ドガァン!!
「一護!!」
身体が家屋の塀にぶち当たる強烈な衝撃と共に、ルキアの悲鳴にも似た声が耳に届いた。その声に遠のきかけた意識を無理矢理引き戻し、ヒビが入るほど深くめり込んだ身体を塀から引き剥がす。
「く……っそ」
全身を襲う、頭のくらくらするような激しい鈍痛に思わず悪態をつくと、咥内にうっすら血の味が滲んだ。
ほんと、憎まれ口の一つでも叩かなきゃやってらんねえ。
こちとら最近、虚の出現頻度が減ったもんで、地味に身体が鈍ってるっつうのに。
「何なんだよ、こいつは……!」
今、住宅街を走る一般道路で俺が相対しているのは、まさしく化け物と呼ぶにふさわしい出で立ちをした虚だった。
今まで倒してきた虚は何というか、魚やらトカゲやらの動物の骨格だけを抜き、それを大きくしてちょっとばかし凶暴な感じに仕立て上げた、というような容姿をしていた。けど今回遭遇したこいつは、何と言ってもでかさが半端ない。胴体は何かの塔のように太く、その両脇についている腕もバカみたいに筋骨隆々としていて、思い切り斬りつけても傷をつけることすらままならない。二十分くらい前から戦っているが、形勢は相子どころか徐々に追いつめられつつあるという散々な有様だった。
(突然こんなのが現れるなんて、反則だろ!)
『キヒ……キヒヒ……どうした死神、もう降参か?』
「ヘッ……誰が……」
心の声とは裏腹に強がってはみたが、正直なところ立っているのがやっとだ。さっき吹っ飛ばされたせいで額を切ったらしく、視界の半分が赤く濁っている。いや、それだけじゃない。既に全身の至る所に切り傷や打撲を負っており、その状態で身体を酷使したせいで、手足がぎしぎしと軋んで動くこともままならなくなっていた。
痛い。全身の傷という傷が夏の熱気に晒され、腐り落ちていくような感覚がする。
『ヒヒ、全くもって浅知恵だな死神。お前ごときの力量では私に勝つことなどできないと、少し考えれば分かることだろうに……』
ばかでかい口が糸を引いて開き、おぞましいほどの低い声が流れ出てくる。と不意に、仮面の穴の奥で光りながら虚の目が、ぎょろりと別の方向を向いた。
その視線の先には、険しい表情で左手の中指と人差し指を虚に差し向けたルキア。
「破道の三十一、しゃ……」
おそらくは、虚の関心が俺に向いている間に、死神がよく使うという鬼道とやらを奴にぶりかまそうとしたんだろう。だけど、そのための呪詛を最後まで唱えることはかなわなかった。
バキィッ!!
狭い道路だと言うのにお構いなしに振るわれた虚の右腕が、ルキアの身体を正面から叩き飛ばした。めき、と言う嫌な音と共に、力の抜けたルキアの身体がアスファルトを勢いよく滑走していく。俺はたまらず叫んだ。
「ルキア!!」
『今の話が聞こえなかったのか? 小娘』
虚が問う。しかし、煙が上がるほど激しく地面を滑らされたルキアは、今の一瞬でもう傷だらけだ。息を荒げ地面から少しだけ頭を持ち上げることくらいしかできなかった。
『もう一度言うぞ。お前たちでは私には勝てぬ』
ぶお、と音を立てて振り上げられた丸太のような腕が、横たわったルキアの身体の上に影を作る。
「やめろ!!」
あんな馬鹿でかい物が振り下ろされたら……そう思うとざっと血の気が引き、悲鳴を上げる身体にむち打って駆けだした。ルキアを庇うように正面に立ち、刀を構える。けれど、それは所詮形だけの行為だった。痛みと疲労に腕が震えて、刀を取り落とさないようにするのが精一杯だ。
『まだ刃向かうか? 勇敢を通り越していささか無謀だぞ、死神』
「うるせえ……!」
虚の勝ち誇ったような言葉に、苦し紛れに悪態をつく。けど、正直あんな塔みたいな腕を、この細っこい刀で受け止められる自信なんてほとんどなかった。
けど、そんなことをいちいち気にしてる暇なんてねえ。
自信が何だ。そんなもんなくても、止めるもんは止めるんだ!
『キヒヒヒヒ、仕舞いだ死神! ……安心せい。殺した後はその身体、余さず綺麗に喰ろうてやるわ!!』
虚の腕が周りの空気を轟音と共に巻き込みながら、鋭く振り下ろされる。ルキアのよせ、逃げろ、と言う切羽詰まった声が聞こえた気がしたが、無視した。左足を引き、下半身を安定させて、刀身を両手で支えるようにして前に突き出す。
止めてやる。不安と恐怖を精一杯に押し殺して、そう覚悟していた。
――が、結局、虚の腕が俺の身体を粉微塵にすることも、俺の刀が見事虚の腕を受け止めきることもなかった。
「綻術、鉄の段、二の糸『鉄征』」
あ~ストックが足りないんじゃあ~!!(悲鳴)
それはそれとして、次回から夢主本格的に登場します。
バトルシーンは結構うまく書けたんじゃないかと思う(自画自賛)
次回の更新もお楽しみに!
Reunion 意味:再会