はい32話です。
今回も特に注意は……ないかな?
ではどうぞ!
ーー白玉楼、客間ーー
何とも形容し難い雰囲気の中、一人の青年と二人の少女が無言で睨み合っていた。
その内の一人、白玉楼専属庭師にして、剣術師範である魂魄 妖夢が主人に小さく耳打ちする。
「…幽々子さま、早急に始末するべきかと」
妖夢が提案する、その提案にも苦い顔一つせず、ジッと青年を見詰める少女。
やがて、痺れを切らしたのか、青年の前に座る少女が青年に向かって言葉を掛けた。
「…貴方が仕出かした事は、許される事ではありません」
桃色の髪色の、桜があしらわれた薄青の着物を着た少女、この白玉楼の主人である西行寺 幽々子である。
彼女は、黙る青年を捲し立てる様に言葉を紡いだ。
「いきなり門を破壊して、無断で侵入するばかりか…うちの可愛い妖夢の観楼剣を破壊するなんて…覚悟は出来てますよね?」
圧倒的威圧感を放ちながら、扇子で口許を隠しながら笑う。
だが、そんな彼女を見ても、青年は余裕を崩さずニコニコと微笑み続けていた。
「君の脅し文句は…まるで子供だ、程度が知れるね」
ハッキリと言い放つ、その言葉は、まるで静寂が支配する空間で讃美歌を聴く様に幽々子の耳へと吸い込まれた。
その言葉を聴いた幽々子は、頬をピクピクと動かして扇子を閉じる。
そして左手をゆっくりと、上に挙げた。
「…貴方は…自分が置かれた状況を理解してない…私がこの左手を振り下ろせば、貴方は一瞬で死ぬのよ?」
気付けば青年の周りに、無数の蝶が翔んでいた。
桜色の蝶は、まるで青年を嘲笑うかの様に、青年の背中や腕、肩に止まる。
その光景を見た幽々子は、優越感に浸ったのかニヤリと笑みを浮かべる。
心無しか、隣に居る妖夢も笑っている気がする。
「…私が?死ぬ?ハハハハ…アハハハハッアハハハハハハハハッ!」
いきなり狂った様に笑い始める青年。
その姿を見て、まるで狂人を見る様な目をする幽々子。
「な、何がおかしいのかしら?」
「ハハハハ……否、気分を害したのなら謝ろう、済まないね」
目尻に溜めた涙を指で拭い、青年は言葉を紡ぐ。
「私を殺すと、君はそう謂ったね?」
「……ええ」
「ソレが可笑しいのさ…私は君には殺せ無い、そう、例え君の能力が「死を操る程度の能力」だとしてもだ」
その言葉を聞いた瞬間、幽々子の表情は大きく歪む。
それもその筈、初対面である筈の青年が、彼女の名前はおろか、その能力を知っているからだ。
だが幽々子は直ぐに表情を戻す、キチンと考えれば、幽々子は有名な人物なのだ。
能力を知っていてもそれほど可笑しくはない。
「…随分物知りなのね?」
「…西行寺幽々子、能力は前述した通り、否、後一つ…「死に誘う程度の能力」だったね。
そちらのお嬢さんは魂魄妖夢だったかな、能力は「剣術を扱う程度の能力」、祖父は魂魄妖忌…既に他界、剣術を扱うとは謂ってもその力は未熟…剣が泣くよ?」
青年が口を開く度、幽々子の額に汗が滲む。
妖夢に至っては下を向いて泣いてしまっていた。
「西行寺幽々子、もう一度謂おう…君に私は殺せ無い」
幽々子は恐怖していた、相手は自分の事を知っている。
それに引き換え自分は相手の事を何一つ知らないからだ。
額に浮かんでいた汗は、何時しか背中にまで及んでいた。
「西行寺幽々子、君は今…恐怖して居るね?」
青年が無表情になる。
無表情のまま幽々子の眼を、ジッと見詰めていた。
幽々子の喉が、無意識に下る。
青年の、黄金色の双眼から眼が逸らせない。
「…大丈夫、私は君を傷付け無い」
