ハリケーンブロッサム   作:びしゃもん

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実はこの長編には裏のテーマがあるのですが、この話から分かる人は少ないかも…。
次の長編から本気出しますね。
というわけで第12話です。1クール終わっちゃいますね。
どうぞ!


あなたの名前は…?

ーーー花丸:?ーーー

 

あの時、地上に降りてからの一部始終を、花丸は嵐花の後ろで見ていた。

自分もその場にいるはずなのに、その光景はどこか映像じみていた。

普通の感覚ならそれはー寂しいーそう感じるはずだった。

しかしーー

 

「梨子ちゃんと鞠莉ちゃん、森の中をあんなに走って…楽しそう!」

「そう!この子は梨子ちゃん!おらのお友達なんだ!」

「それで、この子は鞠莉ちゃん!とっても面白い人なんだよ!」

 

梨子と鞠莉が自分をどれだけ心配しているかーー

そんなことはつゆ知らず、今の状況を楽しんでいた。

だがーー

 

「あれ?梨子ちゃんなんで怒ってるんだろう…。」

「大丈夫だよ。梨子ちゃん本当はすごく優しいずら。」

「そういえばまだ聞いてなかったなぁ。あなたのお名前は?」

「嵐花…いい名前だね!……名前…。」

 

ホテルでのやり取りを通して、少し違和感を感じた。

 

「あれ?名前…。

おら…名前…なんて言うんだっけ…?」

 

心に何か引っかかったような、少し気持ちの悪いこの感じ。

だけどーー

 

「まあ、いいか!」

 

そんなことは今はどうでもよかった。

今はこの楽しさに身を委ねていたいーー

 

「うん、そうだね!明日になったら、また遊ぼう?」

 

ーーー梨子・鞠莉・嵐花:大瀬崎:ホテルーーー

 

【う〜。遊びたい〜】

「今日はもうダメ。明日ね。」

「この子本当に幼いのね…。姿が花丸のまんまだからとってもキュートだわ〜♡」

 

3人は寝る準備を整えていた。

窓側が梨子、真ん中が嵐花、そして鞠莉の順番だ。

鞠莉がずっと嵐花を抱いている。今夜の抱き枕にする予定らしい。

 

「はいはい。あんまり強く抱いて潰さないようにしてね。一応体は…えーっと…。」

 

梨子は鞠莉を注意しようとしたが、一瞬言い淀む。

その変化を鞠莉は見逃さなかった。

 

「花丸。」

「そう。花丸ちゃんなんだから…。」

 

言った後で、梨子も自身の異変に気がついた。

 

「あ…あれ…?」

 

大切な仲間の名前が思い出せない。

梨子は起き上がり、鞠莉の方を見る。

震える声で鞠莉に話しかけた。

 

「ね…ねぇ鞠莉ちゃん…。」

「なぁに。」

「この子は…。」

「うん。」

「嵐花ちゃん…。」

 

寝ている嵐花を指差しながら梨子はそれの名前を呼ぶ。

しかし…。

 

「そう。だけど違う。」

「うん…。それは分かってる…。ーーーけど…。」

「うん。」

「この子は…。

 

……この子は…だれ…?

 

 

 

なにかが違う。この子は、本当はーー

だんだんと、梨子が顔面蒼白になっていく。

 

「あ…。あぁ……!」

「梨子、落ち着いて。」

「あぁあ…!」

 

鞠莉が声をかけるが、梨子はパニックに陥っていた。

 

(無理もない…か。私も同じ状況になったら…)

 

考えただけでゾッとする。自分の大切な人のこと、大切な人だと理解しておきながら名前すら思い出せない。

それは身を切ることよりも辛いことだと鞠莉は思った。

 

「どうして…!?どうして…。」

 

頭を抱えて絶句する梨子を強く抱きしめる鞠莉。

 

「梨子…!

大丈夫…大丈夫だから…。

私が、なんとかしてみせるから……!!」

 

鞠莉に抱きしめられながら、梨子は嗚咽を漏らす。

涙とともに記憶が抜け落ちてしまうのではないかと怖れても、止めることはできなかった。

 

「うぅ…あぁ…ーーごめんね…ごめんなさい…鞠“莉ぢゃん…わたし…助けるって…絶対にだずげるって誓ったのに…!

もう…なにも…なにも思い出せないの…!この子のこと…!名前も…想い出も…!

たくさん一緒に過ごしたはずなのに…なにもないの…!!!

ごめんなさい…私…結局最後までーー」

「そんなことない!!!」

 

鞠莉の胸の中で必死に謝る梨子。

ここまで梨子は十分頑張ってきた。花丸を助けるために普段は出さない声を張り上げて、鞠莉に喰らい付いてきた。

だからーー

 

「梨子が!梨子がいなかったら…花丸のことを諦めていたら、絶対に花丸は見つからなかった!あなたが諦めなかったから、花丸はここにいる!可能性は繋がっているんだよ…!

だから…だから…!

『役立たず』だなんて…言わないでよ…!!

