踏み込みは鋭く、力強い。
振るわれる腕は無駄無く、的確で。
鳩尾に打ち込まれた男は、たった一撃でがくりと膝をつき、アスファルトへ倒れこんだ。
それでも、彼女の表情に目立った変化は無いように見えた。けれど、それでも不満――いや、無念か――まあともかく、それに似た何かを『強行偵察課』だった俺には読み取れる。
(……ビンゴ。最近の通り魔はあいつで間違いない)
ビルの屋上から観察していた俺は
その碧銀の長髪を。目元を隠したバイザーを。倒れ伏した男を。その、どこか負の感情を内包した無表情な口許を。
一枚に収まるように、角度を調整し。
写真を写すと、ピッ、と小さな音が鳴った。
それが聞こえたのかどうかは知らないが、彼女が顔をあげた。
キョロキョロと辺りを見回し、こちらを見上げてくる。
彼女からは俺は見えないだろう。最近鈍りきっているとはいえ、俺は元々
実際彼女は俺に気付かなかったようで、興味を失ったように歩き去っていった。
(さて、俺も戻るとするか)
ほんの少しだけ沸き上がった興味を無視して、俺はビルから降りると、バイクにまたがってキーを捻る。
そこで通信が入ってきた。ヘルメットを被ろうとした手を耳もとに当て、応答する。
「はい、こちらナカジマ陸曹」
『首尾はどう?』
「ああ、ギンガか。現場は見たぞ。近付いたら巻き込まれそうだったんで遠くから写真撮っただけだがな。ひとまず捜査は一歩前進、ってとこか」
『そう。ならすぐに戻って来て』
「了解」
俺は気怠げに答えると、バイクを走らせる。
そんな俺の返事を聞いて、少し首をかしげた。
『……ジュン、なにかあった?』
「あん? いや、いつも通りだが」
『そう? ならいいんだけど。疲れが溜まってるなら言ってね。休ませてもらえるように
「別に気にしなくていい。まあ、休みが貰えるんならありがたいね。今度レイナにアクセ買ってやる約束なんだ」
『……レイナに?』
「ああ」
『――私には買ってくれないくせに』
小声で上手く聞き取れなかったが、俺への恨み言だったような気がする。
「おい、文句なら後で言ってくれ。ともかく、もうすぐ
『ええ、わかってるわ。
「ああ、了解だ」
~~~~~
「本日の教導はこれで終わりです。明日は13時から訓練ですので、それまでに集まってください」
ではお疲れ様でした、とぼくが締め括ると、部隊の人達は敬礼をして解散していく。
そんなぼくを見て、ヴィータさんが満足そうに頷いた。
「だいぶ様になってきたな。これならなのはが居られないときでも安心して任せられる」
「ありがとうございます。ヴィータさんにそう言って貰えると自信がつきますよ」
「ほーう? 自信家なお前にしちゃ、随分殊勝な発言だな」
「周りがエースだらけですからね。弱気にもなりますよ」
ぼくは歩きながら肩をすくめて言った。隣でヴィータさんは両手を広げて呆れたポーズをとった。
「それより、今日はあいつどうしたんだ? 最近は夜遅くまでの教導は無いけど、早引きなんて珍しいじゃねぇか」
「うーん。ぼくも聞いてないんですよね。まあ、なんか理由はあるんでしょうけど」
自販機で紙コップのコーヒーを二つ買い、片方(ミルクと砂糖入り)をヴィータさんに渡しながら答える。
「お前が聞いてないんなら、誰も知らねぇだろうな」
「フェイトさんなら知ってるかもしれませんけどね」
「ああ、その線もあるか。まああたしにゃ関係ねぇし、別にどうでもいいんだけどな」
コーヒーをちびちび啜りながらヴィータさんが憮然と言った。
「ま、帰ったら聞いてみますよ。それじゃ、ヴィータさん。また明日」
「おう、お疲れさん。コーヒーサンキュな」
ヒラヒラと手を振って歩いていく。
待てよ、とぼくはそんなヴィータさんの後ろ姿を見て思い至った。
普段姉さんと帰っているから気にかけていなかったが、ヴィータさんもいわゆる一人の女性だ。確かもう22歳だったろうか。登録年齢は姉さんやはやてさんの一個下――ぼくより一つ上――と聞いているし。
そんなうら若き女性を一人で帰らせていいものか。否、良いわけが無い。そんなティルクに似た思考でぼくはその背に声を掛けた。
