鞠莉は失う怖さを知っています。そしてそれを取り戻した時の喜びも。
そんな鞠莉の気持ちになって読むといいのかもしれません。第6話です。
ーー(これは…?)
こうべを垂れる人々。
その中に、小さな子供を連れた女の人がいた。
その女の人は、子供になにかを囁き、子供は強い意志のこもった目で前を見据える。
その視線の先にはーー
気がつくと、空の上を飛んでいた。
(あれ…?ここは…。)
眼下に見えるのは広大な海。
少し視線を上げれば、遠くの方に巨大な山が見える。
あれは…。
「富士山!?どうしてあんな所に…というかあれ!?マル、空を飛んでる!?」
花丸は自分の状況に気づいて思わず声を上げる。
「すごいずら〜!空を飛べるなんて!ーーー…あ!あそこは内浦かなぁ!?」
自由自在に空を飛べることが嬉しくて、現在自分がどのような状況にいるのか忘れてしまっている花丸であったが
【うふふ…うふふふふ…。】
嬉しそうな声を上げている存在がもう1人いることを知り、我に帰った。
(あれ…?さっきの…。)
それは、先ほど大瀬神社の境内で見つけた小さな子供。
「そこで何をしてるずら〜?」
声をかけたが、返事がない。
【遊ぼう…遊ぼう…。】
「あ!待って!」
そのまま地上へ降りようとする子供を追いかけて飛ぶ花丸。
そこで妙なものが浮いているのに気がついた。
(あれは…?)
「白い…箱?」
真っ白な四角い箱が3つ、沼津の空に浮かんでいた。
「…!…!」
「ん…んん…。」
誰かが呼んでいる。
「…こ!り…!」
「んん…?」
誰か…。
『梨子ちゃん!梨子ちゃん!!』
花丸が自分のことをーー
「花丸ちゃん!!」
「梨子!!」
梨子が跳び起きると、鞠莉がガバッと強く梨子を抱きしめた。
「あ…あれ…?鞠莉さん…?」
「梨子…良かった…!!」
よく見ると、ここは大瀬神社の境内ではないようだ。
それに、鞠莉がここにいる。
戻ってこられたのだと梨子は思った。ーー花丸を除いて。
「心配したのよ…!梨子…!!」
鞠莉の体が震えている。
その顔や服は所々汚れていた。
「ごめんなさい…。
…!ーーー鞠莉さん、今は何時ですか?」
窓を見ると、少しばかり橙に染まっているように見える。
3人で大瀬神社に着いたのは朝だ。それからあの事件があって、それなりの時間が経っているのかもしれない。
「あら…そういえば…。」
鞠莉が時計を確認する。
時計は18時頃を指していた。
「そんな…!急がないと…!」
鞠莉がそのことを伝えると、梨子は焦ったように身をよじり始める。
その行動を鞠莉は厳しい目で制した。
「ダメよ。梨子。」
「でもっ…!!」
鞠莉に睨まれ、思わず息を呑む梨子。
全身に痛みが走る。自分が風に吹き飛ばされたことを思い出す。
「でも…花丸ちゃんが…連れて行かれちゃったんです。早く助けないと…。」
「分かっているわ。今、ダイビングショップの人達や、神社の人達が探してくれてる。梨子は回復に専念して。」
鞠莉は簡単に今までの経緯を梨子に話した。
だが、梨子だけは知っている。
花丸が今、人とは別の次元にいることを。
「でもきっと…花丸ちゃんは他の人には見つけられない…。私と花丸ちゃんだけなんです。あの場所にいたのは。だから私が行かないと…。
ですからお願いします。私を花丸ちゃんの捜索に行かせて下さい。」
梨子は懇願した。
(花丸ちゃんを連れ戻せなかった私が…助けないと…!)
重い責任だけが、梨子を突き動かしている。
決意の目を、鞠莉に向けた。
しかし鞠莉は梨子が捜索に加わることを許さなかった。
「ダメよ。」
「どうして!?私なら大丈夫です!体だって…っつ!」
パンッ!
梨子が癒えていない体の痛みに顔をしかめた瞬間、鞠莉の平手が梨子の頰を叩く。
「いい加減にしなさい!!」
「…。」
梨子が、惚けた顔で叩かれた自分の頰を抑えた。
その頰に一筋の涙が伝う。
なぜ自分が叩かれたのか、梨子はまだよく分かっていない。
鞠莉はそんな梨子を見て、言葉を続ける。
「あなたが…!あなたがこれ以上無理をして、取り返しのつかないことになったらどうするの…?誰が喜ぶの…?花丸だって、そんなこと望んでいない。絶対よ。」
鞠莉の言葉を聞いたか聞かずか、梨子は呆然と話し始める。
「でも…。花丸ちゃんが連れて行かれた時、私の他に人はいなかった…。私だけだった…花丸ちゃんを助けられたのは。なのに…。
だから、私が助けないといけないんです。このままだと花丸ちゃんが遠くに行っちゃう…!だから…!」
最終的には駄々をこねる子供のように情けない声で話していた。
これは自分の我儘だと分かってはいるけれど、止められなかった。
鞠莉は再び手を上げる。
梨子は反射的に目を閉じ身構えた。
しかし、恐れていた衝撃は来ず、代わりに温かく包まれる感触があった。
「もう…どいつもこいつも…Aqoursのみんなってどうしてこんなに頑固なのかしら…。梨子…私ね、もうAqoursの誰も傷つけたくないの。Aqoursのみんなに、もう二度と傷ついて欲しくないって、そう思ってるのよ。もちろん、梨子と花丸にだって…。花丸のことが心配なのは分かるけど、もしも梨子に何かあったら、取り返しのつかないことになってしまったら…私…私…。」
鞠莉の言葉を聞いて梨子の肩から力が抜ける。
「ごめんなさい…。でも…。」
「ダーメ。今は休んで…お願い。」
「はい…。」
2人はずっと、寄り添うように座っていた。
9話を思い出すような第6話『私が…!!』いかがでしたでしょうか。
意識して書いたのでアレですが。
Aqoursの3年生はみんな結構似た者同士ですよね。そして鞠莉は果南が好きなので、自然と行動も果南に似てくるんです。
人との接し方を果南とダイヤに教わった。そういう話が二期の10話でもありましたね。観てない人は是非観てください。