東方四面楚歌   作:ソーヤー麺

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はい40話です。


『英語』
「日本語」

ではどうぞ!




40話 救出作戦 中編

 

 

 

 

ーー無縁塚、午後20時11分ーー

 

 

暗闇と静寂が支配する中、降り頻る雨にも気付かない二人の男を、人工の光源が照らしていた。

一人は鬼の様な形相でもう一人の男を睨み、睨まれている男は口端から垂れた血を舌で舐めとりながら、不敵な笑みを浮かべている。

 

やがて、痺れを切らした二人はゆっくりと、その距離を詰め始めた。

 

『………』

 

『………』 

 

互いの額と額がぶつかり合う距離、トレバーがグレンを見上げながら睨み、グレンはトレバーを見下ろしながら睨み付ける。

 

『…ブッ殺してやる…』

 

『…落ち着けよグレン君、顔が真っ赤じゃないか』

 

額を擦り付け合いながら、お互いに悪態を吐く。次の瞬間にはお互いの頬に、お互いの拳が突き刺さった。

あまりの出来事にヴィクトリアと椛が思わず、声を漏らす。 

 

『グッ…!』

 

『ガァ…』

 

「お兄ちゃん!?」

 

「グレンさん!」

 

『…大丈夫だ!ソコから動くんじゃ…ねぇぞ…ッ!』

 

大きく仰け反りながらも、再び拳を相手に叩き付ける両者。

脇腹を殴られたグレンは身体を弓形に反らし、顔面を殴られたトレバーは頭部を激しく揺らす。

殆ど互角と言っても良い二人の力がぶつかり合う瞬間だった。

 

『クソがァァ!!』

 

『チッ!離せッ!』

 

グレンのテイクダウンタックルが、トレバーの腹部を捉える。

グレンはトレバーの右足に左腕を絡め、ダウンを奪って寝技に持ち込もうとするが…

 

『離せって…言ってんだろうがッ!』

 

『グハッ!』

 

グレンの後頭部に肘を垂直に降り下ろすトレバー。強烈なエルボーはグレンのタックルを振り解くのに充分な威力を発揮した。

一瞬動きの止まったグレンの鳩尾に、トレバーの膝蹴りが何度も何度も突き刺さる。

 

『オラッ!そんなモンか!?グレン君よォ!!』

 

『テメェ…!』

 

トレバーが6度目の膝蹴りを繰り出そうとした瞬間、グレンはトレバーの膝裏に腕を絡めると、そのままトレバーを力任せに持ち上げ、背中から地面に叩き付けた。

 

『ッ!?ゲホッ!ゲホッ!』

 

『寝てんじゃねぇぞクソヤロウ!』

 

グレンはマウントポジション、所謂馬乗り状態へと持ち込むと、トレバーの顔面に両の拳を何度も降り下ろす。

鈍い打撃音と共に顔面を赤く染めて行くトレバー。

グレンは一切の手加減無しにトレバーの顔面を殴り続ける。

 

『寝んなっつってんだろうがッ!』

 

『イ……テェんだよ…ッ!』

 

『おぇ…ッ!?』

 

一瞬の隙を突き、トレバーはグレンの喉仏を殴り付ける。

不穏な音と共に喉を押さえ、グレンの体勢が大きく崩れた。

トレバーがグレンの腰と肩に手を回し、そのまま体勢を逆転する。すると今度はトレバーが馬乗りになった。

 

『さっきまでの威勢はどうした!?なぁグレン君よォ!!』

 

トレバーの拳が否応なしに襲い掛かる。グレンは喉の痛みと殴られた顔面の痛みを必死に抑え、反撃の時を待つ。

 

『…気安く…俺の…名を…呼ぶんじゃねェ!!』

 

グレンはトレバーの両肩を掌で押し、パンチが止んだ瞬間を見計らってトレバーの右腕を掴んだ。

そしてそのまま左肩から首に掛けて右脚を回すと、トレバーの腕を引っ張りながら自分の右脚に左脚を乗せ、ギリギリと締め上げる。そう、三角締めだ。

 

『なっ!?…グ…グゥ…ァ…』

 

