ハリケーンブロッサム   作:びしゃもん

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第8話です。
私が一番好きな話です。早く読んでほしいのでこのままどうぞ!


バカ梨子!!!

ーーー鞠莉・梨子:大瀬崎ビーチーーー

 

「ありがとうございました!」

「Thank you! Chao〜!」

 

ダイビングショップの男性に別れを告げ、2人は再び歩き出す。

鞠莉は梨子に手を貸そうとしたが、梨子は断り、1人で歩いていた。

 

「ほら、梨子!」

「あ、もう大丈夫です!ほら!この通り…いてて…。」

「大丈夫じゃないじゃない!ほーら!遠慮せずに!」

「I’m perfect. System all green.でしたっけ?完璧じゃあないかもしれないけど、もう1人で歩けますよ!いつまでも鞠莉さんの手を借りているわけにはいかないから…!」

 

ーーーーーー

 

辺りはほんのり明るく、星の光が砂浜を照らしている。

その光景に見惚れる梨子だったが、どうしても考えてしまうのは花丸のことだった。

 

(どうしてあの時…)

(どうすればあの時…)

 

謎の声を含め、考えなければいけないことが山積みだった。

考え事をしながら歩いていたせいで、鞠莉とかなり距離が開いてしまう。

そんな梨子を、鞠莉は優しく微笑んで待つ。

そして近づいてきた梨子をーーデコピンで出迎えた。

 

「いっ!?いっっっっった〜〜〜〜い!?」

「あはははは!梨子の顔面白〜い♪」

「ちょ、何するんですか!」

 

抗議する梨子の額を指でグリグリする鞠莉。

もう片方の指も額に当て、眉間のシワを伸ばすように広げる。

最後に頬をポンと叩いた。

 

「スッキリした?今のは美顔マッサージ!あとで試してみてね♪」

「美顔…」

 

梨子は鞠莉に叩かれた頬を押さえる。

そして、海を見つめている鞠莉を見た。

 

(あ…また私…)

 

指を当てられた部分をなぞってみる。

 

(私、Aqoursに入って、自分の中の何かが変わったって、そう思ってた。でもそれは千歌ちゃんや曜ちゃん、Aqoursのみんながいたからできたことで…。みんながいないだけで、また、私…)

 

今だってそうだ。鞠莉がいたから、最悪の事態は免れている。鞠莉がいれば、この事件は解決できるかもしれない。

自分じゃなくて、鞠莉が花丸と一緒だったらーー

そんな思いが、つい口からこぼれてしまう。

 

「どうして、私はこんなに頼りないんだろう…。」

「急にどうしたの?梨子。」

 

その呟きを聞いた鞠莉が首をかしげる。

 

「いえ…なんでも…。」

 

鞠莉が向けてくる視線から逃げる梨子。

そんな梨子を見て鞠莉は言った。

 

「大丈夫よ。花丸は必ず戻ってくる。だから…焦っちゃダメ。」

「………ーーー…はい……。」

 

鞠莉が励ましても、梨子の顔は浮かないままだった。

 

ーーーーーー

 

星がきらめき、海が輝く海岸線。

砂浜の上で、梨子が口を開く。

 

「あの…。」

「?」

 

鞠莉は梨子の顔を見た。また難しい顔をしている。

 

「本当に、このやり方でいいんでしょうか…。」

「このやり方って…。花丸のこと?」

「はい…。」

 

梨子は鞠莉の顔を見ずに言う。

鞠莉は梨子との間に大きな溝があるのを感じた。

 

「残念だけど…これが今は最善よ。怪我をしている梨子に無理をさせるわけにはいかないし、花丸の居場所が全く分からない以上、私がヘタに動くことも得策じゃない。今の私たちにできることは、明日まで信じて待つことだけよ。」

「はい…。でも…。」

 

それでも梨子は諦めきれないようだった。

 

「でも…なに?」

 

鞠莉は優しく返す。

 

「なんだか…明日じゃもう遅い気がするんです…今日のうちに花丸ちゃんを見つけなきゃ、取り返しのつかないことになる…。

そしてそれは普通の人たちにはできない…絶対に花丸ちゃんは見つからない…。私だけなんです。花丸ちゃんを見つけられるのは…。」

「何を言っているの…?梨子?」

 

急に善子のようなことを言い出す梨子に戸惑う鞠莉。

構わず梨子は言葉を吐く。

 

「あの空間にいたのは私と花丸ちゃんだけ…でも花丸ちゃんだけ外へ連れていかれてしまった…ということはこの森の中をくまなく探せばそれの居場所も分かるかもしれない…今から探すとしてーー」

「梨子…?梨子!!?」

 

鞠莉はそんな梨子の肩を揺するが、一向に言葉は止まることがない。

それどころか、梨子は歩いていた方向を変え、森に戻ろうとしていた。

 

(一体どうしちゃったの…!?