 

鞠莉の目に涙が光る。

 

「ごめんなさい…。鞠莉ちゃん…。」

「なんで謝るのよ…。ダメ。もう謝るの禁止。」

「えぇ…じゃあどうすれば…。」

 

泣きながら怒る鞠莉に困惑しながら、梨子は鞠莉と再び向き合う。

散々泣いて取り乱したせいで幽霊みたいな見た目になっている梨子に、鞠莉は堂々と宣言した。

 

「万事、マリーにお任せしマース!でいいの。」

「えぇぇ…。」

 

正直なところ、涙で顔がグシャグシャなのでいまいち説得力がない。

鞠莉は更に苦言を呈す。

 

「そもそも、梨子はすぐ謝るのがいけないところだよ。私は別に謝ってほしくて怒ってるわけじゃないの。

…それにほら…私たち…

()()…でしょ?」

「……!!」

 

鞠莉に『友達』と言われ、梨子はハッとする。

自分が今まで鞠莉とどう接してきたのか、改めて考える。

 

「友達が友達を助けるのは当たり前のこと。梨子が花丸を助けたいと思うのと、私が梨子や花丸のために何かをするのは同じことなの。だから…謝らないで。私はただ…」

「…。」

 

梨子は鞠莉の言葉を噛み締めながら聴く。

ひとつひとつが心に染み入るような、そんな感じがした。

 

「…?」

 

先に続く言葉がないので鞠莉の方を見ると、鞠莉は笑顔で言った。

 

「…ううん。なんでもない。」

「あ、うん…。」

 

会話が途切れる。

これからどうしようかと梨子が考えていると、鞠莉が明るく提案する。

 

「あっ!そうだ!」

「?ーーーどうしたの?」

 

鞠莉がニヤニヤしている。

こういう時は大抵ーー

 

「次に梨子が謝ったら、罰ゲームなんてどう?」

(やっぱり…)

 

梨子は呆れて肩を落としながら、それでも一応内容は聞いておこうと鞠莉に質問してみる。

 

「あの…罰ゲームってなにをするの?」

「え?ブン殴る!」

「なっ…!?」

 

さっきとは全く違う意味で絶句する梨子。

言った当の本人は腕をブンブン振り回してもうすでに殴る気満々といった感じである。

 

「ちょ、ちょっと本気なの!?ブン殴るって…えぇ!?」

「もっちろん!マリーの本気は効くわよ〜?試してみる?」

「た・め・し・ま・せ・ん!ダメに決まってるでしょ!」

【??】

 

2人が騒いでいると、寝ていた嵐花が起きてしまった。

寝ぼけまなこで2人を見ている。

 

「あ!…ほら、鞠莉ちゃんが変なこと言うから!」

「違うよ!梨子がオーバーリアクションするからいけないんじゃない!ほら!謝って!」

「あ…そうかゴメ…って、そうやって罰ゲームするつもりでしょ!その手には引っかからないわよ〜!」

【???】

 

自分を置いてけぼりにして盛り上がる2人に困惑する嵐花。

そんな嵐花を見かねた梨子が声をかけるが…。

 

「ゴメンね、嵐花ちゃん。起こしちゃったね。」

「あ!今謝った!」

「今のは違うでしょ!?」

「さあ…用意はいいか!?歯を食いしばれぇぇ!!」

「待って!待ってってばーー

ゴフ!

 

突然始まった2人の決闘と衝撃の結末に呆然とする嵐花。

腹にパンチを食らった梨子がベッドの上で伸びている。

それを見つめていると、鞠莉が声をかけてきた。

 

「さてと…ーー嵐花!ちょっといい?」

【?】

 

ベッドから少し離れたところに鞠莉は嵐花を呼んだ。

 

(私は私のできることをやるだけ…)

 

一呼吸置いてから、嵐花に話しかける。

 

「嵐花、あなたは遊びたいのよね?」

【…?ーーーうん!】

「そう…。

じゃあ明日、お姉さんたちがたっくさん楽しい遊びを用意してあげる!楽しみにしててね!」

【ほんとう!?】

 

鞠莉は、Aqoursの活動に関しては家の力は使わないことを決めている。

しかし、今回は別だ。使えるものは何でも使う。仲間をーー友達を助けるためならば。

 

「もっちろん!オハラ家にできないことはアリマセーン!」

【やったー!】

 

両手を上げて喜ぶ嵐花。

そんな嵐花に、鞠莉は声のトーンを落として囁いた。

 

「それで、ひとつお願いがあるんだけど…。」

【?】

「明日一日遊んであげたら、お姉さんのお願い、ひとつだけ聞いてくれないかな?」

【??】

 

この瞬間が一番緊張する。

相手は子供だ。しかし、鞠莉にとっては何か得体の知れない怪物のようなモノだった。

今この瞬間も、豹変して梨子や鞠莉に襲いかかってくるかもしれない。

それが、怖かった。

 

【いいよー!】

 

ところが、そんな鞠莉の考えとは裏腹に、嵐花は屈託のない笑顔で返事をする。

 

(この笑顔ときたら…ーー花丸の満面の笑顔………。

だ…抱きしめたくなっちゃうわ…♡)

 

そんな危険な考えがよぎってしまうほど、嵐花の笑顔は完璧だった。

しかし…。

 

(でも…ダメ。

これ以上嵐花に触れたら私にも影響が出てくるかもしれない。

私が花丸を忘れてしまったら、もう誰も花丸を助けられなくなっちゃう…)

 

梨子の涙を無駄にはできない。

決意を新たにした鞠莉は、嵐花に声をかける。

 

「ありがとう!ーーじゃあ…今日はもう寝ましょう! good night!」

【はーい。】

 

嵐花はベッドの上で倒れて寝ている梨子の隣で寝息をたて始めた。

その様子を見てから、鞠莉はあるところに電話をかける。

 

「ええ…。ええ…。そう。頼むわ。」

 

電話を切ると、窓の外へ目を向けた。

 

「花丸…梨子…。

あなた達は必ず…

私が…!!」

 

風はパタリと止んでいた。




第12話『あなたの名前は…?』いかがでしたでしょうか。
友達の定義とは?
いつのまにか側にいて、それが苦痛じゃない存在がそうなのではと個人的には思います。
いるだけでお互いの助けになる。何かをして助けられたと感じても、相手は助けたなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
なぜならそれは当たり前の行いだからです。友達だから。
鞠莉は友達を助けられるのでしょうか?
孤独な戦いが始まります。
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