末をさせるつもりだったのに、姉さんとヴィヴィオが(暇だったのか)地面を均してくれていた。

 

「まあデータは取れたし、あとで最適化するだけだ。無駄にはならなかったな」

「んだよ、じゃあいいじゃねえか。無駄な説教しやがって」

「ストライクスマッシャー!」

 

 悪びれもせずに宣う十年来の相棒に向けて、ぼくは砲撃を撃った。突然隣で砲撃に呑まれた兄を見て、妹が頭を抱えた。

 その後、二人ともセットアップを解除すると、レイナはぼくに待機状態に戻った腕輪を渡してくる。

 それに戦闘データを反映すると、イノセントハートが最適化をしてくれる。

 

「よし。これで《ディア》はレイナのものだ。大事に使ってやってくれ」

「は――はい! ありがとうございます、一騎さん!」

 

 ディアを受け取り、レイナは両手で包むようにして胸に抱き、頭を下げた。

 素直に向けられた感謝にぼくはくすぐったくなり、照れ隠しに首元を掻いた。

 

「まあ、ともかく。もし調子が悪くなったら持って来てくれ。すぐに直してやるから」

「わかりました。その時はよろしくお願いします」

 

 レイナは右腕にディアを嵌めると、嬉しそうに微笑んで頷いた。

 




本編の補足的なアレです。

潤がナカジマ家の皆に呼ばれるときは、
ゲンヤ  →ジュン
ギンガ  →ジュン
チンク  →兄上
ディエチ →お兄さん
スバル  →ジュンさん
ノーヴェ →兄貴
ウェンディ→兄貴
レイナ  →お兄ちゃん
という感じになっております。妥当。
スバル忘れてたので追加しました。

レイナのデバイス入手回でした。デバイスの形状と黒いジャケットは潤と同じデザインでイメージしてます。
しかしインナーはスバルリスペクトなへそ出しタイプだったり、ミニスカートの下にスパッツだったり、髪形もポニーテールに変わったりと、作者の趣味が滲み出ています。作中では潤の趣味という設定になっていたりします。

レイナは戦闘機人用に作られた人造魔導師(のプロトタイプ)なので魔導師としてのスペックはかなり高いです。しかし本人は格闘家希望なので、その資質を十全に発揮できているわけではありません。

次回はキャラ設定回を予定しています。それぞれのキャラの設定を増やしすぎて作者でさえ把握しきれていないので、情報を整理する意味も込めて主人公達の設定を書き連ねます。
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