…もう仕方がない!)

「ーー。」

「梨子っ!!!」

パァン!!

 

鞠莉が平手で思い切り梨子の頰を打つ。

 

「あ…あれ…?私…。」

「よかった…!梨子…!」

 

梨子の動きは止まり、呟きもなくなった。

呆けた顔で叩かれた位置を撫でる梨子。

鞠莉が慌てて弁明する。

 

「あ…ゴメンね!梨子。何かに取り憑かれているようだったからどうすればいいのか分からなくて…。」

「いえ…!いいんです、これくらい…。それよりも…。」

 

梨子は手を下ろし脱力する。

何かを叩きつけたい衝動に駆られても、出てくるのはため息だけだった。

 

「変わりたいな…。」

「どうしたの?急に。」

「いえっ…なんでも…。」

 

心の声が漏れていたことに気づき目を伏せる梨子。

 

「……『私も他の誰かのように』とか思ってる?」

 

こちらを見ずに鞠莉が言う。

なんとなく、嘘は通じないと梨子は思った。

 

「あ…はい…。」

「やっぱりね…。」

 

梨子の反応を見て、ひとつため息をつく鞠莉。

梨子は鞠莉の一言一句を聞き逃さないように集中している。

すると鞠莉は梨子の前に出てきて、急に顔を突き合わせた。

 

「うわぁ!」

 

ビックリして仰け反る梨子。

 

「それは間違いだよ。梨子。」

「………え?」

「梨子は他の誰にもなれない…いや、ならない方がいいの。…だって、梨子には梨子にしかない良いところがたくさんあるんだから、そんなことしたら勿体ないデース!」

 

梨子を諭す鞠莉。

面喰らってしまったが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

(でも…それでも…)

 

梨子は意を決して鞠莉に食い下がる。

 

「それでも…私は…変わりたいんです。強くなって…私に色んなものをくれたみんなに恩返しがしたい。

今はまだ、曲を作ることしかできない…。でもそれだけじゃイヤなんです!」

「どうして?」

「だって…!私がここにいられるのは、Aqoursでいられるのは…曲が作れるから…ピアノができるから…。それができなくなったら、私はここにいる意味が無くなっちゃう…!」

「そんなことないわ。だって私、梨子のこと大好きだもの!梨子は何があったって大切なAqoursの仲間よ。」

「それは『今』だから言えることです!!」

 

梨子の明らかな拒絶の言葉に、鞠莉は一瞬たじろぐ。

それほどまでに梨子が追い詰められていることを感じた。

 

「…今でも時々思うんです。もし私がピアノも、曲作りも何もできなくなったら、それでも私はAqoursでいられるのかって、みんなと…みんなとこうして、一緒にいられるのかって…。ーーー…そう思うと…すごく…怖いんです…!」

「ずっと一緒に決まってるじゃない…。もしも梨子が曲作りで悩んだり、迷ったりしたら私たちが助けるわ。

ほら!今回の花丸のことだって私たち2人で助け合えばーー」

「でも…!でもここに来てから私…何ひとつできてない!!ずっと鞠莉さんに頼りっきりで…!」

「それはーー。」

 

鞠莉は一瞬言い淀む。

 

「でも…梨子は花丸を助けようと頑張ってるじゃない。私はその手助けをしてるだけよ。『頼りっきり』なんてことは絶対にない!」

 

なんとか梨子の迷い、悩み、暗い気持ちを晴らそうとする鞠莉。

だが、梨子のことを想えば想うほど、その気持ちとは裏腹に言葉は強くなる。

 

「……。」

 

梨子が突然黙り込む。

鞠莉が怪訝な顔で梨子を見つめていると、予想外の言葉が返ってきた。

 

「鞠莉さん、前私たちに言いましたよね?

