突如、唄うように滑らかな女の声が聞こえたかと思うと、眼前が眩しく光って思わず目をつむった。そのすぐ後にごぉん、と言う地響きのような音が重なり、我に返って目を開く。
視界に飛び込んできたのは、手を少し伸ばせば届きなそうなほどの至近距離まで振り切られた虚の腕と、それから俺とルキアを守るようにして円状に張られた、銀色の膜。そしてその膜が、凄まじいスピードで振り下ろされたはずの虚の豪腕をやすやすと受け止めている光景だった。
「な……何だこれは!」
突然現れた邪魔者に、虚がうろたえながら振り下ろした腕を退く。すると、まるで役目は終えたとばかりに、俺たちを守ってくれた膜が宙に溶けて消えていった。
呆然としていた。俺もルキアも。何が起こったのか理解できなくて。
しかし、虚は俺たちが今の膜を出して、自分たちの身を守ったのだと思ったらしい。苛立たしそうに太い腕を振り回しながら毒づいた。
「まだそんな妙な技を隠しておったか! 全く小賢しい――」
「違うよ」
突如、さっき聞こえたのと同じ女の声が、頭上から降ってきた。虚がはっとした様子で、背後にあった電柱を見上げる。
そこには人がいた。高い電柱の上に、器用に両足を乗せて立っている。
目が、勝手に見開かれた。
「あいつは……」
瞬間、とある記憶が瞬間的に脳裏に閃いた。
俺はそいつを知っていた。
白い死覇装に赤い腰帯。
月の光をこぼしたような銀髪。
鮮血をこぼしたような赤い右眼。
夕陽を浴びて眩しいほどに輝く、乳白色の左眼。
そして――胸の中心に無造作にぶら下がった、一連の銀鎖。
(逃げて!! 早く!!)
あの射抜くような眼光と、鈴の音のように凛とした声は忘れようもない。
どうして? なぜあいつがここにいる?
あれは確かに、あの時の――。
「今の技を使ったのはその子たちじゃない。私だよ」
「何だと……いったい何者だ貴様は!!」
虚はもう少しで俺とルキアを捻り潰せるところだったのを、横から邪魔されて憤懣やるかたない様子だ。今にも女に飛びかかっていきそうな勢いで怒鳴りつける。しかし、当の女は余裕綽々とした微笑を少しも揺るがすことなく、代わりに大仰な仕草で肩をすくめてみせた。
「教える義理なんてないね。良いから早くそこからどいてもらおうか」
「何だと!?」
「理解が遅いなぁ。死にたくなきゃ、さっさとその子たちから離れろって言ってんだよ」
脅迫するような口調とは裏腹に、女は笑っていた。愉悦と痛快を含んで歪むように浮かべられた笑顔。俺はその奥に、抑え込まれているのが不思議なほど激しく燃え狂う黒い感情を見た。表情も仕草も、波立たない水面のように落ち着き払っているというのに、それは蛇のように猛然とのたうち回り、すべてを咬み殺さんと粘ついた殺気を放っている。
全身が粟だった。何が分からなくとも、あの女の中に凄まじい怨恨の情があることは明らかだった。
夢主登場……?第1話で出てきた夢主とどう関係があるかは次回以降で。
白髪に白目赤目のオッドアイとか性癖でしかないです。他ジャンルの夢小説の中にも同じような容姿のキャラクターを出していますので、そちらと合わせて見るのも面白いかも。