見た目は、普段とはまったく違う。着ているものや髪の色、色違いの瞳はもちろんだが、顔立ちや身長までいつもとは違っている。普段は柔らかく女性らしい線を描く輪郭はやや引き締まり、おおらかな表情を形作る大きな口も、今は少し小さめであまり笑うのが得意そうな感じではない。身長はいつもよりやや低めだ。元々女性としてはかなり高身長だったから、低くなってもまだ高い方ではあるが。
何より、目だ。いつもは垂れ目でおっとりとしている瞳が、肉食獣のように鋭くつり上がって、顔全体に刃のような鋭利で清廉とした印象を与えている。
つまり別人だ。一つ一つの違いは本当に少しずつで、もしいつもの伊吹と今目の前にいる伊吹が並んで立ったら、たぶんかなり似てはいるだろう。
それは、そう、まるで、姉妹のように。
けど同じではない。決定的に違う。それなのに俺は、その女が伊吹だということが分かる。確信している。理由は分からない。分からないがただ、どちらが本物の伊吹かと問われたら、俺は寸分の躊躇もなく今目の前にいるこの女の方だと答えるだろう。あいつのあの、男勝りで大雑把で、変なところで堅気な性格は、普段のいかにも女らしい出で立ちよりも、今のこの少年のような凛とした容姿の方がしっくりきている。
形の合わないピースを無理矢理はめ込んでいたところに、ようやくぴったりくるものが見つかったというような感覚。それはあまりに鮮烈すぎて、俺はやっと出会えた、とすら思い始めている。間違いない。これが伊吹の本当の姿なのだ。
「分かってくれたみたいだね」
女――白銀伊吹は、泣き出してしまいそうな顔で淡く微笑み、ちょっとだけ肩をすくめた。それは伊吹がよく、何かを誤魔化そうとするときにする表情と仕草だった。
「私は今まで、ずっと騙してたんだ。あんたのことも、他の奴のことも」
騙す。
言葉の意味を反芻する。俺は何を偽られてたっていうんだろう。何となく見当がつきそうになっているのが恐ろしくて、こめかみの辺りがぞわぞわとした。
「でもそれも今日で終わり。変化を怖がっていたら何も始まらない。私には、やらなきゃいけないことがあるんだから」
決意を示す言葉。けれどそれを紡ぐ声はひどく哀しげだった。自分を無理矢理に奮い立たせるように、言い聞かせるように。或いは何かを、諦めるように。
女が不意に片手で顔を覆った。すぐにまた離し、その無意味な行動を自嘲するかのように吐息を漏らす。
「……はは。でも、やっぱり、どんな顔したらいいか、分かんないや」
歪めるように浮かべられた、笑みとも呼べないような笑みに、俺は、どういう言葉を返したら良いか分からなかった。
そんな、だって、何で、笑ったことなんて一度もないような、そんな顔で。
何でだよ。
伊吹。
――ここにひとつの事実がある。
子どもの頃、俺は虚に襲われたことがある。
それを助けてくれた奴がいたんだ。
それが今、目の前に立っている女だと言ったら、誰か信じてくれるだろうか。
そう阿呆のように問うた自分を、すぐさま殴りつける。
真実も何も、それもこれも何もかも全部、現実の話だ。くそったれ。
これにて本章はおしまいです~お疲れさまでした!
そしてまた当たり前のように更新サボってしまいすみませんでした……ほんと意志力がない……(絶望
次回更新からは、伊吹と一護の過去話を進めてまいります。
一護が初めて伊吹と出会ったとき、彼女はどんな少女だったのか。
伊吹の過去も少しずつ明らかになっていくと思います。