『今更ギブしても知らねぇぞ!そのままイっちまえ!』

 

三角締めはガッチリと極ってしまうと、脱け出す事が困難な技である。

そんな技を、凄まじい怪力の持ち主であるグレンが仕掛けているとなると、脱け出す事は殆ど不可能であろう。

 

『仕留めたつもりか…ッ?』

 

だが相手はトレバー、普通の相手ではない。

トレバーはグレンの腕を掴み返すと、上半身をフルに使い、ゆっくりとグレンの身体を持ち上げ始める。

 

『チッ!死ね死ね死んじまえェ!!』

 

『オラァ!!』

 

『ア……ガァ…ッ』

 

更に首を極めるグレンを、自身の肩よりも高く持ち上げたトレバーは勢い良く後頭部から地面に叩き付けた。強烈なパワーボムである。

ゴスッと響く鈍音と共に、雨が溜まる地面に鮮血が広がって行く。

グレンは全身の筋肉を弛緩させ、意識を朦朧とさせながらも何とか身体を起こそうと試みる。

トレバーは切れた瞼から流れる血を指で拭いながら、グレンを嘲笑し、言い放つ。

 

『…そろそろおしまいにしようぜ、グレン君』

 

『…テメェ…だけは…ッ、殺してやる…』

 

『ハッ、そんなボロボロの体で俺に勝てると思ってんのか?思い上がってんじゃねーよボケが』

 

『…テメェみてぇに弱い雑魚には…こんくらいのハンデが丁度良いんだよ…』

 

『…言ってろ』

 

グレンの雑魚発言に表情を曇らせたトレバーは、脚に装着されたレッグホルスターに刺さる、一本のナイフへと手を伸ばす。

刃渡り20㎝以上の使い込まれたサバイバルナイフの刀身は、辺りを照らすライトを反射して不気味な輝きを放っていた。

 

『…殺ってやるぜ、グレン君』

 

トレバーはナイフを逆手に持ち、未だに起き上がれないでいるグレンへと近付く。

 

『お兄ちゃん!…お前!お兄ちゃんから離れろ!』

 

ヴィクトリアが、周囲に倒れる妖怪の死体から銃を奪うと、銃口をトレバーに向ける。

 

『ヴィナ!よせ!!』

 

『へぇ…良い根性してるな、お嬢ちゃん…ならお前から殺ってやろうか?』

 

「ヴィクトリアさん!駄目です!」

 

『う…うわあああ!!』

 

『お嬢ちゃん!撃て!撃ってみろ!』

 

ヴィクトリアが椛とグレンの制止を無視して、引き金を引こうとしたその頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー無縁塚から1.2㎞地点、20時29分ーー

 

 

ヴィクトリアが銃を持ち、トレバーに向けながら叫ぶ様を、セラスはスコープ越しに見ていた。

グレンから頼まれた「本当にピンチな時以外は、発砲するな」と言う命令を、忠実に守っているのだ。

何故そんな命令を下したか?理由は簡単である。

1つは、相手にセラスの居場所を出来る限り悟られない為。

もう1つは、セラスの能力「弾道を操る程度の能力」、通称‘魔弾'を使用すれば多大な疲労がセラスに襲い掛かるからだ。

 

『……これは、流石に…』

 

引き金に当てられたセラスの指に、少しずつ力が籠る。

 

『ヤバイ…わよね~…?』

 

肺に溜まった息を吐き出し、今度は肺一杯に空気を溜め込むと、セラスは息を止める。

銃口は完璧に、1㎞以上離れたトレバーの頭部を捉え、後は引き金を引き絞るだけであった。

 

『やっと見付けました…』

 

『っ!?』

 

セラスの身体が強張る。直ぐ隣から突然聴こえた少女の物と思われる声は、明らかに自分に向けて投げ掛けられた物だからだ。

セラスはスコープから目を離し、ゆっくりと隣に視線を向ける。其処に居たのは、薄緑の長髪に蛙と蛇の姿を模した髪飾りを付けた巫女の様な姿の少女だった。

 

『…キミは、誰?』

 

『貴女には…関係ありませんよ。だから…邪魔をしないでください』

 

