これからは更新スピードを上げる努力をさせていただきます、本当に申し訳ございませんでした。
改めまして46話です、どうぞ!
握り締めた拳からは紅い血が滴り、暗く濁った眼には固い意思を覗かせる様な光が宿る。
鈍く輝く殺気を宿した瞳に映るのは互いを知り合う、剣士の姿だ。
「退け」
拳に血を滲ませた男が告げる。
「戻れ」
何時に無く真摯な表情の剣士が告げる。
だが目の前の大男は眉一つ動かさず、更に剣士に言った。
「退かないなら殺す」
脅しでは無い、本物の殺気。
何時の間にか男の手には大きなナイフが握られており、握られたナイフに自身の血が伝い、地面に紅い染みを作らせていた。
「殺れる物なら殺って魅せて呉れ」
剣士から発せられる殺気は男の物と比べても凄まじい物があった。
比べ物にならないくらいの、混じり気の無い、純粋な殺気。
「……アンタって奴は…」
男の表情が苦虫を噛み潰した様な物へと変わる。
「本当に………」
夜の庭、相対する二人の男。
一人はその手にナイフを握り締めた大男。
もう一人は丸腰の優男。
そして今、ナイフをゆっくりと振り上げた男がーー
「恐ろしい野郎だな…ッ!!」
ーー丸腰の優男に飛び掛かった。
「君は…血の気が多過ぎるのか欠点だ」
~妖怪の山~
森に鳴り響いた一際大きな銃声、その後に響いたのは人間の物とも獣の物とも思える、強大な咆哮だった。
「ウガアアアアアアアア!!」
「ッ!ウルセェ奴だ…とんでもねぇ痛がりヤロウだぜ」
カールの放った弾丸は獅童の二の腕に着弾。避けようとした獅童だったが間に合わず二の腕の殆どを吹き飛ばされてしまっていた。
獅童の左腕は皮一枚で繋がっている状態であり、使い物には到底ならないであろう。
(何だ、ちょっとばっかしヤるもんだと思ったが…こんなモンか)
カールはリボルバーのハンマーを自ら起こし、狙いを定める。
「もう一発喰らっとけやァ!」
カールはシリンダーに残り一発となった弾丸を、動けずにいた獅童の頭部目掛けて発砲する。
大きな銃声、マズルフラッシュと共に吐き出された弾丸は獅童の頭部へと直線に飛来するが……
「……遅い」
「な…ッ…ぐハァ!?」
弾丸は獅童の頭部を砕く事無く、獅童の背後に立つ木に大きな穴を空けただけだった。
目の前、とは言いつつ10メートルは離れていたはずのカールと獅童。そんなカールは獅童の拳により宙を舞っていた。
(な、何てヤロウだ……見えなかった!ヤロウが近付いてくるのもヤロウのパンチも全く見えなかった!!この俺が!?)
「しかし、残念極まりないな」
獅童が呟いた一言に、腹部に受けた打撃の痛みを堪えながら立ち上がるカールは眉をひそめる。
そんなカールの姿を嘲笑いながら獅童は続けた。
「…銃ってのはとんでもない速さの飛び道具だってきいてたんだがな。思ってたより大したことないみたいだから、よ?」
獅童の挑発的な笑み。
その笑みにカールの表情にも笑みが浮かんだ。
「その言葉……忘れんじゃねぇぞ…?」
余裕を見せる事により、相手にも警戒心を持たせる。
それがカールの作戦だった。だがカールの内心は穏やかでは無い。
(弾が…無い…)
そう弾丸が無いのだ。一発も。
弾丸の無くなった銃器はただの鈍器へと成り下がる。カールの持つ大きなリボルバーもまたただの鈍器へと成り下がっていた。
(幸い奴はまだ
(チクショウ!あと少し、あと一時間もすりゃ陽が昇る!陽が昇れば能力を使ってこんな奴…)
カールの能力。それは「影を操る程度の能力」。
彼は自由自在に影を操り、形を変え、従える事の出来る能力を持っている。
だがそれは彼の周りに影があって初めて使える能力。現在の様に僅かな月明かりの中、周りに高い木々が無い拓けた場所での戦いでは、彼の能力を思うように使うことが出来ない。
従ってカールは未だ全力を出せずにいた。
(……嫌な汗が気持ちワリィ…)
「死ぬ覚悟は出来たか?」
獅童の声にカールの意識は覚醒する。
考えていても仕方がない。夜明けを待てないカールは一か八かやるしか無かった。
「ああ………出来たぜ…」
「…ならさっさと死ね。俺は腹が減った」
「これからは腹も減らなくなるぜ……お前が死ぬんだからなァ!」
獅童が動くよりも速くカールは動く。左手には使い慣れたサバイバルナイフを握り、右手に握り締めたリボルバーの銃口はしっかりと獅童を捉えていた。
(コイツを向けるのは一種の牽制!狙いは……)
銃口に対して少しの警戒を向け、身体の重心を後方へと掛ける獅童。
獅童へと接近するカールは銃口を獅童の頭部から外さず左手のナイフを背後に隠す。そして間合いに入ると勢い良く引き金を引いた。
引き金を引いた音が獅童の耳を刺激し、獅童は思わず身を捩る。それがカールの狙う隙だった。
(コレだ…ッ!)