青年の手が、幽々子の頬に触れようと延びる。
だが、その手を幽々子は扇子で叩き落とす。
「触らないで…ッ!」
幽々子が左手を振り下ろす。
すると青年の背後に、無数の蝶が襲い来る。
「遅い…」
ーーブンッ!ーー
青年が、目にも止まらぬ素早さで刀を振る。
斬り落とされた蝶々は無惨にも消え失せた。
「なッ…!?」
「私に、斬れない物など何も無いのでね…さて、本題に入らせて頂きたいのだが、良いかな?」
青年は刀を鞘へと納め、再び座布団に座る。
幽々子は額に浮かべる汗を更に増やし、着物の袖をキュッと掴んだ。
「君は…否、君達は「幻想郷崩壊異変」を引き起こした張本人だね?」
「…何の事かしら?」
「君達三人「西行寺幽々子」「比那名居天子」「東風谷早苗」は「幻想郷崩壊異変」を企てた三人…そう記憶しているが、飽くまでも白を切るつもりか?」
青年の言葉を聞き、妖夢は驚愕する。
そんな事実を知らなかったからだ。
今まで信頼していた幽々子が、今回の異変の首謀者の一人?
今すぐにでも、幽々子に掴み掛からんばかりの表情である。
「……幽々子…さま…?」
「…………」
「嘘、ですよね…?」
「…………」
未だに沈黙を続ける幽々子を見て、妖夢は確信する。
この男は、嘘を付いてはいない、と。
「お嬢さん、彼女にも訳が有って…」
「黙っててください!!ねぇ幽々子さま!?どいう事ですか!?」
「妖夢…」
幽々子は、涙を流しながら問い詰める妖夢を見て、ゆっくりと語り始めた。
「…今は言えないけど、何時か言うから…理由は言えない。だけど確かに…私達が犯人よ…」
「幽々子…さま……」
「成る程、理由は謂えない…まぁ理由はどうで有れ君が友人を殺した事には変わり無い」
「……まさか、幽々子さま…」
「ッ!!?」
「八雲紫を殺したのは…君だろう?」
「黙れッ!!」
ハァハァと息を切らせながら、青年を睨む幽々子。
青年はその顔を見て、体をブルリと震わせる。
「私は事実を謂っただけだ…それより…」
気付けば幽々子の首筋に、青年が持つ刀の切っ先が向けられていた。
幽々子は久方振りに感じる死の予感に、恐怖のあまり涙を浮かべる。
「貴様…ッ!」
主人の危機に、妖夢が飛び出す。
右手に白楼剣を持ち、青年に向かって斬り掛かる。
だが、その刃が青年に届く事は無い。
「遅い、弱い、何度も謂わせ無いで呉れ無いか?」
思い切り振り抜かれた白楼剣は、青年の人差し指と中指に由って止められていた。
「今直ぐ取って食おうと謂う訳じゃない…西行寺幽々子、君達の計画に加担させて呉れ無いか?」
予想外の言葉が発せられる。
幽々子は、青年を見上げてその真意を確かめる。
「…本気?」
「私は嘘も冗談も好まない、勿論本気さ」
青年が刀を下げる。
死の呪縛から解放された幽々子は、小さな傷が付いた首を触った。
「…良いわ…妖夢、剣をしまいなさい」
「…判りました…」
青年は再び微笑み、刀を納める。
そして座ると妖夢の方を向く。
「済まないが、酒を用意して貰えるかな?」
「………判りました」
悔しそうに唇を噛み締めながら、妖夢は客間を後にする。
それを見届けてから、幽々子が口を開く。
「貴方は、一体何者なの…?」
「私?私はーー」
「…っ、ちょ…!?」
青年が幽々子を抱き寄せる、いきなりの事態に幽々子の思考は停止した。
そんな幽々子の髪に顔を埋め、青年は小さく呟く。
「ーー今は亡き剣士さ」
はい32話でした。
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