東方四面楚歌   作:ソーヤー麺

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45話 竜胆の花

 

暗闇に支配された森を這いずり回った挙げ句、大木に寄り添い力尽きた浅木を見付けたセラス。

彼女は浅木を安全な場所へと運ぼうとするが、それは叶わず、彼女も浅木と同じように力尽きてしまいそうになっていた。

 

「いたた……道理で…力が出ないハズねぇ…~」

 

彼女の軍服には血が滲んでいた、それは誰かの返り血でも浅木を持ち上げようとした時に付着した物でも無い。

紛れもなく、セラス本人の血液だった。

恐らく、先程の落下時に彼女の腹部に突き刺さった木切れが原因であろうソレは、誰が見ても重傷と一目で解る程の物だった。

 

彼女は自分の腹部に突き刺さったソレを引き抜こうかと考える。だがそんな事をしては余計に傷口を広げ、夥しい量の血液が自らの身体から失われると覚った。

だが、そんな考えも最早無用。彼女の身体からは既に意識を失わせるのに充分な量の血液が失われていたからだ。

 

だからなのか、彼女は再び浅木を抱え上げようとした瞬間、浅木に覆い被さる様な体勢で再び気絶してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー午前3時、白玉楼ー

 

皆が寝静まる時間、一人の青年は何かの準備をしていた。

愛用の銃器、バレットM82を検分するトレバー。

バレットの予備マガジンに12.7x99mmNATO弾を装填し、マガジンをバッグへと詰め込むと、彼はバレットのバイポッドを折り畳んでから10数キロの重さのソレを背負う。

 

そして予備のマガジンや小型の銃器が数丁詰まったバッグも同じ様に背負うと、足音を立てない様にトレバーは自室の襖を開き、静かに自室を出た。

 

「…トレバー……?」

 

不意な呼び掛けに、トレバーの心臓が激しく動悸付く。

だがその声の正体が無名剣士の物では無いと結論付けたトレバーは、声の主の方へとゆっくり振り返った。

 

「…静葉か…どうした?寝付きが悪いのか?」

 

夜ヶ谷静葉。一見すると14.5歳の病弱そうな少女にしか見えない、人畜無害と言う言葉を人間の姿にした様な人物だ。

そんな静葉が寝惚け眼を人差し指で擦りながら、よたよたと覚束無い足取りで近付いてくるのを、トレバーはただ見ていた。

 

「んん…僕は…お花摘み……かな…トレバーは…?寝ないの……かな…?」

 

ボーッとした表情の静葉は、トレバーの問い掛けに小さな声で答える。

どうやら静葉は、眠気との格闘に夢中で気付いていないらしい。

目の前に立つトレバーの格好、その装備に。

 

「……そうか、俺ももう少ししたら寝るから…お前は便所行って先寝とけ」

 

トレバーの手が、静葉の頭を優しく撫でる。

優しげな表情と手の温もりが、更に静葉を眠気へと誘った。

 

「んっ……うん…おやすみなさい、トレバー…」

 

踵を返し、再びよたよたと歩き始める静葉。

そんな静葉を暫く見守ってから、トレバーは再び屋敷の廊下を歩み始めた。

 

「早苗……絶対助けてやるからな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同時刻、紅魔館内のヴワル図書館ー

 

「……パラレルワールド、ねぇ…」

 

碧生の口から飛び出した、とても信じられない様な言葉。

パラレルワールドが存在し、自分はそこから来た人間だと言うのだ。

 

「まぁ…ぶっちゃけあり得るっちゃあり得るんだよねぇ…」

 

アベルはテーブルに置かれた、湯気が消えた紅茶を啜る。

既に冷たくなっていたが、その美味しさにアベルは若干の驚きを見せながら読書を続けた。

 

「魔法……ねぇ……」

 

アベルの読む本、それはパチュリーの所有する魔導書だ。

何故彼が魔導書を読んでいるのか?答えは簡単である。

元の世界に戻る為の方法を探しているのだ。

 