「ヴィータさん。もう夜も遅いですし、送りますよ」
ぼくの言葉を聞いて、ヴィータさんはきょとんとし――半秒後に鼻で笑った。
「なんだ、あたしに対して点数稼ぎでもする気か? カノジョいるくせに」
「……別に、そんなつもりじゃ」
そんな言われ方をして、流石にぼくはむっとして眉をひそめる。
「別にあたしなら大丈夫だよ。さっさとなのはのとこに帰ってやりな」
「そうは言っても……」
「つーか、いつも一人で帰ってるしな。そもそも一騎――」
振り返ってぼくを流し目で見て、
「あたしが易々と襲われると思うか?」
「その見た目ならわりとありそうですよね」
ぼくは答えると同時、展開した玄月でグラーフアイゼンを受け止めた。
「ちっ――随分いい反応じゃねえか」
「鍛えてますから」
ぼくはぎりぎりと鍔迫り合いながら飄々と笑った。
「でもまあ、確かにぼくならヴィータさんを襲おうなんて思いませんね。リスクとリターンが釣り合わない」
「……一応男のお前にそう言い切られるのも、ちっと複雑だがな。まあそういうこった」
不満げに呟きながらグラーフアイゼンを待機状態に戻すと、ヴィータさんは踵を返して歩いていった。
やれやれ、と玄月を鞘に納めた時、
「でもまあ、気持ちはありがたく受け取っとく」
ヴィータさんは少しだけ顔を動かし、そう呟いた。うつむき具合のその表情は前髪に隠れて見えないが、何やら頬が赤いようにも見える。
ぼくは少しだけ面食らい、その後くすりと笑った。まったく素直じゃないんだから。姉さんがからかいたくなる気持ちもわかる。
「じゃあぼくも戻ります。気をつけて」
「おう、またな」
軽く手を振りながら、今度こそ帰っていった。ぼくも二度目は引き止めない。いくらヴィータさんでも、本当に送ってほしければそう言ってくるだろう。
端末を取り出してディエチに仕事が終わった旨のメールを送信し、駐車場で自分のバイクに乗る。
「……よし、帰るか」
ヘルメットをかぶり、ゆっくりとバイクを走らせた。
~~~~~
家の鍵を開け、扉を開く。
「ただいまー」
そう言いながら靴を脱ごうとし――目の前に浮かぶ
「……ん?」
白い、ウサギを模した人形。それがぼくの目の前で浮かんでいる。
ぼくの視線を受け止めたそれは、ぴっ、と効果音が付きそうな動作で右手をあげた。まるで挨拶でもするかのように。
それをぼんやりと眺め――とある昔の出来事を思い出した。
『やれやれ。これで今回は終わりか。随分呆気ない』
『テロリズム幇助の為の施設だったようだが……なんだこれは。人形か?』
『――おい、それ不味いぞ!』
『なっ! 爆発したぞ!?』
『おい、大量に出てきた!』
『くそ……首を落とせ! 起爆装置は頭部にあるはずだ!』
ぞっとした。思わずぼくの口から声が漏れる。
「自動人形――ッ!」
玄月を左手に展開する。柄を右手で掴み、全力で抜刀。わたわたと手足をばたつかせて慌てているが関係無い。その首を斬り落とす――
「ダメぇーーッ!」
「ぐはッ――」
そこで廊下の奥から飛び出してきたヴィヴィオの拳がぼくの鳩尾にめり込み、不発に終わった。
――五分後。
ぼくは姉さんに説教を食らっていた。
「もう、なに考えてるの? 折角ヴィヴィオにあげたばかりのデバイスを、いきなり壊そうとするなんて」
「そりゃ警戒するだろ――こんな自動人形が浮かんでたら」
「そんな言い方ひどーい!」
ぼくの言い草に、ヴィヴィオが怒り出す。
「ちゃんと『クリス』って名前つけたんだから、そう呼んであげてよ!」
「ああもう、わかったよ……そもそも、なんでクリスが
「なのはママが『一騎は
「アンタのせいじゃないか!」
「だって一騎の驚く顔見たかったんだもん!」
「なにが『見たかったんだもん』だよ……で、望みのものは見れたのかい」
「ううん。一騎ったら無表情で斬り殺そうとしたから」
「そりゃ、ぼくにリアクション芸を期待されても困る」
「でもあの殺気は凄かったよ? 私も思わず撃っちゃいそうだったくらい」
あの時、クリスと同時にぼくの命も危険だったらしい。
ぼくが寒気を覚えていると、端末が振動した。
