花丸の声が聞こえた梨子は鞠莉と共にホテルを飛び出します。
花丸はどこへ…?
「はい!これ!懐中電灯。」
「は、はい!ってうわぁ!これ…光強すぎ…。」
「はい!虫除け!」
「はいはい…ってこれゴ○ジェットじゃない!」
「あはは!冗談!」
「もう!ふざけないの!」
「はーい。じゃあ行きましょうか!」
海岸沿いを歩き、森の中に差し掛かるところで2人は装備を確認する。
寝間着に懐中電灯、鈴、虫除けと、かなり間抜けな格好だが、今はそんなことに構っていられない。
「声はどっちから聞こえる?」
「えと……こっち!」
「Rojer! Let’s go!!」
梨子が聞いた花丸の声は断続的に聞こえてきていた。近づく度に声が大きくなっている。
「でも、こんな方法で大丈夫なのかな…?」
「そうね。でも、今はその声を信じるしかない。頼りにしてるからね!梨子!」
「…うん!」
鞠莉には声は聞こえていない。だが、その声よりも信頼できる存在がここにいる。
今はそれだけで動くことができた。
声を聞く
先に進む
森を抜ける
そうこうしている内に、2人は水場にたどり着いた。
「ここは…?」
「あれ…?」
急に森のざわめきが収まった。
と同時に、梨子が今まで聞いていた声も聞こえなくなる。
(この感覚…どこかで…?)
その時
「梨子!!上!!」
鞠莉が声をあげ、懐中電灯の光を当てている。
その視線の先にはーー
「!!ーーー花丸ちゃん!?」
目を閉じて空から現れた少女。
その少女は梨子のもとまでゆっくりと降りてくる。
そしてそのまま
【zzz…】
眠ってしまった。
突然のことに驚きを隠せない梨子と鞠莉だったが、目的は達成したので一度ホテルに戻ることにした。
1人の少女を背負って戻るのはかなり厳しいと思っていたが…
「え?軽い?」
「うん…ほとんど体重がないみたい…これなら私1人でもなんとかなりそう。」
怪訝に思いながらも鞠莉は少女のお尻を持ち上げてみる。
確かに、人の重みを感じない。
「じゃあ…私は梨子の分の荷物を持つわね!」
「うん。ありがとう!」
「お安い御用♪」
2人は時々役割を交代しながらホテルへの道を歩く。
だんだんと、夜も更けていく。
ホテルに着いたときには時刻は24時を回っていた。
部屋に着いた途端ベッドになだれ込む鞠莉と梨子。
鞠莉も梨子も、一日中精神的・肉体的に辛いことをしてきた。
そのまままどろむように床に就く。
「んん〜…もうダメ…。梨子〜…ハグ…。」
「えぇ〜…。しょうがないなぁ…。じゃあ花丸ちゃんを挟んで…」
少女を抱いて寝ようとする2人。
その時、鞠莉は少女と目が合った。
「OH!!ーーー…起きてたの?花丸。」
「わっ!驚かさないでよ鞠莉ちゃん!ーーー…起きてるの?花丸ちゃん。」
少女は目をパチクリさせながら起き上がる。
【お外…】
何かを呟きながら窓の方へ向かう少女。
出て行こうとするそれの手を梨子が掴む。
「ダメよ、花丸ちゃん。もう夜も遅いし…」
【梨…子…ちゃん…?】
「えっ?」
手を掴んでいるその少女は花丸だ。
そう思っていた梨子だったが、その少女の隣にぼんやりと浮かぶ姿を見て、考えを改めた。
「花丸…ちゃん…?」
「どうしたの?梨子。」
【鞠…莉…ちゃん。】
少女が鞠莉の名前を呼ぶ。
梨子の目には隣の存在が名前を教えているように見える。
「そうよ!私がマリー!花丸!ぎゅーーー」
「ちょっと待って鞠莉ちゃん。」
「ふぅぇ?」
少女に抱きつこうとする鞠莉の顔を片手で押さえる梨子。
そして、睨みつけながら少女に質問をした。
「あなたは誰?花丸ちゃんじゃないわね。」
「ふぇ…?
