女が口を開く。
「あんたの腕っていうのは、この……」
瞬間、弾けた。
虚の、振り下ろされて、土煙を上げながら地面に突き刺さっていた腕が、文字通り弾けたのだ。その恐ろしいほど肉厚な皮膚に、いつの間にやら刻まれていた無数の刀傷から、面白いように大量の血液が噴き出した。それと同時に傷口が開き、左右からハサミで無茶苦茶に切られた輸血袋のように、血を振りまきながら虚の腕が崩れていく。
「肉の塊のことか?」
すっくと立ち上がった女に降り注ぐのは、にわか雨のような激しい血しぶきと、身の毛もよだつような悲鳴。
『いやああああああぎゃあああああああぁぁぁぁぁ……!!!』
地響きを上げて崩れ落ちていく自らの腕を目の当たりにしながら、虚は激痛と恐怖と屈辱とで断末魔のような叫び声を上げた。無理もない。刀であんな風に細切りにされてしまったら、痛みのあまり悶絶してしまうのは仕方ないことだろう。さっきまで殺されそうになっていたというのに、俺は虚に同情していた。それほど容赦のない、余念のない、残酷なまでに緻密な斬撃だった。
いったい――いったい何なんだ、あの女は。
初めてあいつに会ったときは、あんなに馬鹿みたいに強くなかった。刀の柄に手をかけて。抜いた、と思ったら、もうそこにはいなくて。例えなどではなく、本当に瞬きするかしないかの間に、あいつは虚のあの巨大な腕を斬り刻んでみせたのだ・・・何て規格外の強さだろう。
感嘆。驚愕。恐怖。突如現れた女に対し抱くこの感情は、そのすべてに一致するような気もしたし、またどれも違う気がした。
でも、まさか、それ以上に、懐かしい――なんて。
刀を血ぶるいする手慣れた仕草。白い前髪が垂れて隠れている横顔。紅い血の斑点に汚された白い死覇装。
強烈な既視感で胸の奥が刺されたように痛い。俺はあいつを知っている。頭で思うよりも先に身体が、駆け抜ける痛みが、それを訴えかけてくる。
『おおぉ……お、おのれ、おのれおのれおのれ!! こ、小娘の分際で、よくも、よくも、私の腕をおおおおおぉぉぉぉ!!!』
烈火の如く怒り狂い、残った片方の腕を振り回す虚。しかし女は飄々とした仕草で振り返り、肩をすくめながら言った。
「だから忠告してやったじゃないか。大人しく従ってれば斬らずにいてやったのに。まあ、呪うなら相手の力量を正しくはかれない、自分の浅はかさを呪うんだな」
『黙れぇ!! 死神の分際で粋がりおってええ……!! 今度こそ捻り潰してやる!!』
女の更なる挑発に、怒りを増大させた虚は残った左腕を振り上げた。今度は平手だ。ごお、と大気がうねって、先ほどより何倍も大きな影が女の身体を覆い尽くす。
「……分かんない奴だなぁ」
女は呆れたようにため息混じりに呟くと、再び刀の柄を握った右手に力を込めた。そのまま刀を左肩の上まで振り上げ、スナップを利かせて一気に右下へ振り下ろす。振り慣れているのだろう、びゅっ、と空気を裂く清廉な音が四方に響いた。
それが合図だったんだろうか。
瞬間、今までどことなく骨の抜けた不真面目な雰囲気をしていた双眸に、強い意志の光が灯ったように見えた。
「――薙ぎ裂け、裂破(れっぱ)」
や~っと斬魄刀のお目見えです~!!
最終更新から時間経ちすぎててドン引き(自虐)
この子の斬魄刀の解号や名前はかなり前から決めてました。それこそ何年も前に。
色々事情のある刀で今後の展開に大いに関わってきます。以後お見知りおきを!