画面を見ると、先程ディエチに送ったメールの返信がきていた。
『お仕事終わったんだ? お疲れさま。後で電話しようね、カズキ』
その文面を見て、自然と頬が緩んだ。もうすぐ彼女の声が聞ける。顔を見ることができる。そう考えるだけで、ぼくはたまらなく楽しみになった。
そんなぼくを見て、姉さんがつまらなそうにむすっとした。
「あ~、またそんなだらしない顔して。彼女ができたからってうかれてちゃ駄目だよ?」
「なに、ひがみ? 不満ならフェイトさんに慰めてもらいな」
「うわーんフェイトちゃーん! 一騎が生意気ー!」
「あのー……私を巻き込まないでほしい……かな?」
遠巻きにやり取りを眺めていたフェイトさんが、ひきつった笑顔でそう言った。
「で、結局それ――クリスだったか。今日もらったのか?」
「うん! 『セイクリッド・ハート』で、クリス!」
セイクリッド・ハート……訳すなら『聖なる心』とでもするべきか。なるほど、聖王と関わりの深いヴィヴィオにはぴったりな名前だ。
ちなみにぼくの『イノセント・ハート』は直訳するなら『無垢な心』という意味だったりする。まあ、ぼくに『無垢』なんて冗談もいいところだ。
せっかくだ、起動呪文にあった『無辜の魂』とでもしておこう。
《ほほう……このオーバーコート、好きに動かせるんですね》
そんなイノセントハートは、クリスのウサギの外装を眺めて興味津々だった。
確かに、あれはぬいぐるみというよりは、デバイス用の義体と言った方が正しいだろう。見た目は随分とファンシーだが。
《マスター、俺も――》
「断る。時間も金も掛かるしメンテが面倒臭い」
まだ言い切ってませんよ、と不満げに光るイノセントハートを無視していると、ぼくへのお披露目を終えたヴィヴィオは魔法の練習をしてくる、と姉さんを連れて家を出た。
ぼくとフェイトさんはそれを見送り、お互いに顔を向けた。
「挨拶が遅れたね。フェイトさん、久しぶり」
「うん。久しぶり、一騎。また背伸びた?」
「さあ……どうだろ」
「伸びたよー。ほら、私の目線鎖骨辺りだもん」
一歩近寄って確認すると、くすりと笑うフェイトさん。その微笑みを間近で見せられ、ぼくは少々動揺しながらも笑い返す。
「そう言われてみれば、確かにちょっとは伸びたのかな」
「うんうん。どんどんいい男になってくね、一騎は」
「あはは……随分褒めてくれるね」
「本当の事だもの……あーあ、ちょっと勿体なかったかな」
勿体ないってなにがさ、と聞き返すと、
「だって、私も昔は一騎のこと好きだったんだよ? だから、ちょっと妬いちゃうかな」
その言葉にぼくは面食らったが、昔は、という言葉の意味を考えて苦笑した。
「ぼくの初恋はフェイトさんだ。それで満足してよ」
「うーん……それもそうかもね。初めての相手っていうのは、ちょっとだけ優越感があるかな」
「はは……吹聴だけはしないでよ。どっかの誰かさんがまたうるさくなる」
「はーい。わかりました」
そう悪戯っぽく笑うフェイトさんは、何だかんだで、もうぼくのことを――恋愛感情として――好きではないのだろう。けれどそれはぼくも同じだ。
だからこそこんな冗談も言い合える。この関係は男女としては理想的だ。おかしなわだかまりもなく、恋情による駆け引きもない。
フェイトさんと話すのは楽だ。
(……ただ、それでも男女だからな)
自分で言うのもなんだが、ぼくは少々好色な人間だ。まあこう表現すると語弊を招くかもしれないが、別に経験豊富という意味ではない。単純に誰かを愛し、その誰かのために生きたいという欲求が強いのだ。
それは恋愛感情としての《好意》が深いという意味でもある。
まあつまり何が言いたいのかというと、
(……未だに目が合ったりするとすこし恥ずかしい)
僅かに目をそらしたぼくに、フェイトさんは不思議そうに首をかしげた。
「どうかした、一騎?」
「いや、別に……」
『一騎、今いいか?』
そこで通信してきたのはジュンだ。珍しく険しい顔をしている――かと思えば、ぼくとフェイトさんを交互に見ると、にやりと顔を歪ませた。
『なんだ相棒、随分気が多いじゃねぇか。ディエチはほったらかしかい?』