ー梨子、何を言ってーー。」
鞠莉がそう言って少女を凝視する。
少女はきょとんとした顔で2人を見つめている。
【お外…遊び…たい…】
「ダメよ。花丸ちゃんを返して。」
「ちょ、ちょっと梨子?」
鞠莉の顔を押さえている手の力が強くなる。
顔が潰される前に鞠莉は梨子の手から逃れた。
「どうしたの?梨子。
ー花丸ならここにいるじゃない。」
容姿も、声も、この子は花丸だ。
発見した時は宙に浮いていた気もするし、体重が無かった気もするが、たまにはそう見えたり感じたりすることもあるだろう。何しろあの時は必死だったから。
と、鞠莉は本気で思っている。
「違うんです。この子は花丸ちゃんじゃない。
ー隣にいるんです…花丸ちゃんが…。
ーこの子に私たちの名前を教えてたみたいなんです。」
「WAO…。」
見たままを伝える梨子。
少女は怒られたと思っているのか
【ごめんなさい…】
うなだれてそのまま頭を下げる。
もちろんそれで梨子の気持ちが収まるわけでもなかった。
「どうして謝るの?謝るくらいだったら早く花丸ちゃんを返して。」
「梨子…。」
【……。】
梨子が詰め寄っても、少女はただうつむくだけで返事をしない。
「ねえ、なんとか言ってよ。そんな風に黙ってるだけじゃ、何も分からないじゃない!」
「ちょっと〜、梨子?」
【ぐす…うぅ…ヒック】
梨子が肩を掴んで大きく揺らすと、少女は泣き始めてしまった。
なおも追及しようとする梨子を鞠莉が止める。
「まあまあ!梨子!そんなに怖い顔してちゃ、話せるものも話せないわ。見たところまだ子供みたいだし。」
「え、…ああ、ごめんなさい。つい熱くなっちゃって…。」
【ぐすん。】
少女はまだ泣いている。梨子のことが相当怖かったらしい。
今度は鞠莉が前に出て、少女と話すことにした。
「はい、ハンカチ。怖かった?…そう。でも、もう大丈夫よ。{怖いお姉さんだけど、本当はとっても優しいお姉さんだから}」
「聞こえてるわよー。」
少女を抱きしめながら気を落ち着かせるように話しかける鞠莉。
少女の方は大分落ち着いてきた。
最後の方はかなり小声で話したつもりの鞠莉だったが…
「あ、あれ?聞こえてた?」
「当たり前でしょ!こんな静かなのに聞こえないわけないじゃない。」
【……】
少女は鞠莉の後ろに隠れ梨子の様子を伺っている。
それを見て鞠莉はニヤリと笑った。
「も〜!梨子がいじめるから〜。」
「んなっ…!?いじめてないでしょ!?ただ…ちょっと………ああもう!」
鞠莉に責められ、観念した梨子は少女の前に立つ。
(確かにさっきのは大人気なかったし…それに…)
なぜかは分からないが、この少女は悪いものではない。そう感じた。なのにそんな少女を責めて、怒りをぶつけて…
(これじゃあ、さっきまでと変わらない…。変わらなきゃ…ここから!)
梨子は少女の方を真っ直ぐに見る。
先程までとはうってかわって優しい口調で少女に語りかけた。
「ゴメンね、いきなり怒鳴ったりして。
ー私ね、桜内梨子って言うの。あなたは?」
優しく語りかけられ、少女は鞠莉の後ろからぴょこんと顔を出す。
しかし、首を傾げて唸っていた。
【な…まえ…?】
「そう、名前。花丸ちゃんなら知ってるかしら…。」
どうやら本人には自分の名前が分からないらしい。ずっと首を傾げている。
ならばと梨子は後ろにいる花丸に目を向ける。花丸も悩んでいるようだった。
2人(3人)がうんうん唸っていると、鞠莉が1つの提案をした。
「じゃあ…私達で名前、つけてあげようよ!」
「私達が?」
梨子だけでなく、少女も興味津々で鞠莉を見る。
鞠莉はそのまま続けた。
「うん!…そうだなあ…例えば…。ーーー…梨子はつむじ風で飛ばされたみたいだし、森の中を駆け巡る感じがまるで嵐のようだったから…ーハリケーンなんてどうかしら!」
「なんで英語なのよ。嵐だったら…そのまんま『ラン』ちゃんでいいんじゃない?」
梨子は鞠莉の意見を即却下し、代わりの案を出した。
すかさず、鞠莉が付け加える。
「え〜?じゃあ…花丸の姿をしてるから…『花の嵐』ハリケーンブロッサムなんてどうかしら〜!?」
「なるほど…じゃあ読み方的には『嵐花』…ランカちゃんの方がいいかしら。どう?」
部屋中を優雅に跳び回りながら名前の提案をする鞠莉。
それは無視して、鞠莉の意見を取り入れつつ、名前を完成させる梨子。
鞠莉はこれで満足したのか、息を切らせてサムズアップをしている。
当の本人はきょとんとした表情で鞠莉を見ていた。
「嵐花ちゃん!」
【?】
梨子が今つけたばかりの少女の名前を呼ぶ。
振り向いた少女に梨子は微笑みもう一度名前を呼んだ。
「嵐花ちゃん。」
【らん…か…?】
「そう。今からあなたの名前は嵐花ちゃん。よろしくね!」
名前を呼ばれた少女ーー嵐花は、笑顔で梨子に頷いた。
第11話『花の嵐』いかがでしたでしょうか。
うまく付けられたと思っていますが…。
鞠莉のおふざけにも梨子が上手く合わせられるようになりましたね。アニメのちかりこの関係のようです。
急に口調が変わるのもどうかと思いましたが、まあ大丈夫でしょう。
次回からまた大きく物語が動きます。新キャラ『嵐花』がどんな事件を巻き起こすのか…お楽しみに!