不運、と言えばそれまでかも知れない。
視える・聴こえる・触れる・喋れる・憑かれる……と、ご丁寧に5拍子揃った超A級霊媒体質のおかげで、虚とかいう化けモンに家族諸共狙われ、この女死神に命を救われた。そして、俺に死神の力を譲渡したせいで元いた世界に帰れなくなったこいつの代わりに、俺が「死神代行」として仕事を手伝ってやっている、と言うわけだ。
まったく、霊を呼び寄せる力はあっても面倒事を呼び寄せる力はなかったはずだが……いや、もう良い。今更どんな文句を垂れたって、起こっていることが変わるわけじゃねえんだ。
それに、だいぶ死神の仕事にも慣れてきた今では、最初は不運としか思えなかったこの境遇に、ちっとばかし感謝してる面もある。
何と言っても、死神の姿なら、霊力の高い俺を狙ってやってくる虚たちから、家族を守ることができるんだから。
「む」
放課後。グラウンドでは、部活の準備をする生徒たちが忙しそうに動き回っている。ほとんど人気のなくなった教室で帰り支度をしていると、傍にいたルキアが唐突に呻いた。
「反応があったぞ、一護。2丁目のあたりだ」
「はいはいーっと」
虚の出現頻度というのは、本当に間断がない。一日中虚の反応がなかった、なんてのはかなり稀で、平均で言うと一日1、2体、多いときには4、5体倒すなんて言うのもザラだ。まあ日本だけでも一日三千人以上が死んでるわけだから、別段おかしくない数だ。魂を導く死神なんていう役職があるのも頷ける。
でも、どういうわけかここ最近、その虚の出現頻度が下がってきているようにも思える。一週間くらい前から三日前までは一日1体、昨日に至っては一度も虚の反応が出ていない。
――気にしすぎか……。
疑問を振り払い、小走りで教室の出入り口に向かう。けれどルキアが付いてきていないことに気づき、ドアに手をかけて立ち止まった。ルキアはまだ俺の机の前に立っている。
軽く握り込んだ手の人差し指を唇に押し当て、目を伏せているーー何かを深く考え込んでいるような重々しい表情だ。
「おい、どうしたよルキア。虚のところに行くんだろ」
「ああ……だが……一護」
手を唇から離し、ルキアは視線は合わさず顔だけこちらに向けた。背中に眩しいほどの夕日を浴び、学校で黒く淀んでいる奴の顔はひどく憔悴しているように見える。
出逢ってから十数日か、それ以上か。ルキアは時折、こうして深海に沈むような暗い面もちで考え込むことがあった。自分の住んでいる尸魂界とやらに帰れないんで、ホームシックにでもなっているんだろうか。いつもは早くしろだののろまだのとさんざん文句を言ってけしかけるくせに。
囁くように名前を呼ばれて、頭をがしがしとひっかき回しながら返事をする。
「何だよ」
「……いや。やはり、何でもない……行こうか」
「おう」
ルキアは自らに言い聞かせるように首を振り、ふっと淡く笑むと、小走りでドアの方に駆けてきた。俺はその姿をちらりと視界の隅で見やってから、教室を出た。
ったく、死神ってのは意外と悠長なもんだな。人の魂を喰らう化け物が出たってのに、のんびりとセンチメンタルな気分に浸る余裕があるとは。
ん? 死神ってセンチメンタルな気分になる事ってあるのか?
外見を華麗に裏切ってかなり長いこと生きてるらしいし、色々と悟ってるだろうから、感傷に浸ることも多い、のか……?
ま、いいか。そんなことより退治だ。虚退治。
――崩れ去るのはいつも唐突だ。げんにルキアがやってきてから、ずっと続いていくはずだった俺の平凡な日常は、かくももろく崩れていったわけで。
だから、思いもしなかったんだ。
あいつの秘密を、あいつがずっと隠していたものを、こんなふうに知ることになるなんて。
「ある事」で思い悩んでいるルキア。
真相はまた近いうちに分かります。