「それ以上言ってみろ。舌を切るぞ」
ぼくが凄んで言ったことばに、ジュンは肩をすくめるだけだった。
そんなジュンはよく見ればまだ制服に身を包み、隊舎に居るようだ。
「まだ108か?」
『ああ、捜査でな。お前みたいに早くに帰って家族で食卓を囲める身分が羨ましいぜ』
「何か用があるならさっさと話せ」
『へいへい……いまヴィヴィオは居るか?』
「いや、姉さんと一緒に出てる」
『ならよし』
しめた、と言わんばかりのジュンに、ぼくとフェイトさんは顔を見合わせた。
~~~~~
湯が張れたのでフェイトさんに風呂に入るようにすすめたあと、ぼくはリビングのソファに座り、ジュンに話すように言った。
『最近通り魔が出没するらしくてな』
「通り魔……?」
『ああ。まあ被害届が出てないから、正確には事件じゃねぇんだが――』
ピッ、ともう一つモニターが表示され、一つの写真が映った。
倒れ伏した男の隣に佇む、一人の女性が写った写真。
『この女だ。こいつが手当たり次第に格闘家に勝負を挑んでる。お互いに格闘家だとしたらたぶん同意の上なんだろうが……公共の場で、しかも叩きのめして放置ってのは穏やかじゃねぇ』
「若いな。20プラマイ2ってとこか……だけど、この案件がぼくにどう関係するんだ?」
『なんつーかな。お前よりもヴィヴィオに関係ある
ぼくは眉をひそめた。
『こいつは【《覇王》イングヴァルト】って名乗ってるらしくてな』
「覇王――古代ベルカ関係か?」
『ああ。昔本で見たが、多少【聖王】と交流があったらしいって説もある』
へえ、と腕を組み、
「お前が読書家とは知らなかったな」
『うるせぇ。ともかく、
「なるほどな……必要だと判断したら、ヴィヴィオに伝えておく」
『流石、理解が早くて助かるね』
なあ、とぼくは聞いた。
「お前はどうなんだ、《炎帝》?」
ジュンは途端に据わった眼になる。ぼくはその眼をみて不思議に思った。
『さあ、どうだかな。《炎帝》と《覇王》がどんな関係だったかは知らねぇよ』
「お前は
ぼくの問い掛けにジュンは首を振り、
『いいや、俺は
なるほど。ぼくはそれを聞いて、ジュンの反応の意味を理解した。
知らないが、しかし警戒している。無意識であれ意識的であれ、ジュンは良い印象を持っていないようだ。
覇王と戦うこと。そんなことは無いと思う――局員に喧嘩を売るなんてありえない――が、ぼくは少しばかりの不安を覚えた。
~~~~~
「ただいまー」
「ただいま、っと」
ギンガの後に自宅の玄関に入り、そう呟くように「ただいま」を言った。
ただいま、なんて十年近く言ってなかったからか、どうにも気恥ずかしい。
「あー、やっと帰ってこれたぜ。
「こら、玄関で転がらないの。みっともない」
倒れ込んだ俺を、ギンガは左腕一本で引き摺っていく。
抵抗する気にもならずにされるがままになっていると、
「お帰りなさい。義姉さん、お兄ちゃん」
「おおっ、今日も大物獲ってきたっスね」
獲ってきたってなんだ。俺は鹿かなんかか。
「相変わらずダレてんのか、兄貴は」
「うるせぇ。さっきの通り魔の件で神経磨り減らしたし、腹減ったし疲れたしでやってらんねぇよ」
「それは激務だったな。察するぞ、兄上」
「あはは……お兄さん、今日はお鍋だからたくさん食べてね」
「ほら、いつまで私に運ばせる気? さっさと起きて自分で歩く!」
しまいにはギンガは俺を片手で持ち上げ、無理矢理立たせた。
相変わらずの馬鹿力に俺は呆れる。そんな義兄妹達の団欒を、オヤジはなんだか満足そうに眺めていた。
~~~~~
夕飯を終えると、俺は自分の部屋で先程の写真をモニターに映し出した。
碧銀の髪。そしてこの装束。それを見て、どうにもおかしな感覚にとらわれる。
(…………)
なぜだろう。俺はやはり、彼女を知っているのだろうか。
それとも――
(知ってるのは、
今は外して机に置いているデバイスに目を移す。
待機状態の腕輪。その中にはガントレットと、それを依代にした『リンドヴルム』がいる。
だとすれば俺の既視感は、こいつが以前見せたものが残っているのかもしれない。
(……まあ、十中八九そうだろうな。