「ちんぷんかんぷんだぜぇ……ハァ、能力が使えればなぁ…」

 

アベルの苦労は暫く続くようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーその頃、妖怪の山ー

 

比較的拓けた暗い山の中、木々や落葉で作られた焚き火の前に、カールは居た。

焚き火の周りには、木を串の様にあつらえた物に肉が刺さった物が列べられており、周囲には肉の焼ける油と獣臭、白煙がが漂っている。

 

頃合いに焼けた串肉を、無造作に掴み、口へと運ぶカール。

串を持っていない方の手、右手には大型のリボルバーがしっかりと握り締められていた。

 

口に放り込んだ獣臭い、硬い肉を咀嚼しながら、カールは辺りに睨みを利かす。

何時なんどきどの様な獣、妖怪に襲われるかも分からないこんな状況であろうと、彼はしっかりと食事を摂り、身体を休めようとしていたのだ。

 

「…チッ…不味ィな…」

 

大きな肉を飲み込み、一言呟く。

カールの傍らには皮を剥がれ、血を抜かれた猪の屍が放置されている。

 

「鹿にすりゃ良かったか…」

 

文句を垂れながらも、焼けた肉を次々に口へと運ぶ。

やがて焚き火の周りに列べられた肉が全て無くなると、カールは焚き火の火が潰えない様に枝を足してから、木に寄り添い、周囲を警戒する。

 

左手にはナイフ、右手にはリボルバー。

何時、どんな妖獣が接近したとしても、今の彼の命を奪う事は出来ないであろう。

 

そう、妖獣では。

 

 

 

「アンタ…美味そうだな……」

 

 

 

ゾクリ、カールの背筋を冷たい物が走る。

それは悪寒、恐怖、カールが久しく感じていなかった物だ。

カールはゆっくりと顔を上げ、自身が背を預けている木を見上げる。

 

「…よぉ人間、アンタ美味そうだな?」

 

その声の主、獅童梨怨はカールを見下ろし、愉しそうに笑っていた。

 

「チッ……ツイてねぇ…ッ!」

 

一際大きな銃声が、妖怪の山に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー午前3時15分、白玉楼ー

 

剣士さんが素振りを始める15分前、つまりアイツが起きてくる10分前に、俺は白玉楼を出ることに成功した。

俺の目的はただ1つ、東風谷早苗を助け出す事。

その為なら…剣士さんが何と言おうとあの悪魔ヤロウの所に突っ込んで行ってやる。

 

「……何だコレ」

 

そんな事を考えながら門を抜けると、階段脇に置かれた大きな箱が目についた。

白い、発泡スチロールで出来た大きな箱。

それは小さな子供が入りそうな程大きく、それでいてまるで錆びた様に赤く薄汚れていた。

 

「……まさか………オイ……嘘だろ…」

 

最悪な考えが脳裏を過る。

なぁ、頼むよカミサマ…違うよな?違うって言ってくれよ……なぁ……

 

「ふざけんなよチクショウ…ッ!」

 

トレバーは錆びの様に見える赤い汚れが、血液による汚れだと理解した。

そして箱に貼り付けられた紙に書かれた文字。その意味にも気付いてしまった。

 

『親愛なるトレバーへ、最愛の贈り物を。俺は悲しんでいる貴方を愛している。

グレン・ブレスウェートより愛を込めて』

 

英文で書かれたメッセージ。

トレバーの両手が自然に箱へと伸び、そしてゆっくりと箱が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………がッ………!ア……ァ……ッ!!!!アアアアアアアアアア!!!クソガァアアアアアアアアアア!!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

箱の中には、両手両足を切断され、両目をくり貫かれ、点滴と延命装置により生かされたままの早苗が居た。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!コロスッ!殺してやるぞクソ悪魔ァアアアアアアアアアア!!!」

 

早苗の胸元には、竜胆の花が一輪だけ飾られていた。

 





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