どれだけの距離を歩いたのだろうか。
脚にはじんわりとした熱を帯びていた。
だがここで歩みを止めるわけにはいかない、だって野宿とか嫌だし、虫とか、虫とか、虫とか、虫とか…
「ハァ、別に、虫とか、怖く、ねぇし、ハァ、虫とか、普通に、潰せるしッ!」
自分に謎の暗示じみた言い訳を吐きながら林道を歩く、普段から運動はしていたが不馴れな足場がどんどん俺の体力を奪っていく。
もう少しで夜になる、夜になれば移動が出来ない。
夕日が照らす今でさえ、辺りが見えづらくて仕方がない。
時折、土を突き出した木の根が脚を取り、躓かせる。
転げないように気を付けながら少し、また少しずつ前に進む。
「ハァ、ハァ、何か…もうここで死んだ方が、楽なのかも知れんね…」
遂に俺は、立ち止まってしまった、樹齢幾百年と見られる巨木に背を預け、ズルズルと木の根に座り込んでしまう。
こうなれば立ち上がる気力など微塵も湧かない。
このまま土に還ろうか…などと不埒な考えが脳裏に過る。
「疲れた、立ちたくない、歩きたくない、飯食いたい、寝たい、風呂入りたい、死にたい」
到底叶いそうもない夢物語を吐き出しながら、ガクリと項垂れた。
刹那、聞こえた、聞こえてしまった。
ーーーガルァァァァァァゥゥゥ!!!
「っ!!な、何だ!?」
さっきまで並べてた、ガキの駄々の様な夢物語。
それは自分で打ち破られた。
気付けば俺は立ち上がり、さっき聞こえた、この世の物とは思えない叫び、いや、雄叫びから出来る限り離れられるように、足場の不安定な道を全力で走り抜けていたのだから。
「ハアハアハアハア!!何なんだよ!今の!ハァ!!」
硬い木の枝や、鋭利な葉が俺の体を傷付ける。
だがそんなものは関係ない。
今は、兎に角あの咆哮の主から離れたかったからだ。
だが………
ーーザクッ!!
何か鋭利な物が、柔らかい物を抉る音が聞こえると
俺は、そのままドサリと地面に倒れ込んだ。
「ハァッ!?ハァッ!ハッ!アッ!ハァ、ハァ、うぐっ、うぅ…」
背中に鈍く、しかし確かに感じる痛みと暖かさ。
暖かさが脇腹、腹、そして地面を濡らす。
何とか動く左手を背中に回し、その濡れた手を見る、すると確かに紅く煌めくヌルヌルとした物が見えた。
「……な、何だよ、何だよコレ、、ぐふっ!」
どうやら、咆哮の主の仕業らしい、
咆哮の主は素早く俺の背後に回り、そしてその鋭利な何かで俺の背中を抉り取った。
その鋭利な何かは俺の内臓に達したらしい、俺の口から夥しい量の命の水が溢れだしていた。
(ああ、そうか、これが、死ぬってことか…)
俺の心境は何とも変な感じだった。
待ち望んだ死、やっと皆の所へ逝ける。
また家族で楽しく暮らすんだ。
そんな期待に満ちた心境を望んでいたのに、なんだこれは…
(………怖い……怖い!!)
死は、何よりも恐ろしい、その言葉の意味がやっと解った。
だがもう遅いのだろう…
何と言ったって鋭利な何かを持つ咆哮の主は俺の右脚を掴み、ゴリッ、グチャッと聞きたくもない雑音を響かせながら咀嚼している真っ最中なのだから。
もう下半身に感覚はない、意識も途絶えそうだ。
死にたくない…生きたい……こんな所で終わりたくない!!
そう想った、確かに強く想った。
すると途絶え掛けた意識がハッキリとした物に変わってきた。
右手は、動く。
左手は、動く。
左脚は、動く。
頭を何とかして持ち上げる、自らを嘱す主の方見る為に動いた。
そして俺は、見た、鋭利な何かを持つ咆哮の主を。
姿は、熊、熊みたいなやつだった、だが、でかい、異常にデカイ。
だが妙な高揚感と安心感が心体を満たす。
(今なら、何でも出来そうだ)
意を決して、俺は左脚で鋭利な何か持つ咆哮の主の頭部を蹴った。
ーーグシャッ!
嫌な音を響かせながら奴の頭部は消え失せた、そして巨体を揺らしながら奴は倒れるのを見ると、酷く痛む
体をゆっくりと起こした。
今、俺は確かな高揚感を感じていた。
まるで美麗で見るだけで満足するような女を犯す前の少年のような気分だった。
右脚を見る、治っている。
服はズタズタだが右脚は見る限りは無傷だ。
心身共に限界だったのが今は疲労感、痛み、ストレス、何もかもが無かった。
大きな妖怪の死体の傍らで、狂ったように笑う青年が一人いた。
そのすぐそばで、木の影に隠れそれを見る少女が一人……
はい、2話目終わりましたー、
ちょっと長くできました、前よりはw
ちなみに浅木の能力は
「全ての枷を外す程度の能力」です!
ではまた次回!