俺がそう結論づけ、床に座り込んだまま大きく伸び。くはぁ、と息を吐きながら横に転がり――ずしりと腹の辺りにのし掛かられた。
「ばぁ」
「あ? なんだレイナ。また来たのか」
いくらお前でも部屋に入るならノックくらいしろ、と日頃から言っているのだが、どうしてかレイナは俺の部屋に忍び込んでくる。最初は流石にびびって椅子から転がり落ちた。
つまり、今回もレイナは俺を脅かそうとしたのだろうが、慣れきった俺の反応につまらなそうな顔をした。
「お兄ちゃん何見てたの……って、女の人?」
表示させたままのモニターを覗き込み、レイナは呆然と呟いた。
「隠し撮り? お兄ちゃんそんな趣味が――」
「おい。そこになおれ」
やれやれ、と俺は身体を起こした。のし掛かっていたレイナが「わー」と床を転がる。
なんというか、自由なやつだ。おとなしかった昔に比べて随分と印象が変わったように思う。まあそれは余計な気をつかっていない証拠とも言えるのだろう。それに、床に寝転んで髪が放射状に広がっている様は見ていて面白い。ぼさぼさになっても、どうせ姉の誰かが整えてやるだろうし。
「それで。今日はどした、レイナ」
「えっとね、明日教会の方に行くんだけど」
「へえ」
「お兄ちゃん、今度は一緒にいかない?」
「明日も仕事あんだよ。休日出勤だ」
あ、そうなんだ、とレイナは残念そうに俯いた。
――しかし、教会か。
「なんでいつも俺を誘うんだ?」
レイナが俺を教会に誘ったのはこれが初めてではない。レイナは何度もヴィヴィオ達と一緒に教会に行っているのだが、いつからか俺に声を掛けてくるようになった。
「んー……ひみつ」
「……ほーお?」
俺が眉をひそめたのを見て、レイナは慌てて付け足すように口を開いた。
「あ、いや、別に変な意味じゃないよ! ただ――もし知ったら、お兄ちゃんは行きたがらないかも、と思って」
「んだよ、余計気になるな」
「知りたいなら一緒に来て」
「だから仕事が――」
「大丈夫。ジュンは明日は休みになったわよ」
そこで割り込んできたのはギンガだった。部屋の入り口で呆れたような表情で佇み、こちらを見ていた。
「……何て言った、ギンガ?」
「明日は休みよ。貴方のシフトと変えてもらったの。ジュン、なんだか疲れが溜まってるみたいだったからね」
「いや、別に俺は――」
「それに」
ギンガは俺の言葉を遮ると、近付いてきて耳打ちした。
「レイナとの約束もあるんでしょう?」
「む……」
確かに、休みが貰えるのはありがたい。レイナがこうまでして俺を誘う理由も気になるし、外出ついでにアクセを買う約束を果たすのもいいだろう。
「――わかった。ありがとな、ギンガ。借りができた」
「別にいいわよ。今度は私の方に付き合ってもらえればね」
そう言ったギンガは、いたずらっぽくウインクなんてして見せた。
それを見せられた俺は苦笑混じりに頷いてやり、レイナに顔を向けた。
「つーわけだ。明日教会についてく」
「うん! わかった!」
「よーし。明日も休みになったことだし、ちょっと夜更かししても大丈夫だな。今からスパーすっか?」
話をつけた後、俺は拳を掌に打ち付け――
「うーん、どうしようかなぁ……お兄ちゃんが私としたくて我慢できないっていうなら、相手してあげてもいいかなー?」
絶句した。なんだってこいつはこんな――まるで誘うような色っぽい表情でくすりと笑いながら――悪女みたいな台詞を吐いてるんだ。ちなみにギンガは隣で頭を抱えている。
俺の絶望混じりの表情を見て、レイナは首をかしげた。
「あ、あれ?」
「……おまえ、どこでそんなの覚えた?」
「えっと、こう言えば
~~~~~
『ウェンディごらぁ!』
『うわわっ!? 暴力は駄目っスよ兄貴ー!!』
『まーたウェンディはなんかやらかしたのか』
『どうせまた兄上にちょっかいを出したのだろう。放っておけ』
モニターの向こうのディエチが、突如発生した騒音に首をかしげていた。
「なんの騒ぎだ?」
『またお兄さんが遊ばれてるみたい』
「――あいつめ」
随分と団欒を楽しんでるみたいじゃないか、とぼくは思わず吹き出した。