黒い髪は直毛でさらさらしていて、小顔で垂れ目で大層な美人だ。体つきもほっそりしていながらなかなかの魅惑的なラインを描いているし、黙って大人しくしていればあっという間に男どもが寄り集まってくるだろう。
深窓の令嬢という言葉がぴったりな淑やかな美貌はしかし、運動部の男子にすら引けを取らない男勝りな性格のせいですべて台無しになっている。おかげで男子人気は思わしくないが、女子人気は凄まじく熱狂的なのだとか。
まあ、悪いヤツではない。友人として付き合うにはそれで十分だ。
「あー、今日マジで暑い死ぬわ。どっちかさぁ、お茶持ってない? 今日忘れちゃったからさ、ちょっと分けて」
自分の席にどっかと座り、スカートの端を掴んでばたばたと風を起こしている様は、やっぱりがさつというほかない。
「あ、俺持ってきてるぜ! ……え、でもちょっと待って、これ伊吹が飲んじゃうと間接キ」
だごん、と鈍い音がしたが、あれは打撲音か。悪ノリする啓吾は正直ウザいし俺も軽くあしらうことはあるが、それにしたって伊吹の応酬は酷い。残酷とすら言える。何せ、こいつは2年生ながら、空座第一高等学校剣道部の最強剣士で、その運動能力はいつきにも引けを取らないのだから。
「なぁにが間接キスだ、ボケ。口つけて飲むわけないだろ。何を期待してんだお前は」
「す、すんませ……」
床に這い蹲りつつ謝る啓吾の声は、痛みをこらえていかにも苦しげだ。
まったく容赦ねえな、と他人事のように思いつつそちらを見やる。汗の滲んだ顔に髪の毛を貼り付かせて笑う様は、まさに華の高校生と言うにふさわしい光景だ。
と、次の瞬間、伊吹の大きな瞳がくるりとこちらを向いて、目が合った。
「お! おっはよう一護!」
「おーっす」
「昨日はありがとな。まぁた夕飯ごちそうになっちゃってさ!」
人なつこい笑みを浮かべた伊吹が、机をがたがたとかき分けて俺の席の方にやってくる。
「ああ、気にすんな気にすんな。お前が来ると遊子も夏梨も喜ぶし」
「そう? じゃあまたお邪魔しちゃおっかな~」
伊吹は両親がおらず、遠い親戚と一緒にアパートに住んでいる。その親戚の主な仕事が、まあいわゆる夜のお仕事だもんで、ご相伴に預かろうとしばしば俺の家に上がり込んでくるというわけだ。オヤジは伊吹のさっぱりした性格を気に入ってるし、遊子も夏梨もよく懐いているので、特に断る理由もない。
「なぁに? 伊吹、また一護ん家で飯くったの?」
と突然、ひょこ、と伊吹の肩から手が伸びてきて、伊吹に寄りかかりながらいつきが顔を出した。
「あっやしいな~。あんたら、もしかして付き合ってんじゃないの?」
「あっはは、まさか! 一護とか私のタイプから外れすぎて、たわしどころかスタジオのセットに名前すら残せないよ」
「……東京フレンドパークかよ」
からからと笑う伊吹に、俺はため息混じりに突っ込みを入れる。心配しなくとも伊吹の好みが俺のような人間じゃないことは知っているし、俺だって伊吹みたいな女はタイプじゃない。……女のタイプとか、あんまり気にしたことはないが。
「ま、そういうことだから心配要らないぞ! 織姫!」
「え!? な、何で私!?」
いつきの傍にいた井上が、いきなり伊吹に肩を叩かれ驚いている。つか、何だよ伊吹のヤツ。思いっきりにやつきやがって・・・まあ、あいつがへらへらしてんのはいつものことだけど。
うざったいほど明るいヤツだが、まあ啓吾に比べりゃマシな方だし、空気が読めないわけでもない。うちに来るのも日常茶飯事で、家族が喜ぶのは本当だし、鬱陶しくも何ともなかったんだが……最近は少々事情が変わった。
それと言うのも――……。
「あ、朽木さん! おっはよ!」
井上が何かに気づいたように俺の背後に目をやり、にこりと笑って手を振った。
「あら皆さん。ご機嫌麗しゅう」
……こいつが俺の押し入れに住み着いているのだと言うことを、知られたらエラいことになるからだ。
ひきつりそうになる表情を無理矢理引き締めて振り返ると、案の定、ピンと特徴的に外側に跳ねた黒い髪の女が、輝かしいばかりの笑顔と寒気がするような猫なで声で井上に挨拶を返してきた。いつの時代の真似事か、両手で恭しくスカートの裾なんぞつまみ上げて。
奴の名は朽木ルキア。
現在、力のほとんどを失ってその役目を果たせずにいる――死神だ。
夢主ちゃん登場です。
破滅的で、皮肉屋で、甘えん坊で、優しい子です。
どうぞ末永く見守っていただければ幸いです。