巫女の様な少女、もとい東風谷早苗が、セラスに向けて弾幕を放つ。

セラスは反応せず、と言うよりも反応出来ず、弾幕を被弾してしまう。

 

『う…そ…』

 

『ご機嫌よう、二度と会わない様に願います』

 

肩から血を流しながら、木から落ちるセラスが最後に見たのは、ニコリと笑いながら上品な物腰で自分を見送る少女の姿だった。

 

(ごめんね…グレンくん……)

 

草葉が敷き詰められた地面に背中から落下したセラスは、そのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー無縁塚、20時31分ーー

 

 

『ヴィナ!よせ!!』

 

「ヴィクトリアさん!駄目です!」

 

『うわあああ!!』

 

『お嬢ちゃん!撃て!撃ってみろ!』

 

ヴィクトリアが引き金を強く絞ろうとした、その瞬間。

 

「…トレバー君、時間だ」

 

一人の青年が、ヴィクトリアの背後に立っていた。

ヴィクトリアが振り返ろうとした瞬間、青年は素早く動く。

 

「おやおや、君には過ぎた玩具だ、お嬢さん」

 

『っ、か、返せっ!』 

 

「お嬢さん、少しの間だけ眠れ」

 

青年がライフルを掴み、そのままヴィクトリアの腕から奪い取る。

奪われたライフルを奪い返そうと手を伸ばしたヴィクトリアの後頭部に、青年が軽く手刀を落とすと、ヴィクトリアはそのまま気を失ってしまった。

 

「良くも…ヴィクトリアさんをッ!」

 

死体のナイフを奪った椛が、青年に向かって飛びかかる。

青年は飛びかかる椛を見て小さな笑みを溢した。

 

「…君は白狼天狗か?だが私の相手では無いな…」

 

「っ!!」

 

椛の目の前に、青年が掌を突き出す。

そしてそのまま椛の顔面に掌打を喰らわせた。

 

「かは…ッ…」

 

椛は2、3メートル吹き飛んで、そのまま動かなくなってしまった。

 

『テメェ!ヴィナと椛に何しやがった!!?』

 

「済ま無い、英語は苦手でね」

 

「テメェ!俺の妹とペットに何しやがったって聞いてんだ!!」

 

「嗚呼、殺しては無い。安心したまえ」

 

少しも余裕を崩さず喋り続ける青年を睨み付けるグレン。

二人を交互に見ていたトレバーはヤレヤレと言った表情で口を開いた。

 

「剣士さん、トドメ刺すから少しだけ待ってくれ」

 

「嗚呼、判った」

 

「あんがと、さて…」

 

未だに身体の自由が利かないグレン、どうやら先程のパワーボムで頚椎を損傷してしまっているらしい。

そんなグレンの心臓が在ろう場所に、ナイフの切っ先を向けるトレバー。

 

『…怖いか?グレン君』

 

『……ぜってぇ…殺してやる…クソッタレがッ!!』

 

『クソッタレか…良いか?俺の名はなァ……トレバーってんだよ!』

 

グレンの胸に、ナイフが突き立てられる。

刃は的確にグレンの心臓を貫き、ゆっくりとその動きを止め始めた。

ズルリと引き抜かれた刃、その穴からは紅い鮮血がどんどん溢れ、黒いコートを染めていく。

グレンは自身が、身体の底から冷たくなって行くのを感じる。

 

『ぐふ…ッ…ゲホッ…』

 

口からはどす黒い粘血が溢れ、呼吸気管を塞ぐ。

少しずつ訪れる死の恐怖が、確かにグレンを蝕んでいる。

だがグレンが心中に抱く感情は、死の恐怖ではない。

ただ、ただひたすら…単純な怒り。

 

(チクショウ…この体が…1分、いや10秒でも動けば…コイツらを殺して…やる……の…に……)

 

『ハハ、コイツは…恐ろしいツラして死にやがったな…』  

 

動きを止めたグレンの目は、トレバーをただ睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

           






はい、取り敢えず40話でした!


感想、批判、アドバイス、誤字脱字指摘
お待ちしております!

ではまた、次回!
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