「ッ!!」
空気を切り裂く音と共に避けた方向から飛び込んできたのはカールのナイフだ。
一寸の狂いも無く、獅童の首筋を捉えたカールのナイフが獅童に襲い掛かる。
「……甘い!」
だがカールのナイフは獅童に届かない。
カールの左腕を、獅童は掴んで止めたのだ。だがカールの表情は変わらない。何故ならこれもまたカールの狙う隙の一つに過ぎないからだ。
「甘いのは……テメェだッ!!」
何かが砕けた様な、鈍い音が辺りに響く。
音の原因はカールの持つリボルバーの銃底が獅童の鼻柱を砕いた事により生じたのだ。
大きく仰け反った獅童の鼻から夥しい量の血が溢れ出し、カールに返り血を付着させる程の流血になっていた。
「ブッ!?…グァ!!」
そんな大きな隙をカールが見逃す筈も無く、カールは右手のリボルバーは中空に投げると、左手のナイフを素早く右手に持ち変え、獅童の首を狙う。
「喰らえやァァァァ!!!」
カールの渾身の突き。
そんなナイフの切っ先が獅童の首へと…
「ぐ…ッハァ……!」
届かなかった。
「…人間の癖に…中々やるモンだな」
カールの放った渾身の突きは、突きに合わせて放たれた獅童の拳により簡単に返されてしまった。
獅童の強烈なパンチを顔面に受けたカールは再び宙を舞う事となった。
「まぁ、所詮は虫けらだがな」
カールの額に青筋が走る。
だがカールは立ち上がる事すら出来ない程のダメージを受けていた。
そんなカールを見下し、獅童は足を持ち上げる。
獅童が足を振り下ろせばカールの頭は砕け、その命を奪い去るだろう。
「辞世の句はあるか?」
カールの鋭い視線が獅童の眼を抉るように見据える。
カールの意気を感じたのだろう、獅童は何も言わずにカールの頭目掛けて足を振り下した。
(クソッ………ホントに…ツイてねぇ……)
ねぇ、ボクも混ぜてよ
「お前は…ッ!?」
バチンッ、まるで何かを強く弾いた様な轟音が鳴り響き、それと同時に獅童の身体は吹き飛ばされる。
カールは雷撃を放った本人を見る。すると其処にはゴシック調の衣服を纏った美少女らしき人物がいた。
「ふぅ、間一髪立ったねぇ…」
その人物がカールに近付く。
カールに目線を合わせる為に屈んだ人物が、自らの名をカールへ述べた。
「カールさんだね?アベルさんから話は聞いてるよ。ボクは姫神碧生、カールさん。貴方に力を貸してほしい」
碧生の手がカールの胸に触れる。すると小さな火花が散り、カールの身体に異変が起きた。
「……餓鬼、これがお前の能力か」
カールの傷が塞がり、止まり掛けていた心臓の鼓動が再び規則的な物へと変わったのだ。
立ち上がれるまでに回復したカールが立ち上がると、碧生を見下ろし、呟く。
「アベル…アノヤロウ、まだ生きてやがんのか」
その言葉に碧生がクスリと笑う。
「うん、ピンピンしてるよ」
カールはハッと笑い捨てると獅童の方へと目を遣る、獅童は既にカールと碧生の二人を睨み付けていた。
「お前は…この前の」
獅童が気付き、碧生に告げる。
二人のやり取りをカールは黙って聞いていた。
「そうだよ、前は逃げられちゃったけど…今回は逃がさない」
碧生の広角が上がるのを獅童は見逃さなかった。
「…笑わせるぜ。ああ、そう言えばアイツは元気か?」
「アイツ…?誰の事かな……」
獅童の広角がつり上がり、碧生は表情に嫌悪感を表す。
それでも尚、カールは黙っていた。
「……騒霊の餓鬼、あの三姉妹は元気か?」
「………………」
「黙りか、まぁ良い、お前達纏めて喰らってやるよ」
碧生の瞳が蒼く、鈍く輝く。
その圧倒的迫力に獅童は思わず生唾を飲み込んだ。
「やはり君は…ボク、いや僕が殺さなければならないらしい…」
「…ほざけ」
強がる獅童。碧生は警戒を向けたまま、カールへと耳打ちする。
「カールさん、手を貸してくれるかな?」
カールは考えるよりも早く答えた。
「仕方ねぇな……」
「そっかそっか♪さて!仕切り直しだね!」
二対一になった戦いは最終局面を迎える。
しかし、俄然獅童の広角は上がったままだった。