『努力は結果に比例しない』って。

私…花丸ちゃんを助けようと必死に頑張ってるつもりだった。

でも…それが結果に繋がらないなら意味が無いじゃないですか!!!」

 

鞠莉の中で何かが弾ける。

恥も、外聞も、遠慮も容赦もない。これが本当の梨子の気持ちーー。

だから、鞠莉も全てを捨てた。うわべの言葉では梨子の心を開くことはできない。

 

「この………バカ梨子っっっっっ!!!!!」

 

胸ぐらを掴み、砂浜に押し倒して絶叫する。

こうなったらもう梨子も意固地になっていた。

目をそらすことなく、キッと鞠莉を睨みつける。

 

「『意味がない』!?じゃあお前は何のためにこんなことしてるんだ!!

確かに私はそう言った!いくら努力をしても、最終的に自分の望む結果になるとは限らない!」

 

あらん限りの声を鞠莉は梨子に叩きつける。

 

「じゃあーー」

「でも!!それでもっ!!!

それに費やした時間は!!積み重ねてきた経験はっ!!!次の努力や結果に繋がっていく!!!!!」

「ーー!」

 

鞠莉の激情は梨子の反論を許さなかった。

完全に圧し負けた梨子は鞠莉を睨みつけることしかできない。

 

「だから…!だから…!!

『無駄な努力』なんてこの世にこれっぽっちも無いんだよ!!!!!」

 

鞠莉が頭を下げる。梨子の身体を何度も揺さぶる。

 

「梨子が…!

梨子が花丸を助けるって…!絶対に諦めないって…!自分を信じないでどうして花丸を助けられる…!?

自分を信じて行動しないやつを誰が信じられる!?」

 

なおも鞠莉は責め立てる。

できれば、こんな方法は絶対にとりたくなかった。

辛い、苦しい、もう泣きそうだ。

自分の一言一言が、逆に自分を突き刺す。

鞠莉の心の中は次第にグシャグシャになっていく。

 

ー本当はこんなこと、したくないのにー

 

梨子もようやく開けるようになった口を開く。

 

「う…うるさい!私だって…助けられるって信じたい!!でも実際はどうなの!!?こんなに大瀬崎のみんなが探してくれているのに一向に見つからないじゃない!!花丸ちゃんは私にとって大切な仲間なんだから!!鞠莉さんみたいにお気楽に構えられるわけないじゃない!!!!!」

「ーー!!!」

 

突き刺さった心のトゲが、鞠莉の心を貫く。

言ってしまってから、梨子は自分が言ったことの重大さに気がついた。なぜなら…

 

「…!」

 

鞠莉の目から大粒の涙が落ちてきていたから。

途端に梨子の表情が戸惑いに変わる。

それからポツリ、ポツリと鞠莉は話し始めた。

 

「そっか…そうだよね…。私…いっつも言葉が軽くて…。

『心配ないよ、大丈夫だよ』って…励ましてるつもりだったんだ…。

…ゴメンね…梨子…私、梨子のこと…何にも分かってなかった…。」

「そ…そんなこと…。」

 

ない。そう言いたかったが、鞠莉を傷つけてしまった梨子は何を言ったらいいのか分からない。

 

「それに…分かったようなこと説教垂れて…ハハ…何してんだろう…私…。」

 

鞠莉は立ち上がって今日の宿泊先へ歩き始めた。

 

「梨子、ゴメン。今はこんなことしてる場合じゃないよね。ケガもしてるのに…早くホテルに行って休もう?」

「は…はい…。」

 

梨子も立ち上がり鞠莉についていく。

何度も声をかけようと手を伸ばしかけるが、できなかった。

先程のように鞠莉がこちらを振り向くこともない。

梨子は大瀬崎の海を見た。

かつて答えをくれた沼津の海。

その海は、今は静かに佇んでいた。




第8話『バカ梨子!!!』いかがでしたでしょうか。
私がラブライブ!サンシャイン!!のアニメで一番好きな話が一期の8話『くやしくないの?』なのですが、それと同じ第8話です。
鞠莉の言葉、皆さんの心にも何かを残せていたらいいな。
キャラクターの言葉は、もちろん私が考えているのですが、その大部分は「私の中のキャラクター」の言葉でもあります。
ややこしいですが、この言葉は、私ではなくて、「私の頭の中の鞠莉」の言葉なんです。キャラクターが喋りたい言葉を喋らせています。
なので、書いていて泣きそうでした。私がラブライブ!サンシャイン!!からもらったものの全てが、ここに詰まっています。
次回もお楽しみに。
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